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AppleMusicをデモするエディ・キュー上級副社長
アップルの"化けの皮"を歌姫が引き剥がした なぜ宣伝負担を業界に押しつけようとしたか
http://toyokeizai.net/articles/-/74383
2015年06月24日 本田 雅一 :ITジャーナリスト 東洋経済
歌姫の抗議に対し、素早く対応したアップル――そんな一幕が話題になっている。一見すれば、アップルが小さな誤りを犯したものの、急転、正しい判断を下して軌道修正をみごとに果たしたように見えるかもしれない。しかし視点を変えてみると、これはアップルが演じてきた”アーティストと共に音楽に自由をもたらしてきた”という役割が、実は偽善であったことを示している。実のところ、カッコ悪い失態ともいえるのだ。
顛末はこうだ。6月21日に米国人歌手のテイラー・スウィフトが、最新アルバム「1989」をアップルの新しい音楽配信サービス「Apple Music」に提供しないことをオープンレターという形で公表した。アップルが最初の3カ月間は無料でサービスを提供するが彼女に届いた楽曲提供を求める契約書には、その間の楽曲使用料が支払われないと書かれていたためだ。それに対して、アップル上級副社長のエディ・キューが、最初の3カ月でも楽曲使用料を演奏者、作詞者、作曲者などに支払うことを約束した。
■苦しい音楽業界
テイラー・スウィフトは、加入型音楽配信サービスとしては世界最大規模のSpotifyに対して楽曲提供しないことを発表していた。彼女の主張は「音楽は無料ではない」というものだ。無料で音楽を楽しむ感覚は日本でも若年層を中心に広がっているが、米国では一足先にフリーミアムのビジネスモデルが蔓延。CD売り上げはもちろん、一時は伸びるかに見えた音楽ダウンロードも売り上げは下がってきている。
テイラー・スウィフトにしてみれば、音楽は無料ではないという主張を展開するには、ちょうどいい訴求の場だった。その声にアップルは素早く対応したわけだ。
一見すれば、アップルが小さな誤りを犯したものの急転、正しい判断を下して軌道修正をみごとに果たしたように見えるかもしれない。日曜日に発表されたテイラー・スウィフトの発表に対し、取締役会が開かれたとは到底思えないタイミングでアーティストへの支払いを決めた素早さは、「さすがアップル」と褒められるところかもしれない。
しかし筆者はまったく逆のイメージでこのニュースを捉えた。
アップルは1997年に倒産間際の状況に追い込まれ、そこから奇跡的な復活を遂げた。その過程において、「インターネットを通じて音楽活動に自由を」という戦いを、音楽アーティスト側に立って行ってきたというイメージ戦略がアップルのブランド価値を高めた時期があった。このあたりはWWDC基調講演の記事で詳しく触れた。
http://toyokeizai.net/articles/-/72699
アップルは30億ドルもの巨額資金を投じてBeatsを買収し、音楽コミュニティに近いジミー・アイオヴィンを幹部として迎え、時代から取り残されつつあったiTunesの音楽ビジネスモデルを一新することに力を注いできた。CEOのティム・クックは、WWDC基調講演でアップルが音楽アーティストと産業にかかわる全ての人に敬意を払っているとも話していた。
しかし、今回の騒動で、そんなアップルの美しいメッセージが無に帰してしまうかもしれない。一部には「良い宣伝になった」「茶番劇」との声もあるが、一連の出来事に関していくつかの視点を提供したい。
■アーティストと契約をする目から無償提供を発表
テイラー・スウィフトが出した声明で明らかになったのは、アップルが新サービスを最初の3カ月、無償で提供すると発表した時点では、アーティストとの間に楽曲提供の契約を持っていなかったということだ。
JASRACが楽曲に関する様々な管理を、ほぼ独占に近い形で業務委託されている日本とは異なり、多くの国では権利をさまざまなステークホルダーが共有していることが多い。大物アーティストは自分たちだけで保有していることもあるが、中には6カ所以上のステークホルダーが絡む楽曲もある。
アップルは音楽レーベルに対しては、Apple Musicを無料提供している期間中の楽曲使用料支払いについてある程度の合意をしていたのだろうが、アーティストとの合意には至っていなかったということだ。
また米国に拠点を持つ音楽レーベルへの根回しはできていたかもしれないが、それ以外の国での準備も整っていなかった可能性が高い。アデルなどの有力アーティストを抱える英ベガーズはApple Musicに対する苦情を訴えるニュースリリースを発行している。ここでベガーズが主張しているのは「アップルが始める新サービスのプロモーション費用を、なぜ著作権者やアーティストが負担しなければならないのか理解できない」というものだ。
音楽著作権は複雑にステークホルダーが絡まっており、ワンストップで権利を取得することは難しい。このためアップルはこれまでも、ある程度の範囲で合意が取れると大々的なサービス開始を発表し、ビジネスとして立ち上げることで合意を迫るといった手法を採ってきた。今回はそんな手法の無理が表出したということかもしれない。
しかしながら、”無料試用”という名のプロモーションに対するコストは、当然ながら運営者であるアップル自身が負担すべきものだ。もちろん、他ステークホルダーに対して(いわば現物支給で)プロモーション協力を願い出ることもあるだろうが、それは相手の同意の下で行われるべきものだ。
撤回はしたものの、無料期間中は使用料を支払わないという元々の方針は「プロモーションには楽曲権利保有者も協力すべき」というアップル側の奢りがもたらしたものであることに変わりはない。
確かにApple Musicは音楽レーベルやアーティストにとって、魅力的な側面のあるサービスだ。日本ではCDなどの物理メディア売り上げもまだ残っているが、北米も欧州もCDはまったく売れず、楽曲保有という概念すら若年層では崩壊しつつある。
音楽はネットラジオやYouTubeなどから降ってくる無料のエンターテインメントというイメージを持つ世代が増えている。無料で音楽を楽しんでいる世代が、将来、音楽にどれだけの支払をするか?と考えると身震いする音楽業界の人は少なくないだろう。
■アップルの強みとは?
そうした中で、音楽売り上げが減ってきているとはいえ、全年齢層に対してポジティブな印象があるアップルが、Beatsという若年層にも訴求できるブランドを得て音楽配信サービスを行う。しかも他サービスと大きく異なるのは、多様な支払い方法がすでに確立されているApple IDに多数の会員が登録済みであることだ。
アップルはApple IDを通じて音楽購入をしているユーザーが、月間アクティブユーザー数でどの程度いるのかを公表していないが、昨年、Beatsを買収した際に担当幹部のエディ・キューはiTunesの利用者が全世界で8億人以上いると話した。彼らを有料の加入型音楽配信サービスに導ける可能性があるなら、そこに賭けたいという音楽レーベルやアーティストもいることだろう。
「アーティストにも利がある。音楽産業を盛り上げることに繋がることをやるのだ」というのがアップルの本音だろう。とはいえ、同意を得ないまま、3カ月分の楽曲使用料を無料にしてくれという契約を送りつけるのは一方的に過ぎる。音楽ビジネスは楽曲の売上げ中心から、コンサートなどのリアルイベントへと事業の中心が移っているという主張もあるが、いずれにしろアップルのプロモーションに協力するか否かを決めるのは、アップル側ではない。
そもそも、テイラー・スウィフトの楽曲にしても、テイラーひとりで作り上げ、作品として仕上げ、商品として流通させているわけではない。そこにはたくさんの人が関わっているのだから、無形の在庫を伴わないデジタルコンテンツとはいえ、アップルのやり方が音楽の価値を軽んじているからこそだと思われるのは致し方ないところだろう。
エディ・キューは”素早い判断で危機を脱した”などとは思っておらず、”恥ずかしい。この話はすぐに終わって欲しい”と考えているのではないだろうか。もし、クレームをつけたのがテイラー・スウィフトではなく、影響力の小さなアーティストであったなら、アップルは即座に方針転換をしたのか?という疑問もついて回る。アップルの優越的な立場を利用し、アーティストに圧力をかけたという印象だけは避けたいところだが、現時点の振る舞いからは懸念をぬぐい去ることはできない。
■トム・コンラッドが劇場型の宣伝と批判
一方で、この一連のやり取りが茶番だという指摘もある。筆者自身はその考えを支持していないが、たとえば米ビジネスインサイダーは、Pandra CEOをつとめるトム・コンラッドが劇場型の宣伝だと批判しているとの記事を掲載した。コンラッドはテイラー・スウィフトが、音楽が無料で再生されることを嫌っているにもかかわらず、最大の無料音楽供給源であるYouTubeから楽曲を引き上げていない点も指摘している。
こうした見方を強化しているのは、冒頭でも話したエディ・キューのあまりに早い方針転換だ。アップルが3カ月分の楽曲使用料を余裕で支払える現金を保有していることは周知だが、そうだとしても取締役会の承認なしに、それだけの金額を支払うと公に約束することが本当にできるのか、という疑問だ。
今回のニュースは欧米でも大きな話題になっており、テクノロジー製品への興味が薄い層に対してもApple Musicという新サービスについて(アップルが意図していたかどうかは別として)周知が進んだことは確かだろう。そうした意味では、良い宣伝になったという意味で”プラス要因”とも捉えることができる。
とはいえ、一連のやりとりは、これまでアップルブランドの屋台骨を支えてきた”アーティスト、音楽産業と共にあるアップル”というイメージが壊れるきっかけになるかもしれない。古臭くなったiTunesをメンテナンスする事業として準備してきたApple Musicは、単純な収益だけでははかれない重要なものだったはず。それが台無しになってしまうのかどうか。
アップルのダメージコントロール能力が試される場面といえるだろう。
=敬称略=
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