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上海株式市場の下落より 人民元の国際化を取った中国
http://diamond.jp/articles/-/74165
2015年7月1日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト] ダイヤモンド・オンライン
サムライ債、ショーグン債、カンガルー債、パンダ債、点心債、キムチ債…。これらの債券はすべて実在のものです。債券市場では、外国の発行体(外国政府、国際機関、民間企業等)が発行する債券(外債)のことを、発行地に関連の深い特別な名称で呼ぶ慣行があります。
サムライ債は聞いたことのある方も多いと思います。これは、日本において発行する円建外債のことです。ショーグン債とは日本において発行する外貨(非日本円)外債、カンガルー債はオーストラリアにおいて発行する豪ドル建債券、パンダ債は中国本土において発行する人民元建債券、点心債は香港において発行する人民元建債券、キムチ債は韓国において発行する外貨(非ウォン)建債券のことです。他にもアリラン債 、ブルドッグ債、ヤンキー債などたくさんあります。
■フジヤマ債の発行は人民元国際化策のひとつ
最近、「フジヤマ債」という名称の社債が発行されました。日本の象徴の富士山にちなんだ名称で、三菱東京UFJ銀行が国内で初めて発行した人民元建ての債券です。今後、他行も続く予定です。あくまでも愛称なのですが、中国が起源で日本の国民食にちなんだ「ラーメン債」、「サクラ債」や「テンプラ債」なども候補として挙がっていました。
人民元建債の日本における発行は2011年12月の日中首脳会談で合意していましたが発行は遅れていました。13年に発行を始めたシンガポールの人民元建債は「獅城債」(そもそも国名に「ライオンの都市」の意味があり、獅城はシンガポールの別称)、14年に始めた独仏の人民元建債はそれぞれ「ライン債」(ライン川から)、「凱旋債」(凱旋門から)と呼ばれています。
今回のフジヤマ債では、発行元の銀行が中国で貸し出す人民元を海外(日本)で調達し、中国国内に送金することになりますから、まさに人民元の国際化の一環と認識されます。このように中国は人民元の国際化を着々と進めているのです。
今年10月9日から11日、ペルー(リマ)で世界銀行総会と一緒に開催されるIMF総会は、中国が、IMFの通貨であるSDR(特別引出権)の構成通貨の一つに人民元の採用を求めていることから注目を集めています。SDRの構成通貨は、米ドル・英ポンド・ユーロ・日本円なのですが、ここに採用されるということが「主要な国際通貨」と認められることだからです。このことは中国の30年計画である人民元の基軸通貨化へ重要なステップと認識されています。
2015年が構成通貨の5年ごとの見直しの年に当たっており、これを逃すとまた5年間待たなくてはなりません。前回の2010年のときは、米国が拒否権を行使して阻止しました。
SDRに選抜されるときの条件はまとめると2つあります。1つが規模(量)であり、中国人民元の場合、これは問題にはなりにくいと思います。2つめが「国際通貨」であると認められることです。そのため、中国は急速に人民元の国際化を念頭においた改革を進めています。
■上海株式市場の活況より人民元の国際化を優先する中国政府
さらにいうと、中国政府は人民元の国際化に必須の金融市場の自由化も進めています。たとえば金利の自由化です。中国の金融市場も、昔の日本の金融市場に似て規制があります。貸出総量に対する規制もそうですが、金利の規制もあります。従来の規制では、中国の預金と貸出の金利差は約3%とされていますが、金利を自由化するとこれが縮小することになります。つまり、金融における自由化によって銀行の収益が落ちることにつながる。これは、実は上海の株式市場にとってはマイナスの要素です。
上海株式市場は、この1年間で2.5倍になるなど世界でも最も上昇しました。この上海株式市場の特徴は取引において個人取引の割合が 7〜8割と多い他、株価総額の約6〜7割が、社数にして14、比率にしてわずか約1%の銀行が上場企業全体の純利益の約6割を占める。いびつな収益構造となっています。
こうした株式市場において、金融の自由化・人民元の国際化を進めていくと、上海株式は下落する可能性が高い。この動きは構造的なものでなかなか止まらないでしょう。しかしながら、中国政府は、上海株式の活況よりも人民元の国際化を進めていくという政策判断をした可能性が高いのです。つまり、株式市場よりも人民元の国際化を優先する覚悟を決めたのです。李克強首相は「個別の案件は市場の原則に基づき処理する」と債務不履行(デフォルト)を容認する姿勢をも表明しています。預金保険も導入しましたが、これはまさに痛みを伴う覚悟を決めたということです。
このように現在、中国は10月のIMF総会に向けた人民元の国際化を進めていますが、もっとも問題となるのは、前回5年前に拒否権を使った、すなわち対立する米国への対応です。現在、米国とはAIIB(アジア・インフラ投資銀行)でも激しく対立しています。
米国と中国は、両国間の経済的な懸案を話し合うために年1回開催される第7回「戦略・経済対話」で、人民元について集中討議しました。その際、米国のルー財務長官は中国に通貨・人民元の為替制度の改革を迫りました。同氏はその中で「中国の為替介入は昨年の対話以来、相当減った」と中国の改革姿勢をある程度評価しました。一方で「さらなる為替制度の改革が重要だ」と念押しし、人民元の資本取引を自由化する必要性に言及しました。米国は、人民元をドルや円などと同様に「自由に取引できる通貨」すなわち国際通貨にするよう、中国に改めて改革を迫ったのです。これに対して、中国側も改革の計画を説明した模様です。
この会合における米国の意向がどこにあるのか、筆者には判断がつきかねます。米国側の意向が、IMF総会において賛成するための条件を示したと認識していいのか、いうなれば賛成が前提なのか、あるいは今回も反対が前提なのか、が読み切れません。人民元の自由化を単独で要求するとも考えにくいのです。この辺の駆け引きが大事な点なのです。本件については10月のIMF総会までは目が離せません。
人民元の国際化に対してはAIIB(アジア・インフラ投資銀行)も今後、さらに重要な役割を果たす可能性があります。筆者は、中国がAIIBのモデルとしたのは米国が第2次世界大戦の戦後復興のために実行した「マーシャルプラン(Marshall Plan)」であると認識しています。その時、米国は、米国の有力商業銀行(プライムアメリカン)と協力し、資金を「米ドル」で供給し、ドルの基軸通貨化に大きく貢献しました。マーシャルプランは主として欧州向けでしたが、他国に対しても行いました。
筆者が中国の政策担当者であったら、当然、中国も「人民元」で資金を供与したいところです。しかも、中国は四大国有銀行(中国農業銀行・中国建設銀行・中国銀行・中国工商銀行)の現地支店をメインに人民元の決済銀行として、すでに世界各地に配置されています。AIIBにおいて人民元による資金供給が実施されれば、人民元の国際化はさらに進むことになるでしょう。
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