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不適切会計に揺れる東芝の株は“買い”か?
http://diamond.jp/articles/-/74953
2015年7月15日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■株式投資の材料としては「ネガティブ情報」こそが興味深い
はじめに断っておくが、筆者は東芝(コード番号6502)の株式に投資することを読者に勧める意図は全くない。投資家読者は、東芝株を買うのも、売るのも、放っておくのも、自分で好きに決めていただきたい。ただ、今後の東芝株の推移を見ないでいるのは「もったいない!」のではないかとだけ申し上げる。本稿では、東芝株の今後の「見所」について考えてみたい。
なお、東芝の今回の「不適切会計」(メディアでは強制捜査が入るまでは「粉飾」という言葉は使わないものらしい)は、相当に悪質で根の深いものである可能性が大きく、また巷間、同社には深刻な人事的対立があるとも聞く。経営問題として、社会(会社)観察の事例として、個人の善悪の問題として、また、あるべきルールの問題、など、多くの注目点と論点があるが、今回は、こうした問題や価値判断から離れて、株式投資の問題としてのみ東芝を扱う。
さて、筆者の個人的な感じ方かもしれないが、東芝の不適切会計の報道は、株式投資にあってチャンスであるかもしれない事例として、ワクワクするようなニュースだった。
個別の株式に対する「材料」としては、期待の新製品の発表やビジネスの好調を知らせるような「ポジティブな情報」と、企業の不祥事・事故の発生のような「ネガティブ情報」の2種類がある。チャンスとして注目のしがいがあるのは、多くの場合、「ネガティブ情報」の方なのだ。
ポジティブ情報にあっては、企業にとって今後どれくらいの利益に繋がるのかがクリアに分からないケースがほとんどだ。有望な新製品や新技術などが、企業の利益におそらく繋がるだろうという期待はできても、将来の利益にどれだけ反映するかの評価は極めて難しいことが多い。
一方、ネガティブ情報の場合、その情報のインパクトをある程度、数値化できる場合が多い。
例えば、不幸にも製品のリコールや何らかの事故が起きた場合で、それ以外のビジネスが大きな影響を受けないなら、不幸な事柄の株価に対するインパクトを測って、株価がそれ以上に大幅に過剰反応することはないかとチャンスを待つ手がある。
不適切会計のような不祥事の場合も、本業が無事であれば、そのインパクトを評価して、過剰反応を待てばいい。
今回の東芝よりももっと露骨だったが、長年大規模な損失隠しを行っていたオリンパスの場合、株価は一時大幅に下がった。安値で買えた人は相当に儲かったはずだ。
■発行株数を覚えておけ 悪事を株価に換算すると…?
東芝株の今後を見る上で大事な数字が「42億」だ。同社の発行株数である。厳密には、あと3700万株と少々の端数が付くが、概数で構わない。
例えば、同社の不適切会計で修正されるべき過去の過剰な利益計上が2000億円であったと分かったとしよう。この場合、2000億を42億で割り算して、47.6円が、過去の悪事を株価に換算した値段ということになる。
仮に、この問題の影響が、今後には何もないとしよう。問題が表面化する前の株価評価が適当だったのだと仮定すると、表面化後の適正株価は、問題発生前の株価マイナス47.6円だと概算することができる。
東芝の場合、4月上旬に問題が表面化してから、調査のための第三者委員会が立ち上げられて、3ヵ月ほど時間が経過したので、その間のビジネス環境・市場環境の変化を考える必要がある。が、それでも、新情報のインパクトが明らかになるのに1、2年あるいは数年以上もかかることがある新製品・新技術の情報のようなポジティブ情報よりも、問題の株価に与える影響を評価しやすいのがネガティブ情報の特徴だ。
ちなみに、問題が表面化する前の東芝の株式は500円と少々のレベルで取引されていた(4月3日の終値は512円40銭。この日の日経平均終値は1万9289円だった)。
■不祥事の業績への影響をどう読むべきか
東芝の場合、今のところ「不適切」に計上された利益の額がまだ確定していない。そのほかに、考慮すべき要素として、不祥事が今後の業績に与える影響の問題がある。
例えば、食品会社の品質管理に問題が生じたようなケースでは、消費者がその会社の製品を今後どの程度買い控えるのか分からないことが多い。かつて安定した業績とブランド価値を持っていた雪印乳業の場合、製品の品質に関わる不祥事の発生に伴って消費者が一気に離れ、メグミルクと名前を変えて小さくなって生き残るしかなかった。
逆に、オリンパスの場合は、主力商品であった医療用の内視鏡は、医師のマーケットに強く食い込んでいて、同社の粉飾決算の影響を大きくは受けなかった。
東芝は、製品とビジネス分野が多岐にわたる点で、不祥事の影響を評価しにくいが、製品の品質に影響するようなものではないので、どちらかと言えば、オリンパスの方に近いのではないだろうか。
もちろん、「不祥事後の適正株価=不祥事前の株価−不祥事の評価額」という関係を意識するとしても、不祥事による投資家間でのイメージの悪化などもあるので、買いを狙う場合の目標株価として、余裕としての「不祥事ディスカウント」の幅を見ておく必要がある。
これは、企業により、投資家の好みにより、また投資に想定する期間によっても異なるので、一概には言えないが、追加的な業績の悪化がなければ、「人の噂も七十五日」という諺があるごとく、時間の経過が問題を解決してくれる場合がしばしばあることを指摘しておく。
いずれにせよ、投資家にとっては、ネガティブ情報にこそ注目する価値がある場合が多いことと、注目企業の発行株数を覚えておくべきことを頭に入れておいてほしい。
■機関投資家の反応もチャンスを生んでくれる
実は、東芝の場合、考慮に入れておきたい「楽しみ」の要素がもう一つある。それは、機関投資家の反応だ。
今回の東芝の「不適切会計」が、企業のガバナンスとしてよろしくない状態であることは、誰しも認めるところだろう。
では、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードが公表され、投資家の企業統治への関与が強調される今日、年金基金等の投資家は、東芝株にどう対処するのがいいだろうか。あるいは、年金基金を顧客とする運用会社は、ポートフォリオの中に持ってしまっていた東芝株について、顧客にどう説明するのがいいだろうか。
また、JPX日経400のようなコーポレート・ガバナンスの良し悪しを評価するという触れ込みの株価指数や、SRI(社会的責任投資)を標榜する運用資金では、東芝株をどう扱ったらいいのだろうか。
個々に判断や考え方があるだろうから、あえてどうしろとは書かないが、東芝の株価が安いとしても、それでもポートフォリオから東芝を外すという判断を持つ投資家がいる可能性がある。あの東芝の株を持っていては顔が立たない、という人たちが存在するのだ。
彼らの行動は、株価の高低と株式の価値を比較して決定されるのではない。彼らは、「売る」と決まれば、株価に関係なく株式を売却する。こうした情報判断に基づかない売買は、「株価のファンダメンタルズからの乖離」すなわちチャンスをしばしば生んでくれる。これは、SRI(社会的責任投資)と称する運用方法が、純粋な投資としてダメであることの理由と近い。
面子にこだらなくていい投資家は、こうした資金の動きによって生じる「買いチャンス!」を待って、ありがたく「偉い投資家」をカモにすればいい。
もっとも、「チャンスだ!」と思った株価が、実はチャンスでも何でもないことはよくあることだ。その場合には誰も助けてはくれないので、投資家は、せいぜいよく考えることだ。当然ながら、全ての賭けは自己責任で行う必要がある。
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