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〔PHOTO〕gettyimages(写真はイメージです)
【特別ルポ】母子家庭の貧困 〜なぜ母親は、愛する娘を殺したのか〜 「月収9万円で子供二人」「明日の食費もない」 シングルマザーの悲鳴を聞け
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44272
2015年07月22日 フライデー :現代ビジネス
貧しさゆえに、母親が自分の子供を殺してしまう――そんな悲愴な事件が全国で発生している。母子家庭の2世帯に1世帯が貧困にあえいでいるという。彼女たちの悲鳴を聞いた。
■部屋の中はカビだらけ
「普段の食事は、ホットケーキの粉を水だけで溶いて焼いたものだったり、乾麺タイプのうどんを茹でたりしたものが中心です。ご飯は二日に一回2合炊いて、2人の子供に食べさせ、残ったら自分も食べるという感じですね。調味料を買うおカネがないので、ケチャップやマヨネーズ、ソースなどはここ4年で一度しか買ったことがありません。時々野菜に、スーパーでもらったドレッシングなんかをかけると、調味料のない薄い味に慣れているからか、子供が『カラい』と顔を歪めますね。とにかく、子供におなかいっぱい食べさせてあげたい……それが一番の望みです」
小学校1年生の娘と保育園に通う息子をもつ、シングルマザーの相原鈴子さん(仮名、30代)。夫の度重なる暴力に耐えかね、5年前に、子供を連れて家を飛び出した。おカネもほとんど持たないままたどり着いたのは、まったく土地勘もなく、頼る人もいない神奈川県の郊外だった。
ガソリンスタンドに勤務する彼女の月々の収入は9万円ほど。夫からの慰謝料・養育費の送金はなく、一度として生活が楽だったことはない。生活保護も受けておらず、家賃5万9000円を払えば、生活はカツカツになる。
親子3人で住むアパートは築年数約40年、リビング6畳・寝室6畳の二間だ。駅から徒歩15分と不便で、日当たりも風通しも悪いため、部屋の中はカビだらけ。これが原因で相原さんと娘は喘息(ぜんそく)になったという。
「冬はとても寒いのですが、光熱費がもったいないので、お風呂は3分の1しかお湯を溜めません。もうすぐ家賃4万円台のアパートへの引っ越しを考えていますから、住環境はますます悪くなるでしょうね」
そう言って哀しげな表情を浮かべた。
■「3000円だけ、貸してください…」
女性の貧困が深刻化している。特に全国で約120万世帯にのぼる母子家庭(シングルマザー)の困窮が顕著だ。統計によると、母子家庭の平均年収は、一般世帯の半分にも満たない。
2012年の貧困(世帯年収約122万円未満)率は、子供がいる現役世帯(世帯主が18-64歳)全体では15.1%なのに対し、ひとり親世帯では約55%にまで跳ね上がる(ひとり親世帯の約9割が母子家庭)。2世帯に1世帯以上が、貧困に苦しんでいるのだ。
「シングルマザーの経済状況は、危機的なものになっています。なかには生きることすら困難になっている人もいる」
こう指摘するのは、60年以上にわたり母子家庭を支援してきた公益団体「ひとり親Tokyo」の田伊久子会長だ。
「昔は離婚して女ひとりで子供を育てることになっても、家族の支援があったり、安定した雇用があったのでなんとかなった。ところが核家族化と雇用の非正規化が進んだことや、元夫も非正規雇用で収入が少なく、慰謝料・養育費をもらえないというケースが増えたため、シングルマザーの貧困が深刻化しました。実際にうちに相談に来る人は、月収10万円以下で生活している女性が中心で、家賃が払えずに『3000円だけでいいので、貸してください』と懇願する人もいます」
東京の郊外に生後9ヵ月の娘と住む甲本由香さん(仮名、20代)は、出産直後に夫と口論することが多くなり離婚。それまで住んでいた夫の実家を追い出され、途方に暮れた経験を語る。
「仕事も辞めていて収入がなかったので、娘の出産祝いで食いつなぎました。手持ちのおカネが1万円を切って、これはもうダメかもしれないと思ったこともありました」
■「学校の教材が買えない」
「とにかく、子供のためにおカネをかけられないのがつらい」と苦しい生活状況を明かすのは、埼玉県在住のシングルマザー・芦田絵美さん(仮名、30代)だ。
買い物をする時には「安くて、お腹にたまるもの」を中心に選ぶ。メニューは偏りがちだ
「県営住宅に住んでいるので家賃は3万円ですが、生活に余裕はありません。食材は100円以下のものを中心に買い揃え、主食はうどんやパスタです。米は高いのでほとんど買えません。なるべく味の濃い調味料を使って、子供たちの空腹感をごまかすようにしています。うどんなら、揚げ玉をたくさんのせる、とか。
一番苦しいのが、子供が学校で使う教材などの費用です。下の子供が小学校に入学するときに、2000円もする算数セットや、12色入りのマジックペン(1200円)を買わなければならなかったり……。ほとんど使わない鍵盤ハーモニカが、なぜ5000円もするんだろうとか、そんなことを考えるのがイヤですね(苦笑)。上の子供が高学年で野球が好きなんですが『中学校に行っても、野球部はダメだよ』と言ってます。ユニフォームや用具を揃えるのに、10万円はかかるから、とても手が出ません」
一時期は住むところにも困っていた甲本さんと芦田さんは、生活保護を受けることでかろうじて生活を立て直したが、母子家庭支援NPO「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子氏によると、支援制度の存在を知らない女性も少なくないという。
「インターネットを使う環境がないために、生活保護制度や支援団体を調べられないという女性がいます。役所の申請には、所得証明や戸籍謄本など証明書類も必要ですが、書類を揃えるのが大変で結果的に支援を諦めるという人もいるのです。また、地域社会に知られたくない、車保有が認められないなどの理由で生活保護を受けないという場合もある。実際、生活保護を受けているシングルマザーは、全体の14%程度でしかありません」
■急増する「母子心中」
安定した職に就けず、さらに行政からも支援が受けられない女性の選択肢のひとつが、風俗だ。最近では「女子寮完備」や「入店すれば支度金30万円支給」などの”特典”をうたう「人妻系風俗店」が増えている。実際に寮はあるものの、相当古いアパートだったり、売り上げの中から「寮費」として一定額を引かれるケースがほとんど。
また、勤務内容がハードな割には実入りが少なく、「一日3人客をとって、ようやく人並みに暮らせる程度の収入」(勤務経験のある30代女性)だという。しかし、住むところさえない女性のなかには、風俗での仕事が「最後の砦(とりで)」となっている人がいるのも事実だ。
そういった店でも働けない女性は、最悪の場合、「死」を選択することもある。
近年、生活に行き詰まり、母子ともに餓死したり、母親が子供を手にかけてしまうという事件が多発している。「反貧困ネットワーク埼玉」の藤田孝典氏が説明する。
「貧困に苦しむシングルマザーは、精神疾患になってしまうケースが多い。子供に『おなかいっぱいご飯が食べたい』『なんでうちは貧乏なのか』などと泣かれて、精神的に追いつめられてしまうんです。私のところにも、泣きながら『子供に暴力を振るってしまった』『一家心中を考えている』と相談に来る方がいる。一歩間違えば事件につながるのではないかと感じることは、少なくありません」
昨年9月、千葉県銚子市では痛ましい事件が起こった。県営住宅の一室で、43歳の母親が13歳の娘を絞殺したのだ。背景には極度の貧困があった。
母親は、隣の市の給食センターで臨時職員として働き、娘の可純さんを育てていた。手取りは月7万円ほどで、家賃1万2800円の県営住宅に住んでいたが、’12年頃から滞納するようになり、千葉県が部屋の明け渡しを要求していた。
「母親が娘を殺したのは、県が部屋の明け渡しの強制執行を行う日の朝でした。母親は警察の調べに『住むところがないと、生きていけなくなる。生活苦から娘を殺して自分も死のうと思った』と供述しています」(地元紙記者)
■「なぜ産んだんだ」と責められ
可純さんはバレー部に所属する、アイドル好きの活発な女の子だった。この4日前には、彼女の通う中学校で運動会があり、可純さんは応援団の一員だった。母親は、娘が応援団で使用したハチマキを使って、首を絞めたという。
「なぜ誰も救いの手を差し伸べなかったのか。千葉県の県営住宅の場合、生活困窮者であれば最大で家賃を月2560円にまで下げることが可能なんですが、自治体はそれを、母親から相談がなかったために説明しなかったのです。
また、母親は’13年の4月に一度、生活保護の受給の可否を市役所に問い合わせているのですが、『面会記録票』を見る限りでは、市の担当者が母親の話をまともに取り合っていなかったと思われます。生活保護が受けられていれば、あるいは家賃の減額制度を知っていれば、娘を手にかけるようなことはなかったはずです」(「千葉県生活と健康を守る会連合会」妹尾七重会長)
この一件だけではない。’13年5月には大阪市北区のマンションで28歳の母親と3歳の息子が餓死しているのが発見された。預金残高は数十円だった。また、’14年3月にはJR新大阪駅で、生活に困窮していた母親が1歳の女児を置き去りにするという事件も起きている。
前出の藤田氏は、こうした痛ましい事件をなくすためにも、母子家庭の支援制度をもっと充実させる必要があると言う。
「貧困対策の制度はある程度用意されていますが、それを利用するハードルは非常に高い。財政難から、生活保護の申請を出来るだけ受け付けないようにしようという自治体も増えています。たとえば福祉事務所の窓口に相談に行っても『なんで離婚したの』『もう少し働けるでしょ』などと責められることがある。
また、安倍政権発足以降、生活保護の支給額が従来より低く見直される傾向にあります。そもそも『もう限界だ』という状態だから相談に来ているのに、そこで追い返されれば途方に暮れるしかなくなります。シングルマザーは、社会の中でも特に立場の弱い人たちです。その人たちに救いの手を伸ばさない世の中でいいのか、と疑問に思います」
3歳の子を持つ20代後半の女性(兵庫県在住)は、本誌の取材にこんな心情を明かしてくれた。
「出産から1年が経った頃に県内の福祉事務所に生活保護の相談に行くと、『苦しい生活になることが分かっているのに、なんで子供を堕ろさなかったんですか』と言われました。悔しくても、言い返せなかった。自分が悪かったのかなって思ってしまって……。それ以来、子育ては苦しみばかりで、この子がいるから私は貧しいんだと思うようになってしまった。この子もこれから苦しい生活をするぐらいなら、と、そんなことを考えてしまうことがあるんです」
「働くお母さん」が自活できない格差社会――。これがいまの日本の、偽らざる姿だ。
(フライデー 5月28日号より)
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