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世界経済大混乱 ギリシャ「チプラス劇場」が世界を翻弄〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150715-00000002-sasahi-bus_all
週刊朝日 2015年7月24日号より抜粋
世界中がギリシャのチプラス首相に翻弄されている。
借金がかさむギリシャは、欧州連合(EU)と欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の3機関「トロイカ」から緊縮財政を進めるように求められている。これに応じないためEUなどからの金融支援を止められたギリシャは、銀行窓口閉鎖とATMの引き出し制限を実施し、資金の流出を防いだ。
新たに金融支援を受けるには、トロイカを納得させる財政再建案を出す必要があるのだが、チプラス首相は反緊縮の御旗をなかなか降ろそうとはしなかった。
チプラス首相は40歳にして独メルケル首相、IMFのラガルド専務理事など名だたるエリート相手に物怖じすることもない。
EUなどによる緊縮策の是非を問う国民投票の結果、緊縮策NOが多数を占めた際には、高らかにこう勝利宣言した。
「民主主義は脅迫に勝った」
どんな人物なのか。東京大学特任講師でギリシャ近現代史に詳しい村田奈々子氏は言う。
「歴代の首相は海外の大学で博士号を取った人や政治家の家系が多かったのですが、チプラス氏は国内大学の出身です。中産階級の出身で、奥さんは学生時代の同級生で、彼女一筋なところが好感を持たれています。理想主義者で人の心をつかむ能力もありますね」
ネクタイ嫌いで、「散髪(ヘアカット=債務減免)してくれるならネクタイをしめる」とジョークを飛ばしたことも。飾らない人柄も好感を持たれる要因だ。
ギリシャのバルファキス前財務相も、「チプラス劇場」の立役者の一人。坊主頭で俳優ブルース・ウィリス似の顔立ちだ。
国際会議の場に青いシャツと革ジャンで現れたり首相府に黒バイクで乗り付けたりと、財務トップらしからぬ行動が注目を集めた。
発言も過激だった。「自国の旧通貨ドラクマを再発行する可能性はあるのか」と問われたバルファキス氏は事実かジョークかわからない発言で世間を騒がせもした。
「輪転機をすべて壊した。独自通貨を発行する能力はない」
緊縮策についても、受け入れを迫るのは、「テロ行為だ」と、真っ向から批判。ストレートな物言いが、EU側の反感をかったためか6日、財務相を辞任。こう見ていると、ギリシャが「悪役」のように思えるが、そうとも言い切れない。
「ギリシャは第2次世界大戦時にドイツに占領され、経済が破壊されました。ギリシャはドイツ軍の駐留費用も持ちましたし、西ドイツ復興時には多くの労働力を提供しています。それに、ドイツは大戦時の損害に対する補償を免れています。ギリシャ側には『今のドイツはギリシャの犠牲の上にあるのに』という思いがあるのです」(村田氏)
「ギリシャは年金が手厚い」との定説にニッセイ基礎研究所の前田俊之金融研究部部長は異議を唱える。
「トロイカの指導で年金制度が変わり、年金額は以前と比べ30%ほど切り下がっています。特別に恵まれている状況ではありません。25歳以下の失業率は50%を超えていますし、労働者の賃金水準は大きく低下しています。これらが、年金収支の悪化や政府の財政負担につながっています。緊縮策を打つほど、財政は悪循環に陥っているのです」
著書『21世紀の資本』で知られる仏のトマ・ピケティ氏ら経済学者5人も緊縮策を批判。7日にメルケル首相に書簡を出し、ギリシャの債務を減免し緊縮財政案を見直すよう求めた。
今のところ、メルケル首相は「債務削減は問題外」と強硬姿勢を崩していない。IMFのラガルド専務理事はIMFの規則に従って債務の返済をしなければ、融資をしない意向だという。ただ、仏オランド大統領はギリシャ側への配慮を見せ始めている。
ギリシャは9日、EUに財政改革案を提出。増税や年金の給付抑制で1.3兆円以上の収支改善を目指す内容だ。メルケル首相は、どう出てくるだろうか。
(本誌・永野原梨香、西岡千史)
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