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2015年6月19日 八代尚宏 [昭和女子大学特命教授,,国際基督教大学客員教授]
派遣法改正で働き手に本当にメリットはあるのか
八代尚宏 昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授
派遣法改正は働き手から見て、本当に評価できるものなのか?
今回の労働者派遣法改正案では、与野党の対決が激化し、採決が見送られるなど混乱を極めた。元々、派遣法自体が矛盾した目標を抱えていることを直視せず、改正案の是非を論じても、議論がすれ違うだけである。派遣で働いている大部分の労働者の利益を基準とし、派遣という働き方の役割と、望ましい派遣法の姿を示した上で、今回の改正法の評価を行いたい。
派遣は抑制すべき
「悪い働き方」なのか
「派遣は労働者の雇用主と使用者とが異なる間接雇用で、労働者保護に欠ける」といわれる。これは派遣の働き方自体が「悪い働き方」であり、派遣労働者の増加をもたらす、あらゆる派遣法改正に反対という論理となる。
しかし、雇用者のうちで、派遣社員の比率はわずか2%(労働力調査、2014年)で、それ以外はすべて直接雇用である。それにもかかわらず、あえて派遣の働き方を選ぶ労働者の職業選択の自由を制限するには、明確な根拠が必要となる。
派遣労働は、不況期に契約を打ち切られ易く、雇用が不安定で良くないといわれる。しかし、それは正社員の雇用を守るための緩衝弁の役割だからだ。これは正社員を解雇する前に、非正社員の雇い止めを求める裁判所の判例にも反映されている。
仮に、派遣が禁止されれば、別の形態の非正社員がその身代わりになる。不況期の雇用調整は、適切な金銭補償で行うことが先進国共通のルールである。しかし日本では、不況期にも雇用が守られる正社員と、その犠牲になる非正社員という「身分格差」が存在する。公平な雇用調整ルールを作らずに、派遣を含む非正社員を無期雇用化すれば、全員の雇用が安定化するというのは夢物語である。
1990年代に、ILO(国際労働機関)が派遣の自由化とその労働者の保護を定めた目的は、欧州の高失業の防止にあった。派遣の働き方の大きな利点は、直接雇用だけで対応できない労働需給のミスマッチを改善し、雇用の総量を増やすことにある。
派遣社員のうち、正社員として働きたい者と派遣のままで働きたい者の比率は、共に43%である(厚生労働省「派遣労働者実態調査、2012年」)。失業のリスクに怯える非正社員にとっては、多様な雇用機会は多いほど良い。「派遣を規制すれば、より条件の良い直接雇用機会が生まれる筈だから、派遣労働者の利益にもなる」というのは、雇用が保障されている正社員の論理に過ぎない。
「長くても短くてもいけない派遣期間」
「派遣は非正社員のうちでも、とくに雇用の安定性に欠ける」とされる。このため民主党政権時の派遣法改正で、30日以内の短期派遣が禁止された。もっとも、雇用保障を必要としない学生、高齢者、世帯主収入の多い専業主婦等は、この派遣規制の対象外とされる。この結果、真に生活に困窮している失業者は、短期派遣の雇用機会から排除されるという、本末転倒の結果となっている。
短期派遣は不安定だから禁止という論理なら、逆に派遣期間の長期化・撤廃は、むしろ望ましい筈である。しかし、現行派遣法では、専門的な業務を除き、最長3年間の期間の上限を定めている。この「長くても短くてもいけない派遣期間」という非論理的な規制は、派遣法の本来の目的が矛盾していることの現われである。
派遣に関するILO181号条約を日本が批准する際に、「正社員から派遣社員への代替防止」という、他国に例のない規定が盛り込まれた。これに基づき、派遣社員は代替性の低い専門的業務のみに従事するか、あるいは3年以内の勤務に限定する規制が設けられた。
今回の派遣法改正案は、派遣を増やす「正社員ゼロ法案」と非難されている。これは肝心の派遣社員ではなく、逆に「正社員の保護」という、日本の派遣法の歪んだ目的を如実に示している。
同一企業内での配置転換を通じ、長い時間をかけて固有の技能を身につける正社員と、どの企業でも共通した汎用的な技能をもつ派遣社員とは、元々、補完的な関係にある。今後、長期的に労働力が減少する日本で、なぜ多様な働き方を制限し、特定の働き方の労働者だけを保護しなければならないのだろうか。
「派遣の固定化」という論理の妥当性
「派遣の業務が拡大すると、生涯派遣の働き方が固定化される」という反対論もある。しかし、これを裏返せば、「派遣を抑制すれば、企業は雇用が安定する無期雇用を増やす」という論理になるが、その保証はどこにもない。過去20年間の低成長期に、雇用が保障される正社員の数はほぼ一定で、派遣を含む非正社員の傾向的な増加により、失業者の増加が抑制されてきた(図)。「労働市場の雇用者数は常に一定で、派遣が増えた分だけ正社員数が減る」というのは、経済社会環境の変化を無視している。
今後の低成長期には、経済活動の変化に弾力的な働き方でなければ、企業は雇用を増やせない。また、労働時間や働き場所を限定した働き方でなければ、既婚女性や高年齢者の多くは就業が困難となる。
新卒一括採用で入社した社員が、職種や働き場所を限定しない働き方で、定年退職時までの雇用と定期昇給が保障されるという正社員の働き方は、過去の高い経済成長期に成立・普及したビジネスモデルである。これに労使がいつまでも固執すれば、低成長期には、企業は雇用を保障できる範囲内に正社員数を抑制せざるを得ない。
雇用規制の強化では、既存の正社員雇用を一時的に守れても、全体のパイを増やすことはできない。経済社会環境の変化に対応して正社員の働き方を改革し、派遣を含む非正社員との働き方の壁を引き下げることが、本来の労働市場改革の方向である。
「望ましい派遣のルール」とは
派遣労働は、典型的な職種別労働市場であり、同一労働・同一賃金が成立している。これが企業別に分断された正社員の労働市場と矛盾することが、派遣問題の本質である。
派遣労働者の保護の観点からは、派遣先の選択肢は広いほど良い。とくに医療分野等、国家資格を要する専門的な業務は、最も派遣に適したものであり、それが禁止されているのは、業界の利権を反映したものといえる。
同一労働・同一賃金は、競争的な労働市場の基本原則である。仮に、このルールが派遣社員と正社員との間にも適用されれば、派遣会社の手数料分だけコスト増となる派遣社員への需要は、詳細な規制を設けなくとも、必要最小限度の範囲にとどまる。
これを実現するための最大の障害は、長期雇用保障と定期昇給の代償に、どのような職種・場所でも無限定に働くことを強いられている正社員の働き方である。こうした専業主婦を暗黙の前提としなければ成り立たない正社員の働き方は、経済成長が減速し、少子高齢化が進む中で、もはや維持できない。また、女性の社会進出にもかかわらず、その管理職比率の低さなど、貴重な人材の有効活用を妨げる要因となっている。
正社員についても、共働き世帯等のニーズに応えて、職種や勤務地を限定した働き方の検討も進められている。この場合、社員は企業の転勤命令に応じる義務がない代わり、当地域の事業所が閉鎖されれば、他に転勤を求める権利もない。この職種別労働市場に近いタイプの地域限定正社員が増えれば、派遣社員の正社員化も容易となる。
今回の派遣法改正は、
望ましい方向への第一歩だが…
今回の派遣法改正は、派遣社員と正社員との均衡化へ向けた第一歩といえる。
第1に、派遣期間の制限を受けない社員の基準が、従来の専門26業務(派遣労働者の約4割)から、派遣会社の無期雇用社員(約2割)に変わる。これは、派遣先での専門業務の境界線が曖昧で、派遣社員にとって働き難かった問題が解消される点で、大きな意味がある。また、同じ無期雇用の派遣社員であれば、派遣先の正社員と同様に、職種や期間の制限がなくなる点でも、一歩前進である。
他方で、派遣会社と有期契約で働く専門26業務の派遣社員は、従来はなかった3年間の派遣期間に制限される。これは、派遣社員を規制する基準が、職種から派遣元の雇用形態へと変化した結果であり、派遣社員の内でも弱い立場の労働者に負担をしわ寄せする点で、ILO条約の派遣労働者保護の精神に反している。
第2に、派遣会社にとって、派遣社員を3年間で交代させれば、派遣先の同じ職場に派遣を続けることができる。これは派遣社員に定型的な業務を委ね、正社員は生え抜きでなければできない、より高度な業務に専念する役割分担を促し、正社員の業務効率化を促す契機となる。
第3に、雇用形態の区別なく、同じ仕事には「均衡待遇」の配慮義務が強化される。今後、これをさらに実効化させ、正社員との同一労働・同一賃金を実現する必要がある。しかし、短期勤続の派遣社員に年功賃金は意味がない。変わらなければならないのは、同一労働・同一賃金の原則から、かけ離れた正社員の働き方である。
今回の派遣法改正は、派遣社員の働き方を改善する面はあるものの、期間制限の対象となる労働者の比率は逆に高まった。派遣労働は雇用が不安定と批判されるが、それをいっそう不安定化させるのが、法律で定める派遣期間の制限である。この基本的な矛盾は、今回の改正法でも解消されず、真の「派遣労働者保護法」への道は、まだほど遠いといえる。
http://diamond.jp/articles/-/73515
女性活躍推進を阻む企業の誤解
【最終回】 2015年6月19日 林 恭子 [グロービス経営大学院教員],君島朋子 [グロービス経営大学院教員]
「会社に来ても仕事がない…」時短女性のジレンマ
4時半に帰宅する女性たちの知られざる苦悩とは?
「お先に失礼します」
?午後4時35分。近藤めぐみは、そっと立ち上がった。近藤の職場は、夕方になると、なぜか活気づくような気がする。外回りの者が帰社するからだろうか。書類を書く者、雑談する者、営業の様子を報告する者、会話でざわざわする机の間を抜けて外に出る。
?駅への道を急ぎながら、近藤はため息をついた。今日は、他部署からの相談を数件受け、課内で来月の定例資料の打ち合わせをして終わった。毎日、困ったこともないが、やりがいもない。仕事は時間内に楽々終わってしまう。「必要なのかな、私…。主任と名乗っているのに、これでいいのかな。来月の異動希望調査、何か書いた方がいいかな…」
?とはいえ、4時半に帰れるのはありがたかった。近藤は、大手総合電機メーカーでソフトウェア開発を担当して9年目。自分でも、がんばって働いてきたと思う。おかげで2年前に主任になったが、その後すぐに産休を取り、娘を出産した。それまでは時間など気にせず働いてきたので、育児もしながら仕事を続けられるだろうかと迷ったが、ちょうどその頃、職場では出産後復帰する女性が多数派になりつつあった。先輩からは復帰を勧められ、短時間勤務制度もあることだし、と時短制度を利用しながら復帰して1年が経つ。
?復帰後、残業が必須ではない、社内プロジェクトの担当に回してもらった。課の配慮はありがたかったが、数ヵ月経つと娘は保育園にすっかり慣れ、自分も仕事のペースを取り戻してきた。プロジェクトはさほど忙しくなく、他部署から参加しているのは入社3〜5年目の若者ばかりで、しかも所属部署の通常業務も兼務している。主任の自分が社内プロジェクトのみの担当なのは肩身が狭い。とはいえ、子どもの病気で呼び出されることもまだあるし、急な仕様変更などで深夜作業になっても困る。産休以前の業務を今も担えますとは言いきれない。
「いつまでも、こんな感じかな…」
?最近は、自分だけが暇な気がして、課内のメンバーをランチに誘うのも申し訳ないように感じるのだった。
?一方、課長の原田は、4時半に帰宅する近藤の背中を見やって、考え込んだ。課内で走っている開発案件はどれも忙しく、増員を求めている。
「近藤さんに、社内プロジェクトからどれかの案件に移ってもらった方が…いや、止めた方がいいだろうな」
?開発チームは、作業自体は社内で行うが、クライアントを訪問する機会も多い。主任だから、突発的な問題にも対応してもらわざるを得ない。常に4時半までに片付くような環境とは到底言えない。
「残念だが…まだ復帰して1年だから大変だろうし、無理はさせられないな」
?原田の課内では、初めての産休復帰者が近藤だ。折しも原田の会社は「くるみんマーク」を取得し、育児支援制度の利用を促進する社内キャンペーンの最中だった。
「近藤さんには、ちゃんと働き続けて、若い女子社員のモデルになってもらわないといけない。ここで無理させて、辞めでもしたら困る」
?原田としては精一杯配慮して、急ぎの仕事が回ってこないような役割にし、周囲に声をかけ、働きやすい環境作りに努めているつもりだ。帰宅時間を過ぎても働いているような時は、自分が仕事を引き取って帰宅を促したりもしていた。
「だけど、肩書は主任だからな…。いつまでも軽い職務ばかりだと、他のメンバーから不満が出るだろう。時短勤務制度は、小学1年生までだったかな。あと何年だ?もっと時短に適した、管理部門あたりに異動してもらった方がいいのかもしれない…人事部に相談してみようかな」
?原田も、近藤に何の業務を当てるべきか、悩んでいるのだった。
◇
復職後の女性を気遣いすぎる上司、
負荷が軽すぎて落ち込む女性たち
?ケースの近藤さんは、出産後不安ながらも職場復帰し、当初は周囲の配慮を喜んだものの、周囲と比べてあまりに負荷が軽い状況に落ち込んでしまいます。原田課長も近藤さんの業務配置に悩んでいるのですが、無理させることを心配して、役職本来の責任に比べると軽い社内向けの業務に当ててしまっています。
?このような「周囲が配慮しすぎてやりがいがない」、「定型的な業務に配置されてばかりで能力が生かせない」、「時短勤務なので重要な仕事を任せられず必要な経験が積めない」という事例が、女性の勤続年数が伸びるにつれて、多く見られるようになっています。
?とはいえ上司の方も、これまで女性がいなかった職につけて大丈夫か、出産した部下が復帰してきたがどの程度の仕事を任せていいのか、時短勤務を実行されたとき仕事量を部署内で配分するのに困ったことにならないか等と、迷っているのが実情ではないでしょうか?
女性には簡単な定型的な仕事を…
優しすぎて部下をダメにする「過保護な上司」
?筆者はグロービス経営大学院の教員として、同グループの株式会社グロービスが企業研修をご提供するクライアント企業に赴くことがあります。クライアント企業の人事部やダイバーシティ推進部署で女性の活躍を推進するご担当の方にお話を伺うと、女性の上司が「優しさや善意から過剰に配慮しすぎ」て、女性管理職候補が育たないことがしばしば問題視されているようです。優しくしすぎることは、問題の解決にならないのです。
?具体的には、こんな声があります。
「女性たち自身よりも、今の課題は『過保護な上司』です。本人たちがやる気があるのに、上司が良かれと思って簡単な業務にしてしまったり、サポート的な位置づけにしてしまったりして、裏で聞くと本人たちがやる気を失いかけているケースも多いのです」(IT業界)
?前稿に書いた通り、今では正社員で出産した女性の6割近くが職場復帰するようになりました(※1)。ところが、復帰した女性たちが一定の「両立させやすい」部署や業務に集まってしまったり、成長機会やチャレンジのある仕事を与えられなかったりして、昇格や昇進が望めない状態になる、いわゆる「マミートラック」問題も顕在化してきました。これは多くの場合「優しくしすぎ」です。
?初めて子どもを持った女性にとって、特に乳幼児期の仕事との両立に対する不安は大きいものです。そこで、ケースの近藤さんのように復帰自体を不安に思い、復帰するとしても両立できる見通しを持つために、簡単な業務への変更を喜んで受けることになります。
(※1)厚生労働省「21世紀出生児縦断調査?平成22年出生児調査」
?しかし、復帰してしばらく経ち、子どもも保育園に慣れ、生活のリズムも整ってくると、やる気や能力がある人ほど、自分の業務内容や周囲からの期待に関して、以前とのギャップに気がつくことになります。マミートラックに乗ってしまったことを悟り、キャリアの見通しが持てず、やりがいを感じられなくなり、母親たちは腐ってしまうのです(※2)。
?こうした話は、出産後や育児中の女性についてばかりではありません。女性社員全般の育成についても、同じような状況があります。
?一般社員に対して「(経営トップの方針として)女性にも定型的な仕事でなく創造的な仕事をさせるか」と聞いたところ、「そう思う」と答える人はたったの14.1%でした。「ややそう思う」まで合わせても38.8%。残りの人6割以上が「どちらともいえない」「あまりそうは思わない」「そう思わない」と回答しています(※3)。女性には定型的業務(ばかり)が与えられる、という認識はいまだに多くの企業で残っているのです。
?多くの日本企業では、もともと女性が配置される部署が偏っています。2010年時点で、営業に男性のみ配置されている職場がある企業は39.2%、研究・開発・設計に男性のみ配置されている職場がある企業は38.5%もあります(※4)。出産の有無にかかわらず、女性は男性とは異なる配置をされているケースが多いのです。
?これは、「接待のある営業は女性には向かないから」、「男性ばかりの開発現場に女性は入りにくいだろうから」等、女性に配慮しての結果だとの声も聞かれます。確かに最初は大変でしょうが、こうした配置がないことでチャレンジできず、昇進コースに乗れず、成長の場を奪われる女性たちも多いのではないでしょうか。
(※2)上野千鶴子「女たちのサバイバル作戦」文春新書
(※3)日本労働研究・研修機構「仕事と家庭の両立支援に関わる調査」(2007)
(※4)厚生労働省「平成23年?雇用均等基本調査」
子どもがいても挑戦的な仕事を与える――
女性たちがやる気を持つ方法
?やりがいを感じるには、ある程度チャレンジングな業務を与えられ、周囲から期待される必要があります。筆者が教員を務めるグロービス経営大学院の大学院生の方たちが、女性活躍先進企業といわれる企業10社で働く子どものいる女性たちに、やりがいと昇進意欲の源泉についてインタビューしたところ、周囲からの働きかけの重要性が浮かび上がってきました(※5)。
?このインタビュー結果によれば、女性がやりがいを持つのは、社内でリーダー経験をし、職位同等かそれ以上の業務に着き、上司からの支援やフィードバックを受け、かつ恒常的な長時間労働環境ではない時、のようです。
?ある女性は、出産後に職場復帰した時のことをこのように語っていました。
「(復帰後に、上司から)新しい仕事を任せられて安心した。全く知らない領域だったけど、やってみるとすごく楽しいというか充実感あって、また、上司がわからないことをすぐに教えてくれるし、知らないことを責めることは全くなく、変に気張らせず自然に一緒に励まして教えてくれるっていう感じ」
(※5)グロービス経営大学院2014年度研究プロジェクト?大野奈穂子・大畑貴志・中村真樹「日本企業におけるダイバーシティ・マネジメント?〜時間的制約をもって働く女性の昇進意欲について〜」
?逆に、本来の職位以下の簡単な仕事しか与えられていない女性は、モチベーションを失い、つまらないと感じたり、自分の存在意義を感じられないとコメントしたりしていました。
?これに加えて、やりがいを感じている女性たちが、さらに昇進意欲を持つようになるには、上司から昇進候補としての期待を伝えられたり、管理職という地位の魅力を感じる経験をしたりする必要があります。ある女性は、期待されることによって昇進意欲を持つようになった自分をこう振り返っていました。
「面談の時に『そろそろ君を課長に上げたいから、ライン業務やろうか』と言われ、その時は自信がないから無理と思ったけれど、容赦せずに仕事が与えられ、チャレンジングなことをさせてもらい、自分が成長しているのを感じ、それを励みに、管理職としてやれると思うようになった」
?同様の調査結果は、他にもあります。21世紀職業財団による調査では、上司の建設的なフィードバックなど、上司の職場でのマネジメントのあり方が女性のキャリア開発意欲に影響を与えることが明らかになっています。出産からの職場復帰後に、上司が「実力より少し困難な仕事を任せる」場合には、女性の昇進意欲が上がるのです(※6)。また上司が困った時に相談に乗ったり、高い目標や課題を与えたり、成長・活躍を後押ししたりという育成的なマネジメントをすることが、女性の昇進意欲に重要な役割を果たしているとの研究結果もあります(※7)。
?やりがいを感じ、成長意欲、昇進意欲を持つためには、ある程度難しい仕事にチャレンジして鍛えられる経験が必要です。女性だから、子どもがいるからと簡単な仕事しか与えない上司は、むしろ当人のやる気を奪っている可能性があるのです。
(※6)21世紀職業財団(2013)「育児をしながら働く女性の昇進意欲やモチベーションに関する調査」
(※7)武石恵美子(2014)「女性の昇進意欲を高める職場の要因」、労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』2014年7月号(No.648)?pp.33-47
やりがいだけでは越えられない、
長時間労働と家事負担の壁)
?ただし、上記のようにチャレンジを促すには、恒常的な長時間労働をしなくて済む職場にすることが前提となります。長時間労働をしなければ1人分の仕事が片付かないような環境では、女性たちは、将来子どもを持っても働き続け、昇進することは無理だと思ってあきらめてしまいます。
?もうひとつ、女性が将来子どもを持つことと職場で成長することの両方を期待するのに欠かせないのは、夫も家事育児を負担すると見込めることです。女性のみが家事育児をこなし、家庭責任を担うことが予想される状況で、男性と同じように働いて昇進を目指せというのは無理な話です。
?日本では、女性の一日の家事育児時間が平均3時間45 分なのに対し、男性は43分です(※8)。6歳未満の子供を持つ男性に絞っても、1時間7分です。これを他国と比べると、スウェーデンでは3時間21分、アメリカでは3時間13分、ドイツでは3時間0分、イギリスでは2時間46分、フランスでは2時間30分となっています(※9)。日本では、女性の側に家事育児の負担が重くのしかかっているのです。
(※8)総務省「社会生活基本調査」平成23年。調査対象は全国の10歳以上の男女、数字は15歳以上の男女
(※9)日本のデータは総務省「社会生活基本調査」平成18年(本調査は5年に1回の実施)、アメリカはBureau of Labor Statistics of the U. S. “America Time-Use Survey Summary”(2006 )、ヨーロッパ諸国はEurostat “How Europeans Spend Their Time Everyday Life of Women and Men” (2004)
?これらの現象は、言うまでもなく相互につながっています。男性は長時間労働であるために家事育児ができず、女性が家庭を担うことになり、出産後はそれまでのようには働けなくなり、長時間労働ができないからと企業も女性に期待しないのです。この構図を断ち切らなければ、女性がやりがいを持って働き、成長し続け、管理職を目指すようにはなりません。
?女性の企業での活躍を進めようとするならば、男性も家事育児を担う代わりに女性も家計を担う、という発想に転換することが必要です。企業から見れば、子育て中の女性だけでなく、子育てする全ての人を支援することを考えるべきです。
?この発想の転換は、女性だけのためのものではありません。近年、男性でも全ての人が管理職を目指したがるとは限りません。子育てに関わりたい男性も多くなっています。ワーク・ライフ・バランス支援を行い、男女を問わずやりがいを持って働けるようにすることが必要なのです。
男女問わずに活躍できる
日本企業の目指すべき姿
?発想の転換を遂げ、長時間労働の削減を実現する(※10)。
?育児中の女性に限らないワーク・ライフ・バランス支援を実施し、働く女性も男性も協働して家事育児を行う。
?24時間、会社を最優先して働くのではない、個人の生活を持った従業員を想定した人材マネジメントを行っていく。
?上司は女性にも男性にも成長のチャンスを与え、育成する。
?こうした取り組みの先に、さまざまな人が活躍し、男女を問わず誰でも能力のある人がリーダーになっていく企業が生まれるはずです。
?日本企業は、将来予測される労働力の不足や、戦略的なダイバーシティ活用の必要性から、能力がある女性を男性同様に活用することが必須になってきています。価値観が異なる、優先順位が異なる人材を受け入れることは、グローバル化する上でも大前提です。日本という同じ文化の中で育ってきた女性すら活用できなくては、外国人の活用など覚束ないでしょう。
?さまざまな人材を能力に応じて活用できる企業になるために、女性自身も、上司も、企業も、一つ一つ偏見を乗り越え、壁を越えていきたいものです。
(※10)長時間労働の解消を実現している会社も出てきています。SCSK株式会社では、情報サービス産業という、労働時間が長いと言われる業界にありながら、平均月間残業時間を20時間とする、年次有給休暇を20日(100%)消化する、という目標を立て、2年間でほぼ達成したのです。同社は、経営の強い意志によって、全社を挙げての目標設定とその追求、結果の評価や報酬への反映等、様々な施策を行いました。業界の慣習を打ち破るべく、経営層が顧客に理解を求めるために訪問するなど、取引先に理解を求める活動も行いました。目標の達成だけでなく、社員1人当たりの営業利益はこの間に約1.5倍になったそうです(経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選?ベストプラクティス集」等より)。徹底して取り組むことで、働き方は変えることができるのです。
http://diamond.jp/articles/-/73508
人生の99%は思い込み――支配された人生から脱却するための心理学
【第11回】 2015年6月19日 鈴木敏昭 [心理学者]
「一流企業に入れば安泰」も
「お金持ちになれば幸せ」もただの思い込み
なぜ肝心なときに失敗してしまうのか、なぜ幸せを自ら崩壊させてしまうのか……。あなたには、そんな傾向はないだろうか? 実はこれらはすべて思い込みからなる「人生脚本」のせいだと語るのは、『人生の99%は思い込み』の著者である心理学者の鈴木敏昭。
これまで人生脚本について解説を続けてきたが、そもそも人生脚本を構成している思い込みの正体とは何か? 改めて、思い込みの定義に立ち返る。
脚本を書き上げる前提となった
「思い込み」
人は幼少期の「禁止令」などによって、人生や世界に対する「基本的な構え」をつくり出し、勝手に「自分はこういう人生を歩むのだろう/歩むべきだ」という「人生脚本」を書き上げてしまう。
そして、その人生脚本を遂行するための「ゲーム」に参加することになる。
よって、幸せになるという脚本を持ち、幸せになるゲームを続けている人は問題ないが、不幸になる脚本を持ち、日々不幸になるゲームを続けている人は、意識的には「幸せになりたい」と願っていても、自然に不幸の道へと突き進んでしまうのである。この人生脚本の力は強力で、変えようと思ってすぐに変えられるようなものではない。
やはりここで気になるのは、そうしてできあがった人生脚本は書き換えられるのか?ということだろう。結論から言えば、100%とはいえないが、変えることは可能である。
そもそも禁止令によって「こうしなければならない」「こうあるべきだ」というのは、幼少期に私たちが勝手に抱いた「思い込み」である。誰も「そうならねばならない」とは言っていない。仮に親や教師が「こうあるべきだ」と言ったところで、それに従うかどうかだって、その人次第なのだ。つまり、従うと決めた時点で、「親や教師は正しい」という思い込みに囚われていると言えよう。
決まりかけた人生を変え、脚本に支配された人生を変えたいと願うのであれば、まずそれを成り立たせている「思い込み」を外すことが必要なのだ。
人生を支配する「思い込み」、
思い込みとはいったい何か?
人生脚本を成り立たせている「思い込み」は、あなたの人生のほぼすべてを支配していると言っても過言ではない。
たとえばあなたはどういう性格だろうか?
明るい? 暗い? 引っ込み思案? 積極的?
なにかしら自分はこういう性格と言えるものが誰しもあると思うが、それは思い込みであると言える。なぜなら根拠がないからだ。
たとえば暗い性格だと言う人はどういう理由を挙げるだろう? 「人と話すのが嫌い」「部屋に閉じこもりがち」「すぐに落ち込む」……そんな理由を挙げるかもしれない。
しかし、誰もそうしなければならないとは言っていないし、その行動を選んだのは他ならぬあなたである。そして、その行動の積み重ねでできあがったあなたが、勝手に「暗い」という性格であると思い込んでいるだけなのだ。今日からだって、今この瞬間からだって、性格とは本来どうとでもなるものなのだ。
突き詰めていくとそれ以上根拠がないものを「思い込み」という。
思い込みは、「かけていることすら気づかないメガネ」のようなものだ。自分ではかけているつもりはないのに、そのメガネを通して世界を見ている。
思い込みを定義すると「合理的な根拠がなく、あるいはしばしば誤った根拠に基づいて、それと自覚せずに断定・確信・前提としている心の働き」となる。
<思い込みの特徴>
・あまりに「自明の理」であり、当たり前すぎて、それがあることも意識しない
・気づかないうちにそれがあることを、前提してしまっていること
・本人にとって疑う余地がないこと
・他の選択肢の可能性を考えないこと
・したがって根拠を問う必要性さえ感じないこと など
ようするに、あまりに当たり前で本人はそれを疑う余地がなく、他の選択肢を考えないようなことだ。
例えば、「一流大学に入り、一流企業に就職すれば、人生勝ち組だ」という考え方。これも思い込みだろう。一流大学に入り、一流企業に就職した人でも、会社での人間関係がうまくいかなくて転職を繰り返す人もいれば、会社を辞めて引きこもりになる人もいる。その逆に、高卒で働きに出て結婚して家庭を持ち、幸せに暮らしている人もいるだろう。幸せになれるかどうかは、大学の偏差値や会社の規模では決められないのだ。
また、「お金持ちになれば幸せになれる」というのも思い込みである。お金はただの紙だ。ただみんなが信用しているから物と交換できる便利なものではある。そんな紙をたくさん持っているからといって幸せになれるというのは、ただの思い込みなのだ。
http://diamond.jp/articles/-/73517
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