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ヤマダ電機の「失敗」は必然だった 大量閉店に追い込まれた茨城を行く
http://toyokeizai.net/articles/-/77521
2015年07月21日 渡辺 清治 :週刊東洋経済 副編集長
茨城県南部の土浦市。上高津にあるイオンモール土浦は市内最大の商業施設だ。週末には3000台以上もの駐車場がすべて埋まるほど、多くの買い物客で賑わう。その隣接地にヤマダ電機が「テックランド土浦店」をオープンしたのは2013年秋。周囲はイオンモール以外はほとんど何もない場所だが、モールに集まる買い物客の取り込みを狙った。
■モール隣の土浦店、わずか1年半で閉店
多くの買い物客で賑わうイオンモールの隣に作ったが、土浦店はわずか1年半で閉鎖。モールは木で囲まれ、ヤマダへの回遊客はほとんどいなかった
当時、土浦市内では、ライバルのケーズデンキが売り場面積6000平方メートルの土浦真鍋店を2013年2月にオープン。ヤマダはこれに対抗すべく、計画途中だった土浦店の設計を急きょ変更し、売り場面積を当初計画より4割近く大きな5000平方メートルにして出店した経緯がある。
ところが、ヤマダのテックランド土浦店は閑古鳥が鳴き、今年5月末に営業を終了した。
閉鎖から3週間近く経った6月中旬の週末に、現地を訪れた。雨にもかかわらず、イオンモールの駐車場は車で満杯。買い物に来ていた50代の女性に話を聞くと、「えっ、潰れちゃったの?」と、閉鎖したことさえ知らなかった。
「うちは家電の大きな買い物をするときは、いつもケーズの真鍋店。モールの中にはノジマもあるから、あのヤマダの店には行ったことがないのよ。客がまったく入ってないと聞いてはいたけど、ずいぶん早く閉じちゃったのね」
モールを覗いてみると、確かにノジマの店がある。売り場は小さいが、家族連れを中心に40人以上の客が店内にいた。同店の従業員によると、「ヤマダさんの店はいつ見てもガラガラで、気の毒なくらいでした」。
子どもと一緒にモールに来ていた40代の男性も、閉店したことを知らなかった。この男性は、オープン時に興味がてらで一回行ったきりだったという。
「ここから看板と建物は見えるけど、同じ敷地内じゃないから、歩いて行くのは面倒くさい。車で寄るにしても、あの場所は道順がわづらいし、細い道に入らないといけないから、行く気がしなかった。モールに来たついでに寄る人はほとんどいなかったと思いますよ」
ケーズ超大型店との戦いに敗れ、閉鎖された牛久店。住民によると「車の通りが多い時間帯は駐車場に入りづらくて不便だった」
■牛久店はケーズの超大型店に敗北
その土浦店から南に8kmほどの場所にあった「牛久店」(牛久市柏田町)も、5月末に店を閉じた。売り場面積は約3800平方メートルで、2007年2月にオープンした店だった。
牛久市内ではヤマダの出店から10カ月、ケーズが郊外に「ひたち野うしく店」をオープン。その売り場面積は7240平方メートルにも及び、一般的な家電量販店の2店分以上に相当する超大型店だ。
対するヤマダの牛久店は店前の道路が狭いうえ、牛久駅方面から来た車は対向車が途絶えるまで右折して駐車場に入れないなど、車でのアクセスも悪かった。こうした立地の問題もあり、牛久店は大苦戦を強いられた。土浦店と同様、閉店後のアフターサービスは近隣のつくば店に引き次いだ。
■大量出店のツケ、需要縮小で赤字店相次ぐ
家電量販の巨人、ヤマダ電機。郊外型の「テックランド」、都市型店「LABI」のほか、傘下のベスト電器やマツヤデンキなどを含めて、グループ全体で国内に約1000店を展開し、売上高は1.6兆円台(2015年3月期)と、2位のビックカメラ(2014年8月期に8298億円)に約2倍の差をつける圧倒的な存在だ。
そのヤマダが今年5、6月のわずか2カ月間で57もの店を一挙に閉鎖し、大きな波紋を呼んだ。単純な移転や改装のための一時休業を除いても50近く、今年3月末の全店舗数(ヤマダ本体と九州の運営子会社分で計729店)の7%に相当する数だ。週刊東洋経済は7月25日号(21日発売)で『ヤマダ電機 落日の流通王』という特集を組み、その全容を追っている。
地デジ・エコポイント特需のあった2010年度をピークに家電流通市場は縮小が続き、ヤマダの業績も急激に悪化。これまでひたすら売り上げ拡大を追い求めて全国各地に大量の店を出し続けてきたため、市場の縮小で赤字に陥る店が相次ぎ、そうした不採算店の閉鎖が避けられなくなった。
ケーズのすぐそばに出した桜川店も1年半で閉鎖。周囲は田んぼで、真新しい建物が営業期間の短さを物語る
中でも数多くの閉鎖を強いられたのが北関東の茨城だった。土浦、牛久など11もの店舗を一挙に閉鎖、24あった茨城県内の店舗数はわずか2カ月間で13に減った。
茨城はヤマダの宿敵、ケーズデンキ(ケーズホールディングス)のおひざ元。水戸発祥のケーズは県内のほぼすべての市・町に店舗を構え、地元で圧倒的なシェアを有してきた。そのシェアを奪うべく、ヤマダは過去10年間で茨城県内に18店を出店。一時は県内店舗数を24まで増やし、ケーズ(2015年3月末時点で36)に迫った。
LABI水戸がテナントで入っていた商業ビル(写真左側の大きなビル)は、ケーズ本社のすぐ目の前。ヤマダの撤退で同ビルは寂しい姿に
■水戸駅前の「LABI」は17億円払い閉店
茨城に攻め込んだヤマダ。その象徴ともいえる店が、2008年にオープンさせた「LABI水戸」だった。場所はJR水戸駅と隣接した大型商業ビル内で、ケーズ本社の目と鼻の先。「ヤマダがケーズに喧嘩を売った」として、地元のみならず、家電流通業界で大きな話題となった。
ヤマダはこの大型商業ビルの3〜7階(約8300平方メートル)を売り場とし、多層階大型店の「LABI」をオープン。が、開業当初こそセール目当ての客や見物客が数多く集まったが、日が経つにつれて来店客は減少していった。
なにしろ、水戸市内にはケーズの大型店が2つあり、中でも水戸駅から数kmほどの場所で営業する「水戸本店」は県内最大の売り上げを誇る旗艦店だ。また、その近くにはヤマダ自身の郊外店もあり、駅ビル内のLABIは大苦戦。それでもメンツのかかった駅前大型店だけに赤字に耐え続けたが、とうとう5月末に店を畳んだ。
ケーズは売り場面積の大きい超大型店でヤマダに対抗した。写真はケーズの「シーサイドひたちなか」
水戸駅で話を聞いた50代の女性はこう話す。「茨城は車社会。男性も女性も車で通勤・移動するから、東京とは違うのよ。買い物も車で郊外の大きなお店に行くのが常識で、駐車しにくい駅に家電を買いに来る人なんていないわよ」
客は少ない一方で、商業ビルの家賃負担は重かった。ヤマダが借りていたスペースは倉庫使用分も含めて全7フロア、年間の家賃はおよそ5億円に上った。まだ定期借地契約が残っていたため、ヤマダは閉店に際して17億円もの違約金を支払った。
茨城では、本記事で取り上げた土浦、牛久、水戸のほか、日立金沢、シーサイドひたちなか、笠間、桜川、行方、つくばみらい、稲敷、神栖の計11店が閉鎖対象になった。うち8店舗は店歴5年未満で、ヤマダが茨城県内で2010年以降に出した店(全10店)の実に8割が閉鎖へと追い込まれた。
市場が縮小に転じたにもかかわらず、ヤマダは相変わらず大量出店で売り上げを追い求めた。それが多くの赤字店を抱えることにつながり、その後処理に追われる羽目となった。11もの閉鎖を余儀なくされた茨城は、“失敗の縮図”ともいえよう。
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