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記者会見で頭を下げ、辞任を発表した田中社長ら〔PHOTO〕gettyimages
オリンパスより悪質東芝巨額粉飾「総額1562億」はまったく信用できない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44300
2015年07月22日(水) 磯山 友幸「経済ニュースの裏側」 現代ビジネス
■日本に「粉飾文化」が根付いた
東芝は7月21日、不正会計の実態調査を行っていた第三者委員会(委員長、上田広一・元東京高検検事長)がまとめた調査報告書を公表、記者会見をしたうえで、田中久雄社長ら歴代3社長の引責辞任を表明した。
れに先立って前日に公表した調査報告書の要約版によると、利益操作は2009年3月期から2015年3月期の第3四半期末までの段階で、1562億円にのぼった。この間の東芝の税引き前利益の合計は5650億円で、単純計算でも利益の3割近くを押し上げていたことになる。日本を代表する企業による巨額粉飾の実態が明らかになった。
報告書では、経営トップについて「見かけ上の当期利益の嵩上げを行う目的を有していた事実が認められる」と断定。幹部職員等の担当者についても、その「目的の下で、不適切な会計処理を実行しまたは継続してきたことが認められる」と組織ぐるみで不正が行われてきた実態を明らかにした。
報告書を読んで愕然とするのは、幅広い部門で、長期間にわたって売り上げの過大計上や、経費の過少計上が行われていたことだ。報告書では2008年度の税引き前利益を282億円減額修正する必要があるとしているが、それ以降、毎期にわたって不正な会計処理が繰り返されている。
2008年から突如として不正経理が始まったのか、2007年以前にも慣行として「経理のやりくり」が常態化していたのかは判然としないが、いずれにせよ不正が慢性的に行われていたことだけは間違いないようだ。粉飾文化がすっかり根付いていたと指弾されても仕方がないだろう。
■オリンパスより悪質
「粉飾金額は過去に類例を見いだせないほど巨額である」ーー。オリンパスの粉飾決算事件で、証券取引法違反などの罪に問われた菊川剛・元社長ら3人の刑事裁判で、検察官はこう経営者の罪を追及した。さらにこうも付け加えたと当時、報道されている。
「我が国の証券市場に対する国内外の信用を大きく揺るがした上、我が国企業のガバナンス自体の信用をも大きく傷つけた」
「証券市場の信用回復や企業のガバナンスの一層の徹底を図るためにも、本件のような例をみない悪質事犯に対しては、一般予防の見地から、厳罰をもって臨むべきである」
そのオリンパス裁判で立件された粉飾額は2008年3月期の1178億円。今回の東芝の粉飾総額はそれを大きく上回る。
東証に株式を上場していたオリンパスは、粉飾決算によって上場廃止の危機に直面した。当時の政権幹部の圧力などもあって、東証は上場廃止を見送ったが、その時の理由が「組織的な粉飾ではない」というものだった。投資で被った巨額の損失を海外に「飛ばす」などして隠し続けたのは歴代社長ら一部のトップ経営者の責任だったとしたのだ。この論法で言えば、東芝はオリンパスよりもはるかに悪質ということになる。
東証はその後、基準を見直し、上場廃止にする要件を引き上げた。東証としては粉飾決算を理由に上場廃止にしたくない、という気持ちの表れと言える。本来ならば上場廃止基準から外したいところなのだろうが、さすがに粉飾決算をしても上場維持できると認めることができなかったのか、以下のような表現になっている。
「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」
これがどんな場合の粉飾決算が該当するのか、よく分からない。だが、東芝のような巨大会社が、悪質な巨額粉飾決算を行っても、市場の秩序を乱さないと言い切れるのかどうか。
■監査法人も情けない
悪質さを増幅しているのが、外部の専門家としてチェックしている監査法人を騙しているとされた点だ。報告書にはこんな下りがある。
「会計監査人の指摘を受けないよう、会計監査人に対して不十分な説明を意図的に行うなど、組織的に隠蔽を図っているとも見られる行動をとっていた」
つまり、外部の独立監査を担っていた新日本監査法人は東芝にすっかり騙されていた、というのである。会計のプロである大監査法人も、相手に嘘をつかれたら太刀打ちなどできない、という会計士は多い。だが、騙されていましたで済むなら、会計士監査など不要だろう。
粉飾決算を行う会社と、監査を担当する監査法人の関係は大きく分けて3つ。粉飾に会計士自身が関与するケース。いわば共犯関係だ。さすがに大監査法人ではこれが起きることはまずないと思われる。2つ目が、怪しいとは思いながらも会計士が指摘できないケース。あるいは指摘しても会社が決算修正に応じないケースもある。これは意外に多い感じだ。もちろん、問題を発見して会社に迫り、修正させているケースはたくさんある。
そして3つ目は、会社の方が上手で、会計士がまったく粉飾に気が付かなかったケースである。これは会計監査人としての能力が根本的に問われることになる。報告書を読む限り、今回の東芝問題に関して、新日本監査法人はこのケースであると主張しているのだろう。
■粉飾額は本当に正しいのか
今後、新日本側の対応も明らかになっていくだろうが、騙された監査法人はどんな手が打てるか。ひとつは監査の基本である企業と監査法人の信頼関係が瓦解したとして、辞任することだ。歴代社長が辞任したとしても、社長個人の犯罪ではなく組織ぐるみなのだから、信頼回復が自動的になされるわけではない。
ところが、報告書によると、この調査を受けて、新日本監査法人が改めて監査を行う段取りだとしている。すっかり騙された人が、信頼回復もできていない段階で、のこのこ監査に出かければ、恥の上塗りになるだけではないのか。そもそも何ら法的位置づけのない第三者委員会が認定した1562億円という粉飾額が本当に正しいのか、本当にすべてなのか信頼すべき根拠がない。
そもそも第三者委員会を設置したのは、粉飾決算を支持していた張本人のひとりである田中社長自身である。第三者委員会という名前とは別に、委員の独立性に疑問がある、という指摘もある。
組織ぐるみで粉飾を行うような会社をどうやって信用するのか。今後の監査法人や規制当局の対応が注目される。
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