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中国人の「爆買い」は、確かに迫力がありますが……(写真:AP / アフロ)
日本の観光を潤すのは、「爆買い」だけなのか 優良リピート客が「疎外感」を抱いていないか
http://toyokeizai.net/articles/-/75651
2015年07月05日 野嶋 剛 :ジャーナリスト 東洋経済
中国人による爆買いに関する一連の報道について、いささか違和感を覚える部分がある。それは、台湾や香港から訪れた観光客が、あたかも「存在しない」かのように扱われているところだ。
中国人の爆買いは、確かに都市部の小売店やホテルなどにとっては非常に明るいニュースだ。買い物という身近な行為であるため、関心が強いのは当然である。メディアは、爆買い現象に沿うようなニュースを集めるため、デパートや家電量販店、ドラッグストア、ホテルなどに対し、「中国人の買い物客は多いですか」「何を買うのですか」というワンパターンの質問を行い、答える側もメディアが期待するような回答をする。
その結果、金太郎飴のような爆買い報道が展開され、昨年末から現在に至るまで、驚くほど大量のニュースがテレビ、新聞、雑誌に流れている。
■「日本観光を支える存在」を考慮に入れているか
爆買いという名称は非常にキャッチーであるし、メディアの論理からすると「絵になる」話なので、ニュースとして扱われる分には何ら異存はない。しかし一方で、果たしてその爆買い報道がどこまでバランスの取れたもので、ほかの国々の観光客、特に中国人と見分けがつかない台湾人や香港人の観光客を考慮に入れたものかという点には、疑問符をつけたい。
近年、日本観光を支えてきてくれた外国人観光客は、台湾、香港、韓国などの人々であり、それを無視した形での爆買いの紹介はバランスを失しているし、正確に現状を伝えているとも言えないだろう。
この問題を強く実感したのは、先日、沖縄に行ったときのことだ。
沖縄の有力ホテル・リゾート経営「かりゆしグループ」オーナーの平良朝敬氏と基地問題の取材で会ったとき、「最近は中国人の観光客もすごいでしょう?」と何となく水を向けると、「確かに増えていますが、やっぱりすごいのは台湾の観光客ですね。いま沖縄を潤わしているのは彼らですよ。中国の観光客は増えていますが、まだまだこれからです」という答えが返ってきてハッとさせられた。
統計を調べてみると、確かに沖縄での外国人観光客は全体として日本本土と同様、好調さを維持している。沖縄県文化観光スポーツ部が最近発表した2014年の沖縄への観光客数は、外国人が62・2%の大幅増で89万3500人に達しており、過去最高の観光客700万人突破という沖縄観光の盛況ぶりを大きく下支えするものだった。
■中国本土からの観光客はまだ少数派
しかし、その内訳は私のイメージといささか異なるものだった。詳しく見ると、台湾からの観光客が前年比46・1%増の34万4100人と多数を占めており、続いて、韓国が前年比93・9%増の15万5100人、香港が45・9%増の12万3千人、中国本土が約11万3400人だった。中国は前年比で2倍以上になったが、それでもまだまだ数字はほかの国や地域に及ばない。
実際、那覇市でもっとも多くの観光客が集まる国際通りを歩いてみると、確かに中国語を耳にすることは多いが、よく聞いてみると「台湾国語」と言われる台湾なまりの中国語や台湾語、香港人が使う広東語が目立った。しかし、普通の沖縄の人たちからすれば「中国人」ということでひとくくりにされてしまう。これは本土でも同じことが言えるだろう。
台北駐日経済文化代表処那覇分処の蘇啓誠処長によれば、日本のオープンスカイ政策のおかげで、従来1日1往復だった沖縄便が、一昨年から1日6往復まで増え、台湾観光客にとってはわずか50分の距離ということもあって、非常に訪れやすい観光地になっているという。
日本全体の観光客数でも2014年の統計では、台湾からが280万人、韓国からが270万人、中国からが240万人となっており、まだ台湾、韓国のほうが中国を上回っている。一方、1人当たりが落とすおカネの金額は、今年の1〜3月の水準を見ると、中国が17万円なのに対し、台湾・香港は10万円程度と大きく違っており、中国人の購買力は確かに強い。
ただ、ここで考えてみるべきなのは、中国の観光客はほとんどが初めての訪日であるのに対して、台湾、香港の観光客は年間1、2度日本を訪れてくれるリピーターが多いという点だ。
いかなるレストランやレジャー施設も、リピーターの獲得なくして長期的な成功は難しい。その意味では、われわれはリピーター観光客である台湾などの観光客を大切にすることも忘れてはならないのではないだろうか。
さらに台湾、香港の観光客の恩恵を受けているのは、東京や京都、大阪などとの都市圏ではなく、東北、北陸、山陰、四国など各地方都市だという点にも注目したい。
中国本土からの観光客はツアー客が主体なので、成田や羽田から入って、東京や大阪、名古屋など「ゴールデンルート」と呼ばれるところを回って国へ帰っていく。そのため都市部では中国人の存在感がどうしても大きくなるが、彼らは地方にはあまり行かない。
一方、すでに何度も日本に来ている台湾、香港の人々は、東京や京都には飽きが来ており、それよりも仲間たちの誰も行ったことのない秘境を回って、フェイスブックで自慢しては楽しんでいる。
だから、東北地方の日本人すらほとんど知らないような農家民宿で、なぜか台湾の観光客で連日予約が埋まってしまうような現象が起きるのである。また、讃岐うどんの手打ち体験をしたり、鳥取の探偵コナン施設を回ったりと、観光スタイルが細分化されている。
■中国観光客依存には”怖い点”も
各地方都市はいま、台湾や香港と定期便やチャーター便を飛ばそうと躍起になっている。どの空港も国内の不採算路線が削られ、空港の経営には苦労している。そんななか、オープンスカイや格安航空会社(LCC) の増加もあって、観光客による経済効果を期待できる台湾、香港便をとにかく開設したくて仕方ないのである。
また、中国観光客依存には怖いところがある。日中関係が改善に向かうかと思われるいまの段階では、中国政府も奨励する形で観光客が送り出されているものの、たとえば日中関係の急激な悪化など何らかの新しい状況の変化があれば、中国政府が水道の蛇口を締めるかのようにその流れを止めてしまうことも可能だ。
現段階で中国がそうした動きに出る可能性は低いだろうが、たとえば、マカオのカジノについて言えば、中国の反腐敗運動で遊びにやってくる中国人の数が急激に減って、マカオ全体の景気が一気に下火になったことでも分かるように、政治的不確定性が強いのは確かだ。
それに比べて、体制が違って政治が国民の渡航をコントロールできない台湾や香港の観光客は、安心して需要予測をアテにできる相手だ。彼らは日本のサービスや商習慣にもなじんでいるので、中国人観光客のように、普段以上にあれこれ気を使わなくてよく、日本人や普通のガイコクジンと同様のサービスをしていれば済むところにもメリットがある。
中国人の「爆買い」を喜ぶのはいい。だが、台湾、香港の観光客のように、長年かけて日本観光のよさをじっくりと開拓してきてくれた人々に「疎外感」を感じさせることがあれば、それはこれまで日本観光を支えてくれた恩を仇で返すようなものであり、観光立国を目指すうえで避けるべきことだろう。
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