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ギリシャ問題の解は「ユーロ離脱、EU残留」
http://diamond.jp/articles/-/74250
2015年7月2日 高橋洋一 [嘉悦大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■ドイツは「うまみ」を謳歌してきた それが忘れられている
ギリシャのデフォルトの可能性が高まっている。7月5日の国民投票で、財政緊縮策を受け入れるかどうかが判断される。このため、世界各国の金融市場は大騒ぎだ。短期的に見れば大混乱であるが、ちょっと長い歴史と経済理論から見れば、今回のデフォルトはよくあることで、その結果、ユーロ離脱になっても別に驚くことではない。
本コラムはバックナンバーでさかのぼれるので、筆者の論考にどれだけ妥当性があるかを検証できる。今から3年半前、2011年10月20日付けの本コラム「ギリシャはデフォルト(債務不履行)常習国 歴史と最適通貨圏理論で解く問題の本質http://diamond.jp/articles/-/14501」では、ギリシャ問題の本質として、過去2年に1回デフォルトになっているギリシャの特殊性と、同国がノーベル経済学賞を受賞した経済学者マンデルによる「最適通貨圏」から逸脱していることを示している。
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さらに、その最後には「政治的には難しいだろうが、経済的な抜本策はギリシャのユーロからの離脱しかない」との結論を下している。
マンデルの「最適通貨圏理論」はいろいろと示唆に富む分析を提供してくれる。
ドイツなどのユーロの中心国では、ギリシャなどの周辺国が増える「うまみ」もある。欧州中央銀行(ECB)の政策金利は、ユーロの物価指数に占めるドイツなどのウェイトが高いため、それらに合わせて過去低めに設定されている。このため、ギリシャなどの南欧の景気が過熱し、そのインフレ率はECBが域内の物価安定の目安とする「2%未満」を上回ってきた。
同じユーロ国でも、インフレ率が相対的に低いドイツの輸出製品価格は低く抑えられる一方、インフレ率の高いギリシャなどの輸出製品は価格競争力を失っていく。このため、ドイツなどの輸出は急増し、その果実を謳歌してきた。ギリシャ問題では、ドイツなどは援助国、ギリシャなどは非援助国という構図であるが、それまではドイツなどはユーロ拡大の最大の受益国であったことは忘れられている。
ギリシャ問題とユーロとの関係について、知見があるかないかでは、この問題に対する見方がまったく異なってくる。
日本のマスコミでよくあるステレオタイプは、ギリシャは公務員が多く、年金水準も高いので、財政が破綻するというものだ。このため、ギリシャと同じにならないように、日本でも財政再建が必要で歳出カット、増税が必要という主張になってくる。この種の話は多く、不勉強なテレビのコメンテーターがしばしば述べる。また、財務省がマスコミやコメンテーターへのレクの時に、ささやくともいわれている。多くの政治家も騙されている。
■ユーロの問題点に言及しない解説は無意味
現実には、ギリシャ独自のドラクマ通貨時代では、危機のたびにドラクマが下落して、対外借金を棒引きにすることで、ギリシャ経済はなんとかやってこれた。しかし、ユーロに加入してから、この手が使えなくなったのだ。
その一方、ギリシャがユーロに加入したことによって、ドイツは受益国になった。この観点から言えば、ドイツがギリシャ支援をするのは当たり前である。それにもかかわらず、緊縮財政を強要し、結果としてギリシャ経済の苦境からの脱出を妨げてきたのが問題となる。
この立場から見れば、今のギリシャ問題は、ドイツからの緊縮要請とユーロが「最適通貨圏」以上に拡大したことが原因であり、ギリシャの財政問題はその結果とも言える。言ってみれば、ドイツが悪いという見方であり、日本のマスコミではあまり見られない論調である。
筆者の理解では、ユーロの問題点に言及しないギリシャ問題の解説はまったく無意味であり、緊縮財政を勧奨するという意味で、有害ですらある。
特に、ギリシャと日本を似たようなものとする見解が酷い。日本の金利は低く、円も安定し、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レートも上昇せず、日本の財政破綻は当面あり得ないからだ。
そして、ユーロの問題点さえ理解できれば、ギリシャ問題の解も見えてくる。
ここで、欧州連合(EU)とユーロ圏(EURO)の関係を整理しておこう。マスコミ報道では、同じように報道されているものもあるが、EU28ヵ国で、そのうち19ヵ国がユーロ圏と、両者は別物になっている(右表)。ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペインなどはEUであり、通貨をユーロとするユーロ圏だ。しかし、デンマーク、スウェーデン、イギリスなどはEU加盟国だが、ユーロ圏ではなく独自通貨を有している。
■地政学上の重要性からユーロ離脱でもEU残留は可能
経済的な観点から見れば、ギリシャもドラクマという独自通貨を復活させて、EUに残留すればいい。このポジションは、EU域内では関税なし、人・資本移動が自由なので、かなりのメリットがある。その一方で、金融政策の自由度を持つので、ギリシャにとっては長期的には「いいとこ取り」のような合理的な選択である。
実際にそうなるかどうかは、正直言えばわからない。EUは共通通貨への道という一方通行で、そもそもユーロ圏からの離脱規定すらない状態なので、ユーロ圏、EUとのタフな協議が必要になるだろうが、不可能なことではないはずだ。
希望的な観測を言えば、仮にギリシャがユーロ離脱となっても、EUには残留することになるのではないか。
筆者がこうした希望的観測を持っているのは、ギリシャの地政学的な位置付けから、経済・政治統合のEU、ひいては安全保障の北大西洋条約機構(NATO)にギリシャは不可欠であるからだ。
ユーロを拡大してきた背景として、ギリシャについては、イスラム国家への砦として支援する政治的な意図もあった。北アフリカからは不法移民が押し寄せており、欧州中に移民が広がるのを防ぐ役割もあった。この点から、ギリシャは欧州にとって重要である。
あるマスコミ報道で、ギリシャがユーロ離脱とともに、ロシアに向かうという報道があったが、それはまったく荒唐無稽である。実際、ギリシャはNATOメンバーであるので、ロシアの配下になるのは、NATOが許さないはずだ。
NATOとEUはかなりオーバーラップしている(前掲表)。その意味で、ギリシャは引き続きNATOとEUに残るだろう。これは、NATOメンバーのトルコのEU加盟申請とも関係する。
トルコは2005年に正式にEU加盟の申請を出しているが、トルコとEU諸国の間の、宗教的、文化的な違いが大きすぎること、同国のほとんどがイスラム教徒であることから、EUはその加盟に慎重だ。ヨーロッパ文明発祥の地というギリシャがトルコと同じ位置付けになるはずはないと、筆者は思っている。
いずれにしても、5日の国民投票が最重要だ。はたして、同日までに国民投票ができるのかという素朴な疑問もある。ユーロ離脱が、最適通貨圏理論から見て、ギリシャにとって長期的には合理的な選択のはずだ。ところが、実際に手にしている目の前のユーロの価値が失われることを恐れて、ギリシャ人がユーロ残留という判断をすることも十分あり得るとも思っている。5日が見ものだ。
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