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ギリシャ国民投票の開票速報が伝えられた後、ギリシャ・アテネの同国議会前に集まった人たち(2015年7月5日撮影)。(c)AFP/ARIS MESSINIS〔AFPBB News〕
ギリシャ危機でシェール企業の大量倒産が始まる? 「想定内」に入ってしまった悪夢のシナリオ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44254
2015.7.10 藤 和彦 JBpress
ギリシャが7月5日の国民投票でEU各国が求める緊縮策を拒否したため、翌6日は日本市場をはじめ世界的に株式が売られた。
ギリシャの国全体としての負債総額は約3000億ユーロであり、その3分の2はIMFやECB、EUの基金など政府系機関からの借り入れである。2008年に倒産したリーマンブラザーズの負債総額が約6000億ドルだったことを考えると、ギリシャの負債総額は決して小さくない。
「ギリシャが強制的にユーロから離脱させられる」との観測があるが、現在ユーロ加盟国を強制的に離脱させる規則は存在しない。EUでは重要事項の決定は全会一致が原則であるため、ギリシャがユーロを使い続けることを強く希望していることに加え、強制離脱の手続きを策定する際に南欧や東欧の加盟国がギリシャに味方する可能性があることから、ギリシャのユーロ離脱は事実上困難ではないだろうか。仮に強制離脱の規則が成立したとしても相当先の話になるだろう。
■ギリシャ危機でデリバテイブ市場が大混乱に?
欧米の銀行のギリシャへの直接的な貸付等が少ないため、「ギリシャ危機」の影響は今のところ限定的とされている。だが、市場関係者の間では、デリバテイブ市場のリスクがひそかに懸念され始めている。ギリシャ国債等の運用リスクを回避するための様々なデリバテイブ商品が巨額な規模で取引されていると言われているからだ。
国際決済銀行(BIS)によれば、2014年上期末時点のOTC(注:取引所を介さず当事者間で直接取引を行う取引のこと)デリバテイブ市場の想定元本残高は約700兆ドルである(リーマン・ショック以前の水準にまで回復した)。デリバテイブ市場で最も大きいのは、金融商品の利回りの変動リスクに備える金利デリバテイブ(500兆ドル超)だ。米国が抱える財政赤字(18兆ドル)と比較すると、いかに巨大な市場であるかが実感できる。
この巨大な金利デリバテイブ市場の安定を保つためには、利回りが大きく変動しないことが絶対条件である。だが、国民投票後、ギリシャ国債の2年債利回りは35%から57%超に、10年債利回りは15%から19%超へと急上昇している(7月8日時点)。
このリスクをもろにかぶるのは欧米の巨大銀行である。米国通貨監督庁が6月29日に公表したデータによれば、3月末時点のシテイが有するデリバテイブ取引の想定元本残高は約57兆ドル、JPモルガンは約56兆ドル、ゴールドマン・サックスは約52兆ドルである(ギリシャ関連のデリバテイブはドイツ銀行が最多であるとの噂がある)。
7月14日のギリシャ円建て外債(116億円)、7月20日のECBが保有する国債(35億ユーロ)の償還の際に債務不履行が発生すれば、ギリシャの国債利回りはさらに暴騰するだろう。ギリシャ危機が欧州全体の国債市場に波及して各国の国債の利回りが急騰すれば、金利デリバテイブ市場が大混乱に陥ることは必至である。
リーマン・ショックの教訓を踏まえ、金利デリバテイブ取引を中心に清算機関が整備されたが、パニックを起こした投資家が殺到したら、できたての清算機関は果たして機能するのだろうか。
■WTI原油先物は直近5カ月間で最大の下落
デリバテイブ市場の闇に怯えたのが7月6日の世界の金融市場だったと言えるが、その影響が最も大きく現れたのが原油先物市場である(米国の株式市場も原油安を材料にエネルギー株が売られた)。
7月6日のニューヨーク原油先物市場のWTI先物価格は、取引幅が5ドルという「なぎ相場」だった6月の状況から一変、直近5カ月間で最大の下落が生じた。前営業日終値比4.4ドル安の1バレル=52.53ドルとなり、約3カ月ぶりの安値で取引を終えた。
ブレント先物価格も4月以来の1バレル=60ドル割れとなった。ギリシャ情勢の混迷や中国経済の先行き懸念から原油需要が減少するとの見方が広がり、売りが膨らんだからだ。イラン核協議の最終合意期限を前に「イラン産原油の輸出が拡大する」との観測も売り材料となった。
米国の株式市場は1日で平静を取り戻したが、原油市場はファンダメンタルズの悪化を反映して価格は下落したままである(7月8日時点でWTIは1バレル=51ドル台、ブレントは同56ドル台)。
投資家による原油相場上昇を見込む買い越しも3カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。ギリシャ情勢が引き続き市場に悪影響をもたらすとの懸念から、投資家は「原油先物」というリスクの高い資産への投資を控えたからである。
■稼動リグ数を増やすシェール企業
世界の原油市場は、このところ需給の緩みが強く意識されるようになっていた。石油輸出国機構(OPEC)加盟国の6月の原油生産量は、前月比2%増の日量3200万バレルを超える。一方、中国経済の減速感が一段と強まり、需要の伸び悩みが鮮明となってきている。
その中にあって、シェール企業のリグ(掘削装置)の稼動数の減少が価格の下支え要因だったが、6月29日の週にシェール企業は7カ月ぶりに稼動リグ数を増加させた。米国のほぼ全ての産油地域で増加が見られ、計12基増の640基となった。
ピークの約4割に相当する640基でリグの稼働数が下げ止まるのであれば、資源サービスの世界的大手であるハリバートン社の予想より早いペースの回復ぶりである(ハリバートン社は、稼動リグ数はピークの75%分が減少するまで回復しないと予想していた)。一部には「国内のリグ稼働数は年末までに約100基増える可能性がある」(7月3日付ロイター)との予測も出始めている。
7月3日付ブルームバーグは「世界市場のシェアを争う中、米国の石油リグ稼働数の回復は米シェール業界がいかに順応性があるかを裏付けている」と伝えている。シェール企業は現金確保を優先するため、新規投資を抑え、既存の油井で最大限生産する戦略を進めた。その結果、「昨年の原油価格下落をきっかけに、シェール企業は損益分岐点を1バレル当たり15〜20ドル引き下げることが可能となっている」という。
「リグ関連費用は通常約半年遅れて原油価格に反応する」(6月30日付ブルームバーグ)と言われる。つまり、シェール企業の現時点の契約価格は、原油価格が約7年ぶりの安値をつけた1月の水準(1バレル=50ドルを下回った)を反映している。そのため、シェール企業は「(現在の)1バレル=約60ドルの原油価格でも利益を得ることができる」とされている。
しかし、9月までには最近の原油価格の上昇に応じてリグ関連費用は確実に増大するだろう。1ドルの石油・ガス収入を得るためのコストが「昨年第1四半期の2.25ドルから4.15ドルへ」(6月19日付ブルームバーグ)と高まっており、業界全体の赤字体質はさらに深刻になっている。
■1バレル40ドル台突入でシェール企業は破綻続出
昨年後半の原油価格下落により深刻な現金不足と与信枠縮小という悪条件に陥ったシェール企業だが、当時は「ヘッジ」という強力な盾を有していた。ヘッジ取引の大半は、1バレル=90ドル以上で原油を売却することを保証するものであった。7月2日付ブルームバーグによれば、シェール企業が第1四半期にヘッジによって手に入れた利益の総額は37億ドルにも上る。シェール企業62社のうち30社で、ヘッジから生ずる利益が第1四半期の収入の15%以上を占めており、ヘッジから生ずる利益が6割以上を占めるシェール企業もあるという。
しかし、ヘッジ取引の多くは10月に更新時期を迎える。「魔法の杖」がなくなってしまうシェール企業や投資家たちはさぞや途方に暮れていることだろう(ハリバートン社の予想に反してシェール企業が稼動リグ数を増加させた真の要因は、赤字覚悟でもキャッシュを稼がなければならない懐事情なのではないだろうか)。米規制当局も銀行に対し、シェール企業への貸付に関し新たなリスクを認識するよう警告を鳴らし始めている。
ギリシャ危機により投資マネーの動きは一層鈍化するため、シェール企業の目の前には原油価格1ドル=50ドルの道標が迫ってきている。
6月27日付日本経済新聞は「行使価格が30〜40ドルのプットに資金が流入」と報じている。6月末に30ドルのプットオプション(1バレル=30ドルで売る権利)が3月上旬に比べて7割増加したが、このことは「原油価格が1バレル=30ドル以下に下落する」と予測する原油取引の関係者が増加している証左であろう。原油価格が再び1バレル=40ドル台に突入すれば、資金繰りに行き詰まり破綻するシェール企業が10月を待たずに続出するのではないだろうか。
7月2日付ブルームバーグによれば、シェール企業全体が発行しているジャンク債は2350億ドルに上り、そのうち890億ドルは高利回りだという。ジャンク債市場は従来から「流動性」の問題を抱えているため、シェール企業の大量倒産が発生すれば、シェール企業関連のデリバテイブを有する投資家のパニック行動によりデリバテイブ市場全体が麻痺し、その悪影響が世界の各金融市場に感染する可能性がある。この「金融パンデミック」は2008年のリーマン・ショックで経験済みだ。
■崩壊しかねない中国の株式市場
リーマン・ショック後の世界経済を救った中国だが、株式市場のこのところの急落は世界の市場関係者の不安心理をかき立てている。原油をはじめとするコモデテイテイ市場では、景気減速を受けた中国での需要減退が懸念要因とされてきたが、「これに加え、最近は中国株の急落がコモデイテイ市場全体を押し下げる要因になっている」(7月7日付ロイター)
中国メデイアは株価急落に対し「巨大な金融リスクをはらむものであり、対応に誤りがあれば株式市場が崩壊する」と警告する。また、株価急落は、拡大しつつある中国の中所得層に深刻な経済的打撃を与えることになるため、「習近平国家主席が掲げた『中国の夢』に対する疑念が生じ、社会の不安定化につながる可能性もある」とも指摘している。
通常、迫りくる破滅の予感を感じる投資家は、リスク資産を売り、安全な資産を確保する行動に出るものだ。しかし、トレーダーたちはギリシャ危機を前にして、「先進諸国の国債を安全な資産だと見なせなくなっている(7月7日付ブルームバーグ)」という。
ギリシャに端を発した債券市場へのショックが、原油価格の下落を通じてシェール企業のジャンク債に悪影響を及ぼし、これらが巨額なデリバテイブ市場に大混乱をもたらす──。「悪夢のシナリオ」は残念ながら想定内に入ってしまったと言えるのではないだろうか。
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