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日本の財政状況は、ギリシャよりはるかに悪い
http://diamond.jp/articles/-/74626
2015年7月9日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
ギリシャの情勢が世界の注目を集めている。7月5日に行なわれた国民投票は、支援策を得るために緊縮財政を続けるか、それとも緊縮財政を拒否するかを問うものであった。どちらの選択肢をとっても、ギリシャ国民の生活は苦しくなる。前者なら、年金などの大幅カットを受け入れる必要がある。後者の場合は、ユーロ離脱が不可避となる可能性が強く、その場合には、通貨がドラクマになり、通貨価値が下落するので国民生活は貧しくなる。
財政赤字が巨額になれば、いずれ国民は貧しくなるのだ。では、日本はどうだろうか?
■政府総債務残高の対GDP比 日本はギリシャの1.4倍
まず、ギリシャと日本の財政状況を比較してみよう。
図表1は、政府総債務残高の対GDP比を示す(*注)。日本の債務残高(借金)は国内総生産(GDP)の246%になる。債務危機に苦しむギリシャの172%に比べて1.4倍だ。つまり、日本の財政状態は、ギリシャより遥かに悪いのである。
しかも、ギリシャの政府総債務残高の対GDP比急上昇は、リーマンショック後に生じた現象である。それに対して、日本の場合の債務残高対GDP比上昇は、1990年代から続く構造的な問題だ。
図表1にはIMFによる2020年までの予測も示してある。それによると、ギリシャの計数は今後低下するが、日本の計数は今後さらに上昇する。
(*注)ここでの債務は国と地方を合わせたもの。なお、この定義は、後述する政府財政計画の「公債等残高」とは異なる。後者の対GDP比は、2015年度で195.1%である。ただし、日本とギリシャは同じ定義なので、比較ができる。
上に述べたように、ギリシャの場合の解決策とは、支援策を受け入れるにせよ拒否するにせよ、国民が貧しくなることであった。
では、日本も、財政赤字に対処しようとすれば、国民は貧しくならなければならないのだろうか?
これについてつぎに考えよう。
■対内債務は「貨幣化」で解消される危険がある
日本とギリシャの政府債務は、まったく同じ性質のものではない。
ギリシャの政府債務の多くは、外国の主体が保有している。つまり、対外債務になっている。それに対して、日本の政府債務の多くは、国内の主体が保有している。つまり対内債務だ。言い換えると、日本の場合には、国全体として見れば、あまり大きな債務を負っていないのである。
以上のことは事実である。しかし、日本の場合に、「国内の債権・債務関係だから問題がない」とは言えない。なぜなら、「中央銀行による財政ファイナンス」または「国債の貨幣化」と呼ばれる方法で解消してしまう危険があるのだ。
それは、政府債務を中央銀行が貨幣(マネー)を増発することによって買い上げてしまうことである。それによって、政府と中央銀行を合わせた部門が民間に対して保有する債務は、国債という形からマネーという形に変わってしまう。マネーになれば返済する必要はない。
しかも、マネーが増発されればインフレーションが生じ、政府債務の実質額は減少する。このようにして、政府債務問題が解消してしまうのである。
歴史的に見ると、対内債務は多くの場合「貨幣化」で解消されてきた。その負担は貸し手である国民が負う。この点で不公平だ。
それに対して、対外債務の場合には、「貨幣化」による解決はできない。
■現在は“潜在的に貨幣化”された状況 円安による物価上昇で国民はすでに負担
日本国債の最大の保有者は、かつては民間の金融機関であったが、いまは日本銀行だ。日銀当座預金を増やすことによって購入したのである。
したがって、政府と日銀を一体として見れば、国債という形の債務が、日銀当座預金という形の債務に変わったことになる。
ところで、日銀当座預金はマネタリーベースには含まれるが、マネーストックには含まれない。したがって、日本の場合には、まだ「貨幣化」には至っていない。
しかし、銀行が日銀当座預金の払い戻しを要求すれば、日銀は日銀券を増刷することによって支払いを行なう。そうなれば、マネーストックが増加し、国債は「貨幣化」される。したがって、現在の状況は、「潜在的に貨幣化されている」というべきであろう。
日本の場合、マネーストックの増大によるインフレーションはまだ起きていないが、マネタリーベースの増大が円安を引き起し、それによる物価上昇が実質消費を減少させている。このような意味で、国民はすでに負担を負っていると考えることができる。
なお、「国債の貨幣化」と似た手法は、他にもある。
シャープは、リストラ策の一環として、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行との間で、合計2000億円のDES(デッド・エクイティ・スワップ)を行なうとしている。シャープはすでに両行から6000億円以上の融資を受けているが、このうち2000億円を優先株に振り替えようというものだ。これが実行されれば、シャープは有利子負債を減らすことができる。他方で、銀行側は貸出金を回収できなくなる。
国債の貨幣化とは、基本的にこれと同じものだ。返済を要する国債という負債を、返済の必要がない「貨幣」という形の負債に換えるものだからである。
歴史を遡れば、フランス革命前のフランスで、ジョン・ローによって導入されたシステムと同じものだ。ローは、ミシシッピ会社という(架空の)会社を設立し、フランス国債をこの会社の株券に転換したのである(しかし、このシステムは長続きせず、フランス財政は破綻した。これがフランス革命の遠因になった)。
■日本政府は財政健全化の「目標堅持」をうたうが……
では、現在の巨額の財政赤字に対して、日本政府はどう対処しようとしているか?
政府の基本的な方針は、「基礎的財政収支を2020年までに黒字化する」ということだ。ここで「基礎的財政収支」(プライマリーバランス:PB)とは、歳出面で国債費を除き、歳入面で公債金収入を除いた収支である。
6月30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015〜経済再生なくして財政健全化なし〜」(骨太方針)の中で、財政健全化計画が示されている(第3章)。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf
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その内容を要約すれば、つぎのようになる。
(1)2015年度における国・地方の基礎的財政収支の対GDP比は、マイナス3.3%程度となり、10年度の水準からの対GDP比赤字半減目標(対GDP比マイナス3.3%)を達成する見込みとなった。
(2)財政健全化目標を堅持する。具体的には、20年度の基礎的財政収支を黒字化させ、その後の債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す。
(3)18年度までの期間を「集中改革期間」とし、同年度の基礎的財政収支の赤字幅をGDPの1%程度にする。
計数的な詳細は、内閣府が作成した「中長期の経済財政に関する試算」(15年2月12日、経済財政諮問会議提出)に示されている。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h27chuuchouki2.pdf
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試算では名目3%以上、実質2%以上の経済成長を続ける「経済再生」シナリオと、潜在成長率並みである名目1%台半ば、実質1%弱の成長率が続く「ベースライン」シナリオの2つを示している。17年4月の消費税率10%への引き上げを前提にしているが、10%を上回る増税は想定しない。
これによると、国・地方の基礎的財政収支の対GDP比は、ベースラインケースの場合は18年度でマイナス3.0%、20年度でマイナス3.0%、経済再生ケースの場合は、18年度でマイナス2.1%、20年度でマイナス1.6%程度となる。
20年度における公債等残高の対GDP比(復興債を除く)は、ベースラインケースの場合は206.4%程度となり、その後も23年度にかけて増加し続ける。経済再生ケースの場合は186.0%程度となり、その後も23年度にかけて横ばい圏内で推移する。
■数字の操作で問題を見えなくしているだけ
以上で見た政府の財政再建計画に対して、つぎの諸点を指摘したい。
(1)地方財政の基礎的財政収支は、2015年度において黒字であり、今後赤字化してもあまり大きな赤字ではない。問題は国の一般会計であり、これについて見る必要がある。
国の一般会計の基礎的財政収支は、15年度において対GDP比マイナス3.9%であり、かなり大きい。
ベースラインケースの場合は、18年度でマイナス3.1%、20年度でマイナス3.1%、経済再生ケースの場合は、18年度でマイナス2.6%、20年度でマイナス2.3%程度となる。
(2)PBより国債利払いが重要。
基礎的財政収支だけでなく、歳出の総額を見る必要がある。なぜなら、問題となるのは巨額の国債残高がもたらす国債費であるからだ。
ところで、先述のように、公債等残高の対GDP比は、経済再生ケースの場合は20年度に186.0%程度となり、その後も23年度にかけて横ばい圏内で推移する。
しかし、こうなるのは、経済成長率が高く、金利が低く想定されているからである。
具体的には、ベースラインにおいては16年まで、再生ケースにおいては19年まで、名目成長率が名目金利より高く想定されている。
図表2には、IMFの見通しが示されている。これによると、日本の実質成長率は、1%にもならない。ギリシャの経済成長率より低い値しか見込まれていない。
ベースラインでは、経済成長率は実質1%弱、名目1%半とされているが、これすら実現できないことになる。
(3)内閣府の試算は23年度までしか示していないが、問題はその後で生じる。これについては、拙著『2040年問題』(ダイヤモンド社、2015年)で論じた。今後、高齢者人口が増え続け、社会保障関係費には大きな歳出膨張圧力が働くからである。
以上を要約すれば、政府の財政再建計画は、数字の操作によって問題の所在を見えなくしているだけのものにすぎない。
■最重要の課題は社会保障改革 残された時間は多くない
「経済財政運営と改革の基本方針2015」では、国の政策経費である一般歳出の伸びに制約を設けた。「安倍晋三政権がこの3年間で一般歳出の増加を1.6兆円に抑えた基調を、2018年度まで守る」というものだ。
ただし、「経済・物価動向等を踏まえる」として、物価上昇による歳出上振れを認めた。また、18年度に検証し必要なら「歳出、歳入の追加措置を検討する」とした。
歳出改革の中心は、社会保障費だ。25年度には団塊の世代がすべて後期高齢者となり、社会保障費が増加するからだ。
基本方針では、社会保障関係費は、過去3年間の安倍政権の実質増加額とほぼ同ペースの年5000億円に抑える方針を掲げた。社会保障費の自然増が年1兆円増と見込まれていることを考えれば、抑制ともいえる。
具体策として、後発薬の使用割合引き上げ、外来受診料や介護保険料の個人負担増、高所得者の年金給付見直しなどを例示した。また、原則1割となっている75歳以上の後期高齢者の窓口負担は「あり方について検討する」とした。
ただし、社会保障費の伸びの抑制は、決して容易ではない。団塊世代の高齢化を考えれば、基本方針に示されたような歳出削減では不十分であり、社会保障制度の抜本的な改革が必要だ。具体的には、年金支給開始年齢の引き上げ、マクロ経済スライドの完全実施が必要だろう。また、医療では、自己負担率の全般的な引き上げが必要とされるだろう。
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