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2015年07月22日
東芝は本日(7月21日)の臨時取締役会で、「不適切会計」について第三者委員会から「経営トップが関与した組織的なもの」と断定した調査報告書を受領したことを踏まえ、田中社長、佐々木副会長、西田相談役の歴代3社長が本日付で辞任すると発表しました。
また同時に16名の取締役(社外4名)のうち、田中社長と佐々木副会長(西田相談役は取締役ではない)を含む8名(社外ゼロ)が本日付けで辞任し、9月下旬に開催される臨時株主総会で新経営陣が選任されるまで室町会長が暫定的に社長を兼任するとも発表しました。
本日全文が発表された第三者委員会の調査報告書では、2008年度決算(2009年3月期)から2014年4〜12月期決算まで累計で1518億円(これに東芝独自の調査分が別途44億円ある)の「不適切な利益のかさ上げ」があったと算定しています。この間の東芝の税引き前利益は約5800億円だったので(2008年度の約2600億円の赤字もそのまま算入)、その4分の1以上の利益が「不適切」だったことになります。
また第三者委員会の調査報告書では、「不適切な会計処理」がほとんどのカンパニー(事業本部)で同時並行的に行われておりトップの経営判断だった、各事業本部はトップから厳しい目標を掲げられ必達しなければならないとプレッシャーを強く受けていた、社内には上司に逆らえない企業風土が存在しており「不適切な会計処理」を行わざるを得なかったという「いかにもわかりやすい動機づけ」が行われています。
さて東芝の「不適切会計」は、巷間で囁かれるように西田相談役と佐々木副会長の確執から本年2月に証券取引等監視委員会に「タレこみ」があり幕が上がりました。5月8日に第三者委員会が設置された後も、東芝は経団連会長(2名)や上場を控えた日本郵政の西室社長らを輩出した名門企業であり、何よりも1兆9000億円もの銀行借り入れがあるため上場廃止を含む大事には至らず、この時期には玉虫色の第三者委員会の調査報告書を受けて「何事もなかったような」IRが発表されているはずと考えられていました。
そう考えると随分厳しい調査報告書だったように思われますが、この流れをよく読めば「刑事責任は問えない」と言っていることになります。その代わりに田中社長を含む歴代トップの責任を「ことさら強調」して辞任に追い込んだだけでなく、その影響も完全に排除してしまいました。
証券取引等監視委員会は第三者委員会の調査報告書を受けて、858億円と最も「不適切な会計処理」が大きかった2012年度決算(2013年3月期)を中心に、有価証券報告書の虚偽記載にあたるとして東芝に課徴金を課すように金融庁に勧告するようです。
つまり課徴金処分(行政処分です)以上の厳しい処分は課さないと言っていることになります。
また東京証券取引所も上場契約違約金を課すとしており、合わせて「上場廃止にしない」と言っていることになります。
つまり今回の東芝に対する第三者委員会の調査報告書は、法人としての東芝をしっかり守り、田中社長を含む歴代トップとその影響力を完全に排除してしまった「秀逸」なものです。
法人としての東芝をしっかりと守った理由は、西室・日本郵政社長ら諸先輩の名を汚さないためと、万が一にも1兆9000億円もの銀行借り入れを毀損させないためです。そして田中社長だけでなく歴代3社長を辞任させた理由は、社内のほとんどがこの3社長の影響下にあるはずなので、これから選任する新経営陣が「すみやかに」社内を掌握できるようにするためです。
8月中旬に発表される新経営陣の顔ぶれが注目されます。
どう考えても東芝は(検察を含む)官僚OBと銀行に支配されてしまいます。
東芝の(良くも悪くも)徹底的に利益を追求する姿勢が完全に否定され、今後はコンプライアンス重視の「行儀のよい」経営となるため、利益水準は低下してしまいます。
しかし刑事事件化も上場廃止も「無くなったようなもの」なので、株価だけは「何事もなかったように」回復するような気がします。
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2015年07月23日
昨日(7月22日)付け「東芝の第三者委員会・調査報告書をどう読む?」だけでは書き足りなかったので、頂いているコメントも反映させてもう1回だけ続けます。
まず「株主資本に匹敵するのれん・無形固定資産に誰も触れないのは、国や金融機関や何やら大きな力が働いているのか?」とのコメントからです。
のれんの代表は2006年に英国原子燃料会社(国営)から77%を41.6億ドルで買収したウエスティングハウスの原子力部門ですが、2008年に10%をカザフスタン国営企業に売却し、2013年1月には逆に米国企業から20%を買い増して、最終的に87%を約6000億円で取得しています。資産が2000億円で、のれんが4000億円といわれています。
ところが2011年3月の東日本大震災に伴う世界的な原子力発電の低迷で、本来はのれんの4000億円だけでなく6000億円全額の減損が必要となっていると思われます。2013年の20%の買い増しは2006年の買収時に付与したオプションを行使されたようです。
さらに東芝が継続的に収益を上げることを前提に、繰り延べ税金資産も5000億円ほど計上しています。
つまり今回の第三者委員会の調査報告や、その後で出てくるはずの証券取引等監視委員会が、これらのれんや無形資産などの「資産性」を厳密にチェックしていないのか?とのコメントですが、答えは「まったく」していません。
まず第三者委員会は「不適切な利益のかさ上げ」の調査を委任されただけで、東芝の資産全体を精査するように誰からも頼まれていなかったからです。意識的に避けたわけでもなく、要するに最初の「タレこみ」に入っていなかっただけです。
それを受けて出てくるはずの証券取引等監視員会は、独自に過去の決算を調査する権限がありますが、そこは諸般の事情を(特に1兆9000億円も貸し込んでいる銀行の立場を)忖度してか、コトをこれ以上荒立てず課徴金処分で済ませてしまうようです。
ところが2013年5月には、同じように第三者委員会が調査している最中に証券取引等監視委員会が強制捜査に乗り込み、一気に刑事事件化させたインデックスのケースがありました。インデックスは翌月に民事再生法適用申請に追い込まれたのですが、何と同年9月には(驚異的に早い!)その中核事業がセガサミーに格安で(140億円)で譲渡されてしまい、抜け殻になったインデックスは消滅してしまいました。まあ、良くも悪くもケース・バイ・ケースのようです。
次が「ライブドアと比較して、東芝はこの間に1兆円も資本市場から調達しているのに問題にはならないのか?」とのコメントです。
2006年1月に事件化したライブドアは53億円の粉飾決算でした。そのうち37億円はライブドア株を連結対象ではない投資子会社に割り当て、その利益でライブドアの決算を黒字化したものでした。まあ「犯罪か?」と言われれば犯罪ですが、それでライブドアは即刻上場廃止となり堀江社長(当時)ら幹部数人が逮捕され、堀江社長は実刑となりました。
実はこのライブドア事件より以前の2004年に、全く同じ手法でベルシステム24の株式を使い187億円も決算を粉飾していたのが日興コーディアルでした。日興コーディアルはライブドアとは比べ物にならない専門知識を駆使し、社長(当時)が主導した「かなり悪質な会社ぐるみの粉飾決算」だったのですが、なぜか全く事件化しませんでした。
東京証券取引所は早々に「会社ぐるみではなく悪質性はない」との奇怪なコメントとともに上場維持を決めてしまい、証券取引等監視委員会はその間に日興コーディアルが500億円の社債を発行していたので1%に相当する5億円の課徴金を課しただけでした。2010年11月17日付け「ライブドアよりはるかに重大なのに課徴金で終わった日興コーディアル」に書いてあります。
さて東芝ですが、「不適切な利益かさ上げ」が行われていた期間に1兆円をこえる社債を発行しているため、規定では2.25%(225億円)の課徴金が課されるはずです。しかし「粉飾決算」ではなく「不適切会計」としてしまったため、何か別の規定を適用してはるかに軽微な課徴金で終わるような気もします。
要するに経済事件とは、事件化するのかどうかも含めて、悪質性とは全く違ったレベルで落としどころが決められるもののようです。
最後に最も重要なポイントですが、いろいろな周囲の思惑はあるにしろ「トップが主導した組織ぐるみの利益かさ上げだった」と断定してしまったことは、東芝にとってあとあと海外投資家からの損害賠償請求だけでなく海外事業の推進を大変不利にしてしまったことは間違いありません。
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