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厚生労働省のHPより
老後貧困の恐怖 貯蓄3千万でも破産の恐れ、年金のみでは月8万も生活費不足か
http://biz-journal.jp/2015/07/post_10749.html
2015.07.16 文=神樹兵輔/マネーコンサルタント Business Journal
●新幹線焼身自殺の男性、月12万円の年金は少なかったのか?
先月、走行中の新幹線車両内でガソリンをかぶり焼身自殺した男性(71)は、2カ月ごとに支給される年金額が24万円だったといいます。年間144万円になるわけですが、この老人は「35年働いて月12万円では少ない」と不満を漏らし「家賃も住民税も払えない」とこぼしていたとされます。「住民税が払えない」というのは、おそらく前年まで働いていた清掃会社での課税分と思われますが、年金加入35年間の単身高齢者の年金受給額が月額12万円というのは本当に少ないのでしょうか。
というのは、老齢厚生年金・老齢基礎年金の月額12万円から逆算すると、40年間払い込みのケースで月額生涯平均給与は30万円レベルだったことが想定されます。この男性は35年間という若干短い期間であり、生涯平均給与額は35万円前後であったと推定できます。ちなみに生涯平均給与額は、一般的に38歳時点の水準といわれます。
給与が35万円だった場合、現時点での計算ですが厚生年金保険料は17.474%(2015年度)なので、会社と本人分の合計で月額6万1159円の年金保険料になります(本人負担分は半額の3万579円)。月額6万1159円を35年間納めた場合の合計は、年間73万3908円×35年=約2569万円になります。
男性は71歳なので昭和19年生まれとすれば、60歳時点から老齢厚生年金の報酬比例部分が全額支給され、62歳からは定額部分(基礎年金額と同額)も受給していたはずなので、60〜70歳までの10年間ですでに1350万円前後の年金を受給していたことになります。ちなみに現在、厚生年金は65歳からの受給開始に移行中です。
日本人男性の平均寿命(80.21歳)まであと9年生きたとすると、さらに1296万円受給できるので合計では2646万円になり、本人と会社が折半で支払った合計保険料(2569万円)は元が取れます(金利計算は除外)。なお、平均寿命は実際には同年代の半分以上がまだ生き残っており、男性の場合90歳でも21%の人が生き残っています(女性は47%が生存)。
今回焼身自殺した男性は平均寿命以上に長生きしていたら、払い込んだ年金保険料以上を受給でき、かなりトクをすることになったでしょう。また、仮に同年齢の専業主婦(無職)の妻がいた場合、35年加入で妻の老齢基礎年金額も67万円ほど加算されるため、70歳までで約2000万円、80歳までには4110万円の合計受給額となり、支払った保険料の総額(2569万円)をはるかに上回っていたことがうかがえるのです。
このように、年金は単身よりも夫婦世帯で受給するほうが、何かとトクをするのです。妻が会社員だった場合には、妻も老齢厚生年金を受給でき、妻が年下だと65歳になるまで夫には年額39万円の加給年金も支給されます。ちなみに、これは50歳以上の人に届く年金定期便の「65歳から支給される年金見込み額」に記載されていない金額です。
このように考えてくると、この男性の場合、他の年金受給高齢者世帯と比べても特段に年金が少ないとはいえないのではないでしょうか。
単身の自営業者だった場合には、国民年金だけにしか加入できず、月額1万5590円(15年度)を40年間払い込んで、65歳からの受給額はたったの月額6万5000円だけなのです。妻が専業主婦の場合でも国民年金は支払い義務があり、その場合、65歳以降は夫婦での合計受給額は13万円です。ただし、国民年金も65歳以降の10年間受給(1人780万円)しただけで、40年間の支払い総額(1人約748万円)の元は取れます。
●年金より生活保護受給のほうが高額のケースも
ところで、この焼身自殺した男性が住んでいた東京都杉並区の月額生活保護額は約14万円(生活扶助と住宅扶助)なので、この男性の年金額より多くなってしまいます。生活保護受給世帯になれば、税金も健康保険料も介護保険料も免除され、医療費、介護費、都営地下鉄、都営バスも無料になります。
実は65歳以上高齢者世帯の4割が、すでにこの男性同様に生活保護以下の「老後破産」状態にあるといわれます。また、実際に貧窮度が高いために生活保護を受給している世帯の約半数は、すでに高齢者世帯になっている現実もあります(162万世帯中76万世帯が65歳以上の高齢者世帯)。生活保護水準以下の老後破産状態であっても、なまじ貯蓄があったり持ち家などの資産があるため生活保護を受けられずに暮らす65歳以上の高齢者世帯は多いのが現状です。
厚生労働省のデータによると、平均年金受給額は65歳以上の高齢者世帯で約19万円です。総務省の家計調査による無職の老後夫婦の最低生活費は約27万円(年324万円)なので、平均年金受給額との差額は月8万円(年96万円)の不足になります。少し余裕のある生活には、夫婦で合計約38万円(年456万円)が必要といわれており、月19万円(年228万円)の不足となります。65歳以降も10〜20年と長生きすることを考えると、貯金が3000万円あっても安心できない状況であることがわかります。
65歳時点で3000万円の貯蓄があっても、長生きすると貯蓄が尽きた時点で生活保護水準以下の「老後貧乏」「下流老人」「老後破綻」の状態になるのは確実なのです。日本人の60歳時点における貯蓄(中央値)は約1400万円なので、60歳以降働かなければ、65歳までは無年金のため、老後世帯の最低生活費27万円で暮らしたとしても5年間で1620万円かかります。この場合、65歳から老後破綻状態となってしまいます。
●「人生の3大無駄遣い」をしない
年金は今後約30年経過した段階で、公的年金支給額の伸びを賃金や物価の上昇分より抑えるマクロ経済スライドにより、厚生年金が2割、国民年金が3割減らされる見通しです。また、受給できる年齢も65歳からではなく、67〜70歳に繰り延べされることも予想されます。
現在は130兆円ある過去の積立金も、これまでのように毎年4兆円ベースで取り崩されていけば、30年後にはほぼ枯渇します。年金財政は確実に先細りしていくわけです。なにしろ30年以降は現役世代(15〜64歳)1.3人で65歳以上の高齢者1人を支える構造になりますから、今以上に税金投入を増やしても年金財政は綱渡り状態になるのです。
年金が破綻した場合、65歳時点で貯蓄が5000万円以上なければ、安心して老後生活を迎えることができないという事態になりかねないのです。
老後資金を貯めるには、まず「人生の3大無駄遣い」をやめることが貯蓄を成功させる要諦になります。3大無駄遣いとは、「住宅ローンによるマイホーム取得」「生命保険への加入」「マイカーの保有」の3つです。これらからすみやかに脱却し、貯蓄に励み、資金を複利・分散・長期に殖やしていく手立てが欠かせないわけです。
住宅ローンによるマイホーム取得は、ローン完済後に3500万円以上の損失を生みます。生命保険への加入は、1世帯当たり1200〜1500万円の損失を生みます。そしてマイカー保有は、30年間で3000万円の損失を生みます。
住宅は価値が大幅に毀損し、民間の生命保険は代替手段(健保による傷病手当金制度や高額療養費制度、年金による障害年金、遺族年金制度、企業の死亡退職金、格安の共済など)が充実しているため不要です。また、マイカーはコストに含まれる税金が高額のため、できるだけ保有しないことが肝心です。
詳細は拙著『40代から知っておきたいお金の分かれ道』(フォレスト出版)をご参照いただければと思いますが、この「3大無駄遣い」をやめれば5000万円ぐらいの資金は簡単につくり出せ、それをさらに大きく殖やしていくことも可能になるのです。
(文=神樹兵輔/マネーコンサルタント)
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