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万策尽きた?
アベノミクス成長戦略ついに「弾切れ」!「経済最優先で高支持率維持」はもう限界
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43871
2015年06月25日(木) 磯山 友幸「経済ニュースの裏側」 現代ビジネス
■「期待外れ」
政府は6月22日に開いた産業競争力会議で、アベノミクスの成長戦略の再改定版である「日本再興戦略 改訂2015」の素案を提示した。月内に閣議決定して正式に発表する。
毎年この時期に決めている成長戦略は、安倍晋三内閣が今後1年かけて取り組む政策が盛り込まれる。安倍内閣の改革姿勢を示すことになるだけに、株式市場などの注目度は高い。
実際にこれまでも成長戦略の中味で株式相場が大きく動いてきた。2013年6月に最初の成長戦略が出された時には、安倍内閣が初めてまとめる成長戦略ということもあって、期待感が高かった。ところが事前に改革ポイントを小出しに発表したこともあり、閣議決定する段階では「期待外れ」という評価となり、株価が大きく下落した。
昨年6月の「改訂2014」では、冒頭に掲げたコーポレートガバナンスの強化に海外機関投資家などの評価が集まり、その後、年末に向けての株価上昇のきっかけになった。
では、今年の「改訂2015」への評価はどうなるのだろうか。
翌23日付の日本経済新聞は「農協改革や脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の創設を盛り込んだ昨年と比べると、目玉に欠ける内容だ」と評した。実際、素案を読むと、議論を呼びそうな具体的な改革テーマはほとんどなく、まったくサプライズに乏しい。完全に「弾切れ」といった感じなのである。
今回、改訂2015の素案が掲げた柱は、「未来投資による生産性革命」「ローカルアベノミクスの推進」「『改革2020』(成長戦略を加速する官民プロジェクト)の実行」の3つ。
冒頭では「『稼ぐ力』を高める企業行動を引き出す」として、昨年に引き続き、民間企業のコーポレートガバナンス改革を掲げている。タイトルは「『攻め』のコーポレートガバナンスのさらなる強化」である。
■具体策がなにもない
民間企業に稼ぐ力を取り戻させるというのは、成長戦略1年目からの大きなテーマだった。
というのも、日本経済が成長しない大きな理由が、民間企業が利益を懐に溜め込み、リスクを取った事業投資を行わなくなったことにあると、安倍内閣は分析していたからだ。
だが、民間企業の経営者にリスクを取って儲けさせるにはどうすればよいのか。政府にできることは限られている。従来から繰り返してきた設備投資減税や、さまざまな助成金では、ほとんど効果がないことが明らかになっていた。つまり、いくらアメを与えても企業は動かないという結論だったのだ。
そこで、成長戦略にはムチが持ち出された。ガバナンスの仕組みを変えることで、企業経営者にプレッシャーを与えることにしたわけだ。
社外取締役の導入促進へ、企業のあるべき姿を示すコーポレートガバナンス・コードを制定するなど、外堀を埋めていった。また、機関投資家のあるべき姿を示すスチュワードシップ・コードを導入、生命保険会社などをモノ言う株主に変えることで、経営者にプレッシャーをかけたのだ。昨年の「改訂2014」の前文では、株主の持ち分に対する利益率であるROEを国際標準に高める、という文言まで加えられた。
どうやら日本企業が大きく変わるーーそう海外投資家に思わせることに成功したことで、その後の日本の株価は大きく上昇、遂に日経平均株価は2万円台を回復したのだ。
今年の「改訂2015」はそのガバナンス強化をさらに進めるとしているわけだが、具体的に何をやるかとなると、いきなりトーンダウンする。
具体策として書かれているのはこんな具合だ。
「取締役会による経営の監督が実効性の高いものとなるよう、取締役会が経営陣に決定を委任できる業務の範囲(取締役会への上程が不要な事項)や、社外取締役が社外性を有したまま行える行為の範囲等に関する会社法の解釈指針を作成し、公表する。【本年夏までに作成、公表】」
どうみても、役所が書いた文章そのものである。
もちろん取締役会を機能させるには必要なことではあるが、余りにもテクニカルな内容ではないか。役所が粛々と進めていくのに必要なことは書かれているが、政治のメッセージ性はほとんど感じられない。つまり、ガバナンスを強化するためには何が必要なのか、という発想が乏しい。
昨年の社外取締役増員やガバナンスコードの導入では、経済界から反発する声が挙がった。ガバナンスの強化は経営者に厳しさを求めることになるため、反対論が巻き起こるのだ。おそらく今回の「改訂2015」のガバナンス強化には、経済界から何の反対も出ないに違いない。
■安保で頭がいっぱい
安倍首相が岩盤規制を突破するための切り札として強調してきた「国家戦略特区」の取り組みもインパクトに欠ける。
今回の素案では、「遠隔医療や小型無人機、自動走行といった近未来技術の実証を含め、本年内にできるだけ速やかに、地方創生特区の第二弾の指定(国家戦略特区の3次指定)を実現する」としているだけで、新味のある改革項目は上がっていない。
これまで「経済最優先」を旗印に、デフレからの脱却や規制改革、成長戦略の促進を安倍内閣は掲げてきた。まがりなりにも雇用情勢が改善し、株価が大きく上がるなど、アベノミクスの成果として現れ始めている。それが政権発足以降、安倍内閣が高支持率を維持してきた最大の理由だろう。
ところがここへ来て、安倍内閣の優先順位が大きく変わっている。集団安全保障を認める安保関連法案の成立に全力を挙げ、経済最優先がどこかへ吹き飛んでしまったように見える。
内閣官房の幹部のひとりは「もともと安倍さんは経済には関心が薄い。本当にやりたい事は安保問題ですから」と言う。そんな関心の変化が、目玉のない成長戦略の改訂版にも如実に表れているというわけだ。
朝日新聞が6月20、21日に行った世論調査によると、安倍内閣の支持率は39%と5月16、17日の調査の45%から6ポイントも急落した。そうした中で、国会会期を95日間延長し、戦後最長とした。何としても安保法案を通すという意気込みだ。もちろん安倍内閣の優先順位は経済よりも安保ということになる。
弾切れの成長戦略が海外の投資家にどんな評価を下されるのか。アベノミクスの息切れと見なされれば、株式相場にも影響を与えることになるだろう。
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