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株価だけが上昇する中国官製バブルの時限爆弾
http://diamond.jp/articles/-/74303
2015年7月3日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
ここ数ヵ月、上海では、いわゆる個人投資家と言われる一般市民たちが、証券会社に足しげく通っている。株価ボードとにらめっこする、あの光景が復活するようになったのだ。
株価が急落した2007年10月以来、株式投資は一般市民にとっての鬼門だった。2007年10月の6124ポイントをピークに株価は下落し、2008年10年28月には過去最低の1664ポイントにまで落ち込んだ。これにより、個人投資家は資産の多くを失った。
あの痛手から7年以上が過ぎた。中国全土は今、株ブームの熱い空気に再び包まれている。「儲けるなら今しかない」と一般市民は株式投資に乗り換える。不動産を売却した利益をつぎ込む者もいれば、麻雀で巻き上げた資金を投じる者もいる。
上海総合指数は過去3ヵ月で54%上昇、6月第1週には5000ポイントを越え、12日にピークとなった。「一夜にして成金」という中国固有の神話は、再び現実のものとなった。
筆者の友人も電話口で興奮を隠さない。彼女の手持ちの株は航空銘柄が中心で、2007年以降、売るに売れない塩漬け状態が続いていた。ところが、2月以降、株価は急に上昇を始める。これ以上は上がらないだろうと見込んだ4月の時点で、ほとんどの銘柄を売却。それを軍資金に家族での悲願の訪日旅行を実現させた。
しかし、5000ポイントを超えるとは彼女にとっては想定外だった。6月に入ってもなお上がり続ける株価に、地団太を踏んだ。
その彼女が「今回の株価上昇は違和感がある」と訴える。「どんな銘柄でも軒並み上がっている。 “ST銘柄”さえも上昇している」というのだ。確かに、今年1〜4月まで、A株に上場する二千数百と言われる銘柄のうち、下落したのは14銘柄にしかすぎない。ちなみに「ST銘柄」とは財務状況に問題があるなど、上場廃止リスクが存在する銘柄のことを指す。
これほど中国経済が低迷しながらも、株式市場が好調だというのは奇妙な話だ。経済成長を伴いながらの株価上昇なら話もわかるが、2014年の中国の経済成長率は7.4%、今年も6.8%と落ち込みが予想される中で、確かに違和感は払拭できない。
■高騰する株価とは裏腹に中国経済の失速は想像以上
むしろ、中国における経済の失速は想像以上のスピードで進んでいる。中国では今、地元大手企業をはじめとした倒産や生産停止が相次いでいるのだ。
山西省では省内第二位、民営企業では最大の製鉄企業が生産停止に追い込まれた。鉄鋼業界では過剰生産が続いているが、この企業も100億元を超える負債を余儀なくされた。
過剰在庫を抱えるのはセメント業界も同じだ。不動産取引の抑制策で住宅需要が冷え、その業績は2014年から目に見えて落ち込んだ。その一方で、この業界を支えたのがいわゆる「理財商品」(ファンドなどの財テク金融商品)だった。セメント会社は信託会社を通じて市場から資金を集めるも、その返済(償還)をさらに借り入れで穴埋めするという悪循環に陥っている。
広東省東莞市では、携帯電話の部品メーカーが閉鎖に追いやられている。スマートフォンの普及は商機以上に淘汰をもたらした。従来のプッシュキーからタッチパネル式に変わり、薄型化が進行すると、ローテクからハイテクに産業構造の転換を図れない加工業者が脱落しはじめた。一時はiPhoneに納入する部品生産で成長した工場も、4S以降の技術革新にはついて行けず、サプライヤーから外される事態となっている。
江蘇省蘇州市でも同じことが起きている。昨年末、数万人規模の従業員を抱える携帯電話の部品メーカーが倒産した。短サイクルで投入される新製品の裏側では、多くの加工業者が技術更新に追い付かず、ふるい落とされてしまう現実が存在する。
広東省と江蘇省は、ともに他の省よりも高い外貨収入の水準を誇っていたが、元高が追い打ちをかけ輸出は振るわない。
江蘇省といえば、つい数年前まで「世界の工場・中国」として脚光を浴びた、沿海部の工業都市だ。「長江デルタ」の一翼を担い、著しい発展を遂げた省でもある。そのなかの常州市は外資企業による格好の投資先でもあり、2000年代には製造業がすそ野を広げた。
その常州市が、地元の中小企業の経営状態について報告書をまとめたが、その内容は生き残りの厳しさを物語っている。
2014年、常州市には約7万6800の中小企業があったという。ところが、近年の不景気で企業数が減少した。@登記を抹消した企業は3469社、A経営者が行方不明になった企業は3267社、B生産停止や営業停止に陥った企業は3583社に上るという。それらの合計は1万社を超えており、中小企業全体の13%超を占めているのである。
また報告書は「産業構造の転換」への道のりが決して平坦ではないことを打ち明ける。
「中小企業は産業構造の転換の必要を認識しているが、実力が伴っていない」と指摘し、さらに産業に多くを占める繊維産業や金属部品産業などは、その利益構造の薄さから、「人材の確保もできず、設備も入れられず、構造転換を思うように進められない」と分析している。
近年は環境規制が厳しくなっており、このあおりで倒産する企業も少なくない。今年4月、国務院は「水質汚染防止計画」を発表したが、これにより、中国各地で大手を含む製紙業が倒産または生産停止に追い込まれている。資金不足を理由に、環境基準をクリアさせるための浄化設備が導入できないためだ。製紙業など水を大量に使う産業は全国各地で「虫の息」状態だ。
サービス業では不動産業が大量の過剰在庫を抱えている。2014年は中国の70の大中型都市の新築住宅価格の上昇率が鈍化した1年だった。「不動産市場の崩壊は中国経済を壊滅に追い込む」という危機感から、中国政府は住宅ローン規制を緩和させるなど、一連の政策を打ち出し市場活性化を狙っている。しかし、マネーゲームでさんざん吊り上げられた北京や上海の不動産市場は、政策を緩和したところで、勤労所得者の購入促進には結びつかない。
■株価上昇は虚像?人為的操作を疑う声も
「製造業もダメ、不動産業もダメ、何も好転していないのに、株価だけ上がるのはおかしい」――
一部の上海市民からはそんな声が上がる。
そもそも上場企業の業績はよくない。帳簿を開けば真っ赤っかだ。にもかかわらず、上場企業の董事長(会長職に相当)らは、自らが年間億単位の報酬を得る。個人投資家のひとりは「我々が株で投じた資金は彼らの給料になっているに過ぎない」と冷ややかだ。
人為的な操作の懸念も存在する。ごく少数ではあるが、「操作性の強い株価上昇は虚像だ」という意見を掲載する電子メディアもある。
実際、今年の春節前後から「これから株価は上がる」という噂が市中密かに出回っていた。要職に就く人物から「今、株を買っておいた方がいい」と耳打ちされた者もいた。
2007年のあの株価暴騰もそうだった。当時も突然株価が上昇をはじめた。翌年には北京五輪、2010年には上海万博を控えており、成長真っただ中の中国経済だっただけに、疑問を挟む余地もなかったが、一部には「人為的操作性」を疑う声も存在した。
さて、今回の株ブームも6月第3週を過ぎた当たりから、不安定さを示すようになる。19日の取引で上海総合指数は、約13%と7年ぶりの大幅下落を見せたのである。
今回の値上がりについては「典型的な投機筋による値上がりで、近いうちに暴落する」と懸念する声もある一方で、依然「6000ポイントの大台突破もあるのでは」という強気な見方がある。今回の株価上昇も政府主導の刺激政策と受け止め、一部ではこの官製バブルは今後も継続すると解釈されているからだ。
7月1日には主要株価指数が5%急落したが、株離れも懸念されることから、早くも政府は来月から証券取引手数料を3割引き下げると発表し、再び市場を盛り上げようと画策している。
■中国株を支えるのは個人投資家 暴落すれば影響は深刻
6月15日、ニューヨークタイムズ紙は社説で「瞬時にしての利益獲得は大きなリスクがはらむ」と警鐘を鳴らした。また、同紙は個人投資家らが株式投資のために借り入れを行っていることを指摘し、下落に転じたときの影響を警戒した。
中国株式投資は8900万人が口座を持つといわれ、うち8割近くを個人投資家が占めるといわれている。一般市民を中心とした個人投資家は、今回の株ブームでより多くの資金を投じようと親戚や友人、銀行やシャドーバンクといわれる地下金融から資金調達を始めている。
同時に、既存のシャドーバンクも、集めた資金を株式市場に投入して運用している可能性が強い。また、シャドーバンクの形態もより分化し、個人がネット上で理財商品を発行し、個人から資金調達する「P2P」と呼ばれるしくみも見られるようになった。
ちなみに、このネットを通じた個人間の「P2P」には、10%以上の高い利息をつけ、数千人規模から数億元の資金を集めるものもある。しかし、資金の横領や突然の倒産が少なくないため、すでに「P2P」は社会問題と化している。
市場のグローバル化に伴い、中国株のブームは一国のリスクのみでは語れなくなってきている。すでにこのブームは香港、台湾、韓国をも過熱させている。また、中国株そのものも、外資による投資を制限しているとはいえ、近年それが容易になってきている。中国株をファンド商品に組み込む欧米系投資会社も少なくない。
中国政府は景気回復のシグナルを送ろうと、株式市場を意図的・政策的に操っているに過ぎない。中国経済は鈍化しているにもかかわらず、株価だけが上昇する官製バブル。形勢が逆転すれば、企業も個人も巻き込んだ大規模な連鎖破綻を招きかねない。
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