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日本郵政本社が所在する日本郵政ビル(「Wikipedia」より)
巨人・ゆうちょ銀行上場、「民業圧迫」は本当か
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150622-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 6月22日(月)6時0分配信
今秋、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の日本郵政グループ3社が東京証券取引所に株式を上場する。この3社はもともと日本郵政公社の郵便、郵便貯金、簡易生命保険の郵政3事業で、2007年10月に解体・民営化された。同事業には以前から「民業圧迫」という批判がつきまとい、日本郵政へは宅配便、ゆうちょ銀行へは金融機関、かんぽ生命へは生命保険の各業界が事あるごとに「民業圧迫」を口にしては政府にプレッシャーをかけてきた。それはおそらく上場後も変わらず、今後も過去を背負いながら批判され続けるのだろう。
とりわけゆうちょ銀行は、以前から「郵貯が民間金融を圧迫している」と言われ続けてきた。1人1000万円という上限枠はあるが、郵便貯金、特に定額貯金は郵便局の窓口で個人預金をどんどん吸い上げ、預金集めに四苦八苦する他の金融機関から目の敵にされてきた。そんな過去の経緯がある上に、ゆうちょ銀行は全国に約2万4000カ所の郵便局網、民間最大の三菱UFJフィナンシャル・グループの預金残高約153.3兆円をしのぐ郵便貯金残高約177.7兆円を有し、運用資産は205.8兆円とメガバンクの総資産とほぼ肩を並べるという規模を誇る。その「巨人」がまもなく上場するというのだから、他の金融機関にとっては気になる存在だろう。
今年4月1日に発表された日本郵政グループの中期経営計画「新郵政ネットワーク創造プラン2017」によれば、ゆうちょ銀行は向こう3年間に総預かり資産を貯金で3兆円、資産運用商品で1兆円増やすという目標を掲げている。上場後、さらなる拡大路線に打って出ることは確実だ。現状では、ゆうちょ銀行が自前で行う個人、法人向け貸付は、預金担保貸付を除いては認められていないが、すでに12年9月にそれらの新規業務を金融庁に申請済みで、認可を待っている状況である。
だが、ゆうちょ銀行が他の金融機関にとって「最強の敵」になるかというと、現状ではどうしても疑問符がつく。個別分野によって多少違いはあるものの、総じていえば「幽霊の、正体見たり枯れ尾花」で、怖がって騒ぐほどの脅威ではないという見方も強い。なぜならゆうちょ銀行には法律、金融行政、人材、以前からのイメージなどさまざまな面で「縛り」があり、『進撃の巨人』ならぬ「進撃できない巨人」になっているからである。
●他の金融機関の“懸念”
「脅威」とみられている一つは、ゆうちょ銀行が「3年間で1兆円拡大」を目指している資産運用商品の販売だろう。すでに郵便局の窓口では05年から投資信託の販売を行っており、手数料収入を得ている。
6月11日には、三井住友信託銀行、野村ホールディングスと、個人向け資産を運用する共同出資子会社を設立する方向で大筋合意したと報じられた。運用と開発のノウハウを持つ2社と提携して低リスクの金融商品を共同開発し、郵便局の窓口で販売するという。実現すれば日本郵政グループと民間の金融機関、証券会社との共同出資会社は初のケースになる。その金融商品が投資信託であれば、ゆうちょ銀行は販売手数料だけでなく、信託報酬のような運用会社が得る収入も子会社を通じて得ることになる。
投資信託など金融商品や保険商品を窓口で販売し、販売手数料を得るという業務は、ゆうちょ銀行だけでなく金融機関全体にとって今、「おいしい収益源」になっている。メガバンクも地銀も、15年3月期決算の決算内容はまるで判で押したように「低金利が続く中、貸出金利の競争激化で本業のもうけが減った分を、それ以外の収益で補った」という趣旨の説明で横並び。その「それ以外の収益」で販売手数料収入は重要な部分を占める。もしそれがなかったら、海外業務を行っていない地銀などは業績がボロボロの銀行が続出していただろう。
その最もおいしく、頼りになる収入源を、「3年で1兆円上乗せが目標」のゆうちょ銀行に食い荒らされてはたまらないというのが、他の金融機関に共通する懸念だとされている。金融庁の認可待ちの個人や企業向け貸付業務(新規事業)と違って、この業務はすでに競争状態。約2万4000の郵便局窓口という販売チャネルの「数の力」が脅威ととらえられ、「他の金融機関との間で手数料収入の奪い合いが起きる」「地銀あたりは割を食うだろう」と予想されている。
●窓口で「手数料収入の奪い合い」は起きるか
だが、窓口で販売される金融商品を細かく見ていくと、以前ほどではないが、銀行と郵便局では商品ラインナップに違いがある。一言でいえば、銀行は「低リスクから中位リスク商品まで揃う」、郵便局は「比較的低リスクな商品の品揃えに力を入れる」という傾向がある。三井住友信託、野村との共同開発商品も低リスク商品と報じられている。
「郵便局は低リスク、小口に強い」は、歴史の長い新発国債の販売でもみられた傾向だった。郵便局では郵貯の1000万円の上限枠や、かつての「マル優」枠を超えた人に、「満期まで持てば政府が元本保証」というニュアンスや「マル優別枠」を示して国債購入を勧めてきた経緯がある。「低リスク・小口」の投資信託の販売に強いのはその流れで、それに合わせて設計され郵便局だけで買付できる「郵便局専用投信」というものもある。一方、銀行も毎月少額の「投信積立」をPRしているものの、やはり利用者側の意識としてはボーナスや退職金など「まとまったお金」の預入・運用先の選択肢として投資信託がある。
ゆうちょ銀行も取り扱い商品ラインナップを順次拡充しており、郵便局の窓口職員にフィナンシャル・プランナー(FP)の資格取得を奨励するなどして、銀行と同じくオールラウンドな金融商品の販売窓口を目指しているが、利用者側にある棲み分けの意識はなかなかぬぐえないだろう。
「戦場」になるといわれている地方でも当分の間、地銀と郵便局で商品ラインナップこそ重なり合っても、利用者層や利用目的がやや異なるので「顧客の奪い合い」の激化にはつながらないのではないか。それなら他の金融機関にとって大きな脅威とはいえない。
では次回は、上記以外に脅威になるといわれている住宅ローンと企業貸付について、果たして本当に他の金融機関の脅威になり得るのかをみていこう。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト)
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