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コラム:ギリシャがデフォルトでもユーロは売られない=佐々木融氏
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0OZ11K20150619
2015年 06月 19日 20:16 JST
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長
[東京 19日] - ギリシャ債務協議はかなり緊迫の度合いを強めており、6月30日の国際通貨基金(IMF)への返済が実行されない可能性が高まっている。
ギリシャが喫緊の課題として直面しているのはIMFからの債務の返済で、この返済が遅延した場合、2週間後に「深刻な返済遅延」であることが告知され、1カ月後に「支払い遅延」が正式に報告される、というタイムスケジュールが決められている。
過去にIMFへの返済が不履行となったソマリア、スーダン、ジンバブエの場合は、完全に「支払い不能」と認定されるまでに半年から1年超を要した。ギリシャの場合、他の公的セクターの債務全般がデフォルト(債務不履行)になるのかどうかなど、実際にどのような対応がとられるかは不透明だが、IMFが通常貸し出しを行うような、まともな資本市場も整備されていない国とは異なるため、ラガルドIMF専務理事も「返済しなければ7月1日からデフォルト」と圧力をかけている。
仮にギリシャがIMFへの返済を6月30日までに実行できなかった場合、短期的にユーロが下落することはあり得るが、下落幅は限定的で、むしろユーロ上昇が加速する可能性さえあると筆者は見ている。その理由は、おおむね以下の4点だ。
<売られるとすればドラクマ>
第1に、1990年代後半以降のソブリン・デフォルトの事例を見ると、デフォルトの前後に通貨の急落を経験したロシア、エクアドル、アルゼンチンはいずれもドル・ペッグ制やクローリング・ペッグ制など硬直的な為替制度を採用していた。一方、ペルーなどのように為替制度が柔軟的だったケースでは、デフォルト後に通貨が急落するといった動きを見せなかった。
ギリシャのケースでは2通りの考え方ができるだろう。まず1つは、ギリシャの通貨はユーロであり、ユーロは完全な変動相場制の通貨だ。したがって、ギリシャのデフォルトは一定程度織り込まれており、実際にデフォルトとなったからといって、改めて売られることはないという考え方だ。
もう1つは、ギリシャのもともとの通貨はドラクマで、ユーロという通貨に対する固定相場制を採用しているという考え方だ。つまり、ギリシャがデフォルトしたうえに、欧州連合(EU)・ユーロ圏から離脱するという選択肢をとれば、ドラクマはロシア、エクアドル、アルゼンチンが経験したように、ユーロに対して暴落し、高いインフレ率を経験する可能性が極めて高いだろう。つまり、このケースでもユーロは売られる対象となる通貨ではない。
<前回のユーロ危機との大きな違い>
ギリシャがデフォルトしてもユーロ上昇の可能性さえあると見る第2の理由として、今回の債務問題は2011―12年のときのように、他の欧州周辺国へ波及していないという点を強調したい。つまり、2011―12年は「ユーロ」の問題だったが、今回は「ドラクマ」の問題と言うこともできるかもしれない。
ユーロドル相場は昨年5月のピークから今年3月のボトムまで25%も急落した。しかし、そのかなりの部分は、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和を受けた金利の低下と、ドル高によって説明できる。ユーロがここまで売られてきたのは、ギリシャ問題が主因ではない。
これに絡んで第3の理由として指摘しておきたいのは、仮にギリシャがEUやユーロ圏から離脱したとしても、それが通貨ユーロの強さを減じるとは考えられないということだ。
通貨の強さは基本的にインフレ率の反対側の概念だ。インフレ率が高いということは通貨が弱いと同義、インフレ率が低いのは通貨が強いと同義だ。
現在、ユーロという通貨を使っているギリシャのインフレ率はマイナスだが、ドラクマという通貨を再び使い始めた場合のギリシャのインフレ率は、他のユーロ圏のインフレ率の平均値よりは高くなることが容易に想像できる。
したがって、仮にギリシャが離脱した場合、ユーロ圏のインフレ率は、ギリシャが入っている時よりは平均的に低くなるだろう。つまり、ギリシャ離脱後の通貨ユーロはそれ以前に比べて強くなるということだ。
<キプロス資本規制後はユーロ高に>
第4の理由はややテクニカルな話だが、ドルが全般的に軟調に推移し始めている中で、ユーロの買い戻しが対ドルで進む可能性が高いということだ。
1990年以降の米利上げ局面では、ドルは最初の利上げ前後でピークを打ち、下落トレンドに入る傾向を示している。6月5日に公表された予想を上回る米雇用統計を受けて、米金利が上昇しても、ドルは実効レートベースで軟調に推移している。米連邦準備理事会(FRB)による利上げは、すでに十分織り込まれていると考えられる。
ギリシャでは預金流出が続いており、同国の国内銀行は資金繰りをECBの緊急流動性支援(ELA)に頼っている。しかし今後、預金流出が加速するようなことがあれば、6月30日を待たずに、ELAが預金流出の増加に対応できなくなり、ギリシャが銀行預金の引き出し制限などの資本規制を課す可能性が出てくる。こうなると、ギリシャ国内の混乱は大きくなるだろう。こうしたニュースが流れると、一時的にユーロ売りとなるかもしれない。
しかし、これは問題の根本に対してギリシャ国民自体が答えを出さなければならなくなるという意味で、ポジティブな転換点と捉えることもでき、ギリシャ債務問題が新たな展開に入ることにつながるかもしれない。
ユーロにとっても、それが一段の買い戻しのきっかけとなってもおかしくないと思う。ちなみに、キプロスが資本規制を導入した2013年3月下旬にユーロはいったんボトムを打ち、その後の約1年間は緩やかな上昇トレンドを続けた。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちらhttp://jp.reuters.com/news/globalcoverage/forexforum)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKBN0OZ11K20150619
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