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証券会社で心配そうに株価をみつめる中国の個人投資家。レアメタル市場もバブル崩壊寸前で、個人が大きな損失を抱えている(写真:AP/アフロ)
中国のレアメタルバブル崩壊が近づいている 「社会主義市場経済」に潜む「危ない構造」
http://toyokeizai.net/articles/-/75794
2015年07月08日 中村 繁夫 :アドバンストマテリアルジャパン代表取締役社長 東洋経済
中国株が暴落している。上海の総合指数は約3週間のうちに一時約30%も下落、大変なことになっている。
前回の記事「中国は暴落した『レアアース』をどう売るのか」では、米国最大のレアアース生産大手であるモリコープの経営破綻危機とレアアース(希土類)市場の暴落の関係について書いたが、おかげさまで大きな反響があった。そこで、今回も中国の「バブル崩壊」を理解するうえで重要な、同国のレアメタル市場(泛亚有色金属交易所=汎太平洋レアメタル取引所、英文表記での略称はFYME)について書いてみたい。 今回、お伝えしたいのは以下の2つだ。一つは、「レアアース」よりも規模が大きな「レアメタルバブル」が推定数千億円規模の単位で膨れ上がっており、今やその危険水準を超えているからだ。
もう一つは、株式市場もそうだが、「社会主義市場経済」のあいまいさだ。現在、中国の株式市場では露骨な株価維持対策が行われているが、マーケットに対する当局の考え方がいかに場当たり的か、ということである(日本もあまり大きなことは言えないのだが)。
■ 中国バブルに「悪乗りした」レアメタル取引所
ここでレアメタルとレアアースをご存じない方のために簡単に説明させていただくが、レアメタルとは経産省が指定した31品目47元素の希少金属を指す。一方、レアアースとは、その中の17元素のことを指す。
非鉄金属の中でも銅、鉛、亜鉛、アルミなどのベースメタル(メジャーメタル)は、ロンドン非鉄金属取引所(LME)を中心に取引されている。だが、レアメタルやレアアースの取引所は取引数量が少ないので、日米欧には取引所は存在しない。
一般的には金属雑誌やオンラインなどを参考指標にしながら相対取引はされているが、その場合でも売り手と買い手の価格が合理的に決定されるとは限らない。従ってレアメタルはLMEのような市場取引には馴染まず、これまでも上場されることはなかった。
ところが中国では何と、レアメタルの取引市場が、バブル景気に乗ってスタートしたのである。その取引所が「泛亚有色金属交易所」(FYME、The Fanya Metal Exchange の略)というわけだ。設立は2011年4月で雲南省(昆明市)にある。「泛亚」とは、冒頭のようにパンパシフィック(汎太平洋)の意味である。
中国国内でしか取引対象になっていないから「汎太平洋」というのも違和感があるが、この取引所が中国経済のバブルにのって急拡大、無視できなくなっているのだ。
FYMEは、インジウム、ゲルマニウム、コバルト、タングステン、ビスマス、カリウム、銀、バナジウム、アンチモン、テルル、セレン、ロジウム、など12品種のレアメタルを取扱い、世界のレアメタル市場にまで影響力を与えるまでに成長してきた。
■ 国家戦略に組み込まれたレアメタル取引所
当初は雲南省昆明市に承認された、非鉄金属のスポット取引のための最初のプラットフォームという位置づけだった。
FYMXの第2取引所がある、福建省の廈門(アモイ)金融センタービル
だが、現在は中国の第十25年戦略計画による国家戦略のもとで、厦門(アモイ)にも新たにFYMEの第2取引所が設立された。
厦門取引所では、レアアースの元素であるディスプロシウムとテルビウムを加えて、いずれは自由特区における取引所として海外からの投資家を呼び込むつもりだという。
FYMEは、2015年5月末までの過去4年間で、累計で3248億元(約6.5兆円)の取り扱い実績があり、登録者数は23万社(個人登録を含む)、取扱総量44万トン、現状の在庫規模は367億元(約7340億円)という規模になったと発表している。
取引所の一角にある事務所。引っ越して間もないこともあるのか、閑散としている
FYMEの式典には李克強首相も出席しており、公式に認められた取引所とされている。中国はこれらのレアメタル資源では世界ナンバーワンの生産量と資源量を誇っており、レアメタルの国際市場では無視できず、その扱いに苦慮しているのが実態である。
さて、このあたりで、聞いたこともない元素名や数字が出てきたので嫌になった読者の方もおられるかもしれないが、ここからが本番なので、ぜひこのまま読破していただきたい。
今回、筆者は福建省厦門のFYME第2取引所の関係者と面談する機会があった。FYME関係者の設立の経緯や目的に関しての、主な説明は以下の通りだ。
「レアメタルは中国の国民経済の発展に不可欠な基本的な材料である。世界中のハイテク材料などとして幅広く使用されており、軍事分野などの戦略的な資源でもある。世界経済の観点からも、レアメタルの保護と利用が国家戦略、安全保障と開発に不可欠である。だが需給が安定せず価格が乱高下するため、秩序ある取り組みが必要だ」。
そこでFYMEは取引で国内の有名ブランドを選択し、第3者の承認を得て、品質と価値を保証し、品質検査機関と国有・商業銀行との戦略的協力を行いつつ、顧客に安全かつ確実な保証を可能にする取引所を設立した、というわけだ。常に顧客と社会の利益がFYME電子取引プラットフォームの権威、公平性·公正性を担保していると表明する。
ただし、レアメタルの取引の歴史を見ると、実はそう簡単なものではない。レアメタルの希少性は投機(スペキュレーション)と価格操作(マニュピレーション)が入りやすく、常にハイリスクとハイリターンの諸刃の剣である。私自身の40年近いレアメタル取引の経験からすると、公平性や公正性を維持することは、ほぼ不可能に近い。よって、FYMEの「宣伝文句」は、失礼ながら詐欺師の口上にも聞こえて仕方がないのである。
■ 在庫をため込むFYME、拍子抜けした当局の回答
では、さて、FYMEの具体的な状況どうなっているのか。14種類のレアメタルのうち、インジウム、ゲルマニウム、タングステン、ビスマス、カリウムなどの品種の取引量は増加に次ぐ増加の結果、今やその在庫量は全世界の市場でトップとなった。
これは私から見れば明らかにバブル状態だ。もしこれがLMEならば、先物市場が存在するので「空売り」(下落を見越して売りを立て、下がったところで買い戻して利益を狙う手法)も入って、行き過ぎを調整する機能を持っている。だがFYMEは一方的な現物取引だけなので、在庫は増加する一方になっているのだ。
直近で主な商品の現在の在庫量と(在庫目標、世界需要)は以下の通りだ。
インジウム:3629トン(在庫目標5000トン、世界需要1340トン)
ゲルマニウム:92トン(200トン、120トン)
タングステン:2万9651トン(6万トン、6万9400トン)
ビスマス:1万9228トン(2万トン、1万5000トン)
ガリウム:197トン(200トン、340トン)
アンチモン:1万8660トン(5万トン、14万トン)
ディスプロシウム:149トン(5000トン、2800トン)
テルビウム:4トン(1000トン、1400トン)
このような在庫量は、国家備蓄の規模といっても過言ではない。
例えばこの中でたった4年のうちにインジウムのFYME在庫は今や3600トンを超え、中国の8年分の生産量、全世界の5年分の生産量にまで達している。常識で考えて、明らかに異常な在庫量なのだがFYMEとしては「単にプラットフォームを貸しているだけでルール通りに運営しているので、異常とは思わない」との回答が返ってきた。
仮に国家の戦略的な発想からすれば、レアメタルは電子材料、機能性材料として正に軍需産業のアキレス腱であり、国家備蓄することは重要な意味を持つ。
だが、一般産業の面からすると、特定の国家が占有することで市場価格に操作性が起こり健全な市場を維持できなくなる側面もある。
■ 国家規模で博打を売っているようなもの?
それゆえ、今回、FYMEに最も聞いてみたかった質問は「取引所としての社会的な責任をどう考えるのか?」「取引価格が投機や価格操作の対象となった時の取り扱いのルールはどうなのか?」の2点だった。
その答えは拍子抜けするほど簡単だった。社会的責任については「FYMEは決められたルールで運営されているので社会的責任を満たしている」。また投機や価格操作については「売手と買手が納得してルールに基づいて取引をするので問題はない」。実はもう一つ「コンプライアンスとインサイダー取引」についての質問をしたかったのだが、その回答も容易に予想できたので聞かなかった。
確かに、具体的な取引上のルールは、海外の主要取引所も参考にしており、一見合理的にできているように見える。だが繰り返すがレアメタルと言う特殊な商品を、ベースメタルと同じ扱いにするは無理がある。
例えば、インジウムの場合、事務委託保証金は20%である(商品によって多少違いがある)。20%の保証金を支払えば残額の80%はFYMEが融資してくれるという仕組みだ。
これは、買い手にとっては取引価格の2割だけで現物在庫が手に入るのだから値上がり期待のある場合も含め、大半はFYMEの融資で賄える。ただ貸出金利は年利で18%だから、値下がりでもすれば利払いと追証金を払わなければならない仕組みだ。
一方、売り手(主に製錬所)にとっては現物を取引所に持ち込んだ時点で、おおよそ8割のおカネが入ってくるわけだから一見すると換金するには便利な仕組みである。
つまるところ、相場が右肩上がりに上昇している時は全員が儲かるが、現物取引だけである。もし、いったん下がりだしたときには往生する構造になっているから、今後は大変なことになると予見せざるを得ない。
この点、FYMEは繰り返し「プラットフォーム」を通じて取引の利便性を訴えるわけである。早い話が、「雀荘は場を提供するがゲームの損得はお客さん同士でやって下さい」という話だから、「勝負は時の運、損も得もお客さんの個人責任でやって頂戴」というわけだ。いわば、国家が率先して「博打」の資金を提供しているような話である。
■ 損切りができない「素人投資家」が頭を抱えている
今の中国の「バブル経済」の中では、おカネの行き先がなくなって単純に商品取引にも向ったというわけだが、国家がレアメタルという中国独特の商品取引のプラットフォームを用意したことで、市場の受け皿になったという見方もできる。
元々、レアメタルは生産過剰気味であり、本来は輸出に向うべきエネルギーを国内市場に向わせることができたので一気に取引高が伸びた。
売り手は政府発行の輸出許可証が入手できず膨れ上がった在庫の処分先としてFYMEを選択した。一方の買い手は、使い道のない余資を値上がり期待の可能なFYMEに向けたと容易に想像される。
会員数23万社の中には個人会員が多いために、レアメタルの何たるかも知らずに投資している人も少なくないはずだ。その意味では他に投資妙味のある分野が現れたらFYME市場も萎んでしまう構造になっているとの意見もある。
事実、今の中国では証券投資が活発で、国民総投資家となって「狂乱市場」に突入した。その結果、FYMEで取引をしている投資家は、損切りしてでも在庫を処分したいのだが、買い手が見つからないので売買ができずに困っているという。
本来なら相場が弱ければ気配値が下がるべきだが売買ができないために、FYME価格は高止まりのままになっているとの報告もある。レアメタル市場に踊らされた一般個人投資家は、率直に言えば、ズブの素人である。40年近い私の経験からすると、そうは遠くない近未来にレアメタルバブルが崩壊すると予見せざるを得ない。
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