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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第134回 ギリシャの真実
http://wjn.jp/article/detail/8427130/
週刊実話 2015年7月30日 特大号
財政危機に対する欧州連合(EU)などの金融支援プログラムが、6月30日に失効。翌7月1日、IMF融資15億ユーロ(約2000億円)の返済不能となり、ギリシャはデフォルト(債務不履行)した。
そして、7月5日。ギリシャ国民はEUからの支援と引き換えに、増税(付加価値税率アップ)や政府の財政支出削減という緊縮財政を受け入れることについて、国民投票で「NO」を突き付けたのである。
デモクラティア(民主主義)発祥の地において、デモクラティアとグローバリズムが真っ向から衝突し、デモクラティア側が勝利した。という歴史的なイベントだったのだが、もちろんこれでハッピーエンドという話にはならない。
今後のギリシャは、
「国民投票で反対派が上回った」
という事実を武器に、EU側と「緊縮財政なしの支援」について交渉していくことになるだろう。とはいえ、当たり前だがEU側としては、緊縮なしの支援に応じることはできない。
またもや“終わりなき交渉”が続いている状況下で、次なる節目である7月20日を迎えることになる。7月20日は、ECB(欧州中央銀行)が保有しているギリシャ債35億ユーロ(約4800億円)の償還期限なのだ。現状のままでは、もちろんギリシャ政府に返済能力はない。
EUが思い切った譲歩をしない限り、7月20日時点でギリシャは「完全なデフォルト」ということになり、ECBは対ギリシャELA(緊急流動性支援)を終了せざるを得なくなる。ELAとは、大ざっぱに書くとギリシャ債を担保にしたギリシャの各銀行に対する資金融資のことだ。ECBはデフォルトした債権を担保にカネを貸すことはできない。
ELAが終了すると、ギリシャの銀行はもはや持ちこたえられない。取り付け騒ぎや信用収縮により、ギリシャの国民生活が成り立たなくなり、チプラス政権に対する怒りが爆発。暴動、デモ等が発生し、さらなる混沌の局面を迎えることが予想される。
EUからの支援がない状況で、チプラス政権がギリシャの国民生活を守る手段は二つだけだ。一つ目は、EUやIMF以外の「支援者」を見つけることである。そういえば、最近、ロシアがギリシャに接近しているというニュースが何度か報じられた。
二つ目は、もちろんユーロからの離脱だ。とはいえ、いきなりユーロから離脱することはできないため、まずは政府がIOU(借用証書)を発行し、国内の年金支払いや公務員給与支払いに充てるのだ。
ギリシャ政府の債務である「IOU」が、果たして「何」に該当するのか、お分かりになるだろうか−−。それは「おカネ」である。おカネとは、必ず同額になる債務と債権の記録にすぎない。読者の財布の中の1万円札(債権)は、日本銀行の同額の債務だ。
ギリシャが政府負債=政府通貨としてIOUを発行し、新ドラクマ等の名前を付け、国内で流通させると、間違いなくユーロとの交換レートが生じる。すなわち「為替レート」が復活するわけで、この時点で事実上、ギリシャはユーロから離脱したことになる。
もっとも対外債務はユーロ建てであるため、ギリシャ政府は瞬く間に再デフォルトすることになるだろう。とはいえ、とりあえずは為替レート暴落により「輸出競争力」だけは回復する。経常収支の黒字化(=対外純資産増)への希望が生まれるのだ。
例えば、筆者が企画・原案を担当した『希臘から来たソフィア』(さかき漣:著、自由社)に出てくる、エーゲ海に浮かぶ美しきサントリーニ島の高級ホテルに、3000円で泊まれるとすると、読者はどう思うだろうか。ギリシャに観光に行きたいとは考えないか。ギリシャへの観光客が増えれば、同国の「観光サービス」が輸出されたことになり、経常収支は黒字の方向に向かう。
ところで、予想はしていたが、ギリシャ政府のデフォルトを受け、日本国内ではデタラメな報道が相次いでいるので訂正しておきたい。日本のメディアは「ギリシャは公務員だらけで、怠け者ばかりだから破綻した」といった嘘八百を平気で流している。
2009年のギリシャ危機勃発前、確かにギリシャの公務員は多かった。別に、北欧のような福祉大国というわけではないにもかかわらず、公務員対労働人口比率が20%を超えていたのだ。とはいえ、その後のギリシャは緊縮に励み、容赦なく公務員を削減。OECD平均どころか、すでにドイツをすら下回っている。
また、労働者一人当たりの労働時間を比較すると、実はOECD諸国で最長なのがギリシャなのだ。「ギリシャは公務員が多く、働かない」といったデマにだまされないでほしい。
ギリシャがデフォルトしたのは、バブル崩壊後のデフレ期であるにもかかわらず、緊縮財政を強行し、国民経済(GDP)がひたすら縮小してしまったためだ。GDPが縮小すると、税収が減る。ユーロ加盟国で通貨発行権を持たないギリシャは、税収が減れば対外負債のデフォルトに陥らざるを得ないのである。
ギリシャの国民経済を破壊したのは、デフレ下の緊縮財政。すなわち、現在の安倍政権が推進している政策そのものだ。それが、真実なのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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