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追い詰められたギリシャがユーロ離脱へ暴走すると何が起こるか?(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/15/hasan98/msg/396.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 7 月 02 日 00:12:10: igsppGRN/E9PQ
 

追い詰められたギリシャがユーロ離脱へ暴走すると何が起こるか?
http://diamond.jp/articles/-/74249
2015年7月2日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] ダイヤモンド・オンライン


 普通に考えれば、ギリシャは白旗を掲げるしかない。だが人はいつも合理的な判断をするとは限らない。世界史を振り返ると「なぜこんな選択を」という場面はいくらでもある。冷静な指導者がいたら、日本は大戦の口火を切ることはなかった。受諾するしかないポツダム宣言を判断できず、何十万人を犠牲にした。「国家の重大事」で為政者はなぜか危ないほうに舵を切る。

 多くのギリシャ人は「共通通貨ユーロ」を手放したくないようだ。「ならば交渉のテーブルにつき緊縮財政を受け入れろ」とEU側は迫る。ギリシャは「貧しい我々からまだ奪うのか」と納得できない。不満は論理を超え、怒りは敵に向かう。ユーロ離脱へとなだれ込む可能性はないとは言えまい。

 破綻国家が暴走すると、衝撃波は脆弱な市場を揺さぶる。上海は大丈夫か。株式バブルが崩壊すれば、社会主義市場経済に連鎖するかもしれない。カネは臆病だ。過敏症の投機マネーは引火性のガスのように世界を覆っている。

■ギリシャはすでに詰んでいる 焦点は「デフォルトならどうなるか」へ

 6月末をゴールと見ていた債務交渉は平たく言えば、こんな具合だ。

 ギリシャの主張は「借金の完済は無理だ。債務を減免してくれ。新規融資を頼む」。

 交渉相手はEU委員会、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の三者。いわゆるトロイカである。

 トロイカは「分かった。貸そう。その代わり貸したカネがちゃんと返って来ないと困る。財政を切り詰めて返済する約束してくれ」。交渉の舞台裏では、公務員の数や年金支給額、課税項目、税率、歳入見通しなど財政の細部まで注文が付けられた。

 ギリシャは「付加価値税の増税や年金の減額など、もうできることはやった。これ以上は無理。新規融資も借金の返済で消えてしまう」と抵抗するが、トロイカは「まだ甘い。この程度の緊縮財政では返済はおぼつかない」。

 こんなやり取りが何ヵ月も続いた。トロイカは「借りたカネは返せ」「返さない借り手には新たな融資はできない」と厳格な金融ルールで迫る。「そんな脅しに屈するギリシャではない」とティプラス首相は席を蹴った。

「デフォルト」という言葉が現実味を帯びている。期日が来ても約束通り金利や元本が返せないことをいう。「約束手形が落とせない」と倒産になるように、資本主義経済ではカネが返せなくなると「失格者」の烙印を押される。それがデフォルト。そうならないように「リスケ」の交渉が行われる。債務を繰り延べするリスケジュール(返済計画の見直し)。懐具合に合わせ金利や返済期間などを緩くする。破談となればデフォルトだ。

 ギリシャはデフォルトするとどうなるか。焦点はここに集まっている。

 金融市場で信用を失い、国際機関や海外の銀行からカネを借りられなくなる。政府の資金繰りが苦しくなる。給与や年金の支払いに支障が出る恐れがある。国民は銀行に殺到する。預金の引き出しや取り付け騒ぎが起こる。放置すれば銀行は倒産だ。預金封鎖や引き出し制限が必要になる。自分のカネが自由にならない。国民に動揺が広がる。経済活動は委縮し、消費や生産が滞る。政情が不安定になる。

 緊縮財政は、じりじりと生活を締め上げるが、デフォルトは一撃で混乱に叩き込む。

 左翼活動家で金融システムには門外漢だったティプラスも、5ヵ月に及ぶ債務交渉の中でギリシャが置かれている金融的現実を痛いほど思い知らされただろう。

 国際金融の常識では、債務返済を拒否すれば、生命維持装置を外される。ギリシャは既に「詰み」に追い込まれている。

 ユーロに加入していなければ、ギリシャ中央銀行がお札を印刷して国庫の支払いに充てることができるだろう。ユーロ体制では通貨の発行は欧州の中央銀行であるECBが一元管理している。ECBが各国が必要な資金をそれぞれの中央銀行に供給して政府の資金繰りを支えている。預金者が銀行に殺到するギリシャは、通常よりたくさんのユーロ供給を頼んだが、ECBは決められた上限を超える供給には応じない方針だ。ギリシャがデフォルトすれば、ECBからの資金が途絶えることもありうる。ECBに見放されたら、自国で通用する通貨を発行するしかない。ユーロからの離脱である。

 進退窮まったティプラスが最後の手段に訴えたのが「国民投票」だった。主権者の判断を仰ぐために。

「反緊縮」を叫んで政権を取ったからには、トロイカに屈服するわけにはいかない。受け入れるなら前政権と同じだ。蹴れば、国民生活は大混乱だ。緊縮以上の窮乏生活を強いられるだろう。それでも国民は付いてくるか。不満の矛先は政権に向かうかもしれない。

 投票で「緊縮財政を受け入れる」と国民が判断すれば、政権から降りる。「納得できない」とトロイカとの戦いが支持されれば、デフォルトも覚悟して「肉を切らせて骨を断つ」で臨む。身を捨てて浮かぶ瀬もあれ、である。

 トロイカ側も万全ではない。ギリシャがデフォルトになればEUは返り血を浴びる。だからIMFへの返済が滞っても「デフォルト」とはみなさず「延滞」とした。ギリシャには払う気がまだある、交渉は続いているとした。

■通貨と金融政策の共通化でしわ寄せは経済が弱い国へ

 ユーロ体制は、ザイルを結び合って頂上を目指す登山家たちに例えられてきた。足を踏み外す仲間がいたら他のメンバーが結束して支える。体力・技量は違っても、ユーロランドは命綱を結び合った運命共同体、とされた。議事は全会一致が原則だ。

 ギリシャが脱落すれば結束にひびが入る。「経済に国境なし」というお題目が幻想だったことが鮮明になる。ユーロランドの最下層にあったギリシャは切り離された、次はどこか、と憶測を呼ぶ。

 共通通貨の導入は金融政策を一律にする、ということだ。学力差のあるクラスで、教師は誰の水準に合わせ授業をするのか、それと似た状況がEUにはある。優等生ドイツに合わせれば、ギリシャは落ちこぼれになる。

 通貨は同じでもそれぞれの国には主権がある。税制は異なり、年金も社会保障制度も違い財政状況は千差万別だ。国家は対等であっても、国民の生活水準には大きな違いがある。強国に配慮したマクロ政策が一律に行われれば、しわ寄せは弱い国に及ぶ。

 フランスの歴史学者エマニエル・トッドは近著「『ドイツ帝国』が世界を破滅させる」(文春文庫・堀茂樹訳)で「EUとユーロはドイツが一人勝ちするシステムだ」と指摘した。経済から国境を取り払い、単一の自由市場を創れば、競争力のある企業が市場支配を広げ、強い産業力を持つドイツに利益が溜まるのは自然の成り行きだ。近年、ドイツは税収や国際収支の黒字が膨らみ、文字通り「独り勝ち」。EU内でメルケル首相の発言力が強まっている。

 各国がそれぞれ通貨を持っていた頃、通貨は競争力を調整する「ゴルフのハンデ」のような機能を果たしていた。

 ギリシャにはドラクマという通貨があった。観光と農業が主な産業のギリシャは、自動車や機械・家電などを輸入に頼る。消費が増え貿易赤字が膨らむとドラクマが安くなり、輸入品が高くなり消費は抑えられる。その一方で外国から観光客が増える。貿易収支は均衡に向かい、ドラクマの値が戻る。そんな仕組みだった。

 ユーロになって通貨による競争力調整機能がなくなった。ドイツ製品が流入し、国際収支の赤字は慢性化した。ハンデなしのガチンコ勝負である。ギリシャの不利は明白だ。

■ギリシャを借金漬けにしたのは誰か ユーロランドの存続が問われる

 ユーロの利点は、国家が借金しやすいことだった。ドラクマでは外国の銀行や投資家は国債の引き受けに二の足を踏んだ。ユーロで発行するなら国債は市場で消化される。雇用の受け皿がないギリシャはユーロ国債をせっせと発行し、財政で経済を支えた。輸入で吸い取られたマネーを借金で還流し、国内に循環させる経済に陥ったのである。ドイツやフランスの銀行にとってギリシャはいいお客様だった。「ギリシャを借金漬けにしたことをEUのお偉方は万事ご存じのはずではなかったか」。ティプラスの主張には一理ある。

 ユーロランドは「命綱を結び合って頂上を目指す運命共同体」か。「強者が弱者を搾り取る逃げ場のないリング」なのか。

 歴史家トッドは後者と見る。フランスでさえドイツ帝国に隷属しているとみなすトッドはフランスのオランド大統領を「マルク圏の地方代表」という。

 表現は挑発的だが、筆者も同感するところが多い。ドイツが一人勝ちするユーロというシステムを継続させたいなら、搾り取られる側に所得移転する政策がなければ持続的ではない。

 EUで優秀な人材は職を求め、繁栄する都市に流れる。単一市場はカネと人材を強者が吸い上げ、域内の格差を広げる。均衡のとれた発展を望むなら、財政を含めた統合を進め、弱い国に資金が循環する仕組みを作るしかない。

 ドイツには「われわれの血税でギリシャの怠け者を養うつもりか」という反発もある。「ユーロというシステム」で利益を得ていることに目を瞑った言い分である。

 メルケル首相が冷静な発言を続けているのはこの辺りの事情に目配りしているからではないか。ギリシャを追い詰めれば、ユーロに潜む危うい構造に目が向かう。EU内部の反ドイツ感情を刺激し、内部亀裂を拡大しかねない。ドイツ支配を懸念する英国のキャメロン政権は、EU離脱を視野に入れ国民の判断を仰ごうとしている。ポルトガルなど「ギリシャの次」がうわさされる国には、EUに批判的な左翼勢力が台頭している。

■ユーロ圏分裂と上海市場暴落がシンクロする最悪のシナリオ

 21世紀とともに始まったユーロ体制は欧州再生を掲げ加盟国を増やしてきた。衰退の危機にあった欧州が統合という「21世紀のロマン」に結集したが、分裂の危機が制度設計の見直しを迫っている。ギリシャの「ユーロ離脱」は自爆テロになりかねない。傷を負うのはEUでもある。

 21世紀のもう一つのテーマが中国の台頭だ。大儲けの自由を認める市場原理と、不都合な事態には介入できる強権を政府が持つ社会主義市場経済は、様々な矛盾を抱えているが、世界から資本と技術を集め、2030年にはアメリカをも上回る経済規模になるといわれる。統制は規模の小さな「不足の経済」には有効だが、民の力が大きくなると手が回らない。人民は豊かになったが落ち着きのない経済に将来が心配だ。小さなカネを持った民が生活防衛を投機に託す現実が株式バブルを生んでいる。上海市場の異様な高騰は投機資金が流れ込み「上がるから買う・買うから上がる」。日本が1980年代に経験したバブル相場とそっくりだ。

 上海市場の下落はギリシャのデフォルト危機と並行して起きた。因果関係はない。世界に広がる不安感の連動は無視できない。中国経済が抱える病理の中で上海の株式市場など知れている。素人投資家の阿鼻叫喚など中国政府の強権をもってすれば問題にならないかもしれない。だから心配ない、と言えるだろうか。

 日本の長期停滞への警鐘は1990年の年初から始まった東京株式市場の下落だった。経済崩壊をいち早く感じ取ったのである。中国の先端を走る上海の異変をどう見るか。

 29日、北京でアジアインフラ投資銀行(AIIB)の調印が行われた。中国はユーラシア大陸を伝って欧州に伸びる「拡大」で、内部に抱える矛盾を封じ込めようとしている。EUは中国にとって最大の貿易相手だ。

 ギリシャと上海。ユーラシア大陸の東西で始まった異変は何をもたらすか。今後がすべてを明らかにするだろう。

 

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