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中国経済はこの先どう動く!? 日本の経済史から考えられる二つのシナリオ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44309
2015年07月23日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■中国株だけが暴落し続ける可能性は低下した
中国当局の株価対策もあり、中国株の大暴落は沈静化しつつある。ただし、他の株式市場と比較すると1日のボラティリティ(価格変動性)はかなり高く、中国株市場の不安定な状況はしばらく続きそうだ。
今回の中国の株式市場暴落の直接の原因は、信用取引の規制にあったようだ。すなわち、当局が株価の高騰を抑えるために、信用取引に関わる融資の規制を行ったことが、「流動性」を収縮させ、株価の暴落につながったと考えられる。これは、株式の「需要」に対する規制を意味する。
一方、その後の株価暴落に対する対策は、個別銘柄の売買停止(ピークでは中国本土に上場されている全銘柄の49%が売買停止になった)が中心であった。これは、当局が株価の暴落を抑えるために、株式の「売り」を規制しようとする試みであった。これは、株式の「供給」に対する規制を意味する。
このように、中国の株式市場は、株式に対する需要も供給も当局の規制下に入ったため、「市場機能を失ってしまった」との非難もある。確かに、これは、「市場関係者」からみるとゆゆしき事態だが、それによって、「暴落の世界的な連鎖」という最悪の事態は避けられたという側面も否定できず、リスク管理としては一定の成果を上げたようにもみえる。
以上は、今回の中国株の大暴落を短期的な現象面から考えたものだが、より中長期的にみれば、これは、「一般的な意味でのバブル崩壊」ではなかったと考える。「一般的な意味でのバブル崩壊」とは、何らかの要因で将来の中国経済に対する過大な成長期待が生じた結果、現在の中国経済の実力水準と比較して、株価が著しく上昇し、それがクラッシュすることを意味する。
「一般的な意味でのバブル」の代表例は、80年代末の日本や2000年の米国(特にナスダック)だが、両方とも、PER(株価収益率)が他の市場と比較して突出して上昇した点に特徴があった。だが、今回の暴落直前の中国株式市場のPERは他国と比べてもそれほど乖離していなかった。90年代半ば以降、世界の株式市場間でPERの平準化が進んできたが、中国市場もその例外ではない。そういう意味では、今回の中国株の暴落は単純に「バブルの崩壊」とはいえない。
グローバルの平均的なPERの水準がどのように決まるのかは、不明な点が多く、また、研究自体も多くはないため、さらなるリサーチが必要だ。しかし、冷静に考えてみれば、PERの水準が世界水準に収斂するという動きが機能する限りは、中国株だけが一方的に暴落し続けるという可能性は低下したと考えられる(ただし、これは中国株が底値圏で、今が絶好の買い場であることを意味しない点には注意が必要である)。
■「構造転換期」を乗り切るためのシナリオ
ところで、株価は、PER×EPS(1株当たり利益)に分解されるという基本に立ち返ると、PERの水準がある程度グローバルで固定されている現状では、今後の中国株の動向は、EPSの水準如何で決まると言える。中国株市場全体で見た場合のEPSは、中国経済全体の「稼ぐ力」を意味するので、これは、今後の中国経済の成長余力(潜在成長率)がどの程度なのかで決まってくる。
直近(2015年4-6月期)の中国の実質経済成長率(実質GDP成長率)は、前年同期比で7%だったが、高度経済成長期から安定成長期への移行がみられた70年代から80年代にかけての日本経済との類似性を考えると、中国経済の最終的な潜在成長率は、現時点の7%ではなく、4%程度まで低下する可能性もある(先進国の実質経済成長率のトレンドは2.5%程度に「収斂」するという経済学の「成長理論」の議論を踏まえると、中長期的にはさらに低下する可能性もある)。
さらに、中国の場合、日本より少子高齢化の進行速度が速いと思われるので、よほど大きな技術革新がなければ、予想より早く、2〜3%程度の低成長局面に突入する事態も考えられる。
以上のような話は、当然、中国政府も意識しているだろう。「成長段階論」的に考えると、中国経済が、トータルで従来の10%超の成長を続けていくことはもはや不可能である。今後の中国が採るべき成長戦略は、GDP全体の成長率を高めることから、1人当たりのGDPの水準を高めることへの移行であり、そのために必要なのが、「構造改革」である。
そして、中国が、このような「構造転換期」をうまく乗り切るために必要なのは「対外開放」(特に資本取引の自由化)ではないかと考える。資本取引の自由化を積極的に進めることで、海外からの、しかも、従来とは異なり、高付加価値を生み出すような投資を呼び込み、労働生産性を向上させることができなければ、中国の潜在成長率は大きく低下するだろう。
だが、「対外開放」によって海外資本を呼び込むためには、中国の商取引慣行や会計制度をグローバルな基準に変更し、規制緩和を積極的に進める必要がある。そして、事実上、ドルにペッグされ、輸出に有利に誘導されていた人民元レートを変動相場制へ移行させる必要もあろう。
じつは、これも、80年代の日本経済が経験したことである。当時の日本は、低成長に直面した米国からの政治的圧力もあり、「対外開放」路線への転換を余儀なくされた。「日米円ドル委員会」による資本取引の完全自由化からプラザ合意による円高への転換、そして、対外不均衡是正のための内需拡大の必要性を提唱した「前川レポート」の公表に至る対外開放路線の強化はその後の日本経済を大きく変えることとなった。
■「対外強硬路線」というもう一つのシナリオ
これまでの中国と日本の経済発展パターンの類似性を考えると、「対外開放」を如何に進めるかがその行方に大きな影響を与える可能性がある(1人当たりGDPの推移をみると、中国は日本の経済発展パターンを約40年遅れで追随しているようにみえる)。
ただ、中国が対外開放路線を進めるにあたっては大きな問題点がある。それは、国内経済の開放や規制緩和を進めることによって、国内の民主化への要求が高まる可能性が極めて高いことである。そして、中国政府が民主化の要求にこたえるということは、現在の中国共産党の一党独裁体制を転換させることに等しい。
故青木昌彦氏の提唱した「比較経済分析」論的にいえば、グローバルで自由な資本主義に国内の一党独裁的な政治システムはフィットしない(グローバル化が進んだ90年代以降の日本で自民党の事実上の一党支配体制が終焉したこともあながち無関係とはいえないだろう)。このような政治的側面を考えると、中国政府が、迅速に「対外開放」路線への転換を行うとは考えにくい。
また、先日の「株価対策」は、中国政府が「対外開放」を考えているとは言い難い政策であり、不安定な株価は、今後も中国政府の「対外開放」路線への転換を躊躇させるリスクをもたらすかもしれない。
そして、中国に関するもう一つのシナリオは、「対外強硬路線」への転換である。実はこれもかつての日本(しかも戦前期)が経験したことである。
大正期の日本は、それまでの「キャッチアップ型」の高成長局面(日露戦争までが、日本の「産業革命期」といわれているようだ)を終え、安定成長への移行を模索していた。第一次大戦後の日本は、米国を中心とした外国資本から積極的に資本を導入し、さらなるインフラ整備などを行い、安定成長の道を模索したが、その流れは挫折した。
すなわち、当時の日本は、一時、グローバル化の流れに乗りそうになったが、結局は、国内経済の調整圧力を、対外進出に転嫁させるという道(「対外硬」)を選んだ(筆者は、日本の新しい安定成長への道を頓挫させたのは、軍部を中心とした官僚システムの既得権益擁護の活動だと推測している)。
現在の中国は当時の日本の置かれた状況と似ていなくはない。国内の経済停滞による社会不安を対外強硬路線によって払拭させるという手法を中国政府が採るならば、これはアジア諸国だけではなく、世界経済全体の大きな不安定要因となろう。
いずれにせよ、今後の中国経済の動向が、中長期的な世界経済の行方に大きな影響を与える可能性があることに変わりはない。
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