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ギリシャの債務問題はどうなるのか。ドイツほかEU主要国のギリシャへの不信感は強い(写真:AP/アフロ)
ギリシャはユーロ圏に残る意味があるのか EU首脳会議で支援が決定する確率は50%
http://toyokeizai.net/articles/-/76711
2015年07月12日 村上 尚己 :アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト 東洋経済
ギリシャ債務問題が山場を迎えている。6月末からギリシャに対する金融支援交渉は急展開し、7月5日の同国における国民投票においては、「緊縮反対」が多数派となった。同国の議会はその後、EUからの支援を受けるための財政改革案を承認、12日のEU首脳会議では支援に関する最終判断が審議される。支援が決まるかどうかは5分5分だとみている。
■ギリシャへの債権者の不信感は強い
この2週間ほど、海外株市場ではギリシャ問題が大きなリスク要因として認識され、米欧の株式市場は調整を余儀なくされている。
欧州株は4月半ばのピーク時から前週の前半までに約10%も下落、米国株もほぼ年初の水準まで調整した。新興国株指数(MSCIローカルベース)もその余波から、米国同様、ほぼ年初と同水準まで下落した。
大幅高となっていた上海株が急落したこともあり、2015年の日本株のパフォーマンスは相対的にかなり良くなり、やはり前週の前半現在では年初比でおおよそプラス16%のリターンを依然保っている。年初1月12日のコラム「2015年、最高の投資タイミングはいつか?http://toyokeizai.net/articles/-/57740」で、海外において予想されるリスク要因を踏まえて、消去法的に日本株が優位になるシナリオをお伝えしたが、2015年前半に関しては、この想定はおおむね正しかったようである。
ギリシャの支援交渉の行方は、最終的には高度な政治決断次第で決まるので、今後も展開を予想するのは難しい。ただ、これまでのギリシャとEU(欧州連合)などとの債権団の交渉の経緯を踏まえると、債権者側がギリシャ政府に抱いている不信感は相当強い。債務の大幅削減など将来のギリシャ経済復調に繋がるような、支援策が決まる可能性は低いだろう。
なお筆者自身は、年初にギリシャの政権交代でチプラス政権となってから、ギリシャとEUの間で一連の金融支援交渉が、ここまで大きくもつれるとは予想していなかった。債権者側の中心であるドイツの財政状況が改善していることもあり、支援交渉は現実路線で穏当に進むとみていたが、その見通しは甘かったと言わざるをえない。
ユーロ離脱については、ギリシャ国民が望んでいないので、ギリシャは引き続きユーロ圏に止まりながら、支援交渉をしていくとの見方がありえるかもしれない。実際、国民投票において緊縮反対の世論が示された7月6日以降も、EUなどの債権団は引き続き金融支援を続ける方策を模索している。
■ギリシャがユーロを離脱してもリスクは限定的
ただ、実際にはギリシャ政府がユーロに留まることを望んでも、それを最後に決めるのはギリシャではなく、EU、ECBなど欧州の債権者であり、ギリシャの意向だけでユーロ離脱の可能性を考えるのは一面的に思える。
すでにギリシャの銀行にはユーロ紙幣が十分残っていないため、6月末から預金引き出しの制限が行われている。ECBによる、ELA(緊急流動性支援)によって最低限の通貨ユーロが、銀行システムに供給されている模様である。
ユーロという通貨発行権がないギリシャにおいて、ユーロが枯渇してしまえば、ギリシャでしか通用しない代用証書を発行するなどの措置が想定される。そうした事態に至るかどうかは、ギリシャ政府や国民の意向よりも、貨幣発行権を握るドイツなど大国の債権者側の政治判断に依存するのが実情だ。地政学的な状況などから、ドイツはギリシャのユーロ離脱を最終的には望まないといった観測も見受けられる。
政治判断次第であるため事態は流動的ではあるものの、今後、ギリシャがユーロ離脱に向かうことを含め、混乱が長期化する可能性も残っている。その大勢が12日に決まるということである。
もっとも、ユーロ離脱が起きたとしても、それが欧州や世界経済にとって大きなダメージをもたらすリスクについては限定的とみている。仮にギリシャがユーロ離脱に向かっても、他の周縁国の金利上昇に波及することを阻止する、ECBなどによる政策対応のツールはそろっているとみているためである。
ここ数年のギリシャなど南欧諸国の状況を踏まえると、自国において経済安定化政策を持ち続けることが極めて重要であることを、改めて実感せざるを得ない。
■ギリシャにとって、現状のユーロはデメリット
ギリシャが経済苦境に至った要因はいくつか挙げられるが、2010年以降の同国経済を最も疲弊させているのは、ユーロに留まることと引き換えに、欧州の債権者側から多額の資金援助(債券借入)に依存し、その後の経済成長や労働市場を回復させる手段を失ったことに尽きるのではないか。
ギリシャがユーロを導入したことで、景気回復の切り札となる金融政策を手放し、財政が悪化すると債務削減のための大規模な歳出削減を実行させられ、確かに財政収支は改善した。
だがそれは自国の経済活動に深刻なダメージを及ぼす。2010年以降、ギリシャの実質GDPの水準は約20%落ち込み、それ以降ほとんど回復してない。また2015年以降は他の欧州諸国は循環的に景気持ち直しをみせたが、緊縮財政の足かせが大きいギリシャはその恩恵を受けていない。失業率は25%前後で高止まりし続けている。
ユーロという通貨システムは、各国にさまざまなメリットとデメリットを及ぼしている。もちろん、支援交渉の片方の当事者であるギリシャ政府の姿勢にも問題があるが、現在の欧州の政治状況を前提とすると、ギリシャにとってはそのデメリットが極めて大きくなっているように思える。
歴史を振り返ると、第2次世界大戦前には金本位制度への「教条的なこだわり」が世界的な不況の一因になった。また日本では、極度にインフレを恐れてデフレを許容した金融政策運営が低成長を長期化させた。このように、経済活動を円滑にさせるはずの金融・通貨制度が機能不全に陥ると、経済活動に大きな弊害を及ぼす例はいくつか挙げられる。
結局、経済合理的ではない理由で、硬直的な通貨・金融政策に固執することは、国民生活に大きな犠牲を強いる。ギリシャでは、ユーロ離脱を望んでいない声が依然多い。政治がそうした世論に迎合する限り、ギリシャ経済が長期停滞から脱するのは相当難しいのではないか。
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