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下手をすれば、ギリシャはユーロ圏のみならず、EUからの離脱も余儀なくされる恐れがある〔AFPBB News〕
ギリシャとユーロ圏:非常に高くつく離婚
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44103
2015.6.23 The Economist JBpress
(英エコノミスト誌 2015年6月20日号)
どんなものであれ、関係が壊れるのを目にするのは、決して愉快ではない。ギリシャのアレクシス・チプラス首相は、自国に屈辱を与えようとしていると債権団を非難した。同首相はさらに、ギリシャの苦難に関して「犯罪的な責任」があると、国際通貨基金(IMF)を責めたこともあった。
一方、ユーロ圏の有力政治家たちは、今後数日以内に救済資金の拠出で合意がまとまらなければ、ギリシャのデフォルト(債務不履行)とユーロ離脱(いわゆる「Grexit=グレグジット」)が現実味を帯びると公言している。
事態が切迫しているのは、IMFへの15億ユーロの返済期限が6月30日に迫っているものの、ギリシャには返済する余裕がないと見られているうえに、欧州によるギリシャの救済プログラムも同日で失効することになっているからだ。
こうした状況の中で、ユーロ圏の名物と化した土壇場での交渉が始まっている。本誌(英エコノミスト)が印刷に回された直後には、ルクセンブルクで財務相を集めた会合が開かれる予定になっており、週末に首脳会議が開かれる可能性もあった*1。
6月25〜26日には欧州連合(EU)首脳会議が予定されている。結局はチプラス首相とドイツのアンゲラ・メルケル首相との1対1の会談に行き着くかもしれない。まだ合意の可能性はあるが、双方は互いに嫌悪感を抱くようになっている。これが結婚だとしたら、弁護士が走りまわっているところだ。
ギリシャとユーロ圏が離婚すれば、すべての関係者にとって大惨事となるだろう。問題は、ギリシャとユーロ圏が両者の関係の条件を変えない限り、このまま一緒にいる方が離婚よりもはるかに良いとは言えない点だ。
■極左政権の下、退場を迫られるギリシャ
その理由を知るために、まずはデフォルトとユーロ離脱がもたらす結果を考えてみよう。断続的に議論が繰り返された腹立たしい5年間を経て、そうした展望を歓迎するようになった人もいる。だが、そう考える人々は間違っている。
ギリシャにとって、デフォルトで得られるものはごくわずかな一方、代償は極めて大きくなる恐れがある。確かにデフォルトすれば、ギリシャは国内総生産(GDP)比180%近くに上る3170億ユーロの債務から逃れられる。
だが、ギリシャにとって、その価値は見かけよりも低い。債務は多額だが、金利は格安で、数十年をかけた返済が可能だ。2020年初頭までの利子の支払い額は、年間でGDP比3%程度にすぎない。その程度なら、ギリシャでさえ何とかなる。
ユーロからの離脱にも、あまり利点はない。理論上は、新たな通貨ドラクマと独自の中央銀行があれば、ギリシャは通貨を切り下げ、競争力を手に入れられるはずだ。だが、ギリシャの貿易額はささやかなものだ。しかも、すでに名目賃金は16%低下しているが、輸出が急増する気配はない。
*1=ユーロ圏の緊急首脳会議は22日に召集された
これに対して、ユーロ離脱の代償は途方もなく大きくなるだろう。銀行が破綻し、預金が削減され、契約が破棄され、信用は粉々になるはずだ。
政治も混乱に陥る恐れがある。チプラス首相が率いる極左政党の急進左派連合(SYRIZA)は、反市場主義、反大企業を掲げている。現状で合わせて12%の票を得ているネオファシズム政党「黄金の夜明け」とギリシャ共産党が勢いを増すだろう。両党の中間に位置するほとんどの既成政党は、すでに信用を失っているが、さらに苦境に追いやられるはずだ。
チプラス首相は19日に、ロシアで同国のウラジーミル・プーチン大統領と会談する予定だった。ユーロ圏から追い出され、場合によってはEUからも離脱すれば、長いクーデターの歴史を持つギリシャは、暴力的で今よりもさらに腐敗した国になる危険がある。
ユーロ圏がギリシャの切り捨てを簡単に決めるべきではない理由の1つがこの点にある。エーゲ海沿岸の一国が破綻状態に陥れば、その国の政治家が受け取る賄賂がユーロ建てかドラクマ建てかに関係なく、これはEUの問題になるだろう。それどころか、現状のギリシャよりもさらに深刻で厄介な問題になるはずだ。
加えて、通貨同盟は解消できないものであるはずだった。仮にユーロ加盟国が実際にギリシャ追放に踏み切れば、ポルトガルやキプロスといった、経済的に不安定なほかの国にも影響が伝染する可能性がある。今回の危機では無事でも、次回はどうなるか分からない。
一部の人(チプラス首相もその1人かもしれない)は、ギリシャ離脱の代償が極めて大きいことから、ギリシャはユーロ圏が土壇場で譲歩することを当てにできるとの結論に至っている。だが、これは無謀な考えだ。
ユーロが存続していくには、そのルールは強制力を持たなければならない。主権国家の間で通貨同盟を結ぶ限り、同盟を解消不可能とする原則とルールに強制力を持たせる原則は相容れない。とはいえ、たとえその限度がどこにあるのか誰にも分からないとしても、ユーロ圏が許容できることに限度があることは確かなはずだ。
■債務が両者を分かつまで
結局のところ、グレグジットはプロセスであり、1度きりの出来事ではない。協議が決裂しても、ギリシャがデフォルトしたとしても、資本規制が導入され、手持ちのユーロが尽きてギリシャ政府が「IOU(借用書)」を発行し始めたとしても――たとえそうした段階に至っても、国民投票や新政府樹立といった手段を経れば、ギリシャにはまだ後戻りする道が残されている。
だが、合意もまたプロセスだ。合意がまとまれば勝利と称えられるのは間違いないが、これはギリシャの最終的な債務再編に向けた1ステップにすぎない。信頼はあまりに低く、ギリシャが約束の履行を渋っているのは明白だ。したがって、救済資金を新たに拠出する際には、そのたびに、ギリシャが合意における自らの責任を果たしていることを証明する必要があるだろう。
そうした融資条件は必須で、経済的にも望ましいが、現在の敵意に満ちた環境では高い代償を伴う。ユーロ圏とギリシャの関係は、それぞれが他方から搾り取る「譲歩」によって定義されている。結婚は維持されるかもしれないが、これまでよりもさらに不幸になるだろう。
思考の転換が求められている。今回のギリシャ危機では、どちらの側にも過失がある。とりわけ危機の発生当初は、ギリシャ債務の規模を一定の範囲内に収めようとする不毛な試みの中で、債権者は迅速な財政再建に過剰に重きを置いた。
こうした施策はギリシャを必要以上に困窮させただけでなく(同国のGDPは2010年以降、21%縮小した)、本当の課題からの逸脱でもあった。真に必要だったのは、成長を妨げる構造的障壁、すなわち恩顧主義の蔓延、無能な行政、滑稽なほどひどい規制、無気力で信頼できない司法制度、国有化資産と寡占、柔軟性のない商品、サービス、労働市場といった問題の解消だ。
ギリシャのアレクシス・チプラス首相〔AFPBB News〕
だが、チプラス首相はもともと悪かった状況をさらに悪化させた。2014年には、ギリシャ経済は拡大した。だが今は再び縮小に転じている。
その一因は、SYRIZAの無能さと、以前の政権よりもさらにひどい恩顧主義が明らかになったことにある。
だが、それだけでなく、SYRIZAのすべての意識が交渉の場での駆け引きに注がれ、ギリシャが何年分も後戻りしてしまったためでもある。
危機にあたり、協議を行きづまらせて相手から譲歩を搾り取る必要が生じたせいで、市場の信頼は崩壊した。資本は金融システムから流出している。投資家はギリシャに寄り付かない。あらゆる改革が、合意成立前には決して譲り渡してはならない交渉材料となり、ひとたび合意が成立した後は、切り札以上の意味を持たなくなる。改革が実際にギリシャのためになるという考え方は、失われてしまった。
大半のギリシャ国民はユーロ圏残留を望んでいる。だがこの国の政治家たちは、国内の改革に目を向けるのではなく、いまだにドイツの救済を当てにしている。このような状況が変わらなければ、債権者がいずれ我慢できなくなることを、ギリシャは理解しなければならない。
離婚を回避できるなら、誰にとってもその方が良い。だが、この結婚は、あらゆる犠牲を払ってまで救う価値のあるものではない。
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