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2015年6月25日 永濱利廣
企業業績や株価は堅調でも日本経済の「地盤沈下」が終わらない理由
――永濱利廣・第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト
堅調な企業業績に、2万円台を突破した株価――。アベノミクス以降、日本の景気は回復基調にあると言われる。しかし、真の意味で経済は回復しているのだろうか。世界のGDPにおける日本の比率や1人当たりGDPは、今も低水準に留まっているのだ。第一生命経済研究所 経済調査部の永濱利廣・主席エコノミストは、こうした日本経済の地盤沈下の裏には構造的ないくつもの要因があり、もはや日本企業が好調だからと言って、経済も好調とは限らないという現実に対して警鐘を鳴らす。日本経済は、今後も地盤沈下を続けるのだろうか。
日本のGDPは盛り返したものの……
国際比較で見た地盤沈下の現実
「見かけ」の景気回復基調だけでは、日本経済の真の実力はわからない。事実、国民1人あたりのGDPの水準は低下したままだ
GDPは、一国の経済活動を観察する上で最も総合的な経済指標である。GDPは国の経済規模を示したもので、国内でどれだけの財やサービスが生み出されたかを示す。このため、経済活動が活発になればGDPは拡大し、逆に後退すればGDPは縮小する。このことから、景気判断の際にも重要な経済指標の1つとなる。
日本のGDPは内閣府が公式に推計・公表しており、2007年度には名目GDPで513兆円に達した。しかし、その後はリーマンショックや東日本大震災により、2009年度と2011年度には471兆円と、1991年の水準まで落ち込んだ。2014年度にはそこから若干盛り返して490兆円となったものの、依然としてピークの1997年度から▲6%も低い水準に留まっている。
国際比較をすると、地盤沈下はさらに深刻だ。世界のGDPに占める日本の比率を見ると、1994年時点では17.8%であったが、長期の景気低迷や中国をはじめとする巨大な新興国の台頭、さらには円安などの影響により、14年時点で6.1%にまで縮小している。
なお、国民の豊かさを示すとされる1人当たりGDPで見れば、日本は2013年時点で3万8468ドルとなり、依然として中国の約5.5倍の水準にある。しかし、その1人当たりGDPで見ても、日本は2000年の先進国中第3位の水準から、2013年には同20位まで低下している。
ながはま・としひろ
第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト。1971年生まれ。栃木県出身。早稲田大学卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年第一生命保険入社。日本経済研究センターを経て第一生命経済研究所経済調査部へ異動。研究員、主任エコノミストを経て、08年より現職。主な著書は『日本経済のほんとうの見方、考え方』『中学生でもわかる経済学』『スクリューフレーション・ショック』『男性不況』など。
だが、各国の実質的な国民の豊かさを比較するには、各国の物価水準を考慮する必要があるため、為替レートで換算するのは正確な比較にならない。すなわち、各国の商品やサービスの価格から構成された為替レートである「購買力平価」で比較するのが、より適切である。
より実態に近いとされる購買力平価で換算した場合には、日本の1人当たりGDPは順位が最高となった91、92年でも先進国中12位に甘んじており、その後は順位を落とし、2012年以降は順位を2つ改善させているものの、20位にとどまっている。
内需低迷の真犯人はどこに?
地盤沈下を加速させたグローバル化
こうした日本経済の地盤沈下の背景には、何があるのだろうか。企業の分配構造の変化により、従業員や支払利息への分配率低下と、海外を中心とした設備投資への分配率上昇が見られる中で、内需が低迷してきたという側面がある。
この背景には、新興国の台頭を契機とする経済のグローバル化がある。つまり、(1)製造業の生産拠点や販売市場の国際化、(2)マネーの国際化による資源高、(3)株主構成の国際化、といった要因によって輸出企業が景気回復を主導しても賃金が伸び悩み、内需が盛り上がらない構造が影響してきたと言える。
今世紀以降は、先進国と新興国、資源国が相互に依存する形で世界経済が変動してきており、日本経済も海外経済に影響されやすくなっている。そして、日本企業が新たに生産拠点の海外移転や委託、販売市場のグローバル化を進めてきたことも、内需低迷の一因となってきた。また、販売の面でも人口減少で伸び悩む国内市場を補うため、企業の海外市場の開拓が進み、企業業績の海外依存度が高まってきた。
さらに、海外進出の理由となってきたのが、新興国の人件費の安さや市場の成長期待だけではなく、関税や法人税といった税制面で日本が遅れをとってきたことである。
近年では、各国のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)による貿易や投資の自由化の進展により、人・物・金・サービス・情報の全てにわたって、国境を越える移動を妨げる障壁が低くなっている。
こうした中、日本企業はFTA締結に積極的なASEAN諸国などの生産拠点から輸出を拡張し、日本政府が自由貿易圏の構築に後れを取る中で製造業の空洞化が着実に進んできた。
日本がFTAやEPA交渉で他国に後れを取ってきた原因の1つに、農産品の市場開放問題がある。すなわち、農業従事者の雇用維持や食料自給率低下を防ぐ目的で、一部の品目に高い課税が課されている。しかし、農業では従事者の6割が65歳以上であり、新たな担い手が必要とされているにもかかわらず、他産業に比べて著しく所得が低く、雇用の受け皿としての期待に応える将来像が描けていない。
一方で、所得向上の一役を担うと期待される大規模で効率的な経営を行う法人の数は増加しているが、その進展は不十分であり、数々の制度問題が農業の効率化を抑制している。このように、日本経済の地盤沈下の背景には、農産物市場開放問題も関係していると言える。
EUに見る「法人税パラドックス」
海外に比べてまだ高い日本の法人税
法人税率の高さも我が国経済の地盤沈下を助長してきた。これまで、海外諸国では経済のグローバル化に伴う資本移動の高まりを背景に、国際競争力強化や経済活性化を見据えた法人税率の引き下げが相次いできた。こうした情勢の中で、日本の法人実効税率もようやく2016年度に31.33%まで引き下げられることが決まったが、海外の平均水準と比較すれば依然として5%以上も高い。
こうした中、法人税率引き下げ競争が激しいEUでは、法人税率引下げと共に法人税収の名目GDPに対する比率が上昇する『法人税パラドックス』と呼ばれる現象が見られている。この成功の要因としては、法人税率引下げと同時に課税ベースの拡大を行ったことや法人なりのインセンティブが働き会社数が増加したこと、さらには企業収益が増えて税収が増えたこと、などが挙げられている。
技術立国の日本は、これまで国内で研究開発し、その技術を製品輸出に活かすだけでなく、同時に海外企業から特許料やロイヤリティを受け取る収益モデルに転換してきた。一方、税制面の立ち遅れや規制強化により、日本企業の活力が損なわれてきた。
また、EU域内を個別に見ても、実効税率がEU平均以下の国とEU平均以上の国の実質GDP成長率を比較すると、実効税率が平均より低い国の実質GDPの伸び率は、高い国より約1%程度高くなっている。
一方日本企業は、アジアの税制面での魅力に引き付けられるように、海外展開を加速させてきた。たとえば、タイでは地域統括会社の認定を受ければ法人税率30%を10%に軽減できる。またスイスでも、地域統括会社は法人税率21.17%が5年間5−10%の軽減税率が受けられる。さらに中国では、25%の法人税率が適格ハイテク企業の場合に15%に軽減されることになっている。
日本経済と日本企業はもはや別物
「乖離」は今後も続いていく?
さらに、デフレが長引く中で、日本企業は含み資産経営から脱却すると同時に、利益拡大を優先するスタンスに転じ、人件費の抑制を続けてきた。こうした企業行動の変化も、内需の抑制要因となってきた。
背景には、安価な労働力を大量に供給する新興国企業との競争激化により、世界的に人件費の低下圧力がかかってきたことがある。このため、相対的に賃金水準の高い先進国企業は、海外に現地法人を設立する形で海外進出を行い、国内での雇用者所得が失われてきた。
つまり、日本企業が好調であるからと言って、日本経済まで好調であるとは限らなくなっており、日本経済と日本企業はもはや別物になりつつあると言える。人口の減少と経済のグローバル化により、日本企業は経営のグローバル化を進め、さらに日本経済から乖離していく可能性が高い。
http://diamond.jp/articles/-/73791
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