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筆者と一緒にトレーニングに励む佐々木さん(右)(撮影/岡田晃奈)
介護者が軽度認知障害に 「認・認介護」の厳しい現実〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150721-00000003-sasahi-hlth
週刊朝日 2015年7月24日号より抜粋
認知症予備軍である軽度認知障害(MCI)の早期治療を1年半続けていることをレポートしている、山本朋史記者。デイケア仲間との会話で勇気づけられた経験があるという。
* * *
オリーブクリニックお茶の水でトレーニングをした後に帰路が同方向のデイケア仲間の佐々木慶太郎さんと北千住の駅ビルで食事をした。ぼくと佐々木さん、それに知人であるNHK福祉番組部のディレクター2人が同席した。
佐々木さんは都庁勤務が長かった。主に主税局。地方税の取り立てをやる部署である。
佐々木さんは55歳まで都庁で働いたが、認知症になった実母の介護のために早期退職した。北区や葛飾区などで税務指導員として不定期でいいから働いてほしいと言われ、59歳まで勤務したという。
佐々木さんの母は最初は茨城県取手市の病院でアルツハイマー型認知症と診断された。アリセプトを処方されたが、服用すると介護士を怒鳴ったり、佐々木さんの妻に暴言をはき乱暴したりする。やがて手がつけられなくなったという。
他の専門医にも相談したが、母の症状は悪くなるばかり。佐々木さんは退職後に母親を病院に連れていくために教習所に通い自動車免許を取得。59歳だった。
人づてに筑波大学附属病院の朝田医師が認知症治療の第一人者だと聞いた。すがる思いで取手市の自宅から筑波大学まで車を走らせた。母親を朝田医師に診断してもらうと、
「佐々木さんのお母さんはアルツハイマー型認知症ではなくレビー小体型認知症の疑いが強い。アリセプトの使用はお母さんの場合は逆効果です。違う薬に変えましょう。お母さんを連れてくるときには必ず症状の変化を報告してください」
と言われた。わかりやすく丁寧な説明だった。佐々木さんは、母親の異常が薬によるものだったことを知った。新たな処方薬で落ち着いたという。しかし、すでにその症状は進行しすぎていた。仕事をしている妻と大学に通っていた子どもを別の場所に“緊急避難”させ、佐々木さんは母親と二人で生活を続けた。
母親を介護する佐々木さん自身も体調を崩していった。朝田医師のもとに母親を連れていくときも症状の進行具合を説明できないほどになる。事前にメモを書くなどして携行した。物忘れも激しくなった。電車に乗れば、逆方向の電車に乗ったり、降りる駅を間違えたりした。佐々木さん自身に認知障害が起きていたのだ。「認・認介護」とでも言うべきだろうか。
朝田医師に診断してもらった。MCIと言われた。よく覚えていないが、母親と同じレビー小体型認知症の初期症状だと思った。薬は母親と同じだった。
佐々木さんは生ビールを飲みながらよく話した。それほど量は飲まないようにしているが、ときどき飲みすぎることもあるという。アルコール片手に仲間と話すのが大好きだそうだ。
朝起きても頭に雲がかかる状態になることが佐々木さんは多かったという。思うような行動が取れず、言葉もすぐに出てこなかった。投薬と同時に認知力アップデイケアを受けることに。2013年4月から週に2回通った。
母親がその年に亡くなった。佐々木さんの症状はすぐには改善しなかった。大学付属病院での認知力アップデイケアは非常に珍しかった。マスコミがたくさん取材に来たのを佐々木さんは覚えている。
朝田医師のところには「実名で登場していただける当事者はいませんか」との要請が多かったという。とくにテレビ。映像が必要な場面での顔出しを求められた。佐々木さんは朝田医師を通して実名取材をOKした。妻子は賛成しなかったが、隠す必要はないと思ったという。最初に名前を明かしたのがNHKのニュースチームの番組上だった。
ディレクターから質問項目が書かれた紙を渡されて質問に応じる。それほど難しいことではなかったはずだが、途中で頭が真っ白になった。質問されている内容がわからなくなったそうだ。何度もやり直した。緊張もあったのだろうが、やはり認知障害は治っていなかった。
うまく編集されていて放送では佐々木さんはちゃんと答えている。放送を見て希望がわいた。都庁時代の仲間からの電話が相次いだ。佐々木さんは、この放送で自分が前向きになった気がしたと言った。デイケアの先輩である佐々木さんの気持ちがよくわかった。
「認知症治療を公表したことで、明るくなった」
佐々木さんはぼくの気持ちの代弁者だ。
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