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日本郵政本社が所在する日本郵政ビル(「Wikipedia」より/Ons)
巨人・ゆうちょ銀行上場、「業界の脅威」批判のデタラメ 他行と「やり合う」ノウハウなし
http://biz-journal.jp/2015/06/post_10533.html
2015.06.29 Business Journal
※前回記事はこちら
6月22日付記事『巨人・ゆうちょ銀行上場、民業圧迫批判のデタラメ 金融業界の脅威になどならない』
http://biz-journal.jp/2015/06/post_10449.html
6月26日、日本郵政の西室泰三社長は定例会見で、今秋予定している日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ3社の株式上場について、30日に東京証券取引所へ本申請を行う意向を表明した。この3社はもともと日本郵政公社の郵便、郵便貯金、簡易生命保険の郵政3事業で、2007年10月に解体・民営化された。同事業には以前から「民業圧迫」という批判がつきまとい、日本郵政へは宅配便、ゆうちょ銀行へは金融機関、かんぽ生命へは生命保険の各業界が事あるごとに「民業圧迫」を口にしては政府にプレッシャーをかけてきた。それはおそらく上場後も変わらず、今後も過去を背負いながら批判され続けるのだろう。
とりわけゆうちょ銀行は、以前から「郵貯が民間金融を圧迫している」と言われ続けてきた。1人1000万円という上限枠はあるが、郵便貯金、特に定額貯金は郵便局の窓口で個人預金をどんどん吸い上げ、預金集めに四苦八苦する他の金融機関から目の敵にされてきた。そんな過去の経緯がある上に、ゆうちょ銀行は全国に約2万4000カ所の郵便局網、民間最大の三菱UFJフィナンシャル・グループの預金残高約153.3兆円をしのぐ郵便貯金残高約177.7兆円を有し、運用資産は205.8兆円とメガバンクの総資産とほぼ肩を並べるという規模を誇る。その「巨人」がまもなく上場するというのだから、他の金融機関にとっては気になる存在だろう。
だが、ゆうちょ銀行が他の金融機関にとって「最強の敵」になるかというと、現状ではどうしても疑問符がつく。
■ゆうちょ銀行の住宅ローンは「すき間産業」
ゆうちょ銀行は2008年5月からスルガ銀行と提携して住宅ローンに参入している。これは契約を取り次ぐ「代理店」の立場だが、もし個人向け貸付が金融庁から新規事業として認められれば、郵貯資産を使った住宅ローンの貸付ができるようになる。それが銀行など他の金融機関にとって脅威になるともいわれている。
現在の住宅ローン「夢舞台」は、銀行のそれと同じではない。良くいえば「弱者の味方」、悪くいえば「貸し倒れリスクの高いローン」である。例えば年金生活者、自営業、派遣社員や契約社員、転職したばかりの人、独身女性など、銀行などが取り扱う一般の住宅ローンを申し込んでも審査がなかなか通らないような人でもローンを組める可能性が高い。その代わりにローン金利が高くなっている。貸し倒れリスクを金利の中に織り込んでいるためである。それでも毎月の返済額が抑えられる50年の超長期ローンまで揃っている。
このローンを設計したのはスルガ銀行だが、住宅取得を目指す人の目には「郵便局は最後のよりどころ」と映っている。銀行の審査に落ち続けても「まだ、郵便局がある」という「最後の貸し手」だ。かつてリーマンショックの頃、「郵便局の住宅ローンは日本版サブプライムローン」と、その危険性を取り沙汰する報道さえなされた。
こうしたタイプのローンは、「一定以上の規模の企業に5年、10年勤めている正社員」が審査に通る目安のようになっている普通の住宅ローンにとっては、まったく脅威ではない。金利が異なる上に、利用者層もほとんど重ならないからだ。現在のゆうちょ銀行の住宅ローンはいわば、他の金融機関が取りこぼしているようなニッチな部分をすくい取っている「すき間産業」といえる。
このように「すき間産業」のイメージが定着しているので、金融庁から自前で個人貸付ができる認可を受け、他の金融機関と同じ条件の住宅ローン商品を揃えられたとしても、2万4000の郵便局網をフル稼働させてどんどん貸し込んでシェアを急速に拡大するとは考えにくい。100円ショップに1000円の商品を置いても売るのが難しいように、独自のビジネスモデルで同業他社と棲み分けができていると、その棲み分けの壁を壊すのが難しいからだ。
例えば、ゆうちょ銀行では現在、金利が安い「フラット35」の住宅ローンも取り扱っているが、スルガ銀行が独立行政法人住宅金融支援機構と提携していて他の金融機関と審査条件がまったく同じなので、審査に落ちた人から「郵便局なのに、なぜダメなのか?」とクレームが寄せられることがあるという。今後、自前で設計した住宅ローンを始めても、これまでの「弱者の味方」イメージが無用の誤解や偏見や批判を生んでしまう恐れがある。
こんな調子では、よほど魅力のあるローン商品でも設計・開発しない限り、ゆうちょ銀行の住宅ローンは他の金融機関にとって、とても脅威にはならないだろう。
■企業貸付で「メーンバンク」になれない理由
ゆうちょ銀行は一般の銀行と同じような企業貸付も新規事業として申請しているが、まだ認められていない。その意味では、ゆうちょ銀行は、まだ完全な「銀行」ではない。だが、もし認められたとしても、他の金融機関にとって脅威になるだろうか。
メガバンクや地銀にとって最大のミッションは、「必要な資金を供給して取引先の事業を大きく発展させる」ことである。取引先の社業を成長させるために、相談相手になって財務だけでなく経営全般にわたって幹部にアドバイスし、信頼関係を築いて時には厳しいことも言う。知恵を絞り、さまざまな金融手法を駆使して事業を支援する。それができるようになるには、「メーンバンク」として取引先金融機関の中でイニシアティブをとれるようになることが条件だ。
かつて郵貯資金は旧大蔵省(現財務省)資金運用部への全額預託を義務づけられ、2015年3月期決算で運用資産の51.8%を国債で運用し、貸出金の比率は1.3%しかないゆうちょ銀行に、そこまでできる人材はどれぐらいいるだろうか。現役の銀行員をヘッドハンティングすればいいといっても、実績のある支店長クラスを誘うだけでは不十分で、その人の手足となって働くような有能な若い人材も多く揃えなければ成功は望めない。そこまでやっても、企業貸付の実績がほとんどないゆうちょ銀行が取引先の信頼を得てメーンバンクになれるかというと、心もとない。
人材の一本釣りでは時間がかかるばかり。本気でやろうと思えば、業績や財務に不安がある中堅クラスの地銀を丸ごと買収し、そこがメーンバンクになっている既存の取引先、営業組織、人材、企業貸付のノウハウと管理のシステムを一気に吸い取ってしまうぐらいの「ウルトラC」が必要になるだろう。
上場すれば資金面でM&A(合併・買収)はやりやすくなる。もし1行でもそんな丸のみ買収に成功すれば「ゆうちょ銀行による買収の脅威」「進撃を始めた巨人」は金融業界を震え上がらせる。
しかし、いくら地銀再編に熱心な金融庁といえども、「ゆうちょ銀行と地銀の合併」をすんなり認めるとは考えにくい。というのは、ゆうちょ銀行には郵政民営化法で「同業他社への配慮義務」という縛りがかかっているからだ。このあいまいな文言はいかようにも解釈でき、監督官庁は日本郵政グループ各社への行政指導に利用することができる。
行政が首を縦に振らず、ゆうちょ銀行による「銀行丸のみ買収」ができなければ、メーンバンクになれないゆうちょ銀行には企業貸付のノウハウがなかなか蓄積しない。そうすれば人材も育たず実績もできず、取引先金融機関の中でイニシアティブを取れない3〜4位ぐらいのポジションからなかなか抜け出せずに、メーンバンクへの道は遠いままだ。それでは「企業貸付も一応やっています」という程度にすぎず、この分野で大きな収益を得ることはまず望めないだろう。
これはという企業に狙いをつけて食い込み、メーンバンクの座をかけて他の金融機関と丁々発止とやり合う「食うか、食われるか」という競争。それが企業貸付という「銀行員の戦場」である。ゆうちょ銀行が協調してリスクを分け合ったり、中小企業育成の官民ファンドに出資する程度にとどまるなら、とても彼らの脅威にはならないだろう。
■「企業」の部分は、まだ歩き始めたばかり
以上みてきたように、ゆうちょ銀行が他の金融機関にとって脅威になるという可能性は低いと考えられるが、もしいろいろな縛りが解けても、「金融企業」として一人前になるにはどうしても時間がかかる。
民間の金融機関は、資金決済を行って経済社会を円滑に維持する「機関(エージェンシー)」の部分と、個人や企業への貸付や金融商品、保険の販売を行って利益をあげる「企業(エンタープライズ)」の部分とを併せ持っている。ゆうちょ銀行は「機関」のシステムはきちんとできているが、「企業」の部分は歩き始めたばかり。誤解を恐れずにいえば、まだ子どもだ。「ゆうちょ銀行の脅威」を煽るというのは、大人の間で「子どもは怖い」と言っているようなものである。
もちろん、「アンファン・テリブル(恐るべき子どもたち)」ではないが、子どもにはどんな大人になるかわからない潜在的な恐ろしさはある。だが、それには時間がかかる。ゆうちょ銀行が上場して新規業務が認められても、いきなり金融業界を引っかき回すことは、実際には考えにくい。
子どもを敵視するのは大人げない。子どもは、育つのを温かく見守ってあげることが必要だ。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)
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