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(出典)内閣府、日銀
アベノミクスで年間雇用者報酬2兆円増、家計の金融資産170兆円増という真実
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150704-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 7月4日(土)6時1分配信
●10円の円安で0.6兆円の実質所得増加
今回は円安による影響や対策について考えてみたい。
まず、大胆な金融緩和に伴う円安により、輸入物価が上がり、家計に悪影響をもたらしているとの批判がある。実際、過去10年間のドル円レートと消費デフレーターの関係をみると、ドル円レートが10円円安になると、3四半期後の消費デフレーターを約0.845%押し上げるとの関係がある。つまり、2014年度の家計消費(除く帰属家賃)が約239兆円であることからすれば、円が対ドルで10円円安になると、4四半期遅れて家計負担を年額で239兆円×0.845%=2.0兆円程度増やすことになる。これは、アベノミクスで40円以上円安が進んだことにより、家計の負担が年間8兆円以上増えることを示唆する。
ただ、円安にはメリットもある。まず、国内の雇用機会を増やす。事実、過去10年間のドル円レートと就業者数の推移をみると、就業者数がドル円レートに遅れて明確に正の相関関係にあることがわかる。そこで、過去10年間のドル円レートと就業者数の関係をみると、ドル円レートが10円円安になると、5カ月遅れて就業者数が34万人程度増加することになる。さらに、過去10年間のドル円レートと雇用者報酬の関係をみると、ドル円レートが10円円安になれば、3四半期遅れて雇用者報酬が年額で2.6兆円増加することになる。これは、アベノミクスで40円以上円安が進んだことにより、130万人以上の就業者数の増加などを通じて、雇用者報酬が年間10兆円以上増えることを示唆する。
このように、円安になると仕事が増える背景には、円安に伴い国内で生み出されたモノが相対的に割安になることがある。このため、輸出関連産業では製品の競争力が増すことで人手が必要になる。また、輸入代替産業においても競合する輸入品の価格が上がるため、国産品の需要が高まり、雇用が必要となる。さらには、国内のサービスも価格面から競争力を増すため、外国人観光客の増加などによりサービス産業への需要も高まるため、雇用が生み出される可能性が指摘できる。
●雇用の質も改善
一方、雇用の質の面についても、アベノミクス期間中に増加した100万人以上の雇用者数の多くが非正規と批判された。しかし、昨年秋以降は正規雇用も増加に転じており、年明け以降は非正規を上回る増加を示している。従って、アベノミクスに伴う雇用の増加を非正規と決めつけるのはもはや誤りであり、むしろ年明け以降は正規雇用の増加がけん引しているといえる。
結果として、10円の円安は家計負担を2兆円増やす一方で、2.6兆円の雇用者所得の増加を通じて、実質的には0.6兆円程度の所得増加をもたらす関係がある。これは、アベノミクスで40円以上円安が進んだことにより、実質雇用者報酬が年間2兆円以上増えることを示唆する。
さらに円安の恩恵は、株高などを通じて家計の金融資産の増加にも結びついていることが明確に表れている。実際、日銀の資金循環統計によれば、円安が進む前の2012年9月末から昨年末までに180兆円以上増加している。
その関係を定量化すれば、過去10年間のドル円レートと家計の金融資産の関係から、ドル円レートが10円円安になると、家計の金融資産が43兆円増えることになる。これは、アベノミクスで40円以上円安が進んだことにより、家計の金融資産が170兆円以上増えたことを示唆する。
●必要となる再分配強化の政策
従って、日本経済全体でみれば、円安ドル高になるほど国内の所得や税収が増えるため、円安自体は良いことである。過去を振り返っても、ドル高の局面では日本株が上昇しやすい傾向にある。
しかし、急激な円安は、短期的に家計や中小企業への負担増をもたらす。このため、求められる対応としては、自然な円安は受け入れる一方で、エネルギーコストを下げる取り組みや、家計や中小企業への再分配を強化する政策が必要である。
具体的には、天然ガスのジャパンプレミアム解消や、トリガー条項発動をはじめとした燃料費に対する減税等が選択肢として考えられる。というのも、家計のエネルギー消費割合を地域別にみると、北海道や東北をはじめとした地方はガソリンや光熱費の比率が高く、逆に関東や近畿といった都市部ではその割合は圧倒的に低い。
従って、エネルギーの減税は、短期的な地方経済活性化策として検討に値しよう。一方で、公共事業の地方経済活性化効果が人手不足等により減退していることも勘案すれば、他の歳出入策とのセットで効果等含めて検討すべきだろう。
また、中小企業への事務負担が高まるなどの多くの問題を抱える軽減税率については、導入を再考し、その財源を用いてエネルギーに上乗せされ続けている旧暫定税率分の一部を減税することも効果的だろう。これにより、上場企業から中小企業、ひいては都市部の経済から地方経済への所得移転が生じれば、アベノミクスの効果の波及が広がりやすくなるといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)
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