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『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(筒井淳也/中央公論社)
なぜ日本は働きづらく産みづらいのか? 少子化は女性が働くからでなく女性が働けないせい
http://lite-ra.com/2015/06/post-1232.html
2015.06.30. リテラ
埼玉県所沢市が今年度から採用した「育休退園」の制度が、大きな注目を集めている。これは、保育園に0〜2歳児を通わせている母親が第二子を出産して育児休業を取得した場合、園児を原則退園させるというものだ。待機児童問題解消のために講じた策で、母親が社会復帰する際には第一子、第二子ともに同じ保育園に入所できるように優遇するとしているが、待機児童の抜本的な解決になっていないと指摘する声も多い。
さらには「保育園に入りたい入りたいって子どもが思っているかというと、きっとそうじゃない。子どもはお母さんと一緒にいたい。特に小さいころはきっとそうだろう」という藤本正人所沢市長の発言が母親たちの神経を逆なでしている。
市長の発言のように、出生率の低下や待機児童問題などの子どもに関する社会問題が巻き起こった際には、度々「男が外で働き、女性が家で子どもを育てるべきだ」という意見が吹き出す。では、旧来の「男性だけが稼ぎ手」社会の復活こそが、子育ての諸問題や未婚率の上昇を解決するかといえば、そうではない。
そもそも働くかどうかを女性個人が決められない社会はおかしいというのが大前提だが、バブル崩壊後から現在まで尾をひいている不景気が「男性だけが稼ぎ手」の社会を難しくしている。1980年代から2010年の雇用形態の推移を見ると、男女ともに正規雇用は減少し、非正規雇用が増加している。景気が上向きとは言われているが、正規雇用では企業の体力が持たないのだ。さらに、少子高齢化社会で不安視されているのが労働力の不足だ。
こういった社会で結婚し、子育てをしていくには、共働きが一番有効で現実的な選択だといえよう。しかしながら、現在の日本は子どもを持つ共働き夫婦に、実用的な制度は少ない。なぜ他の国では子育て制度の充実が着々と進むのに、日本では共働きが厳しいのか。『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(筒井淳也/中央公論社)では、データを多用し考察している。
日本とは時代は重ならなかったものの、長らく不況にあえいでいたヨーロッパ諸国と北米。しかし、方針こそ違えど、アメリカとスウェーデンは、女性の労働参加率が高いまま、出生率の低下に歯止めがかかっている。
どういう状況がそれを可能にしているのだろうか。まずはスウェーデン。高負担・高福祉で知られるスウェーデンは、女性の働き方にも大きな特徴がある。それは「所得を得ている女性の実に五割以上が公的に雇用されている」ということ。育休や育児給付金などの充実した制度が、女性たちの出産を後押ししていることは想像に難くない。
スウェーデンとは180度異なる、低負担・低福祉のアメリカでは民間企業が主体となって自宅勤務など柔軟な働き方を推し進め、出産後の復職を短くするなど、男女ともに働きやすい環境が広がっているという。
一方で、「男性が稼ぐ」社会を維持し、女性の雇用を広げなかったドイツでは、出生率が伸び悩んでいる。
ここで浮き彫りになるのは、日本では政府も民間も女性の労働参加ための策を講じてこなかったという姿勢だ。そのため、女性が共働きをポジティブに捉える風潮は弱く、安定した所得を持つ男性が見つかるまで、結婚を延期して両親と同居する人が多かった。著書はそれこそが晩婚化の要因ではないかと推測している。
現在では日本でも共働き夫婦がスタンダードになり始めているが、本書では「共働き戦略が有効であるには、女性がそれなりの高い賃金で長く仕事を続けられる、あるいは労働市場が柔軟で、女性が出産を機に一度仕事を辞めても、ある程度条件のよい仕事に復帰できる、という見込みがなければならない」と指摘。
では具体的にどんな支援が望ましいかというと、大きく分けて両立支援と家族支援が挙げられる。両立支援とは、保育サービスや育児休業制度の充実、そして女性が働きやすい労働環境への転換など。これまでは女性の出産前後と乳幼児期を想定した制度が多かったが、「仕事を続けたい女性にとっての最大の困難は育児休業が終わったあとにやってくる」。長時間労働や「小1の壁」など、問題は山積みだからだ。
もうひとつの家族支援とは、児童手当や教育費補助を指す。就労していない配偶者への扶養手当も家族支援に含まれるのだが、著者は扶養手当は「就労に対してディスインセンティブになる」ため、家族支援は子どもに対する支援を優先すべきと結論づけている。
日本の制度はいまだその場限りの対応で、点と線がつながらない状態だ。長期的な施策が求められているのに、所沢市長の発言を見ると現実離れした古びた思想の蔓延こそが、制度充実の鈍足の原因になっていることがつくづく感じられるだろう。
(江崎理生)
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