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「月10個だった卵の配給が5個に減りました」 グローバリズムの辺境:キューバ(3)  
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投稿者 rei 日時 2015 年 6 月 22 日 08:14:21: tW6yLih8JvEfw
 

「月10個だった卵の配給が5個に減りました」

グローバリズムの辺境:キューバ(3)

2015年6月22日(月)篠原 匡

 旅行で数日滞在するだけでは分からないが、キューバの物不足はレベルが違う。

 「先進国であれば、当然あるはずのモノが手に入らない」。ハバナ在住の日本人駐在員がため息をつくように、電球や乾電池、ガムテープなどどこにでもありそうな日用品がキューバではなかなか手に入らない。窓ガラスなどを割ろう日にはもう大変。同じような窓ガラスが手に入ることはまずないという。

 それは食材も同じだ。鶏卵は配給品であり、スーパーではまず見かけない。魚介類も外国人向けのホテルが優先的に買い上げるためハバナではほとんど市場に出回らない。ましてや牛乳は子供のいる家庭限定の配給品のため、配給の対象外である外国人駐在員が手に入れることは難しい。

 「日本人が魚好きということを知っているんですね。メルカードに行くと、『サカナあるよ』と耳元で囁かれる。この間は3〜4kg分のエビを20CUC(≒20ドル)で買いました。完全に漁師との直接交渉。この国で生活するのはとにかく疲れる」

 目の前にいる駐在員の浅黒い顔は日焼けなのか、疲労なのか。恐らく後者も響いているのではないだろうか。

驚くほど商品が少ない国営スーパー

 実際、地元住民が通う国営スーパーに行ってみても、先進国の消費社会にどっぷり浸かっている人間から見れば恐ろしいほどにモノが少ない。

 例えば、地元住民が通うミラマール地区のスーパーを覗いてみたが、ヨーグルトは食べきりの小型サイズが1種類あるだけで、それ以外の選択肢はない。冷凍ケースもスカスカで、冷凍の鶏むね肉とイカリングはあるものの、牛肉や豚肉は見当たらない。同様に、アスパラガスやカリフラワー、ニンジンなどの野菜もあるが、輸入品と思われる冷凍野菜が中心だ(豚肉や野菜は2回目で述べた自由市場で手に入る)。

 ニューヨークのホールフーズに行けば、脂肪分をカットしたモノから果実のフレーバーを加えたモノまでヨーグルトだけで数え切れないくらいの商品が並んでいる。生鮮や精肉にしても、冷凍ももちろんあるが、ブラックアンガスのサーロインからラム肉まで並ぶ対面カウンターは週末の買い物が待ち遠しくなるほどの品揃えだ。そんな生活に慣れていること自体が異常なのだろうが、圧倒的な物量に囲まれた世界から来ると、選択の楽しみがないのはどこか寂しい。


スーパーの棚はご覧の通りスカスカ

こちらはブルックリンのホールフーズ。野菜だけでこの品揃え
 一方、保存が効くチョリソやソーセージ、チーズなどの加工品は種類が比較的豊富で、缶詰や瓶詰め、ホールトマト、サラダ油などのグロッサリー、シャンプーや洗剤などの生活雑貨も種類はそれほどないが、比較的棚は埋まっている。やたらと店員がいるのでゆっくり観察することができなかったが、コールドチェーンの問題があるのだろう。冷蔵モノの種類が少ない印象だ。

 冷やかしついでに、旧市街のセントロ地区にある別の店にも足を運んでみたが、こちらはもうすこし商品が豊富だった。

ツナ缶はポーランドの輸入モノ

 冷凍ケースには、定番の冷凍鶏むね肉に加えて、丸鶏肉、ハンバーガー用パテ(牛肉かどうかは不明)、冷凍白身魚が積まれていた。ここもハムやチョリソの売り場が大きく、缶詰や瓶詰めが相対的に充実している。

 店員のプレッシャーが比較的少なかったので、商品を細かく見たが、缶詰、瓶詰めは南米及び旧共産圏からの輸入品が目立つ。ホワイトアスパラの瓶詰めはペルー、ツナ缶や豚肉の缶詰はポーランド、マッシュルームの缶詰とオリーブ入りトマトペーストはスペインからの輸入。コメはベトナムとウルグアイである。

 スペインによる植民地時代、キューバはサトウキビの生産で発展を遂げた。19世紀半ばには、キューバ産砂糖は世界の砂糖生産量の25%を占めていたという。だが、全土でサトウキビの栽培を進めたため、食料の大半を輸入に依存するようになる。典型的な単一栽培(モノカルチャー)は、米西戦争の果てに、米国の実質的な保護国として独立した1902年以降も続いた。

 その後、キューバ革命を成し遂げたフィデル・カストロは米国資本によって独占されていたサトウキビ農園を接収、サトウキビ以外の生産を志向するなど食糧自給率の向上を目指した。だが、1972年に経済相互援助会議(コメコン)に加盟したことで、東側陣営に対する砂糖供給基地としての役割を与えられる。結果として、食料の80%を輸入に頼り、GDP(国内総生産)の40%前後が食料品の輸入で外部流出するという現在の苦境につながった。


スーパーの棚はスカスカだったが、アディダスなどブランド店が並ぶショッピングモールもあるにはある(写真はセントロ地区のカルロス・テルセーロ)
 こういった外貨不足、物不足の帰結なのだろうが、スーパーに並んでいる商品の価格は途上国の割に高い。

 例えば、鳥の冷凍むね肉は1kg当たり(実際の重さは不明。手に持った感じ。以下同)2.5CUC(≒2.5ドル)だった。ウォルマートあたりで似たようなモノを探せば5〜6ドル台で買える。もちろん、日本や米国よりはリーズナブルだが、一般的に言われている平均月収が20CUCということを考えれば、ずいぶんと高い印象だ。

レッドブルはキューバでもやはり高い

 それ以外に見たモノの価格を列挙してみると…、

 冷凍芽キャベツが1kgあたり3.35CUC、冷凍ブロッコリーが1kgあたり2.25CUC、ロレアルのシャンプーが5.65CUC、ツナ缶が1個1.50CUC、オリーブの小瓶で1.50CUC、レッドブル1缶2.10CUC、麦茶を入れるようなコック付きポリタンクタンクが24.40CUC、シチュー鍋33.45CUC、キューバ産ハバナクラブ1本3.86CUC(これは安いと思う)、アディダスのスニーカー60CUC、ドアノブ49.70CUC、シャワーホース17CUC、シャンデリア93.45CUC、パナソニックの電子レンジ168.70CUC、DAEWOOの液晶テレビ399CUC(24インチ程度)といった具合である。

 そういえば、メキシコのカンクン国際空港でチェックインを待っている時に、エアコンや液晶テレビなど大量の商品をラップでぐるぐる巻きにしている一団がいた。どのように税関手続きをしているのかは分からないが、ああやって海外で仕入れた商品が店舗に並ぶのだろう。


カンクン国際空港で大量の商品をぐるぐる巻きにしていた一団
 もっとも、配給制度によって食料品など生活必需品は格安で手に入るため、字面から受けるほどの負担感がないのも事実。ハバナ大学キューバ経済研究所の研究員、リカルド・トーレスも、「私の給料はドル換算で月35ドルだが、月35ドルしかもらえないという表現は適切ではない」と語る。一橋大学大学院に留学経験があるトーレス。先進国とキューバの両方を知る存在だ。

 キューバでは教育、医療、住宅にかかる費用が基本的にタダで、電気・ガス・水道など生活インフラも格安だ。通常、1日1ドル以下で生活している人々は絶対的貧困層と呼ばれるが、経済システムの基本設定が異なるキューバによその世界の尺度を当てはめるべきではない、という指摘だ。

 「私の給料は1日1ドル程度で低い。それに、配給があるといっても、洋服や靴は市場価格で買わなければならない。ただ、ほかの途上国と違ってキューバは国民が飢えに苦しむような国ではない」


「キューバはハイチとは違う」と語るトーレス
「カストロは旧ソ連の支援を社会に還元した」

 確かに、キューバは豊かとは言えないが、隣国ハイチのように国民の大多数が劣悪な貧困状態に置かれているわけではない。また、ラテンアメリカにはブラジルやベネズエラのように国民の間に階級やとてつもない格差が存在している国も少なくないが、キューバは革命によって、少なくとも格差の少ない社会をつくり上げた(旧ソ連崩壊前の所得格差は4〜5倍に収まっていたという)。

 もちろん、原油の提供や砂糖の高値買い取りといった旧ソ連の寛大な支援がなければ、基礎食料、教育費、医療費が無料というキューバ的な理想主義社会は実現していなかった。そういう意味では、米ソの冷戦体制のはざまに偶然咲いたあだ花だったのかもしれない。

 それでも、実現しようと思ってもできない平等な社会を一時期でも実現したことは革命の大きな成果に違いない。「フィデル・カストロは旧ソ連の支援を自分のポケットに入れずに社会に還元した。それは純粋に評価すべきだと思う」とキューバ研究の第一人者であるアジア経済研究所の山岡加奈子も言う。

 それでは、配給で具体的に何がもらえるのか。その現状を見るために、ハバナ市郊外で暮らす元歯科医、アベリナ・リエレーナの配給手帳を覗いてみよう。

 まず、配給の品目は以下の13品目である(パンを除きひと月当たり)。

 ハム3パウンド(1パウンドは約450グラム) 、挽肉1パウンド、鶏肉2パウンド 、魚1パウンド、コメ7パウンド、豆類14パウンド、鶏卵5個、サラダ油0.5パウンド、砂糖1袋、塩1袋、パスタ麺1袋、コーヒー1袋、パン2つ/日。これ以外に、アベリナはミルク2.5リットル、牛肉3パウンド、鶏肉3パウンドの配給を受けているが、これは糖尿病患者向けの特別支給だという。


ハバナ郊外で暮らす元歯科医のアベリナ

配給手帳はこんな感じ
 次に価格だが、スーパーとは比較にならないほど安い(価格はアベリナからの聞き取り)。

 ハムは1.5CUP(約3.8セント)、鶏挽肉は0.35CUP(1.4セント)、コメで3.1CUP(12.4セント)、豆類6.1CUP(24.4セント)、鶏卵1つで0.15CUP(0.6セント)だ。このほかに、ガス代が月2CUP(8セント)、電気代が月12CUP(48セント)である。卵1個が1セント以下というのはかなり安い。

 地域によって異なると思うが、アベリナの近所では4〜5ブロックに1カ所ずつ配給所がある。中に入ってみたところ、台の上に天秤ばかりがあり、ドラム缶の中にコメや赤豆、砂糖やサラダ油などが入っていた。こういった食材を手帳に書かれている分量に応じて支給するのだ。


倉庫と見間違えそうな外観

中にはコメや油の入ったドラム缶が並んでいた
「配給だけではひと月持ちません」

 このように配給品は格安だが、アベリナに言わせると、配給の量自体は減っているのだという。

 「前は月に卵が10個だったけど、今は5個。私は息子の分をもらっているので十分な量がありますが、普通は配給だけではひと月もちません」

 配給不足は深刻なようで、コッペリア公園で話を聞いた50代のエンジニアも、配給の食料は10〜15日で底をつくと嘆いていた。

 実は深刻な経済の低迷を受けて、キューバ政府は配給を減らしている。国民一律の配給制度はいずれ廃止すると政府は明言しており、キューバ的社会主義の重要な柱だった配給制度はその使命を終えつつある。公的部門労働者のレイオフで完全雇用、すなわち「職」の提供を放棄したように、国民にすべからく「食」を与える配給制度の終焉は、普通の国になりつつあるキューバの一断面だ。

 アベリナの話をもう少し続けよう。

 彼女の家は、2階建てアパートの2階の一室にある。坪数はよく分からないが、いわゆる1LDKで、3畳ほどのキッチンに10畳ほどの居間、ベッドと洋服ダンスを置くので精一杯の広さのベッドルームがある。もともとは郊外に3LDKの戸建てを持っていたが、離婚したのを機に小さめの家2つと交換したという。今でこそ不動産の売買は認められているが、かつては引っ越そうと思えば交換相手を見つけなければならなかった。

年金はレッドブル6缶分

 キューバ革命まで米国の保護下で繁栄を極めた国だけに、かなり老朽化しているが、電気・ガス・水道といったインフラ自体は比較的整備されている。アベリナの家も電気・ガスは問題なく通っており、冷蔵庫やテレビ、扇風機などの家電製品は一通り揃っていた。

 ちなみに、冷蔵庫はハイアール、ミキサーは年代物のナショナル、ビデオデッキはソニー、テレビはDaytron、扇風機は1982年に医療支援でリビアに行った際に買った日本製だ(「Samurai α」というブランド。彼女は日本製と言うが、日本製かどうかは不明)。


冷蔵庫の中身。化粧品も冷蔵庫で冷やしている

料理で使う香味野菜。こういった野菜は自由市場で買う

ナショナルのミキサー。古すぎて年代不詳

こぢんまりとしたキッチン。コンロは4口ある

ラジカセと扇風機

室内の様子。とても居心地がよさそう

アパート同士の間隔はかなり狭い
 アベリナの年金は月310CUP(12.4CUC)とレッドブル6缶分で、キューバの年金生活者の中でも金額が多い方ではない。現役時代はキューバが進める国際主義(社会インフラが遅れている途上国に医療チームを送り、国際的なプレゼンスを高めるキューバ独自の外交戦略)の先兵としてアフリカなど途上国の医療支援に赴くなど国のために尽力した。

 学歴も高く、貢献度の高い人材であれば、年金も高くてもよさそうだが、そうならないのがキューバのキューバたるゆえんだ。

 一般的に、キューバでは高学歴で地位の高い仕事をしていた人ほど年金支給額が低い(ついでに言えば、給料も低い)。今回、取材でいろいろお世話になった元キューバ外務省のミゲル・バヨナ・アブレウトも、慶応大学と京都大学に留学経験のあるインテリだが、月270CUP(10.8CUC)に過ぎない。その件を彼に聞くと、「日本に赴任していた時の友人に会いたいけど、とてもそんなお金はないよ。だけど、それでいいのよ」と笑っていた。

 その背景にあるのは、高い学歴や地位は国が教育の場を提供した結果であり、それだけの教育投資を与えたのだから低くても構わないという考え方だが、金銭などのインセンティブでなく、労働者の意識であり良心に生産性の向上を求めたキューバ的な倫理観もあるように思う。キューバ革命のもう一人の立役者、チェ・ゲバラが打ち出した「新しい人間」的な考え方である。

 それ自体は素晴らしい考え方だが、悲しいかな人間は社会のためだけに一生懸命働く崇高な人ばかりではない。平等社会の実現に向かっていた時のキューバ、あるいは旧共産圏が軒並み低い労働生産性に直面したのはその証左だろう。最近でこそ医者の給料が上がったようだが、医者が亡命し、教師がタクシー運転手などの副業を始めるのは学歴の割に低い給料にある。

 さて、物不足の次はキューバ国内で広がる格差を見る。米国に比べればマイルドだが、広がりつつある格差はキューバの社会を確実に変えている。

このコラムについて
○○支局長の「辺境を視に行く」

「日経ビジネス」の海外支局で働く支局長が世界の「辺境」を訪れます。地理的な辺境あり、文化的な辺境あり、政治システムの極北もあれば、社会システムの楽天地もあり。

支局長たち自らの眼で見た世界を活写します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/283921/061900001  

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コメント
 
1. 2015年6月22日 16:29:08 : nJF6kGWndY

>国民一律の配給制度はいずれ廃止
>公的部門労働者のレイオフで完全雇用、すなわち「職」の提供を放棄
>普通の国になりつつあるキューバ
>平等社会の実現に向かっていた時のキューバ、あるいは旧共産圏が軒並み低い労働生産性に直面

現実を無視した理想は破綻する

当然のことだ


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