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昔は赤か黒しかなかったランドセルが、今や色もデザインも豊富に 写真提供:ふくふくらんど
少子化なのに、ランドセル市場が伸び続ける謎を解く
http://diamond.jp/articles/-/73808
2015年6月26日 岩崎剛幸 [船井総合研究所 上席コンサルタント] ダイヤモンド・オンライン
来春の新入学のランドセル商戦に異変が起きています。
5月のゴールデンウィークを前にして、流通業各社の大型店舗でのランドセルの品揃えがほぼ出揃ったのです。私もいくつものテレビ番組から取材を受けましたが、各局からの質問は一つです。
「少子化の時代に、なぜランドセルがこんなに注目されているのですか?」
ランドセル市場は確かにここ数年、盛り上がりを見せている市場の一つです。しかし、ランドセルは職人さん手作りの商品もいまだに多い、アナログで昭和の香りのする小さな市場です。この市場がなぜ今、注目されているのか…。
2012年のオープン以来、集客を伸ばし、今や全国から「ランドセルを買うならココ!!」と注目されている専門店があります。今回は、同店の取り組みを通じて、少子化の時代に「売れる企業」になるためのヒントを掴みたいと思います。
■毎年早まるランドセル商戦
「ランドセルは4月に使うものだから、年明けの2〜3月に用意すればいいか」
と考える親は、日本にはもういないでしょう。年明けには「欲しいランドセルはもうない」ことをみなさん知っているからです。
ランドセルの販売ピークは、「8月」です。
理由は後述しますが、8月にはたくさんのランドセルがすでに「売れて」しまい、小売側も受注の大半を終えてしまうことが多くなるのです。
今年のゴールデンウィーク。盛り上がったのは海外旅行や外国人観光客による「爆買い」のインバウンド消費ばかりではありませんでした。百貨店やGMS(※ゼネラルマーチャンダイズストア、総合スーパー)各社のランドセル売場に、人がどっと押しかけたのです。なぜなら、都心の百貨店や大手GMSには、例年より2〜3ヵ月前倒しでランドセル売場が作られ、ゴールデンウィークには本格的な販売を開始したからです。
東京・表参道にあるセイバンの直営店
また最近の傾向では、ランドセルメーカー自らが直営店を開発するケースも増えています。
ランドセル製造大手のセイバン(兵庫)は、東京・表参道や名古屋などに直営店があります。鞄工房山本(奈良)も銀座と表参道に、ハシモト(富山)は代官山や池袋・梅田などにショールーム兼店舗をオープンさせています。まるでファッションブランドのような出店立地に、ランドセルメーカーの直営店が続々と誕生しているのが現状です。
このような中で、実は地方の小さな専門店が話題になっています。
地方の商店街にありながら、驚異的な集客力で都内の百貨店並にランドセルを販売しているのです。今や単店のランドセル販売では、伊勢丹新宿店、阪急うめだ本店などと並んで日本のトップ3に入り、日本全国に知れ渡るようになりました。全国各地からランドセルを買いに足を運ぶお客様がいるほどで、ピーク時には店内に入りきれないほどの盛況ぶりです。この小さなお店に人が集まる理由とは、一体どこにあるのでしょうか。
そのお店「ふくふくらんど」のランドセルへの取り組みを見ることで、ランドセルを取り巻く市場の変化が分かってきました。ランドセル活況の背景には、一見するとマイナスワードである「少子化」が深く関わっているのです。
■きょうだい購入率、ほぼ100%の「ふくふくらんど」
「ふくふくらんど」は、石川県金沢市に隣接する白山市にあるランドセル専門ショップです。
写真提供:ふくふくらんど
同店を経営するのは、株式会社フクズミ(福住裕社長)という創業90年を迎える老舗企業です。もともとは婦人服の専門店として地元密着の経営をしてきて、現在も本店で婦人服の店舗を経営しています。そして立地は、ほとんど人通りのない、いわゆる地方の商店街です。
花はあるけど人はいない
昔の衣料品店は、地域のよろずや的な位置づけでもあったため、どの店も学童用品を揃えていました。同店でも婦人服の横で、学生服や体操服、上履きや鉛筆などを販売していました。しかし、当時はあくまでも「ついで」。お客様が自分の洋服を購入するついでに、入学を控えたお子さんの学校用品を買っていたのです。ランドセルはそんなアイテムの一つでした。
そして同社の将来像についてあれこれ検討していた2012年、同社の福住社長は「ランドセルを一番化する」と決めました。その理由はいくつかありました。
マーケットは小さい(当時、500億弱の市場)ながらも、毎年安定した市場が存在することや、売上が小さいなかでも伸び始めているアイテムだったことです。しかし一番の理由は、ランドセルを購入していくお客様が「今までに見たことがないほど喜んでお買い上げいただき、しかもお礼まで言ってくれるような商品だった」(福住社長)からです。
ランドセルの販売ピーク時にごった返す店内
入学後に写真を持ってお礼に来てくれる…。ランドセルを背負うお子さん以上に、その親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんたちが感激する商品であることを福住社長は知りました。これが同社の品揃え強化の一番の決め手となりました。
しかしランドセルという商材は、非常にクローズドな世界で成り立っていました。同社はもともとお付き合いのあった鞄問屋さんの廃業により、ランドセルが手に入らなくなります。その後、いくつかのメーカーから仕入れをしますが、また廃業。商品を安定的に仕入れられる状態になるまで3年ほどかかりました。それでも結果的に品揃えが充実し、5坪ほどの売場ではありましたが、2010年には年間100個を超える販売実績となったのです。
この頃から、主に接客の良さが口コミで広がり、売場にはたくさんのお客様が集まるようになってきました。
おじいちゃん、おばあちゃん、ご両親、ご本人とその兄弟姉妹という一家族6〜8人くらいのグループでやってくるご家族も多数います。更に、同店でお兄ちゃんやお姉ちゃんが買ったら、その弟や妹もほぼ購入するので、きょうだい購入率は100%。
そして、2011年には数百個の販売へと拡大し、ランドセルを陳列するスペースを拡大できなくなったため、やむを得ず新店を開発することになりました。これが2012年に完成した新館、ランドセル専門館「ふくふくらんど」のスタートです。
■ランドセルの多様化で、需要に変化
2012年あたりから、世の中のランドセル需要に変化が表れ始めました。
一つは購入時期の早まり、もう一つはランドセルに求めるデザインと価格ニーズの多様化です。
(1)購入時期の早まり
2009年の販売ピークは1月でした。
これが2010年は12月、2011年は11月、2012年は10月になり、2013年は9月、2014年は8月と、毎年1ヵ月ずつ早まってきています。これには二つの理由があります。
一つは作り手側の「生産量の問題」です。ランドセルとは、国産で職人さんが一つずつ手縫いで作り上げるような職人魂のこもった商品です。一定の生産期間が必要となるため、ある程度の余裕を持って受注しないと、4月の入学式までにお客様の手元に届けられません。そこで事前に注文を受け付けるようになり、メーカーのCMなども前倒しになってゆき、結果的にお客様も早めに商品を購入するようになってきました。これが早期化の一つの理由です。
もう一つは早めの「囲い込み」を大手流通業者が開始したことです。ランドセルは1個購入してしまえば2個は買いません。早めに告知して早めに売場展開し、先に販売した者勝ちとも言えます。ですから大手流通業者が早めに売場を立ち上げて、販売攻勢をかけるようになったことがもう一つの理由です。
(2)品揃えの広がりと購入単価の高まり
ランドセル市場を価格とデザイン性・機能性のポジショニングマップで整理すると以下のようになります。
筆者作成
もともとランドセルが、それほどバラエティのあるアイテムでなかったのは周知の通りです。色は黒か赤で、素材はコードバンや牛革の高級ランドセルか、クラリーノの低価格ランドセルの2〜3種類でした。ところが最近は、まるっきり様相が変わっています。
まずA4クリアファイル、フラットファイルを学校で利用することが増えてきたので、従来のランドセルでは資料が入りづらくなりました。これによって、ランドセルのサイズは拡大化。サイズの変化に合わせて色やデザインもバラエティに富むようになり、今では数十色以上、デザインも数百種類はあるでしょう。
「パープル」に限定しても、こんなに選択肢がある
写真提供:ふくふくらんど
メーカーによっては、ハートのキラキラやアクセサリーをつけたり、内張りの生地を選べたりなど、ランドセルをカスタマイズできる時代になってきました。ランドセルもここまできたかというほどデザイン性が高まっています。
そして、アイテムのバリエーションが広がるのと同時に、ランドセルの購入単価も上がってきました。
1993年からずっと3万5000円前後だった平均単価が、2014年には4万5000円にまで上がってきており、2015年は5万円前後にまで上がると筆者は予測しています。
船井総合研究所調べ
原価の高騰とともに、素材やデザインにこだわるお客様が増えて手間もかかるようになり、単価が上がってきたと言えます。お客様の要望に合うような商品開発をしてきた結果の単価なのです。
そうしたことからも分かりますが、250アイテム以上が並び、日本一の品揃えを誇るふくふくらんどは、買い手側のお客様ニーズの変化に対応して結果的に広がってきたのです。
■「無理に売らない」からこその人気
このような状況だからこそ、ふくふくらんどでは、お客様に「無理に売らない」「高いものを積極的に勧めない」ことを決めています。
例えば、4月になるやいなや「翌年の4月新入学のために購入したい」というお客様もいます。しかし、まだ品揃えが十分ではない時期なので「今日は下見だけにして、商品が十分に揃う7月頃に再度ご来店なさったらいかがですか?」と提案します。
楽しそうにランドセルを選ぶ子どもたち
写真提供:ふくふくらんど
また別のケースでは、おじいちゃんが「どうせなら一番高いものを!!」と言っても、お子さんが「安くてかわいいものが欲しい」と言うなら、「どうぞお子さんのおっしゃるほうを優先してあげてください」と勧めます。お金を支払う親御さんや祖父母の方々の意見を通せば高いものから売れていくわけですが、それでは「お客様のためにはならない」わけです。お子さんたちは、ランドセルを背負う日をわくわくしながら待っているのですから。
「幼稚園の子どもにランドセルは選べない」と思っているのは大人の勝手な先入観で、子どもたちは自分の意見をしっかり持っています。だから、ふくふくらんどでは全てのスタッフが、とにかく子どもの目線に立って接客するのです。商品知識だけでなく、じっくりと時間をかけて、お客様の気持ちに寄り添って接客することを徹底しています。またシーズン外れのランドセルはアウトレット価格で販売し、低価格を希望する方に向けた品揃えも意識しています。
こうした取り組みが、お客様に圧倒的な支持を得ているポイントなのです。
■ランドセルは、単なる買い物でなく「思い出消費」
同店では、ランドセルを購入したお客様がランドセルカバーを買い、傘を買い、体操服、上履き、中学に入れば学生服というように、小学校から中学校までに必要な商品をすべて揃えるまでになりました。日本で唯一の「スクール用品のセレクトショップ」になったのです。
毎年集まるお客様の声
これがクチコミで広がり、「どうせ買うのならふくふくらんどがいい」とお客様に言っていただくまでになり、石川県内だけでなく、富山、福井、最近では東京や名古屋、関西方面からのお客様もいらっしゃるようになりました。
遠方のお客様にとっては、ふくふくらんどで購入することが「レジャー」になっています。石川県白山市のふくふくらんどまで家族総出で来て、ランドセルをじっくり選んで、その後みんなで食事をとって、ドライブしながら家に帰っていきます。
これは単なる買い物ではありません。ランドセルという思い出消費をしながら、家族みんなの思い出もここで作っているのです。
ランドセルを買うこんな瞬間も「思い出」になる
写真提供:ふくふくらんど
そこに、思い出をサポートしてくれるふくふくらんどのスタッフがいて、親身に相談に乗ってくれます。だから、ここで買いたくなるのです。
これがふくふくらんどへ、たとえ何時間待っても、何時間かけても、わざわざ買い物に行く理由です。
今は欲しいモノがなかなかないと言われる時代です。しかし、ランドセルはどうしても欲しい、必要な商品です。
6年間も使い、一生の中で購入するのはたった1回。だからこそ大切な、他では体験できないような買い物の場となるのです。
ランドセルのような思い出消費には、時間もお金もかけていきます。このような機会をこれからのお客様はますます求めるようになるでしょう。
ふくふくらんどで、その体験をぜひしてほしいと思います。それが新しい消費トレンドを生み出すきっかけになることでしょう。
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