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出世しなくても定年まで幸せに過ごすには
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150718-00015659-president-bus_all
プレジデント 7月18日(土)12時15分配信
人は周囲と自分とを見比べて「勝っている」「負けている」と一喜一憂しがちです。そのときに勝ち・負けの基準になるのは、自分ではなく社会が決めた価値観です。
社会で広く共有されている価値基準の下で、すべての人がナンバーワンになるのは不可能です。また、社会に認められたい一心で努力を重ねていると、ふと「自分は本当は何を喜びとしているか」、すなわち個人としての価値観を見失ってしまうかもしれません。すると、成功しても本人は幸福を感じられなくなってしまうでしょう。
真の意味で幸せをつかむためには、しょせんは他人の価値観にすぎない社会的評価から自由になり、自分独自の「勝利条件」を見出さなければなりません。
陸上競技を長く続けてきた私の場合、「ヒーローになること」が自分の勝利条件でした。
そもそも陸上競技では日本選手権でも観衆はわずか1000人ほど。野球やサッカーとは注目度が違います。したがって、ヒーローになりたかったら世界の舞台で勝つしかありません。
私は足の速い少年の常として、高校までは一番注目度の高い短距離走の選手でした。もし100メートルで世界大会に勝つことができたら、文句なくヒーローです。
しかし私はその後、ハードル競技に転向しました。世界ジュニア陸上競技選手権大会に参加し、世界のトップレベルを肌で知ったことが一番のきっかけでした。
「このまま100メートルで勝負を続けたら、日本では勝てても、世界でメダルに届く可能性はゼロに近い」
そう痛感したのです。一方、ハードル競技なら世界との差は大きくない、という実感も得ました。
だから私は、「世界で勝ってヒーローになる」という勝利条件を満たすには、ハードルに転向するのがいいと判断したのです。結果、世界陸上で2度も銅メダルを獲得できたのですから、理にかなった転身だったと思います。
■他人の価値観にしばられるな
人生の勝利条件は本来、その人の価値観によって決まります。「子供を無事に育て上げ、幸せな家庭を持たせること」が勝利条件だったら、仕事では無理な働き方をせず、出世も収入もそこそこでいいはずです。定年後に庭先で孫たちと遊ぶことができたら、その人は成功者です。他人の価値観でどう見られようと、関係ありません。
ところが、「会社で出世すること」だけが絶対の価値だと思い込んでいたら、円満な家庭を持っても内心の満足がありません。出世に背を向けた自分を「怠け者」だと感じるのは、おそらくはそのせいです。それはもったいないことだと思います。
そもそも無理なこと、適性のないことで努力をしても、結局は勝つことができず、「負けた」という意識だけを引きずってしまいます。
たとえば回転感覚は10歳までに身につくので、大人になってからフィギュアスケート選手を目指してもそれは無理です。そうではなく、自分にできることに絞って能力を伸ばしていくほうが、成功の確率は高まります。私の場合、チームプレーが苦手ですから、子供時代にサッカーなどの球技を選んでいたら、頭角を現すことはできなかったでしょう。
世界にはさまざまな価値基準があるのだということを、まずは知ることが大事です。そして自分なりの勝利条件を定め、その方向へ進んでいくのです。
私は34歳で現役を引退するまで、「足が速い」という価値基準にしばられてきましたが、引退後に出会ったさまざまな業種の人たちは、当然ですが別の価値観を持ち、それぞれが輝いていました。
思っていたよりも世界は広い。業種や国籍、世代の違う人たちと積極的に交流することで、私はそのことを実感しました。ビジネスマンも、もっと「外」に目を向けてはどうでしょうか。
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一般社団法人アスリートソサエティ代表理事
為末 大
1978年、広島県生まれ。2001年、05年の世界陸上400mハードルで銅メダル。12年に引退後は、陸上競技の普及などに取り組む。著書『諦める力』(プレジデント社)など。
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久保田正志=構成 大杉和広=撮影
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