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コラム:瀬戸際の通商協定、TPP懐疑論は誤り=斉藤洋二氏
2015年 06月 24日 18:34 JST
斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表
[東京 24日] - 日米をはじめとした12カ国による環太平洋連携協定(TPP)交渉は全21分野の過半で着地点に達し、大詰めを迎えている。とはいえ、関税や知的財産分野での交渉はいまだ難航しており、楽観はできない。
この状況下、残された任期が1年半余りと時間がなくなったオバマ米大統領は、議会の夏休み入り前に、TPP交渉の前提となる関連法案を成立させたいとしている。
関連法案のうち、議会が大統領に対して対外通商交渉に関する強い権限を与える貿易促進権限(TPA)法案は18日、失業者対策に当たる貿易調整援助制度(TAA)法案を切り離したうえで下院再採決が行われ、可決された。23日には上院でTPA法案の審議打ち切り動議が100議席中賛成60票、反対37票で可決され、各種報道によれば、同法案は数日内に成立する見通しだという。
一方、TAA法案は12日の下院採決で与党・民主党の反対により否決されたが、TPA法案成立の見通しが立ったことで、こちらも成立の可能性が出てきた。
この機を逃せば、オバマ大統領は自身のレガシー(遺産)としてTPPを残せる可能性がほぼ消滅し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を立ち上げアジアで自らのルールに基づく経済圏を作り上げようとする中国への対抗軸を見いだせぬまま、ホワイトハウスを去ることになる。
果たして米国はTPPによって自国主導の貿易・投資ルールに基づく経済圏を強化できるのか。そして、世界が新たな自由貿易体制へと移行していくなかで、人口減少が進み海外に活路を求めるしかない日本はどのような通商戦略を推進すればよいのだろうか。
<遅れが目立つ日本のFTA戦略>
日米開戦直前の緊迫する歴史に名を残す書簡「ハル・ノート」をしたためたコーデル・ハル(当時・米国務長官)は、自由な貿易をしているところに戦争はないとの信念に基づき、戦後はGATT(関税貿易一般協定)体制の構築に尽力し、多国間協定での自由貿易を推し進めた。
このGATTの機能は1986年から1995年まで続いた多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)を経て、サービス貿易や知的財産権まで協議の範囲を広げた世界貿易機関(WTO)へと移り、2001年に新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)がスタートした。だが、新興国と先進国、輸出国と輸入国などが複雑に対立した結果、機能不全に陥ってしまった。
これに代わり現在の世界では、主に二国間協議や地域間協議による250件を超える自由貿易協定(FTA)が締結されている。最近も中韓が大規模FTAを結ぶなど自由貿易による「ウィン・ウィン」の関係を築く動きが活発化している。このように中韓はじめ各国のFTAへの取り組みが進むなかで、国内の既得権益層からの抵抗もあって日本の通商戦略への取り組みの遅れが目立っている。
そもそも通商は国家戦略として重要な位置づけを担っているが、東アジアで地政学リスクに直面する日本にとってTPPは安全保障の観点からも最重要課題と言えよう。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に6カ国(日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・ニュージーランド)を加えた「ASEANプラス6」による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や日中韓FTAの推進などに前向きな対応を行うことは、アジアが急成長する一方で国内市場が縮小する日本の国益にかなうだろう。
<難航する日米欧「メガFTA」交渉>
過日の主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、各国首脳は成長のエンジン役として貿易促進への期待をにじませた。自由貿易の枠組みをめぐって日米欧は、地域間のメガFTAの実現について2015年内を目途とする意向を示している。とはいえ、その進捗は必ずしも順調とは言えない。
メガFTAの動きを見ると、TPP交渉は現状、農産物と自動車分野で予断を許さず、日米の対応次第では空中分解する可能性もある。また、日本と欧州連合(EU)が交渉中の経済連携協定(EPA)についても、現状はTPPの進捗待ちの様相を示しており、その合意を見るまで実現に至るのは難しい。さらに、米国とEUの環大西洋貿易投資協定(TTIP)についても依然、欧米間で溝があり、結論は来年にずれ込む可能性が高い。
日米欧の三地域間で自由貿易の推進が図られているが、その実現はしばらく時間を要すると見るのが妥当だろう。しかし、「世界の工場」としてのみならず「世界の市場」として存在感を増す中国を前にして時間を浪費することはできない。
新興国と途上国が経済力で先進国を抜き、さらに中国・ロシアがユーラシア大陸で共同歩調をとる現在、先進国が結束力を強める手段として通商体制の構築を急ぐのは当然と言えよう。
<TPPによる農業破壊は本当か>
このように先進国は通商分野で競合しつつも協調を図っているが、世界3位の経済力を誇る日本がその潮流からひとり離れ、傍観することは許されない。ただ、国内では「TPPへの参加は日本の農業を破壊してしまう」と2013年の正式な交渉参加表明前から声高に反対されてきた。果たして、そうなのだろうか。
もちろん、農業は国民の生存に関わる産業であることから、市場原理だけでは割り切れないものがある。それにしても米価の高値維持に拘泥してTPP参加に反対することにどれだけ経済上の妥当性があるのか疑問である。
すでにコメの消費量は1960年頃をピークに激減している。経済理論に従えば価格が下落することが理にかなうが、抵抗勢力はあくまでも生産調整(減反)や高関税による価格維持にこだわり、その結果、最終消費者への転嫁が続いている。
一方、食料安全保障の観点からすれば、水田・畑の維持管理が優先され増産が図られるべきところだが、逆に米価の高め誘導を最大の目標にすることから減反が続いている(安倍政権は2018年度をめどに減反を廃止する方針だが)。この結果、水田・畑は転用・縮小され、国際食料市場の高騰や供給途絶などに伴う食料危機発生時の国内農業の対応力に重大な懸念がある。
もともと日本人は消費者として米価引き上げや減反などの要望・政策を受け入れてきたが、その背景には農家は弱者だとするイメージが定着していることがある。しかし、現在の農家は小規模経営の兼業農家が大半となり、普段は役場や企業などで働くサラリーマンが多い。
その内実は、ウルグアイ・ラウンド交渉に農林水産省の担当官として携わった経験がある山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の著書群に詳しく書かれてあるが、農家の多くは機械化・省力化でサラリーマンをしながらかつての8分の1程度の時間を農業に費やしているに過ぎなくなっているという。昔のイメージとは様変わりであることを認識すべきだろう。
日本の農業はこれまで農協、政治家、官僚が主導する閉鎖世界となっていたが、今後はベンチャー企業が新規参入できる開かれた世界として発展する可能性を有している。その契機がTPPにあるとすれば、これを奇貨として輸出市場をにらんだ大規模農業を育成すべきだろう。
国内では農業分野などで構造改革を先行させ、対外的には成長が予想されるアジア地域での生き残りと域内分業体制の構築を目指す。そうした自由貿易戦略を展開していくべきではないか。
*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0P40DF20150624
アングル:TPP最終合意へ加速、高まる7月合意の機運 着地点に注目
2015年 06月 24日 17:25 JST
[東京 24日 ロイター] - 環太平洋連携協定(TPP)の最終合意に不可欠な大統領の貿易促進権限(TPA)法案が、24日にも米上院で可決され、成立する公算が強まった。交渉の「トゲ」が取り除かれることになり、甘利明TPP担当相は24日、7月中の閣僚会議開催と大筋合意は可能と述べ、妥結の機運が高まった。
今後は日本が重視する重要農産品5品目の関税率がどこまで下がるのか、具体的な交渉の結果に注目が集まりそうだ。
米議会上院での打ち切り動議の採決は、賛成60、反対37(可決に必要な票数:60)というぎりぎりの結果だった。TPA法案そのものの採決は、それより少ない過半数の賛成で可決されるため、成立する可能性が高い。法案はその後、オバマ大統領の署名手続きを経て、正式に効力を発する。
甘利担当相は24日、大統領の署名が得られれば、ただちに日米の事務レベル協議を再開し、両国間の残された課題を協議し、首席交渉官会合を経て閣僚会合を開催したい考えを明らかにした。
TPP参加12カ国閣僚会合開催の時期については「日本としては、閣僚会議が8月以降にずれ込むことは想定していない」と述べ、「TPA法案が成立すれば、後は大きなハードルはなくなっていくはず。7月中に妥結する決意を、各国が持って取り組むことが必須」だと語り、交渉参加国に早期妥結への取り組みを促した。
<残された最大の課題は「知的財産権」>
TPP交渉の内容については、ほとんど明らかになっていないが、知的財産権の保護に関する問題で、新薬の特許保護強化を求める米国と、ジェネリック医薬品の早期普及を求める途上国との間で溝が深く、残された最大の課題として、交渉参加国から意識されている。
甘利担当相も、残された課題として知的財産権問題を挙げ「米国だけが主張を押し付けるといっても、対立する国はそのままのむという事態にはなりづらい」と述べた。そのうえで「残されている最大課題に対しても、日本が間に入って距離を縮めていく役割を果たしたい」と、交渉妥結に向け仲裁役を果たす意欲を見せた。
<関心集まる関税率の着地点>
TPP交渉に詳しいある農業系団体関係者は、交渉の見通しについて「日米の農産物関税、輸入枠拡大問題では、これまでに、2国間でほぼ決着がついていると思われる。あとは各国が国内で了承を取り付けるだけ」とし、「TPA法案が通れば、それ以外のリスクファクターはほとんどないだろう」と指摘する。
米通商代表部(USTR)のフロマン代表は打ち切り動議の可決を受け、USTRのホームページで「議会での支持に基づき、米国は声を1つにして、法案の最終的な可決とTPP妥結に向け、進むことができる」とする声明を発表した。
このまま、交渉が最終合意へと加速していけば、これまで交渉担当者以外には知らされてこなかった具体的な「着地点」に対する国内での関心が、急速に高まることが予想される。引き下げられた関税率などを前提に、新たなチャンスと捉えた企業や団体によるビジネスモデルの構築が、一気に加速しそうだ。
(宮崎亜巳 編集:田巻一彦)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0P40PZ20150624
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