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吉野家、1720円「鰻重」は厳しい戦いと予想の理由 160円「つゆだけ丼」に商機?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150619-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 6月19日(金)6時1分配信
大手牛丼チェーン吉野家は、夏の定番商品「鰻(うな)丼」を今夏は「鰻重」にリニューアルし、6月1日から販売すると発表した。「鰻の枚数を増やしてほしい」というファンの声に応え、3枚をのせた「三枚盛」を新たに投入。三枚盛は単品で1650円、みそ汁と漬物を付けたセットで1720円と、吉野家の歴代商品で最も高い価格に設定する。
東京は5月に真夏日が何日もあるなど暑い日が続き、これから本格的な夏を迎える。そんな中、スタミナ補充にぴったりなのが鰻だ。そこで、吉野家が攻めの姿勢を見せた。では、この鰻重はヒット商品になるだろうか。
結論からいえば、筆者は厳しいと考える。吉野家が1720円の鰻重を出しても、顧客が吉野家に求める提供価値から外れており、ヒット商品にはならないと思われるからだ。
では、顧客が吉野家に求めている提供価値とは何か。それは「うまい、やすい、はやい」だ。鰻重は吉野家の提供価値である「やすい」から外れている。だから鰻重は、吉野家の顧客が求めているものではない。
1720円を支払う際には、千円札2枚を渡すことが多いだろうが、2000円前後の価格帯でライバルと比較すると、東京・麻布「野田岩」では鰻丼を2200円、鰻重を2900円から食べることができる。浅草「初小川」では鰻重(中)がやはり2900円。ちなみに(小)だと1365円だ。銀座「竹葉亭」では鰻お丼(A)が2400円だ。いずれも吉野家の鰻重より高い。
吉野家の鰻重は三枚盛なので量は多いが、それでも苦しい戦いを強いられると考える。なぜなら、消費者は鰻の「量」の対価として千円札を2〜3枚を支払っているわけではないからだ。
●顧客は料理以外の部分にも対価を支払っている
料亭の建物の雰囲気、テーブルや椅子から感じる歴史、接客の落ち着き、そして料理。それらをひっくるめて、消費者は対価を支払っているのである。野田岩の創業は江戸初期、寛永12年。店の引き戸を開けると、和服姿の女将さんが迎えてくれる。仲居さんも和服姿だ。初小川の店内には数多の千社札がみられ、その歴史を垣間見ることができる。竹葉亭は銀座のど真ん中に位置しながら、和風の中庭を眺めると喧騒からかけ離れ、落ち着いた気分になれる。
これらの提供価値に対しても、顧客は千円札を支払っているのである。もちろん、上記の価格は各店の最低価格であり、ちゃんと料理を楽しもうと思えば、その数倍の価格となる。
一方、吉野家の既存店で同レベルの金額を支払っても、着物姿の女将さんや仲居さんがいるわけではない。落ち着いた和風の中庭があるわけではなく、隣の席では牛丼つゆだくを注文した人が牛丼をかきこんでいる。座敷でふかふかの座布団に座るわけではなく、いつものカウンターで食べることになる。鰻の量が三枚盛であること以外で、ライバルと比較したときに優位性がない。
以上から、厳しい戦いを強いられると考えるのだ。
●吉野家の提供価値を外してはいけない
かつて吉野家は、赤坂に高級路線の実験店舗を持っていた。赤坂一ツ木通りにあった「特選吉野家あかさか」だ。門構えは高級割烹のようであり、入り口から入るとガラス張りの冷蔵ケースの中に白布でくるまれた牛肉の塊が陳列されていた。店内では着物を着た仲居さん風の店員が盆にのせたお茶をサーヴしてくれた。国産牛肉と赤ワインをふんだんに使った特選牛丼は1000円前後。1980年代後半、日本がバブル経済期に入り、強い日本だった頃の話だ。
残念ながらすでに閉店してしまい、現在私たちは特選牛丼を楽しむことはできない。実験店舗だったが、そのコンセプトを多店舗展開することは叶わなかった。吉野家の提供価値である「うまい・やすい・はやい」の範疇を外れていたからだ。消費者は、吉野家に「うまい・高い」を求めていない。「うまい・高い」を求める場合、他に選択肢はいくらでもあるからだ。
今回の鰻重は既存店舗で展開される。だから、本格的に鰻の名店と競争しようとは考えていないのだろう。従来の牛丼のターゲット顧客以外に、健康志向の「ベジ丼」と同じくらいの位置づけで、新規ターゲット顧客を少しでも増やすことができればという考えなのかもしれない。
また、吉野家の新規ターゲット顧客開拓の方向性は、健康志向や本格的な鰻の方向ではないと思う。「うまい・やすい・はやい」を研ぎ澄まし、例えばご飯に牛丼のつゆだけをかけた「つゆだけ丼」を160円ほどで販売するという方向性もあるのではないだろうか。欧米諸国、アジア諸国の競争力に追いつけず、日本がどんどん引き離されている中、国内市場の成長ターゲットセグメントは、むしろこちらにあると考える。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院<社会科学系>准教授)
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