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7月5日の国民投票まで休業となり、シャッターを下ろした銀行〔AFPBB News〕
ギリシャで破れようとしている欧州の夢 EUは富と安定、欧州の連帯を破壊するのか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44191
2015.7.1 Financial Times JBpress
(2015年6月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
シャッターを下ろしたギリシャの銀行は、欧州連合(EU)にとって深刻な失敗を表している。足元の危機は現代ギリシャ国家の欠点を反映しているだけでなく、統一、平和、繁栄という欧州の夢が破れたことも示しているのだ。
ここ30年あまり、欧州は「歴史の終わり」という世界観の欧州版を信奉してきた。それは欧州連合という名で知られるようになった。
欧州諸国は戦争、ファシズム、占領といった悲劇を過去の出来事として片付けることができるし、EUに加盟することで民主主義、法の支配、そして国家主義の否定という3点を土台とするもっと明るい未来を一緒に手にすることができる、という思想だった。
EU欧州委員会のメンバーだったクリストファー・パッテン氏がかつて誇らしげに語ったように、EUの成功によって欧州の人々は「互いに殺し合うのではなく、漁獲割り当てや予算について口論すること」に時間を使えるようになった。
■欧州の新しいモデルだったギリシャ
軍事政権が倒された1974年に、ギリシャは欧州の新しいモデルの先駆けとなった。国レベルの民主主義の回復を、同時に行う欧州経済共同体(EEC=当時)への加盟申請によって確実なものにするというモデルである。
ギリシャは1981年、この欧州クラブの10番目の加盟国になった。現在28カ国が加盟するEUにギリシャが早い時期から加わっていたことは、ギリシャはずっと周縁国だったと語る向きには耳の痛い指摘になるだろう。
ギリシャで最初に確立されたモデル――欧州への統合によって民主主義を定着させるモデル――はその後30年にわたって大陸中で利用された。
同じく1970年代に権威主義的な政治体制から脱却したスペインとポルトガルも1986年にEECに加わった。ベルリンの壁が崩壊した後は、かつてソ連共産圏に入っていた国がほぼすべて、国内の民主主義的な変革をEU加盟申請の成功にリンクさせるギリシャ・モデルを踏襲した。
EU自身にとっても、ギリシャ式の拡大は、欧州大陸に安定と民主主義を広めていく最も強力な道具になった。
ポーランドのある政治家は、同国がEUに加盟する少し前に筆者にこう語ったことがある。
「欧州の真ん中を大河が流れているとしよう。片方の岸はモスクワで、もう片方の岸はブリュッセルだ。どちらの岸にいなければならないか、我々にはちゃんと分かっている」
EUは良き政府と安定した民主主義の象徴だという強力な考え方は、現代の欧州でも脈々と受け継がれている。2014年のウクライナでデモの参加者たちが腐敗したビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した時、EUの旗を振っていたのはそのためだ。
■EUの解体という危険な過程の象徴になってしまうのか
ところが今、かつて民主主義への移行を欧州プロジェクトにリンクさせる先駆者になったギリシャが、EUの解体という新しい、かつ危険な過程の象徴になるかもしれない危険が生じている。
今回の危機はギリシャのユーロ離脱、さらにはEU離脱へと容易に発展する可能性を秘めている。もしそんなことになれば、EUに加わることが将来の繁栄と安定の最良の保証になるという、EUの根本的な主張に傷がつくことになるだろう。
仮に、疲弊して怒りに満ちたギリシャが最終的にEU残留を決めたとしても、EUと繁栄とのリンクは損なわれてしまうだろう。
というのは、EUが繁栄と統一という約束を果たしていないだけではないという恐ろしい真実が明らかになりつつあるからだ。ギリシャとほかの加盟国を失敗した経済実験――共通通貨ユーロ――から逃げられないようにすることで、EUは富と安定、そして欧州の連帯を積極的に破壊しているのだ。
この過程の危険性は、ギリシャが戦略的に極めて重要な場所にあることによってさらに際立っている。この国の南にはカオスと流血の地リビアがあり、北には不安定なバルカン諸国がある。そして東には、蘇った怒れるロシアが控えている。
こうしたことをすべて承知している米国のバラク・オバマ政権は、ギリシャがそのまま破産しても構わないと言わんばかりのEUの態度にますます懐疑的になっている。ワシントンの一部の人々には、ギリシャの重要性について冷戦期に学んだ戦略的教訓を欧州がすべて忘れてしまったかのように見えるという。
しかし、その言い分は欧州の人々に対して不公平だ。
ワシントンからの批判に対する欧州の反応は、EUが機能しているのはひとえに法と相互義務のコミュニティーだからだ、というものだ。
ギリシャのような国が――例えば債務の返済を果たさないことで――こうした法律と義務を軽視することを許したら、クラブはいずれにせよ崩壊し始める。反対に、もしギリシャを追い出せば、被害を一国に限定しておく可能性が残る、というわけだ。
■民主主義にとっても重大な意味
今回の危機は、民主主義にとっても重大な意味を持つ。民主主義は、30年以上前にギリシャをEUに引き込んだ元来の象徴的意義だが、アレクシス・チプラス首相は今、EUはギリシャの民主主義を担保するどころか、ギリシャの敵となり、国民の意思を踏みにじっていると主張している。
実際には、もちろん、これは民主的な負託の衝突だ。つまり、緊縮から逃れたいギリシャ有権者の願望と、自分たちの融資が返済されることを望み、改革されないギリシャがEUのおカネから恩恵を受け続けるのを認めたくない他のEU諸国の有権者(および納税者)が対立しているのだ。
もしかしたら7月5日の国民投票で、これら2つの民主的な意思に痛々しい折り合いをつけられるのかもしれない。ギリシャ国民が投票でEU債権者の要求――自国政府が拒否したばかりの要求――を受け入れることを決めたら、ギリシャはまだユーロ内、EU内にとどまれる可能性がある。
だが、これは脅かされ、不機嫌になっている国民の決断になる。ギリシャはまだEUの一員であり続けるだろう。しかし、ギリシャが抱いていた欧州の夢は破れたことになる。
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