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世界最大のギャンブルの聖地マカオで開催されたカジノ産業見本市で、来場者を出迎えるスタッフ(2015年5月20日撮影、資料写真)。(c)AFP/Philippe Lopez〔AFPBB News〕
カジノ開設、最大の障壁はギャンブル依存症問題だ ついに開かれるパンドラの箱「カジノ法案」審議
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44105
2015.6.25 宇佐美 典也 JBpress
長年「霞が関の幻」と言われ続けたカジノ法案の審議がついに始まろうとしている。
4月末にいわゆる「カジノ法案」と呼ばれる「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」が自民、維新、次世代の党の連名で提出され、現状は国会での審議入りを待っている状態だ。通常国会の会期末である6月末には審議が始まる可能性があり、そうなれば東京オリンピック前後の我が国におけるカジノ開設の現実味も俄然増してくる。
ただ肝心のカジノ法案の中身を見ると、
(1)既存のギャンブル法制と整合性が取れていないこと、
(2)関連が深い観光業界を所管する国交省、パチンコ業界を所管する警察庁との調整が不十分であること、
(3)ギャンブル依存症の対策が法案に組み込まれていないこと、
などの問題が山積みの状態にある。それぞれ簡単に説明したい。
■なぜカジノはよくてパチンコはダメなのか?
まず(1)の「既存のギャンブル法制との整合性」についてだが、日本では刑法により原則ギャンブルは禁じられており、例外的にあくまで「公営」という建前で競輪、競馬、競艇といったギャンブルが行われてきた。
それがカジノ法案では「民間企業がカジノを作り、運営する」という「民設民営方式」でのギャンブル事業を想定している。
実際の法案の条文を紹介すると以下の通りだ。
(第2条)
この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第11条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ)および会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
(強調は筆者)
この「民説民営ギャンブル」が認められると、「なぜ競馬や競艇や競輪は民間企業がやってはいけないのに、カジノは民間企業でも運営していいのか?」という素朴な疑問が生まれる。
さらに議論はパチンコ・パチスロ事業の運営方式にも波及する。現状では警察はパチンコに関して、「パチンコ場では客が球遊びをして景品の地金に交換しているだけで、ギャンブルは行われていない。たまたま別資本が運営する換金所が近くにあって、地金を買い取るサービスを提供しているに過ぎない。だからパチンコはギャンブルではなく遊技である」という無理矢理な解釈(「三店方式」と呼ばれる)をしている。
なぜこんな回りくどいことをしているかというと、そもそも刑法で民間企業がギャンブルをすることが禁じられているからである。
だが、仮にカジノ法案で「民説民営ギャンブル」が認められるようになると、当然「なぜカジノはよくて、パチンコはダメなのか?」という声があがってくることにもなる。
現状のカジノ法案はこうした議論に全く応えられない。既存のギャンブル法制との整合性は全く取れておらず、非常に法案として未熟なものとなっている。
■国交省と警察庁の対応は冷淡
続いて2点目についてだが、カジノ法案は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」という名称の通り、あくまで観光政策としてカジノの設置を認める、という建前になっている。
現在の法案でも、その目的には「観光及び地域経済の振興に寄与する」ことが第1条において掲げられている。
(目的)
第1条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
こうなると「観光立国に向けた施策の推進」を任務とし、観光庁を抱える国交省との連携が当然重視されるわけだが、残念ながら国交省はカジノ法案に冷淡な反応を見せている。というのも、現在の国土交通大臣の太田昭宏氏は公明党出身であり、公明党はカジノ法案に対して非常に後ろ向きの姿勢を示しているからだ。
また国交省の官僚としても、欠陥だらけで政治的しがらみが多い、いわば「厄介者」のカジノ法案を積極的に引き受けることにメリットは乏しく、カジノ法案は霞が関では宙に浮いた存在になっている。もちろん所管のパチンコ業界をかき回される警察庁にとってもカジノ法案は厄介者だ。
そこでカジノ法案を推進する超党派議員連盟である「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」は、打開策として内閣府に「カジノ管理委員会」なる外局を新たに設置し、この機関がカジノの設置・運営に対して許可・監督することとしている。
しかしながら、これは実務的にはなんら解決策になっていない。仮に「カジノ管理委員会」なる新設組織を設置したとしても、行政のリソースは限られていることから、その実体は警察庁のパチンコ担当部局と観光庁からの出向者が過半を占めることになることが予想される。そうなると、結局、カジノ法案が成立して「カジノ管理委員会」が誕生しても、膨大な関連規定を整備し運用するには、この警察庁・国交省の2省の協力が不可欠ということになる。そう考えると、現状のままでは「カジノ管理委員会」は絵に描いた餅に過ぎないものとなっている。
■最大の課題はギャンブル依存症問題
以上の2点はあくまで政府内部の問題であり、最後は安倍首相のリーダーシップにより政治的解決が図られる可能性がある問題でもある。それに比べると、3点目に挙げた「ギャンブル依存症」問題は、国民生活に直接関わるという点で問題の性質が大きく異なる。
我が国ではこれまで様々な公営ギャンブルが展開されながら、ギャンブル依存症に関しては何ら対策が打たれてこなかった。そもそも問題視すらされてこなかったのである。そのような土壌にパチンコという脱法的なギャンブル産業が発達したこともあり、ギャンブル依存症は放置された大きな問題となっている。
そうした背景は、以下の国会審議録からも見て取れる。
【平成26年10月30日 参議院 厚生労働委員会】議事録より
○薬師寺みちよ君
〜依存症に共通した予算、そしてギャンブル依存症に特化した予算というものを、すみません、内訳は結構でございますので、総額を教えていただけますでしょうか。
○政府参考人(藤井康弘君)
〜この依存症対策の総額ということで申しますと、平成26年度の当初予算額で約3828万円の予算を組んでいるところでございます(中略)ただ一方で、いわゆる依存症対策につきましてはギャンブル依存症に特化したものというのはございませんで、やはりギャンブル依存症を含めて総合的に依存症対策に取り組んでいるといったような状況でございます。
(強調は筆者)
このように我が国では依存症対策について政府はわずか約3800万程度の予算しか手当てしていなく、加えてギャンブル依存症に特化した予算はゼロというお寒い状況である。
政府のこのような姿勢もあり、我が国のギャンブル依存症の実態については不明確な点が多い。昨年来「我が国のギャンブル依存症患者は潜在的には成人の4.8%の559万人に上る」とする厚生労働省の調査事業の数値がひとり歩きしている状況であるが、これはいくら何でも過大推計であろう。
諸外国におけるギャンブル依存症(病的賭博)の有病率(佐藤拓の報告を一部改編)
出所:病的賭博(ギャンブル依存症)について、田辺等(北海道立精神保健福祉センター)
依存症に関わる数少ない正確な統計として精神保健福祉センターの相談人数がある。これによると2013年のギャンブルに関する相談が1945人であり、これは先行して取り組みが進められている類似の病気であるアルコール依存症に絡む相談者の3703人の半分程度である。アルコール依存症患者は109万人程度とされるが、仮にギャンブル依存症患者が実際に559万人もいるならば、もう少し相談が増えてもよさそうである。
■“治療”しないとギャンブル依存症は治らない
結局のところ、我が国におけるギャンブル依存症患者の正確な数を把握することは困難なのだが、我が国において真に問題なのはこうした依存症の人数の多寡以上に、ギャンブル依存症患者に対してほとんど回復プログラムが提供されていないということにある。
我が国ではギャンブル依存症に対する理解が乏しく、「ギャンブルにはまるなんて、自制心がない奴だ。そんな問題は自分で解決しろ」というように捉えられてしまう。しかしながらアルコールや薬物と同じく、「自力ではギャンブルをやめられない」という状況がギャンブル依存症なので、“治療”を施されないと必然的にギャンブル依存症患者はドツボにはまって行くことになる。
こうしてギャンブル依存症が放置された結果、わが国ではギャンブル依存症に起因する2次的犯罪・被害が後を絶たない状況になっている。
ギャンブルによる借金にまつわるトラブルを原因とする、放火・強盗事件、個人情報漏えい、横領事件などは毎年後を絶たない。一例を挙げると2014年に世間をにぎわせたベネッセの2000万件近くに及ぶ個人情報流出事件の背景にはギャンブル依存症問題があることが疑われている。この犯人となったシステムエンジニアの男性は、競馬やパチンコなどにより数百万円の借金があり、その返済のために個人情報を売り渡したとされている。
ベネッセはこの事件により数百億円に上る賠償が求められており、またこうして外部に漏れた個人情報がどのように第三者に使われたかは、いまだ知る由もない。一職員がギャンブルによって作った数百万円の借金返済のためにとった違法な行動によって、企業にとって、また社会にとって、莫大な損失が出たのである。このような事態はギャンブル依存症に対する社会の正しい認識と、適切な対策が取られていれば防げたはずの事態である。
こうした問題があるにもかかわらず、現在のカジノ法案にはギャンブル依存症問題に対する措置は何ら明記されておらず、これも法案を推進する側にとっては大きな問題となっているのだ。
■開きつつある「パンドラの箱」
このようにカジノ法案の行く末には依然として大きな壁が存在し、仮に国会審議に入ったとしても無事法案が成立するか、まだまだ見通せない状況にある。
もちろん最大の問題であるギャンブル依存症問題は、カジノに付随して生じた問題ではなく、むしろカジノ法案によってギャンブル法制に世間の目が向いたことによって注目されるようになった問題であり、一義的にはカジノ法案に直接関わることではない。
しかしながら、「今ここに存在するギャンブル依存症問題に対して何ら回答を示さず、新たな民営ギャンブルを認めて、問題をさらに大きくする」ということは国民にとっても認められるものでなく、カジノ法案については反対意見は根強いものがある。
かといってカジノ法案に反対して押しつぶすだけでは、我が国のギャンブル行政を囲むあらゆる歪みは解消されないまま残ることになる。もう「カジノ法案」というパンドラの箱は開きつつあるのだから、与野党を超えて我が国のギャンブル行政にまつわる深い問題を解決するような議論が進むことを望みたい。
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