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増えない所得、出費を切り詰める日本人
消費者庁の調査で分かった「支出を減らす本当の理由」
2015年6月23日(火)上野 泰也
消費者庁は6月17日、6月の物価モニター調査(速報)を発表した。この調査の目的は「原油価格や為替レートなどの動向が生活関連物資等の価格に及ぼす影響、物価動向についての意識等を正確・迅速に把握し、消費者等へのタイムリーな情報提供を行う」ことにあるとされており、速報性において優れている。
6月速報は同月4〜8日に寄せられた全国・各年齢層の1235人分の回答を集計した。速報取りまとめ後の回答は翌月の速報で前月の値に反映させる扱いとなる。
価格調査では、食料品のうちヨーグルト、食用油で、前月比の上昇幅が大きかった。そして、今後3カ月で価格が上昇すると思う主な品目として挙げられたのは、食パン、牛乳、食用油。いずれも円安や原材料高を理由にメーカーが値上げを発表した品目である。
逆に、今後3カ月で価格が下落すると思う主な品目として挙げられたのは、茶飲料、アイスクリーム、ビール。最も多い16.5%の回答を集めたのが茶飲料である。
今後「前年より消費を減らす」が56.7%
その理由は「過去数カ月において価格の下落を実感していて、今後もその傾向が続くと思うから」「季節的に販売を増やすための特売の機会が多くなるから」など。確かに、暑くなってくると2リットルのペットボトル入りの茶飲料やミネラルウォーターが、買い物客を引きつけるための特売に用いられることが多い。
さて、今回の調査で筆者が最も興味を抱いたのは、参考として掲載されている「消費についての意識」である。「あなたの世帯の消費への支出額を、今後3カ月の間について、去年の同期間と比べて、どのようにしていこうと思っていますか」という質問に対する回答分布は、「増やそうと思っている」が3.7%とごく少数である一方、「特段増やそうとも減らそうとも思っていない」が38.4%。そして、「減らそうと思っている」が56.7%で過半数を占めた(1.2%は無回答)<図>。
■図:物価モニター調査 消費についての意識 質問「あなたの世帯の消費への支出額を、今後3か月の間について、去年の同期間と比べて、どのようにしていこうと思っていますか」への回答
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/061900001/graph.jpg?__scale=w:500,h:219&_sh=05404505e0
(出所)消費者庁
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「減らそうと思っている」を選んだ人にその理由をたずねたところ(複数回答)、「所得が減ると思うから」が50.9%で過半数になった。2013年10月の調査開始以降、この選択肢が常にトップである。支出を減らそうとする本当の理由は、日銀が主張しているような「デフレマインド」(値下がりを待って買い控えをしようとする心理)ではないことが分かる。
また、主要企業の春闘で2年連続ベアがついたことや夏のボーナスの増額を盛り上げて伝えているマスコミ報道とは、まったく別の世界で行われた回答であるかのようにも感じる。賃金の増加が大企業の外にはあまり波及していないから、こうした回答になるのだろう。
ちなみに、内閣府の消費動向調査においても、消費者意識指標「雇用環境」と比べた場合の「収入の増え方」の水準の低さが、「アベノミクス」の下で顕著になっている(当コラム5月26日「数字ばかりが空回り、労働市場のお寒い現状」ご参照)。
そして、支出を減らす理由として2番目に多かったのが、「支出に回す額を減らして、貯蓄に回す額を増やそうと思うから」の41.0%。これら上位2つが回答の大半を占め、第3位は「去年の同期間よりも必要な支出が減ると見込まれるから」(12.9%)である。
回答した人の数は少ないものの、「増やそうと思っている」を選択した理由も見ておきたい(複数回答)。トップになったのは「去年の同期間よりも必要な支出が増えると見込まれるから」で、45.7%。人生のステージによっては、こういうことになりがちである。
「所得が増えそう」という回答は連続で低下
第2位が「物価が上昇することにより、普段購入しているモノ・サービスの価格が上がると思うから」で、37.0%。デフレマインドからインフレマインドへの転換を促している日銀にとって、この選択肢への回答が多かったことは有利な材料だと言える。ただし、この回答は2014年4月に63.8%まで増加した後は、減少基調で推移している。
3番目が、「保有している金融資産・不動産等が値上がりすると思うから」。株価の上昇を受けて17.4%に増加した(前月比+12.5%ポイント)。だが、資産効果で消費が刺激される部分は、家計の株式保有比率の低さゆえに、日本ではやはり限定的である。
支出を増やそうとする理由の4番目にようやく「所得が増えると思うから」が出てくるが、10.9%にすぎない。しかも3カ月連続で低下している。
今後の支出動向については、日銀が四半期ごとに行っている生活意識に関するアンケート調査でも質問が設けられているが、こちらは1年後を現在と比べた場合に増やすか、減らすかについてである。2015年3月調査で、1年後の支出DI(回答比率「増やす」−「減らす」)はマイナス48.1に低下した(前回調査比マイナス0.6ポイント)。
一方、消費者庁の調査は今後3カ月間についてのものであり、日銀の調査とはタイムスパンが異なっている。6月速報の数字から日銀の調査にならって支出DI(回答比率「増やそうと思っている」−「減らそうと思っている」)を計算すると、マイナス53.0になる。
円安の再進行を受けて食品類の値上げ発表がほぼ連日行われており、消費者のマインドをじわじわと圧迫している。物価モニターで支出額を増やすかどうかの調査対象になった「今後3カ月」は、夏のボーナスが支給される時期と重なり合っている。
ボーナス効果によって夏場に個人消費が勢いを増すことを政府・日銀などは期待しているが、今回の物価モニター調査の結果は、そうした楽観シナリオに疑問符を突き付ける内容である。
上野泰也のエコノミック・ソナー
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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/061900001
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