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瀬戸際戦術続けるギリシャ 想定外のユーロ離脱はあるか
http://diamond.jp/articles/-/74445
2015年7月6日 週刊ダイヤモンド編集部
世界経済の潜在リスクをあぶり出したギリシャ問題。「合理性」とは無縁のギリシャの動きは誰にも読めない。7月5日に行われる国民投票で、情勢はますます混迷するだろう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、鈴木崇久、竹田孝洋、山口圭介)
ギリシャ危機はそう簡単には終わらない。何しろ、ギリシャは公的債務だけで3171億ユーロ(対GDP比177%、約43兆円)も抱えているのだから。
ギリシャ危機の発端は、2009年1月に巨額の財政赤字が発覚したことだ。ギリシャ国債が暴落(利回りは上昇)して資金調達ができなくなり、EU、ECB、IMFに支援を求めざるを得なくなった。
なぜ経済規模からすれば小国のギリシャが、身の丈を超えた借金を抱えることになったのか。
同国は、就労者の7割が公務員、年金や失業給付などの社会保障が手厚く財政負担が重かった。02年のユーロ加盟がギリシャの放漫財政を加速させる。ドラクマという弱い通貨しかなかったギリシャが、ユーロという強い通貨を手にしたことで、信用力を背景に低金利で資金を調達できるようになり、赤字国債の発行が可能になった。
08年、リーマンショックがギリシャと南欧諸国に飛び火する。巨額の財政赤字が露見したギリシャだけでなく、ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペインなど財政赤字の大きい国の国債が暴落した。これら国債を保有しているドイツやフランスなどの金融機関にも当然、危機は波及した。これが欧州債務危機へと発展した。
欧州経済を守るためには、ギリシャ発のドミノ倒しは絶対に避けなければならない。そこでユーロ加盟国は、各国で出資して債務危機国を金融支援する欧州安定メカニズム(ESM)、緊縮財政を受け入れることを前提にECBが国債を制限なく買い入れる国債買い入れプログラム(OMT)を導入し、危機の封じ込めを行ってきた。
この「防波堤」が出来上がったことで、直近ではギリシャ問題がクローズアップされることはほとんどなかった。
だが突然、潮目が変わる。15年1月のチプラス政権の誕生だ。ギリシャ支援の大前提である緊縮財政に真っ向からノーを突き付け、交渉決裂も辞さない強硬な姿勢を見せ続ける瀬戸際戦術によって、EU、ECB、IMFの債権団に譲歩を迫ったのである。
7月の国債償還を前に、債権団に金融支援を求めたが、協議がまとまらず、険しい表情を見せるチプラス首相。Photo by MILOS BICANSKI/gettyimages
チプラス政権の瀬戸際戦術の背景には、政権基盤の脆弱さがある。チプラス首相率いる急進左派連合は「反緊縮財政」を公約に掲げて、1月の解散総選挙で第1党になった。300議席のうち149議席(第1党に与えられる50議席のボーナスを含む)と過半数に届かないため、13議席を持つ右派の独立ギリシャ人と組んで何とか連立政権を維持している。
政権基盤が脆弱なチプラス政権にとって、一度振り上げた反緊縮という拳を下ろすことは政権崩壊を意味する。しかし一方で、EUやIMFなどからの金融支援を受け続けるには、緊縮財政に関する法案を議会で可決しなければならない。
そこでチプラス政権は危険な賭けに打って出た。緊縮財政を受け入れるか否かを国民投票で決めることにしたのだ。
■国民投票を経てもギリシャの混乱は収まらない
本稿執筆(7月2日)時点で、ギリシャは債権団に譲歩したとの未確認の情報もあるが、チプラス首相は自らテレビで演説し、緊縮財政受け入れノーに投票するよう訴えるなど、強気の姿勢を崩していない。国民投票が5日に予定通り行われれば、本誌発売時点ではいずれかの結果が出ているだろう。しかし結果が緊縮財政受け入れに賛成でも反対でも、ギリシャとユーロ圏各国にとってはいばらの道が待っている。
下図は、国民投票後のギリシャ問題のシナリオを整理したものだ。
緊縮財政に賛成と決まった場合はどうなるか。一つ目のシナリオは、決まった以上、政権が緊縮財政を受け入れるというもの。チプラス首相はノーを唱えていた以上、辞任した上で、急進左派連合を中心とした連立政権が樹立する。6月末の1週間の銀行閉鎖で、預金封鎖の怖さを思い知らされ、ユーロ離脱は避けるべきだという現実路線の有権者が増えている。もともと急進左派連合は寄せ集め集団だっただけに、「反緊縮」から「ユーロ残留」に旗印を変えた連立となる。ただし、緊縮財政を受け入れるに当たり、増税や社会保障の削減などで国民に痛みを伴うのは確実だ。
連立政権が崩壊し、解散総選挙に追い込まれる可能性もある。二つ目のシナリオは、解散総選挙後にできた新政権が緊縮財政を受け入れるというもの。サマラス前首相が率いる新民主主義党が第1党になる可能性が高い。サマラス党首は急進左派連合の失策を追及し、「ユーロ離脱よりは緊縮の方がはるかにまし」という世論形成を行っていくとみられる。
三つ目のシナリオは、解散総選挙を行った後に、急進左派連合が第1党に選ばれるものだ。ギリシャ国民の間に緊縮財政へのアレルギーが高い上、「いざとなればEUは見捨てないはずという楽観論を根拠なく信じている国民が少なくない」(アナリスト)。この場合は、「白か黒かがはっきりしない最悪のシナリオ」(市場関係者)だ。マーケットの警戒感は強いだろう。
国民投票でノーが突き付けられた場合に出てくるのが四つ目のシナリオだ。チプラス首相は債権団に対して強硬路線を貫き、資金が底を突き、年金などが借用証書(IOU)で支払われるケース。ギリシャ国内にIOUとユーロとの交換マーケットができ、それが事実上の通貨になっていく。こうなれば事実上のユーロ離脱だ。
五つ目のシナリオは、国民投票で緊縮財政を受け入れなかったにもかかわらず、債権団の金融支援は打ち切られず、ユーロにとどまるケースだ。チプラス首相はこの虫のいい選択を期待している。
債権団もチプラス首相の手には乗らない。一番左はドイツのメルケル首相。その隣はIMFのラガルド専務理事。Photo:AP/アフロ
チプラス首相はロシアのプーチン大統領と笑顔の写真をメディアに撮らせるなどして、地政学でEUに揺さぶりをかけている。ロシア接近を見せることでEUから譲歩を引き出したいようだが、アナリストの間では「ロシアも資源価格下落と景気低迷で、ギリシャを支えることはできない」と冷ややかな見方が多い。
他方、中国は6月にも李克強首相がギリシャを訪問し、ギリシャ国債の購入に前向きな姿勢を見せるなどして、漁夫の利を狙っている。ただ、チプラス政権の強い味方になるとは考えにくく、「中国が投資先として興味を持っているのは、EUの一員としてのギリシャであり、ユーロ離脱後のギリシャにメリットを感じるとは限らない」(アナリスト)。
■最悪のシナリオ ユーロ離脱もあり得る
チプラス政権の瀬戸際戦術は、ユーロ圏各国を大きなリスクにさらしている。もしもギリシャが反緊縮路線を貫いたことでデフォルトとなり、ユーロ以外の通貨が流通するなどして、事実上のユーロ離脱が起これば、その損失は計り知れない。
下表のように、ギリシャは短期国債を発行しては運転資金に充てている。デフォルトとなれば、短期国債は発行できなくなり、あっという間に資金調達に窮するのは確実だ。
前述したように、ユーロの代わりにIOUを流通させることになれば、事実上の二重通貨となり、自国通貨のドラクマ復活も現実味を帯びてくる。ただし、ユーロとの交換レートはとてつもなく高くなり、輸入に依存しているギリシャ経済は立ち行かなくなる。インフレが加速し、自国通貨の価値は加速度的に下がるだろう。
景気刺激策を打とうにもない袖は振れない。年金や社会保障の削減が進み、低所得層の生活はインフレもあって悪化し、デモも多発。社会不安も増すだろう。だからこそギリシャにとって、ユーロ離脱は避けたいシナリオなのだが、チプラス政権の姿勢を見る限り、あり得ないとは言い切れない。
防波堤の構築によって、ギリシャ危機の周辺国への波及は限定的とみられているが、ユーロ離脱という想定されたことがない事態が起きれば、マーケットが動揺するのは確実だ。ギリシャ危機は未知の領域に突入した。
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