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焦点:「緩い」財政再建計画とQQE、注目度高まる日銀のスタンス
2015年 06月 26日 06:35 JST
[東京 26日 ロイター] - 政府が新たに示す財政健全化計画に対し、市場関係者の多くは、歳出膨張に対する歯止めが「緩い」との見方を示している。一方、政府部内には、財政再建の前提として長期金利の低位安定があるとし、日銀の量的・質的金融緩和(QQE)継続に期待を寄せる。
日銀の出口政策に関する決断次第では市場の大きな変動も予想され、日銀の政策判断に対する市場の注目度は一段と高まりそうだ。
<歳出膨張の歯止め、与党内からも「穴だらけ」の声>
政府が22日の経済財政諮問会議に示した経済財政運営の指針となる「骨太の方針」の素案では、財政健全化目標として2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化を明記しつつも、成長重視による税収増を財政再建の柱とし、明確な歳出削減目標を示さなかった。
その一方、2018年度までの3年間に一般歳出の増加を1.6兆円に抑制する目安を盛り込むことを決めた。
ただ、与党内には3年間での目安となったことで、16年度予算編成を直接的に制約しないとの「解釈」が早速出ており、「穴だらけに見える」との声もある。
<財政再建の前提、低い長期金利>
財務省によると、仮に2016年度以降に長期金利が想定よりも2%上昇した場合、国債費は同年度に2兆円、17年度に4.8兆円、18年度に8兆円も増加。消費増税3%分が吹き飛ぶ計算だ。
日銀によると金利が全年限にわたって1%上昇した場合、金融機関の保有国債に7.5兆円の含み損が発生する。
政府部内では、2020年度のPB黒字化を実現するには、長期金利の低位安定が不可欠の条件であり、日銀の量的・質的金融緩和の継続が暗黙の前提になっているとの声が漏れる。
<市場に根強い「遠い出口」論>
一方、日銀は2%の物価目標達成に全力を尽くし、安定的に推移するまでQQEを継続すると何回も明言してきた。言い換えれば、安定的に2%の物価で推移していると判断すれば、現行のQQEを停止ないしは修正することになる。
だが、マーケットでは日銀に出口政策に向うフリーハンドはないという突き放した見方が少なくない。みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「日銀が急激な緩和縮小で、市場を壊すことは考えられない」と予想。早期の緩和縮小の可能性はないとの立場だ。
また、国内金融機関関係者の1人は「財政再建の着実な進展が予見できる状況にならなければ、国債買い入れの縮小が不測の金利急騰をもたらす恐れがある。財政状況と無関係ではいられない」と述べる。
さらに悲観的な予測もある。日銀に近い関係者は、PB黒字化が達成できなければ、財政への信認が揺らぎ、長期金利上昇の圧力が高まるだろうと予測。「その際は、長期金利を名目成長率以下に抑えるべく、日銀に対する緩和圧力が高まりかねない」と危惧する。
実際、政府・与党関係者の一部からは、足元で低金利が継続し、円安・株高で市場が安定していることもあり、財政再建を急がず、新規国債発行による景気刺激を優先してもいいのではないか、という主張も出てきた。
だが、こうした動きには「表向き市場は何も変化がないかもしれないが、(市場変動の)マグマはさらに蓄積される」(みずほ証券の上野氏)と警鐘を鳴らす見方も出ている。
<2%達成時、試される日銀の本音>
アベノミクスと日銀のQQEは、今後、どのような軌跡をたどるのか。富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川英男氏は「悲劇は日銀が2%の物価目標を達成した時に起こる」と指摘する。
その際、市場が財政の持続可能性を信じていなければ、日銀の国債購入中止によって国債価格が急落すると予測。
他方、買い入れを続けても急激な円安とインフレ加速のスパイラルに陥るとし、「市場の大混乱が避けられない」と予測する。
政府がQQEを事実上、不可欠のピースと位置付けていることで、日銀の苦悩が深まりつつある。
さらに不幸なことに、QQEの成果で2%達成がかなり早く実現することになると、金利上昇圧力が高まって、出口政策に向かわせないようにする政治的な力が働く公算が大きい。
日銀にとって、政府の財政再建計画の中身と市場反応、現実の物価動向という3つの変数の動向が、今後の政策の行方を大きく左右する。黒田東彦総裁率いる日銀は、これから物価目標達成を含めて「胸突き八丁」にさしかかる。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0P52QH20150625
コラム:日米欧株価の「サマーラリー」は続くか=岩下真理氏
2015年 06月 25日 14:21 JST
岩下真理 SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト
[東京 25日] - 6月第4週は、ギリシャ支援協議が近く合意する期待を背景に日米欧の株価は一気に上昇。ナスダックは史上最高値を更新、日経平均はITバブル時の高値をついに抜けた。
米国では、7月4日の独立記念日から9月第1月曜日のレイバーデーまでの夏場に、株価が上がりやすい現象を「サマーラリー」と呼ぶ。それに対して日本では、お盆休みなどで薄商いとなり、株価が冴えない「夏枯れ相場」の方がとかく意識されやすい。
このような日米株のキャッチフレーズの乖(かい)離は、過去のデータが如実に物語っている。1950年以降のNYダウの月平均上昇率を見ると、5月マイナス0.12%、6月マイナス0.40%、7月プラス1.33%、8月0.0%、9月マイナス0.70%、10月プラス0.44%となる。
「Sell in May (5月に売り逃げろ)」の格言通り、5―6月が下落した後、7月は上昇しやすい傾向は読み取れる。直近5年での月平均上昇率では、6月マイナス0.32%、7月プラス1.66%、8月マイナス1.85%だ。
その一方で、1980年以降の日経平均の月平均上昇率を見ると、5月プラス0.01%、6月プラス0.16%、7月マイナス0.28%、8月マイナス0.54%、9月マイナス1.08%、10月マイナス0.60%と夏から秋にかけて冴えない状況が続く姿となる。
しかし今年の場合、利上げが視野に入ってきた米国に比べると、日本の株式相場の方が熱くなりそうだ。企業業績の改善やコーポレートガバナンス強化への期待に加え、7月にかけて払い込みが集中する配当資金の再投資、国内では夏季ボーナス増加による資金流入も期待されるからだ。
日本の場合、欧米との比較感(金融政策の方向性、政治情勢、企業収益への期待)、アベノミクスが長期安定政権かつ経済最優先を旗印に動いている点が、投資妙味ありと選好され続ける理由となる。ここでは今夏の材料を簡単に整理してみたい。
<ギリシャ以外にもある欧州の注目点>
まず、今夏の欧州での注目点は3つある。一番目は、いわずもがな、足元のギリシャ支援協議だ。合意内容にもよるが、新たな支援期限がまだ明確になっておらず、8月末までの債務返済が可能なものかを確認する必要がある。
デフォルトリスクが完全に払拭された状況とは言えない。支援先送りで目先はいったん材料視されなくなっても、次なる期限が近づくタイミングでは、2月時、今回6月時と同様に市場は不安定な動きを繰り返すことを想定しなければなるまい。また、足元の想定を上回る日本株上昇は、先週までギリシャ不安で積み上がった空売りの買い戻し主体の動きであり、買い戻し一巡後は新たな材料を探しにいく展開が見込まれる。
二番目の注目点は、4月下旬以降見られるユーロ圏債券相場の調整の行方だ。4月下旬から5月までは、ドイツを中心に長期金利が急上昇したものの、6月に入りギリシャ不安を背景にリスクオフ相場になると、ユーロ圏の周縁国からコア諸国の国債に資金シフトが進んだ。
ドイツとフランスでの長期金利低下は、まだ明確なトレンド転換ではなくショートカバーの色彩が強い。よって、ドイツの物価上昇率のプラス転換で始まったアンワインド(巻き戻し)の流れは、今後数カ月の物価上昇率のテンポが加速せず、徐々に落ち着いてくることを確認して、ようやく一服することがイメージされる。
三番目の注目点は、昨秋から今春にかけて堅調な動きを見せてきたドイツ経済だが、マインド指標が鈍化し始めていることだ。4月分の輸出、生産、小売売上高の実体面の数字は良かったが、6月のIFO景況指数、ZEW景気期待指数はともに低下し、勢いがなくなりつつある。前述の物価上昇率と合わせて、欧州中央銀行(ECB)が2016年9月まで国債買い入れプログラムを継続していくことを裏付ける経済状況と言えるだろう。これが近い将来、市場の安定化に作用することが見込まれる。
<米利上げ判断は7月末の指標待ちか>
次に、米国の金融政策と経済状況について整理しておきたい。ギリシャと並ぶ、今夏最大の注目材料と言っていいだろう。
6月16―17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では声明文とイエレン連邦準備理事会(FRB)議長会見を通じて、利上げは指標次第であることを強調し、政策金利見通しで年内利上げの姿勢を維持しつつも、利上げペースは緩やかである点を明確に示した。
イエレン議長は会見で「重要なことは、FOMCは利上げ開始の適切な時期について何ら決定していないことだ。今後数カ月で発表される指標次第となる。ただ年内の利上げは可能だ」と強調。その上で「失望を招く第1四半期の景況がおおむね一時的なものとの見方だが、緩やかなペースで経済成長が続くことを示す、より確かな証拠をわれわれは確認したい」と述べた。
なお今回は「賃金の伸びが加速しているとの暫定的な兆候は出ている」と前向きに変化を語っている。イエレン議長発言を素直に読めば、インフレ率が2%目標に向かう自信を持つためには、まずは賃金が下げ止まること、労働市場の改善(失業率の低下)が続くことが必要だと筆者は考える。
よって、重要指標は、月次データなら雇用統計(6月分は7月2日、7月分は8月7日、8月分は9月4日発表)、賃金の先行指標となる四半期データの雇用コスト指数(4―6月期分は7月31日発表)となる。
筆者は前回5月21日配信コラム(here)で、「7月30日発表の4―6月期国内総生産(GDP)速報値では、年次改定が実施されるため過去にさかのぼり数字が修正される。この数字を見るまでは、米国経済の実力を判断することはできない」と指摘した。
前述の雇用統計、雇用コスト指数の改善持続に加え、7月30日発表のGDP年次改定により4―6月期の持ち直しが確認できれば、9月利上げの可能性は十分あると筆者は見ている。7月30―31日の重要指標を見ずに利上げ時期を決め打ちするのは時期尚早であり、FRBもこれらを見て判断を固める可能性が高いだろう。それ以外に7月と言えば、4―6月期の企業決算発表シーズンであり、ドル高の影響を見極める材料も揃う。
今回のイエレン議長会見ではドル高の影響について、「見通しに影響を与える数多くの要因の1つに過ぎない」と述べており、前回3月に悪影響を指摘した時と比べると、トーンダウンした印象を受けた。1―3月期と同様、当初の業績見通しは弱めでも最終的には上方修正されて着地するなら、高値警戒感のある株価は適度な調整でとどまることが可能だろう。
またFRBは、利上げペースが緩やかなことを市場に十分に織り込ませて、利上げ開始時の市場混乱を回避したい意向がうかがえる。利上げを織り込んでもなお、米長期金利が2%台半ば程度にとどまっているようなら、米株の急落は回避できると予想する。
なお、毎年恒例の半期に1度のFRB議長議会証言は7月15日に行われると発表された。8月下旬のジャクソンホール会合不参加のイエレン議長だけに注目度は高い。ただし、7月末発表の重要指標を見ない段階では、まだ自信を深めていない可能性は高そうだ。
また、例年通り7月中に国際通貨基金(IMF)が世界経済見通しの改定を発表しても、年次改定の数字が織り込まれていないものである点は念頭に置きたい。
<中国株「6月下落・7月上昇」のアノマリー>
世界経済見通しでの下振れリスクは、アジア主体の新興国にある。5月分の中国指標は、生産はわずかに上向いたが、不動産を中心に投資が一段と鈍ったほか、輸出入ともに大きく落ち込んだ点が気になる。
輸出の不振(前年比マイナス2.5%)は、人民元高と世界経済の低迷が主因。輸入の落ち込み(同マイナス17.6%)は、商品価格の下落に加え、内需低迷を反映したものだ。中国経済は、輸出と輸入の相関係数が非常に高いという特徴を持つ。中国経済の弱さを反映し、非鉄金属相場も軟調な動きとなっており、残念ながら世界経済の体温は高まっていない。中国輸出入動向の弱さは当然ながら日本に悪影響を与え、日本の生産、輸出の持ち直しは4―6月期に一服することが見込まれる。
5月分までのデータから、中国政府の2015年目標である成長率7%前後、貿易の伸び6%近辺の達成が難しくなりつつある。ただ、中国が北京オリンピック(リーマンショック)後、2桁成長から安定成長への移行期となってから、年前半の経済が想定よりも減速感が増すと、後半に持ち直せるように、年半ばまでには当局が政策対応を講じるパターンが繰り返されている点には留意したい。
その流れを反映するように、2009年以降の月平均上昇率を香港ハンセン指数と上海総合指数で見ると、前者は6月マイナス0.79%、7月プラス5.06%、8月マイナス2.88%、後者は6月マイナス2.35%、7月プラス4.30%、8月マイナス3.91%となる。
6月下落後の7月は上昇、8月はまた下落というパターンだが、6月の下落幅より7月の上昇幅は大きいようだ。7月の隠れたアノマリー(経験則)として、相場を動かす材料となりそうなので、中国動向には注意すべき時間帯となろう。
以上まとめれば、今夏も米欧中の動向に目配りが必要ながらも、日本の相対的な投資妙味に長期的な資金需要がついてくることで、日本株の底堅さを認識できる時になると、筆者は考えている。
*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0P506320150625
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