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ホンダ「S660」の製造工程
ホンダのスポーツカーS660、車の常識を破壊する革命的意味 手作業で大量生産に逆行
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150715-00010006-bjournal-bus_all
Business Journal 7月15日(水)6時3分配信
ホンダはこのところ、明るいニュースがない。2013年以降の5回にわたる「フィット」のリコール、また米国でのタカタ製エアバッグをめぐるリコール問題などの対応にてんやわんやで、なかなか前に進めない。そのなかで“希望の星”といえば、「ホンダジェット」を除いて肝心のクルマでは軽のスポーツカーのみである。
スポーツカーはF1参戦の歴史に象徴されるように、ホンダらしさの象徴だ。ホンダはかつて“とんがったクルマ”が特徴で、その点が評価されてきた。近年そうした長所がすっかり消えて、無難にまとまる傾向にある。トヨタ自動車とホンダのクルマに差がなくなったとすらいわれている。
いささか停滞ムードが漂うなかで4月に発売された軽のスポーツモデル「S660」は、ホンダらしさを取り戻す起爆剤としての役割が期待されている。ミッドシップエンジン・リアドライブレイアウトを採用し、高い旋回性とともに低い重心高にこだわる。軽自動車初の6速マニュアルトランスミッションと7速パドルシフト付CVT(無段変速機)をラインアップし、走りの楽しさを徹底追求した本格的なスポーツカーだ。
ホンダの軽には、売れ筋の「N-BOX」があるので、プラットフォームを共有化すればS660の生産はさほど難しくはないと考えがちだが、そうは問屋が卸さない。とはいえ、S660には少量生産の新しいビジネスモデルの構築という画期的な意味が秘められているのだ。
●生産は地方のグループ子会社
S660の生産を担当するのは、近鉄名古屋駅から特急で2駅、近鉄四日市駅から車で約30分走ったところに工場を構えるホンダのグループ子会社、八千代工業四日市製作所である。従業員は713人、平均年齢は約42歳だ。
八千代の2015年3月期の連結売上高は2157億円で、うち完成車事業は18.2%の393億円、部品事業は81.8%の1764億円だ。1972年に埼玉県狭山市の柏原工場でホンダ「ステップバン」の受託生産を開始したのを皮切りに、85年には本格的な軽自動車の受託生産を四日市製作所でスタートした。以来、「アクティ・トラック」「アクティ・バン」「バモス」「バモス・ホビオ」など、ホンダの軽自動車をほぼ一手に生産してきた。ピーク時には日産1000台にのぼった。
ところが、N-BOXを機にホンダの軽の生産は自社の鈴鹿製作所に全面移管された。現在、八千代が生産しているのはバモスやS660などにすぎず、台数はいまや日産150台まで落ちた。
●逆転の発想
では、一体なぜS660は鈴鹿製作所ではなく八千代で生産されているのか。理由は大きく2つある。
ひとつは、人の手を加えて、スポーツカーに求められる性能と質感をしっかりつくり込むためである。S660では、エンジンと変速機を運転席の背後に置くミッドシップレイアウトが採用されている。先端部分が軽くスッと旋回姿勢に入ることができ、キレのあるキビキビした軽快な走りを実現する。ところが、ミッドシップは極めて生産が難しく、N-BOXの生産ラインに乗せることはできない。
その点、四日市製作所は生産台数が少ない分、一台の生産に対してより多くの時間がかけられる。S660の上質な乗り心地と正確なステアリング操作は、人の手と機械の融合による専用工程だからこそ、つくり込むことができるのである。つまり、少量生産の強みを最大限生かす。逆転の発想だ。
例えば、車体骨格の溶接工程では、4人の熟練作業者がフロアコンプと呼ばれるボディの内側に独自の「インナー治具」をセットし、ピラーなどのインナーパーツをリベット留めする。一台一台、丁寧に位置決めをしたうえで作業を行うため、おのずと取り付け精度が高まる。
4人の作業者は声を掛け合いながら、チームワークよく組み付け作業を進める。部品一点一点の組み立て精度がクルマの性能を決定づけ、スポーツカーならではの走りを実現する。
足回りの取り付け工程にも工夫がある。専用の治具を開発して、タイヤの位置からの入力が「1G」となる、車が走り出すときの状態を再現して部品を取り付けているのだ。足回り各部にストレスをかけずに部品を取り付けるためである。
●日本でしかできないモノづくり
S660が少量生産にこだわるもうひとつの理由は、利益の出せる工夫を盛り込むことである。指摘するまでもなく、S660のようなスポーツカーは大きな市場は望めない。「となれば、売れたときに合わせて設備投資をするわけにはいかないんですね」と、八千代社長の笹本裕詞氏は語る。つまり、少量生産と効率のバランスをとるには、徹底的に投資を抑える必要がある。そのため、現にS660は軽商用車「アクティ・バン」との共用ラインでの生産を可能にする工夫が凝らされている。
「アクティのエンジンは下からの締め付けなのですが、S660は上からの締め付けもあります。そこで、横に架台を設けて締め付けを行っています」(笹本氏)
さらに、ラインはコンパクト化が図られている。従来、フロントコンプ、リアコンプ、フロントフロアはそれぞれ別の場所でつくっていたのだが、フロントとリアを共用治具にすることにより、一つのラインの中で完結させているのだ。加えて、従来であればロボットが自動でクランピング(締め付け)するところを、人の手でリベット留めを行うことにより、クランプや柱、ピンなどを削減し、治具や設備にかかる投資を徹底的に抑制した。
「イメージとしては、従来の治具に対して、半分くらいの部品点数で治具ができていると考えていただいていいと思います」(同)
特筆すべきは、時代に逆行するかのように手作業を増やしたことだ。S660の専従作業者は14人である。彼らは、骨格からドア・フードの取り付け作業まで幅広い作業をこなす多能工だ。熟練作業員というと年配の作業者を思い浮かべがちだが、四日市製作所の熟練作業員は若い。もともと車好きの若手が、現場で習熟度を上げていったという。
「これは、日本でしかできないモノづくりのやり方だといえます。普通の大量生産のモノづくりとは、仕事の幅がまったく違うと思います」(同)
●多品種少量生産のモデルの地平を切り開く
八千代はもともと、少量生産を得意とする。福祉車両や特装車など大量生産ラインに乗りにくいクルマの生産を手掛け、ノウハウを積み上げてきた。例えば、手の不自由な人が足だけで運転できる車両など、体の状態に合わせた福祉車両を一台一台つくっているのだ。
クルマづくりというと今日、投資を数すなわち大量生産で償却するやり方が主流だが、数を追うだけがクルマづくりではないだろう。四日市製作所は、設備投資を極力抑えたうえ、人の手を活用することにより、少量でも低コストで生産するための実験場といっていい。いわば、高効率・少量生産のビジネスモデルの構築である。
「これからは、人に焦点を当てたモノのつくり方があってもいいんじゃないかと思うんですね」と、前置きして笹本氏はいう。
「今後は、アフリカをはじめとするネクスト市場、すなわち数は少ないけれどもクルマを必要とする市場で、こうした人の手を使ったつくり方が生かせるのではないかと思います。車づくりが硬直化する中で、目先を変えながら、違ったつくり方をしていくことが重要になってくると思います」
スポーツカーというと、「超」がつくほどのラグジュアリーカーが思い浮かぶが、S660は違う。手頃な価格で本格的な走りを楽しむことができる“マイクロスポーツカー”をコンセプトにしているだけに、ユーザーの手が届く価格を実現した。
しかし、走りには妥協したくない。S660は生産工程のさまざまな工夫と努力でスポーツカーを身近な存在にするとともに、クルマの世界に多品種少量生産のビジネスモデルの地平を切り開いたといえるだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)
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