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14階建てのビル登場 コンクリより強い新木材、普及へ
2015/7/13 6:30
従来の木材より高い強度を持つCLT(直交集成板)が日本でも実用化されつつある。木造のビルを建てることも可能で、国産材の利用拡大が期待される。
日本は豊かな森林資源を持ちながら、国内で消費される木材の7割を輸入に頼っている。国は現在約30%の木材自給率を、2020年までに50%に引き上げる目標を掲げる。こうした中で、注目されているのが、CLT(直交集成板)という新技術だ。CLTは、木の板を繊維が直角に交わるように互い違いに何層にも重ねて圧着したものである。
重量当たりの引っ張り強度が、コンクリートの5倍と、従来の集成材に比べて非常に強い。鉄筋コンクリート(RC)の代わりに壁や床に使用することができ、木造のビルを建てられる。
鉄やセメントなど製造時に大量の二酸化炭素(CO2)が発生する材料の代替が可能になる。また、多孔質であるCLTは熱を伝えにくく、断熱性はコンクリートのおよそ13倍に達する。表面に石膏ボードなどを貼れば、耐火性も持たせられる。多くの木材を使用するため、国産材の消費拡大の牽引役として期待できる。
イタリア・ミラノにある壁や床にCLTを使った9階建ての住宅
2014年に日本で初めてCLTで建てられた、高知おおとよ製材の社員寮
■ノルウェーでは14階建て
CLTは、1990年代に欧州で普及し始め、現在はオーストリアを中心に年間50万m3(立方メートル)が生産されている。英国や地震の多いイタリアなどでも、CLTを壁と床に用いた9階建てのビルが建てられている。ノルウェーでは14階建てのマンションが2015年中に完成する見込みだ。
日本では火災や地震などに対する危機意識から、大型の建築物ではRC造や鉄骨造を推奨してきた。しかし欧州などの事例が示すように、技術開発やルールを整備すれば、CLTでも耐震性や耐火性を確保できることが分かり、普及に向けた機運が高まってきた。
■ハウステンボスが“CLTホテル”
2014年1月に農林水産省は、品質と性能が確保されたCLTの普及に向けて日本農林規格(JAS)を施行し、接着性能や表示ルールなどを細かく定めた。そして、同年3月には、日本初のCLT建築物である、高知おおとよ製材(高知県長岡郡)の社員寮が完成。3階建てで、延べ床面積は264m2(平方メートル)。120m3のCLTを使用した。
その後、数棟の小規模なCLT建築物が国内で建てられてきたが、いよいよ大型の開発プロジェクトが動き出した。ハウステンボスが運営する、日本初の“CLTホテル”だ。「変なホテル」という、ユニークなネーミングで知られる。
2016年春に完成予定のハウステンボスのホテルは、CLTを壁と床に使用した日本初の宿泊施設になる
銘建工業のCLTの生産現場
2015年7月に開業するこのホテルの2期工事として2016年春完成する72室は、国産スギ材のCLTを壁と床に採用した。2階建てで、延べ床面積は約2000m2。床に厚さ18cm、壁に厚さ15cmのCLTを合計で570m3使用する。集成材メーカーの銘建工業(岡山県真庭市)が生産する。建設費は約6億円で、国から約1億円の補助を受ける。
設計を担当した鹿島建設建築設計本部の野出木貴夫シニアマネージャーは、「建設会社として国産材の利用拡大に貢献できないかと考えてきた。『日本初の挑戦』に施主が賛同してくれて実現した」と語る。
CLTの長所の1つは施工の早さだ。一般的にRC造では、コンクリートが乾くのに時間がかかるため、1階分建てるのに3週間近くかかる。一方、CLTはあらかじめ工場で窓枠などの切断加工を済ませておき、現場ではそれらのパーツを金具で接合して一気に組み上げられる。野出木氏は「搬入したその日のうちに屋根を被せたい」と語る。
■2016年が普及元年
宿泊施設に利用するために、様々な工夫もした。1つは遮音性を確保することだ。CLTは音を伝えやすいため、防音の工夫が必要だった。2階の床部分にモルタル(砂とセメントと水の混合物)を4cm敷き、その上に浮き床を張った。1階の天井も、いわゆる浮き天井にして、遮音性をクリアした。
木の風合いを楽しんでもらう工夫もした。CLTは耐火性を確保するために、石膏ボードなどで覆うのが一般的。だが、天井を燃えにくい素材にすることで建築基準法の内装制限をクリアし、壁のうち2面はCLTを露出できるようにした。
日本でも実用化が進むCLTだが、普及には課題がある。1つは、法律の整備だ。現在、壁や床などの構造のすべてにCLTを用いた建築物を建てるには、国土交通大臣の認定を取得する必要がある。強度などに関して、超高層ビルを建設するのと同じような実験データを揃える必要があり、認定取得まで1年以上かかるケースもある。
そこで国は、CLTを一般の構造部材と同様に使えるように、強度データの収集や、5階建ての構造物を大型の震動台で揺らす実験などを実施している。こうした実験結果を受けて、2016年度の前半に建築基準法の「基準強度告示」と「一般的な設計法告示」を公表する計画で、これにより比較的簡易な構造計算でCLTの建物が作れるようになると、普及の道が開ける。
普及に向けたもう1つの課題は、価格だ。木材の効率的な供給体制が整っており、CLTの量産も進んでいる欧州では1m3当たり6万円程度。これに対して、日本では15万円ほどする。仮に欧州産のCLTを輸入した場合、輸送費を加えても安い。これでは、国産材の利用拡大は“絵に描いた餅”になりかねない。
■コスト半減でRC造に並ぶ
こうした中、銘建工業は大規模な投資に打って出た。36億円余りを投じて、CLT専用工場を新設する。2016年4月の稼働を目指して今夏に着工する。年間生産能力を、現在の10倍の約4万m3に一気に引き上げる。
最新の設備で省人化を進めるとともに、欧州製の大型の製造・加工装置を導入する。同社のCLTは現在、幅2.7m、長さ6mだが、道路交通法上、トラックで運べる最大サイズである幅3m、長さ12mのパネルを生産できるようになる。大型化すれば製造単価は下がる。
さらに、パネル同士を接合する金具や作業の手間が省けるため、「建設費を数%下げられる可能性がある」(鹿島建設の野出木氏)。ただ日本の道路では、大型のパネルを運ぶのは容易ではない。そこで同社は、風力発電の羽根の運搬などで実績がある日本通運と、輸送方法の検討を始めた。
新工場によって、CLTの単価は1m3当たり10万円ほどになる見込みだ。国は木材の供給体制を見直し、CLTの量産化をさらに後押しすることで、数年以内に1m3当たり7万〜8万円に引き下げる目標を掲げる。
CLTにはもともと、コストメリットがある。組み上げが簡単なため、欧州の例では、RC造と比べて全体の工期を3分の1程度に短縮できる。また、重量がRCの4分の1程度と軽いため、建物の躯体や基礎をスリム化できる。そのため、CLTの単価が目標まで下がれば、総工費でRC造と肩を並べることができる。
■CLTで耐震壁
国はこうした取り組みによって、2024年度までにCLTの生産量を欧州並みの年間50万m3に引き上げる目標を掲げる。これは国内で年間に建設される3〜4階建て中層建築物の約6%が置き換わる量に相当する。年間の国産材利用量を5〜10%押し上げる効果が見込める。
普及に向けては、建物全体をCLTで造る以外に、建物の一部に活用する技術も開発し、利用しやすくすることも重要だ。
竹中工務店は2014年12月、日本で初めてCLTを耐震壁として利用する技術を発表した。1971年築の社員寮の1階に、厚さ21cm、面積約10m2のCLTの耐震壁を設置。既存の躯体(柱や梁)とCLTとの隙間にエポキシ樹脂接着剤を圧入して接着し、一体化させた。厚さ15cmのRC造耐震壁と同等の耐力を持ち、コストは同等以下にできる。
竹中工務店は、鉄筋コンクリートの建物の改修工事でCLTを耐震壁として国内で初めて採用した
CLTの床を下の階から見上げたところ。住宅メーカーの北洲は木の柱と梁の接合部をアラミド繊維のシート(緑色)で補強し、梁を両側から鋼材(灰色)で挟む「Jブリッド工法」で床を支えることで、下の階に間仕切り壁のない大空間を作った。この工法はJ建築システム(札幌市)が開発した
一方、住宅メーカーの北洲(宮城県富谷町)は、7月に完成予定の岩手県盛岡市の店舗兼事務所で、2階の約200m2の床にCLTを採用した。一般の木造の床に比べれば重いため、床を支えるために階下には柱や間仕切り壁が多く必要になる。そこで、柱と梁の接合部を強化し、梁を鋼材で補強する工法で、1階に間仕切り壁のない大空間を実現した。
日本のCLT利用は緒に就いたばかりだ。森林資源を活用し、林業を再生させる成長の芽となるCLTを上手に育てていかなければならない。
(日経エコロジー 吉岡陽)
[日経エコロジー2015年7月号の記事を再構成]
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO88273570Z10C15A6000000/?dg=1
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