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下鴨神社にマンションが建つワケ
世界遺産でも厳しい、神社が置かれる苦境
2015年7月2日(木)中 尚子
世界遺産の下鴨神社(京都市)が、境内にマンションを建設する――。
そんな衝撃的なニュースが飛び込んできたのは、2015年3月のことだった。約9650平方メートルの敷地を神社が開発事業者に貸し、そこに3階建て104戸のマンションを建設する。5月の末にはJR西日本の子会社であるJR西日本不動産開発が開発業者に決まり、2017年の完成を目指してプロジェクトが本格的に動き始めた。
下鴨神社と言えば、筆者が大好きな神社の1つ。京都に旅行するたびに参拝し、2年前にはお祓いまでしてもらった思い出の地だ。
何度も訪れたくなる下鴨神社の魅力の1つは、なんと言っても「糺の森」と呼ばれる、境内に広がる原生林。鳥居をくぐり、神社の本宮まで続く糺の森を歩けば、神聖な気分に浸ることができる。
下鴨神社の入り口。糺の森が続く
そんなお気に入りの神社にマンションが建つなんて。下鴨神社のニュースを聞いて真っ先に筆者が思い浮かべたのは、神楽坂(新宿区)にある赤城神社だった。以前、神楽坂に住んでいたこともあり、街中にあってもひっそりとした雰囲気が好きで、赤城神社を頻繁に訪れていた。しかし、2010年に境内に大型のマンションが建ったことで、すっかり様子が変わってしまった。
下鴨神社も同じ様に変わってしまうのか。あんなに有名な神社がなぜ境内にマンションなんて建てるのか。居ても立ってもいられず、京都に向かった。
マンション建設地は森の中じゃない
京都駅で乗ったタクシーで、「下鴨神社まで」と行先を伝えたところ、運転手が早速話しかけてきた。
「知ってますか?下鴨神社にマンションが建つんですよ。あんなに由緒ある神社なのに、信じられないよねえ」
ただの参拝者に見えるはずなのに、すぐにマンション建設の話を振られる。地元の人の関心はよっぽど高いらしい。
やはり、景観が大きく変わってしまうのか――。不安を抱えたまま神社に到着するとすぐに、社司の友田重臣氏に疑問をぶつけてみた。
「今ある研修道場などを解体してマンションの敷地に変えます。生態系を壊さないように木も避けて。建物の高さも制限するし、景観に与える影響は抑えます」と友田氏は話す。
実際、マンションの建設予定地を見せてもらうと、確かに、本宮があるブロックとは道路を隔てていて、森の中でもない。「景観が破壊されてしまうに違いない!」と構えていた筆者は、拍子抜けしてしまった。
マンションの建設予定地。本宮からは距離があり、糺の森の生態系にも大きな影響はなさそう。
7年の企業行脚でも募金集まらず
ではそもそも、なぜ世界遺産でもある下鴨神社が、土地活用に乗り出したのか。
下鴨神社は、本宮などを定期的に造り変える「式年遷宮」を、21年に1度実施してきた。その式年遷宮が直近で実施されたのが2015年。遷宮に必要な資金を集めるため、友田氏は7年間、毎日約8社ずつ、企業行脚を繰り返してきた。
だが、いくら世界遺産で知られている神社といっても、企業の反応は冷たい。「『うちにどんな関係があるの』と言われるのが普通で、初対面では会ってすらもらえない。話を聞いてもらうために、1社につき3〜4回は通った」(友田氏)。
行脚もむなしく、結果としては目標としてきた22億円に対し、10億円しか募金は集まらなかった。2015年の遷宮までに必要な本宮の修繕などはなんとか実施したものの、現在でも屋根に穴が開いた社殿もあるという。糺の森の整備だけでも常に費用がかかるにもかかわらず、拝観料をとらない神社では、安定的な収益は見込めない。
「遷宮は終わったが、今後6年かけて修繕を続けて行く」(友田氏)。安定的な収益確保のために、土地の活用に踏み切る決心をした。
幻に消えたホテル建設
土地活用の手段として当初、最も優先して検討したのは、実はホテルの建設だった。だが、当該の土地は基本的には50年後に1度、神社に所有権が戻される。また、神社の格を落とさないようにと打診した高級外資系ホテルは、20年間のブランド使用料を結ぶのが一般的で、50年の間にはホテルのブランドが変わる可能性がある。下手をしたら、格下のホテルブランドに変更になるかもしれない。
土地活用のコンサルティングを受託し、事業を企画したエスアイ・アセットサービスの小野祥吾代表は、次のように説明する。
「所有権が神社にある開発案件では、土地を担保にできないため、投資家は融資を受けにくく、利回りを高く設定しなければ投資対象になりにくい。しかし、ホテルのブランド変更により、収益見込みが変わってくるリスクを考えれば、そんなに高い利回りは期待できなかった」
結局、ホテルの建設を断念し、代わりに今回のマンション計画が進むことになった。下鴨神社は、マンションが施工される2016年から、地代として、事業主とマンションの居住者から合計で年間8000万円の定期的な収入を見込んでいる。
友田氏は「(寄付などに対する)株主への説明責任が増している中で、企業からの募金が急激に増えるとは考えにくい。安定収入を見込むための手段を批判されても、ならどうしたらいいのと聞きたい」と話す。
表参道にマンションを建設した神社も
苦境に立たされているのは、大規模な式年遷宮を実施している下鴨神社だけではない。下鴨神社から1キロほど南にある梨木神社はより厳しい環境に置かれている。
全国に約8万1000ある神社のうち、7万9000が加盟している神社本庁。梨木神社はここから脱退する道を選んだ。
きっかけは、梨木神社の境内にマンションの建設を決めたことにある。
梨木神社は当初、本殿の裏にマンションを建設しようとしたが、京都府神社庁から場所を移すように指導された。その後、表参道にマンションを建設する計画を立てたが、これにも許可は下りない。
「地形を見ればうちがマンションを建てられる場所に限りがあるなんてことはすぐにわかるのに」(梨木神社の関係者)。
梨木神社はその後、神社本庁からの脱退を決めた。
お賽銭をお供えしましたが…
梨木神社には、氏子もおらず、これまで結婚式や祈祷で細々と資金を集めてきた。しかし、これだけでは日々の運転資金にすら足りない。梨木神社の関係者は「今回のマンション建設で得られる地代が入ってきたって、十分かどうかわからない」と話す。
下鴨神社など、京都の神社を取材した結果わかったのは想像以上に深刻な経済状況だった。
個人的に、取材後、初めてお札のお賽銭をお供えしたが、こんな微々たる金額が積もっても、神社にとって必要な資金が賄えるわけもない。
氏子や企業からの募金だけで神社を運営できる時代は終わった。景観整備などを声高に叫ぶのは簡単だが、神社が生き残っていくためには新しい神社の在り方が必要だし、それを認めていく必要があるだろう。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/070100014/
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