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財政破綻の常習犯ギリシャが甘やかされる理由
http://diamond.jp/articles/-/74945
2015年7月15日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] ダイヤモンド・オンライン
先日、米国のオバマ大統領が、ギリシャやドイツなどEU主要国の首脳と電話会談を持ちました。ギリシャの財政問題が欧州内だけで封じ込められ、米国に経済的な影響が波及しないかという面のチェックと、軍事面のリスクを抑えられそうかという確認が目的だったようです。
ギリシャは地中海の「地政学的な要所」で、それが、オバマ大統領の電話会談の理由です。ギリシャの背後には、現在、紛争地域であるウクライナや中東があります。このような地政学的な要地であることが、歴史上、ギリシャを特別扱いする要因となっていたのです。
ギリシャのチプラス首相はギリシャ共産党の出身であるせいか、中国やロシアとも深い関係を持っています。中国はギリシャ随一の港湾を買収しようとしています。ロシアからはエネルギーの供与が提案されています。
また、欧州の人々はその思想や文化の起源をギリシャに求める向きもあります。ローマ帝国ですらそうでした。これもギリシャを特別扱いする理由でした。ドイツなどの欧州を始め、移民が中心の米国ですら、建築物を始め、いたるところにギリシャ神話を含めたギリシャ文化に対する憧れの象徴が見られます。
■ギリシャのユーロ脱退はあり得ない
ギリシャのユーロ離脱の議論については、残念ながら通貨についての基本的な知識が不足しているものも多数見られました。そもそも、EUの条約に「ユーロ離脱」についての規定はありません。逆に「EUに加盟したら可及的速やかに、ユーロに移行すること」と明記されています。つまり、ユーロ導入は一方通行の「帰らざる河」なのです。
それでも、なお、ユーロ離脱の議論をするのであれば、これがユーロの規定にない以上、それはEUそのものからの離脱を意味します。EUの中では、関税その他が取り払われ、EU全体で産業分担がなされ、各国が相互優遇的に対応されています。このような仕組みを持つEUからギリシャが抜けて、経済的に生きて行けると考える人は少ないのではないでしょうか。
さらに、旧通貨ドラクマを復帰させることなどは技術的にも困難で、まったく非現実的なのです。まず、為替レートですが、どのレートにするかの算定は実質的に不可能です。統合時のレートに戻すとしても、その際、ドラクマの暴落は避けられません。また、通貨量(マネーサプライ)にしても現実的にその算定は困難です。無理にやろうとすれば、GDP規模で計算するのが一案ですが、通貨が独立した後は直ちに金融緩和を行うでしょうから、これもほぼ不可能なのです。
筆者は学生時代から約30年間通貨を研究し、ユーロについては特に研究を重ねてきました。また、実務面でも、米独仏などの大銀行14行で特殊銀行設立のプロジェクトに日本代表として出向し、ロンドンやフランクフルトに長期にわたって滞在し、担当当局と特殊銀行についての議論を繰り返しました。
当局とは、中央銀行であるドイツ連邦銀行(Deutche Bundesbank)、英国銀行(Bank of England)、フランス中央銀行(Banque de France)、そしてECB(European Central Bank:欧州中央銀行)の前身であるEMI(European Monetary Institute:欧州通貨機構)です。
当時のメインの課題の一つが、ユーロの導入とその仕組みでした。それによって、新銀行の機能やシステムが大きく影響を受けるからです。通貨としてのユーロの理論的な面の理解はしていましたが、そのときにユーロに対する欧州の考え方を中央銀行の担当者からいやというほど学びました。それは、以下のようなことです。
■ユーロの本当の目的は“欧州キリスト教合衆国”の設立
ユーロの本当の目的、それはEUの目的でもありますが、アメリカのような「欧州合衆国」の設立です。さらに、書物には書いてありませんが、欧州の政策担当者と話して感じたのは、その本当の目的は経済圏というよりは大いなる「キリスト教国家」の設立ということです。そのため、EUにはイスラム国であるトルコは入れません。
ギリシャは長い間イスラム教国のオスマントルコに400年間支配されていました。欧州主要国にしてみるとキリスト教のレコンキスタ(領土回復運動)の意味もあったのではないでしょうか。
そして、通貨。特に通貨同盟を研究した専門家には理解できると思いますが、ユーロ発足時に入った国のリストを見て、筆者は驚きました。当初は11ヵ国が入り、ギリシャもリストに入っていました。実際の参加は2年遅れました。独仏伊などの主要国が入ることは分かりますが、フィンランドやギリシャは、欧州中央部から離れ、国境を接していません。通貨を研究した方にはすぐにわかるでしょうが、通常、通貨同盟を結ぶ国は国境を接しているものです。つまり、ユーロの発足が、経済的な目的ではないことが分かりました。
フィンランドとギリシャは「欧州の東端」を示したのです。つまり、そこまでが将来の「欧州キリスト教合衆国」の目標圏であるということを世界に示したのです。このように、平和なキリスト教徒の国への大きな想いがEUを推進しているのです。この大きな思いが欧州をまとめています。そういう意味からも、甘やかされてきたギリシャは、今回、本来の統合の流れに逆行するという、あり得ない禁じ手を使ったのだといえます。
■甘やかされ続けてきたギリシャは自力再生できるか
ギリシャはユーロ参加の時から、財政破綻状態だったともいわれています。また、先にも述べましたが地政学的な要地で、欧州の東端を占めるために特別扱いされ、それが染みついてしまったのです。
ギリシャは歴史的にも破綻(デフォルト)を繰り返してき常習犯です。ユーロに参加するときも、財政の数字を粉飾していました。企業の再建では、本当に約束を守るのかということが重要なのですが、それと同じようにギリシャが国として約束をきちんと守るということが重要なのです。そのため、欧州側はギリシャ内での法律の制定を命じています。
企業再建では、そのような信頼性も大事ですが、同時に経済力(産業力)をつけることも大事です。ギリシャはGDPの約8割が観光と海運で、ドイツの製造業のような、これと言って強い産業がありません。
今回、15日にギリシャで関連法が制定されたならば融資が実行され、ドイツ、フランス等、ユーロのリーダーは、まずは、改革案の約束通りの履行を厳しくチェックするでしょう。それどころか、ギリシャはIMF(国際通貨基金)やECBを含む債権団の管理下に事実上おかれます。これは大変なことで、国家的には非常事態に入ります。これは以前、韓国でも行われました。ドイツ統合時に実質的に破綻していた東ドイツに対して行われた手法ですが、公営企業の資産を基金に集め売却します。
さらに現在のギリシャの年金制度、50歳で退職し、4分の1以上の方が年金をもらっていて、その額がドイツより多い、あるいは、選挙のしがらみで公務員が多すぎる、税金の取れない闇社会が大きすぎる、などの「社会制度」の見直しも迫られるでしょう。
また、今後は一人で生きて行ける「産業力」の強化が大事になります。先が見えていませんが、まずは本業である観光や海運の改革を推進させるでしょう。同時に、経済分野の規制緩和も計画にありますが、新たな産業の育成にも注力させるでしょう。産業力がつかないと、数年後にまた今回の様な危機を繰り返すことになりますから。
そのような経済強化で最も大事なのは、政治家だけではく、国民全体の甘えの気持ちを、真面目に頑張る気持ちに転換することです。ドイツ連邦銀行の元総裁は、そのような気持ち(気性)をメンタリティといい、その改善こそ最も大事な政策であると強調しました。
ギリシャの経済(GDP)は世界のGDPの1%足らずで、日本との取引も多くはありません。金融面でも、2012年の民間債務を強制的に削減(減額)した事実上のデフォルトの時から、取引も増えていません。今回の危機が収集されて、ユーロも安定するならば、日本経済への直接的な影響はほとんどないでしょう。
このギリシャが出してきた財政改革案は、具体的には以下の様なものになっています。税収増としては付加価値税(VAT)の引上げ、特別軽減税率の引上げ、法人税の引上げ、さらに歳出削減として年金の改革と軍事費の削減となっています。現在の日本の財政削減策と比べると、日本のそれには歳出削減は入っていませんが、ギリシャ案には歳出削減も入っており、ある程度、評価できます。企業の再建には支出の削減が必須なのです。
ギリシャのことを調査・分析すればするほど、ギリシャが「近未来の日本」に見えて仕方がありません。私たちはギリシャのことを笑っていられないと思います。ギリシャの公的債務の対GDP比率は約180%で、日本のそれは約250%と、日本の方が高いのです。
さらに、ギリシャ経済に悪影響を与えたといわれているオリンピックを、日本はよく分からない巨額の規模で行おうとしています。ギリシャを他山の石として、日本政府が分析し、日本国民に、日本との比較も加えて、説明してはいかがでしょうか。
■イソップ童話は経済教育に使えない
筆者が講義や講演、宿輪ゼミでも教えている経済・経営の基本の一つに「国も、企業も、個人も一緒」ということがあります。結局、国の財政再建は企業の再建と一緒です。つまり、借金と支出を減らして、商売上の強みを強くする。強みが無ければ作っていくということです。
また、同じく、筆者は経済学の目的は、金融市場が荒れないようにしながら、借金を巨大化させることではなく、国も企業も個人も「どんな環境でも、一人で生きて行ける」ようにすることと考えています。
筆者は、若年層への経済・金融教育の一環で、「アリとキリギリス」などの「イソップ童話」を再び使おうかと考えていました。しかし、それはやめることにしました。「イソップ童話」を調べたところ、なんとギリシャ起源の物語であったからです。彼らも小さい頃から読んでいるはずであったのにも、このような状況になっているということから、いかがなものかと思ったからです。
※本の連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。
【著者紹介】
しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、この4月で10年目、180回開催、会員は8000人を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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