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写真左:浜矩子氏、右:水野和夫氏
浜矩子×水野和夫対談 資本の野生化につき進む 「アベノミクス」ならぬ「アホノミクス」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43815
2015年06月21日(日) 浜矩子,水野和夫 現代ビジネス
『国民なき経済成長 脱・アホノミクスのすすめ』刊行記念対談
浜矩子×水野和夫 「野生化」する資本主義
株価は上がっても生活的な実感に結びつかないアベノミクスに警鐘を鳴らしつづけるエコノミスト・浜矩子氏。最新刊の『国民なき経済成長』(角川新書)も話題を集めている浜氏が、同書を推薦し、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)などの著作がある水野和夫氏と対談。現代の経済状況を危惧する二人が「野生化」する資本主義の問題を語る。
* * *
■世界各国の横並びがもたらす国内の縦並び現象
浜: このところ、世の中の諸問題が持つ方向性が少しより顕著に見えるようになったような気がします。2005年辺りから、私はグローバル時代には「横並びがもたらす縦並び現象」というものがあるように思ってきました。その辺を、どうもかの『21世紀の資本』のピケティ氏も感じていそうだということを発見して、おおいに気を良くしている次第です。
グローバル時代の資本は最適・最効率を求めて地球をまたいで動く。資本が行った先は繁栄します。例えば、インドには海外からの問い合わせを受けるコールセンターが設立されて企業が繁栄している。これが、グローバル時代がもたらす横並び。一方、国境の内側では繁栄の流れに乗れた人と乗れなかった人の所得格差が開いている。内なる縦並び現象です。こういう問題に賢く対処できてこそ、国家・政府・政策の存在意義が評価されるのだと思います。
浜 矩子(はま・のりこ)
同志社大学大学院ビジネス研究科(同志社ビジネススクール)教授。1952年生まれ。一橋大学経済学部卒業。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長、同研究所主席研究員を経て、2002年より現職。専門はマクロ経済分析、国際経済。
ところが、現実には、国々は逆の方向で存在感を示そうとしている。つまり、強い者をより強くすることで生き残ろうという傾向を強めています。そのことが経済の基盤を崩すことになるのですが、それにまったく気がついていない。典型的なケースが、今の日本です。身も蓋もなく典型的。それが「アベノミクス」ならぬ「アホノミクス」です。
水野: かつては南北問題という格差がありました。その時代は南側を見て見ない振りをしていれば良かった。ところが、オイルショックが起こって先進国の成長率がスローダウンするようになると、南側の所得水準を上げて市場をつくるようになると、その反動で国内に周辺をつくるようになった。それがグローバル化の正体です。
資本主義であれ、封建時代であれ、古代も含めていつの時代でも、搾取する側の帝国と搾取される周辺国が存在しないと成り立たない。ローマ時代は北アフリカから奴隷を連れて来て、周辺国を占領して「すべての道はローマに通ず」とばかり、すべての富をローマに集めた。さすがに近代化後は目に見える奴隷制度は廃止されましたが、西側先進国はセブン・シスターズと呼ばれる国際石油資本の手で原油を抑えることで富を独占した。そして近年では、数十億人の市場であるBRICsに目を付けたり、金融資本市場では「世界の富はウォール街に通ずる」という仕組みをつくったりしている。
国内でも「努力すれば報われる」というおかしな標語を持ち出して格差を正当化しようとしています。労働の規制緩和という口実によって非正規雇用を増やし、意図的に落ちこぼれをつくろうとしている。労働者を永久に低賃金で固定化しようという企みです。資本主義は全員を豊かにする仕組みでは無いということに気がつかなければなりません。
浜: 実にその通りですね。だからこそ、全員を豊かにする資本主義というものを生み出さないと、グローバル時代の向こう側には何も無いという恐ろしい終焉を迎えることになってしまうのだと思います。「資本主義の進化」こそ、大きなテーマになり得ると思います。
浜矩子・著『国民なき経済成長』
ところが、「アホノミクス」が行っていること、アメリカやイギリスで行われていることを見ると、明らかな資本主義の後退現象が起こっている。マルクスが発見した「資本主義の再生産表式」は、モノを生産するメカニズムの中に資本が取り込まれていた。その過程で資本のメカニズムを順当に動かすためだというので、労働に対する搾取が起こった。そこに問題があったわけですが、少なくとも、マルクスが分析対象とした状況の中では、資本は一定の生産体制の中に組み込まれていた。
ところが、現代の資本は資本主義的再生産メカニズムから飛び出て「野生化」しています。あるいは資本の「先祖返り」。この調子で行くと経済の基盤は破壊され、社会保障がズタズタになる。だが、それが成長戦略につながるのだという。
ところが、実をいえば、今の時代において成長実績を上げているのは、むしろ、社会保障が手厚い北欧諸国です。成長率が高い国々は、手間を掛けて落ちこぼれを作らないように努力しています。「アホノミクス」のやり方とは全く正反対のアプローチが成長をもたらしている。そのことにチーム・アホノミクスは気がついているのでしょうか。
■報われない人は努力していないという方便
水野: 「努力した人が報われる」というおかしな標語がさかんに使われています。しかも上位10%の支配階級の人々は、報われた者しか努力していないと逆転の解釈をする。文句をいえば「努力をしていないから報われないのだ」と言う。因果関係を平気で逆転させる。
イギリスの大航海時代の資本主義は海賊資本主義でした。イギリスの海賊が、宗派が違うポルトガルやスペインの船を襲って富を奪っても、その一部を国王に拠出すれば「合法」でした。資本主義の初期では、そのように超法規的な方法で資本を蓄積した者が支配階級となった。近代資本主義では、その時点で何も持っていない人は、支配階級には入れない。入り口の部分で選別が行われるからです。
13世紀のローマ法では利子の上限を33.5%と定めた。しかし、ローマの外では暴利が幅をきかせた。借りた人は財産を取られて放り出させるだけ。剰余価値は資本家が持ち去り、労働者は生活に必要な分だけしか手にできなかったのです。
浜: 資本主義の黎明期は、そうやってどんどん勢いが蓄積される時代で、労働者もそのおこぼれに預かることがさしあたり生活基盤の向上につながった。それこそ、唯一、「トリクルダウン」効果が多少とも実現した時代だったといえるかもしれませんね。
資本主義が成熟してくると、黎明期と同じ論理では自己破壊的な方向へ向かうだけだということにチーム・アホノミクスは気がついていない。だから、ものすごく時代錯誤的なことを行っている。彼らのやっていることに比べれば、海賊資本主義のほうがまだましです(笑)。「弱きを助け強きをくじく」という考え方に基づいていたのですから。
水野: 海賊を肯定するつもりはありませんが、彼らは彼らの中では富を平等に分けていた。平等社会を築いていました。
浜: 海賊社会は共産主義社会と言ってもいいかもしれない(笑)。
■税金逃れをする企業がもてはやされる
水野和夫(みずの・かずお)
日本大学国際関係学部教授。博士(経済学)。1953年、愛知県生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。
水野: グーグル、アマゾン、マイクロソフト、スターバックスといったグローバル企業がタックスヘイブンや軽課税国などを用いて過度の節税対策を行っていると批判されました。これらの企業が海賊なのか山賊なのかわかりませんが、各国のインフラを使って経済活動を行って利益を得たのだから、インフラの利用料として税金を納めるべきなのに踏み倒した。
一方でアメリカ財務省は、米国発のグローバル企業から税金を取れないため、商務省が表に出て行って、外国企業から巨額な課徴金を取っている。アメリカ国内では商務省が山賊まがいのことをしています。
浜: まるで追いはぎですね(笑)。ピケティ本のタイトルで面白いところは、21世紀の「資本」であり「資本主義」ではないところ。彼も資本の野生化という感覚を持っているのかも知れない。
本の最後のほうで「国家はその社会性を復元すべし」ということを言っていて、それが重要なポイントと思います。資本の野生化を懸念する感覚があるからこそ、彼は幅広い資産課税の導入を提唱したのではないでしょうか。
納税と受益は決して一対一の対応関係にあるのではない。だからこそ、「社会性」に関する認識が必要なわけです。いわんや、受益しているのに税金を払わないで済む道を追求する企業や人々がもてはやされる社会は間違っています。
■技術の進歩とは逆に人間の精神は退化する
水野: 恐らく人間はどんどん劣化しているのでしょう。技術は進化しているのに精神は退化している。だから、善悪の判断ができなくなっている。
浜: 知性と精神性が退化すれば、要は野蛮になっていくわけですよね。公益性・公共性とはどういうものであるかが考えられなくなっている。人はなぜ税金を払わなければならないのかという常識すら失いつつある。その好例が本にも書いたことですが「ガバナンス」という言葉の意味の曲解です。ガバナンスとは、短期的に稼ぐ力を顕在化させることだということになっている。
水野: それって企業でいえば経営会議のテーマですよ。
浜: ガバナンスは、過度に収益ばかりを追求する企業経営に歯止めを掛けるために必要なことも、いつの間にか「稼ぐ力」を強化するためにガバナンスがあると解釈されてしまった。国も企業も公益性・公共性を忘れている。その先には人類の滅亡しかありません。「アホノミクス」の出現は、人類滅亡の時が迫っていることを告げているのかも知れない。
だからこそ、私たちは資本主義の進化、資本主義の新たな夜明けというテーマを負い続けなければなりません。そこで水野先生、「資本主義の新たな夜明け」という本をお書きいただけませんか?
水野: とても興味深いテーマですよね(笑)。
浜: 精神性を復権させることと、安倍政権が唱える「道徳教育」ほど、かけ離れている相互関係はありませんね。道徳心という概念が、今日において何と汚されているか。
だからこそ、『国民なき経済成長 脱・アホノミクスのすすめ』の超続編ともなる『資本主義の新たな夜明け』が必要なのです。水野先生、よろしくお願いいたします!
<了>
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