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監査法人に大甘な東芝「不適切会計」第三者委員会報告書
https://nobuogohara.wordpress.com/2015/07/21/%e6%9d%b1%e8%8a%9d%e3%80%8c%e4%b8%8d%e9%81%a9%e5%88%87%e4%bc%9a%e8%a8%88%e3%80%8d%e3%80%81%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e6%b3%95%e4%ba%ba%e3%81%ab%e3%80%8c%e5%a4%a7%e7%94%98%e3%80%8d%e3%81%aa%e7%ac%ac%e4%b8%89/
2015年7月21日 郷原信郎が斬る
昨日(7月20日)夜、東芝の「不適切会計」に関する第三者委員会の調査報告書要約版が、同社のHPで公表された。
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150720_1.pdf
歴代3社長が現場に圧力をかけるなどして、「経営判断として不適切な会計処理が行われた」「経営トップらを含めた組織的な関与があった」などと、経営者の責任が厳しく指摘されている。
経営トップらが「見かけ上の当期利益のかさ上げ」を狙い、担当者らがその目的に沿う形で不適切会計を継続的に行ってきたとしているが、その原因については、経営トップや、事業部門の責任者に「当期における損失計上を先延ばしにしようとする意図が存在したものと思料される。」などと述べているにとどまり、その意図が、「会計処理上許されない損失先送りとの認識を含むものであったか否か」は明確にされていないし、そもそも、その動機が何であったのかには全く触れられていない。
そして、財務部・経営監査部・監査委員会等による内部統制が十分に機能しなかったと指摘し、「東芝の役職員において、適切な会計処理に向けての意識が欠如していた」「上司の意向に逆らえない企業風土があった」などと、問題の背景となった企業風土についてまで言及している。
また、責任の所在について、「取締役、執行役ではなかった役職員の中にも、不適切な会計処理に関与していたり、不適切な会計処理により意図的な『見かけ上の当期利益の嵩上げ』が実行されていることを認識又は容認していた者も存在する。これらの役職員のうち、少なくとも幹部職員(例えば、部長職以上の職にある職員)については、その関与の程度等を十分に検証した上で、人事上の措置(懲戒手続きの実施を含む)を適切に行うことが望ましい。」と、幹部職員全体の人事処分にまで言及している。
調査の結果明らかになった具体的事実については、本日(21日)午後に予定されている詳細版の公表を待つしかないが、要約版を読んだ限りの印象としては、結論においては、歴代の経営トップに対しても、事業部門の責任者に対しても、厳しい断罪を行っているものの、それが意図的で悪質なものであることの根拠となる事実はほとんど示されていないこと、監査法人などに対して正しく説明せず、外部から発見されにくい巧妙な手法で行われていたと述べ、監査法人への隠ぺいの意図まで認定しているのに、それを「不正」ではなく「不適切」と表現していることなど、全体としてバランスの悪さを感じる。
そして、誠に不可解なのは、会計監査人の監査の過程で問題が指摘されず、結果として外部監査による統制が十分に機能しなかったことを認めていながら、会計監査人の監査の妥当性の評価は調査の目的外だとして評価判断を回避し、「経営トップや組織の不当な関与により内部統制が有効に機能しない状況下では、組織全体がごまかしや不正な操作による組織防衛行動に走ってしまう余地が生ずる。このような会社組織による事実の隠ぺいや事実と異なるストーリーの組み立てに対して、独立の第三者である会計監査人がそれをくつがえすような強力な証拠を入手することは多くの場合極めて困難である。」などと、会計監査人である監査法人が「不適切会計」を指摘できなかったことはやむを得ないかのような言い方をしている点だ。
2011年に表面化した「オリンパス損失隠し問題」についての第三者委員会の調査報告書が、会計監査人の新日本有限責任監査法人について、前任の会計 監査人であるあずさ監査法人からの引継ぎの際の「監査人の交代事由」に関する事実確認が極めて形式的かつ簡略 なものに留まっていたこと、M&Aで取得した海外企業の配当優先株の買戻しに際して「のれん」計上した処理について、より慎重な検討及び判断がなされるべきであったことなど、厳しい指摘を行ったのとは全く正反対の姿勢だと言えよう。
東芝の会計監査人は、オリンパス問題で第三者委員会から厳しく問題を指摘された新日本有限責任監査法人である。しかも、今回の問題の発端となった工事進行基準をめぐる不適切会計の問題に関しては、東芝とも関係の深い伝統企業IHIでも、2007年に、海外のプラント事業をめぐって今回と同様の問題が表面化し、300億円を超える過年度決算訂正に追い込まれ、有価証券報告書虚偽記載で課徴金納付命令を受けた。そのIHIの会計監査人も、新日本有限責任監査法人なのである。
私は、そのIHIが過年度決算訂正問題で特設注意市場銘柄に指定され、内部統制、コンプライアンスの抜本的見直しを迫られた際に、同社の社外監査役に就任し、それ以降、同社のコンプライアンスへの取組みをサポートしてきた。
会計監査人の新日本監査法人の担当者との間でも、工事進行基準の適切な管理も含め、様々な意見情報交換を行っている。少なくとも、会計処理の適切さという点において、IHIの内部統制、コンプライアンスは格段に向上したと自信を持って言える。IHIの会計監査人としての新日本有限責任監査法人の担当者は、工事進行基準に関して問題が生じ得る大型案件については、会計監査人自身が海外往査を行って現場の状況を確認するなど、十分な役割を果たしてくれている。
それと同じ監査法人が会計監査人を務める東芝において、IHIで過去に起きたのと殆ど同様の事態が発生しているのに、何ら気づかず問題も指摘できないなどということは私には理解できない。近年、大手監査法人では、「品質管理体制」の強化が打ち出されていたはずであり、過去に発生した企業会計を巡る問題を踏まえた監査品質の向上を図るのは当然のことだろう。
私は、上記のオリンパス損失隠し問題での第三者委員会での会計監査人の問題についての指摘を受けて、新日本有限責任監査法人が設置した「オリンパス監査検証委員会」の委員として、調査を総括し、報告書の取りまとめを行った。
【同報告書】においては、同監査法人の法的責任について、「オリンパス問題に関して、新 日本監査法人が法的責任を問われる余地はないと考えられる。」と結論づけた。
しかし、オリンパスの問題と今回の東芝の「不適切会計」とは全く性格が異なる。オリンパスの問題は、1998 年〜2000 年の間に、保有金融資産の含み損を連結財務諸表から分離するために、いわゆる「飛ばし」を実行した後、2003 年〜2008 年の間に国内外の企業買収に乗じて資金を作り、「飛ばし」によって連結財務諸表から切り離した損失に充当す るなどして分離した損失を解消したという会計不正であり、「飛ばし」は、海外のファンド等を通じて巧妙に実行されて隠ぺいされ、社内でもごく僅かな人間しか知らなかった。しかも、その損失というのは、同社の本業とは全く無関係の金融取引によるものであって、通常の業務に関する会計監査では知る余地がない。今回のような、多くの事業部門で、日常的に不適切な会計処理が繰り返されていた問題とは大きく異なる。
オリンパス監査検証委員会で、「会計監査人には法的責任はない」と結論づけた上、会計不正が疑われる場合の不正調査への積極的な取組みも含め、様々な再発防止策を提言したことは正しかったと確信している。
だからこそ、今回の東芝の問題については、会計監査人の監査法人が、その役割をどのように果たしたのか、という点には、強い関心を持たざるを得ない。
今回のように、経営トップの方針にしたがって、企業内部で利益操作が行われるというのは、本来、内部統制の問題ではない。内部統制は、経営トップが、その方針に沿って業務が行われているかどうかを把握する手段であり、経営トップが利益操作を意図していたのであれば、そもそも、内部統制を問題にする余地はない。
そのような場合は、内部統制の枠組みの外にある会計監査人が不適切な処理を防止する機能を果たす以外に方法はないのである。
しかも、会計監査人が問題を指摘していないというのは、その会社の役職員にとって最大の弁解ともなり得るのである。表面的には、会計監査人に対して十分な説明を行っていなかったとか、実態を隠していたと言っても、その点について質問をしたり、資料の追加提出を求めたりしない会計監査人は、実質的に、そのような処理を認めていると思われても不思議はない。
今回の第三者委員会報告書で述べているような「経営トップが社内カンパニーに対して過大な収益目標と損益改善要求を課し、その達成を強く求める」というようなことは、多くの企業で、程度の差はあれ、行われていることである。
問題は、それが、「適切な会計処理」の範囲内で行われるのかどうかであるが、それが不適切の方に流れないようにするための「歯止め」となるのが、外部の会計監査人の監査のはずだ。
今回の問題での第三者委員会の報告書では、どう考えても、監査法人の責任についての言及は避けられないと考えていたが、それが、上記のようなものにとどまっているのは、全く不可解である。
新日本有限責任監査法人も、今回の東芝の問題を、会計監査に関する問題と受け止めて自ら検証しようとする姿勢は全く見えない。
今回の東芝の問題が「企業の組織ぐるみの不適切会計」だと言うのであれば、それを抑止するのは外部機関としての会計監査人しかあり得ない。工事進行基準のような日常的な会計処理の問題に対しては、会計監査人による監査が十分に機能すること、そして、企業の役職員の側が、会計監査が機能していると認識していることこそが、この種の「企業の会計不祥事」を防止するための最も有効な方策である。
「会計処理について監査法人、会計監査人が了承してくれていること」を不適切性の認識を否定する弁解としているはずだが、第三者委員会報告書は、そのような弁解に触れることなく、財務部・経営監査部・リスクマネジメント部等の担当部署や監査委員会の「内部統制機能の欠如」を批判している。
このような形で、「監査法人の不祥事」としての側面が取り上げられることなく、今回の問題の決着が図られるのであれば、もはや、日本の会計監査制度は有名無実化していると見られても致し方ないであろう。
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