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「「カイゼンの鬼」が教えるシンプル経営術」
「分業のほうが高効率」は幻想
原価高騰克服編2:製造コストで一番かかるのは人件費
2015年6月18日(木)日経トップリーダー
トヨタ生産方式の創始者とされる故大野耐一氏から直に学び、独自の理論に落とし込んだ経営コンサルタントの山田日登志氏。かつてはソニーやキヤノンを支え、最近ではデパ地下で「アンリ・シャルパンティエ」ブランドを展開する洋菓子製造のシュゼットも復活させた。円安による原料・半製品の価格上昇と人手不足で国内工場での製造原価は上がり続けている。そんなときにこそカイゼンでムリなくコストを削減するべきだと山田日登志氏は指摘する。その指導現場に潜入した。今回の舞台は水産加工工場。被災地では原価高騰に加え復興需要の中心地だ。人手の確保がほかの地域よりも難しい(前回の記事はこちらをご覧ください)。
かわむら(宮城県気仙沼市)は、岩手県と宮城県で事業を展開する水産加工会社。東日本大震災ですべての工場や倉庫が津波の被害を受けた。復興助成金などを活用しながら工場を建て直し、生産再開にこぎ着けた。
仕入れた魚介類に調味や調理などを施して、主に業務用として販売している。社員が山田の研修に参加したことで縁が生まれ、「被災した会社のお役に立てるなら」と山田が指導を買って出た。
かわむらが工場を再建した場所も、津波と瓦礫が押し寄せたところだ。社長の川村賢壽は、「地元のためにも早く工場を動かして、雇用の場を作りたかった」と語った。
やまだ・ひとし
カイゼン指導のPEC社長。トヨタ生産方式の創始者、大野耐一氏に師事、キヤノンやソニーを始めとする製造現場のカイゼンを手がけた。食品や家具など中小企業のカイゼンに活動を広げている。(写真/村上昭浩、以下同)
山田が今回指導したのは、業務用のイクラを加工してパック詰めする工程。このうち、小分けにして調味した上で、異物や変色したものを取り除くラインを重点的に指導した。
なぜ手持ち無沙汰な従業員が出るか知っていますか
生産工程は以下の通りだ。まず、1人が大きなバケツ状の容器からイクラをカップですくい、目分量で小分け用の容器に盛り付ける。次に、2人がイクラ入りの容器を計量器に載せて、重さをチェックする。次の工程では2人が調味液をイクラにかける。さらに調味液をかけたイクラを受け取って味が均一になるようにかくはんする工程にも2人を配置。最後に、10人の従業員が検品し、異物や変色したイクラをピンセットで取り除く。このラインでは合計17人が従事していた。
1日当たりの生産数を聞くと、4000パックと工場長の細谷文治は答えた。1日8時間稼働なので1時間当たりの生産数は500パック。これを17人で割ると、1人1時間当たり約30パックを生産している計算になる。
ラインの中で、特に作業に時間がかかり、ムラもできやすいのが検品だ。従業員一人ひとりの処理能力が違う上、異物が多く入っている容器とそうでない容器でも処理時間が変わる。その結果、10人を検品に割り当てても作業時間にムラがあり、検品の手前に仕掛かり品の山ができていた。
これこそが、山田が様々な現場で指摘している「停滞のムダ」だ。検品工程が滞って仕掛かり品が溜まると、最悪の場合は、このラインの先頭にある、容器にイクラを盛り付ける工程の従業員まで手待ち状態になる。「なんで屋台化しないんや」と山田が聞くと、工場長の細谷は言葉に詰まった。「はじめから分業ありきで考えていて、屋台化するという選択肢はなかった」(細谷)からだ。
カイゼン前後のイメージを図にしたもの。各工程に人を配置するのではなく、複数工程を同じようにこなす人を必要な数だけ配置するのは一人屋台(セル生産)の基本的な考え方だ
屋台化とは、モジュール単位など、ある程度まとまった工程を1人で担当する生産方法。セル生産ともいう。従業員の技術が高まる、欠勤があった場合にも別の従業員が代替しやすくなるなどのメリットがある。
屋台化したら人は半分になるぞ
考えたことがないならその場で試してみればいいと、工程の最初から最後まで1人で担当する実験をした。どれだけの時間がかかるかを検証するためだ。17人で8時間かけて4000パックを生産する場合、1人当たりでは1時間当たり30パック。つまり1パック作るのに2分のペースだ。
仮設セル生産の準備が整うと、まず細谷が試し、次にパートの女性従業員が試した。結果は1個当たり約50秒。「まずは余裕を持って、1分1個のペースでやってみよう。それでもこれまでの2倍や」と山田は提案した。
そう。このペースなら、1人1時間で60パック、8時間なら480パック。8人で3840パックになる計算だ。「本当は50秒で作れるのだから、今の半分以下の8人で4000パックはすぐできるようになるやろ」と山田は細谷に話しかけた。屋台化するだけで人数が半減する──。考えたことがない方法で、あっという間にそれだけの効果を生む山田に、細谷は驚きを隠せなかった。
「今日はこれだけやれば大成功や。1人の給料が1カ月10万円だとしても月に70万〜80万円、年間なら1000万円近くこのラインだけで利益が増えるんや。売り上げ増で1000万円の利益を出すのは大変やろ」。山田は笑顔を向けた。屋台化をすれば、計量器などを人数分購入する設備投資は必要だ。しかし、人件費と違って一度限りの出費で、数カ月で元がとれる。
「不良率も5分の1に下がる」
山田によると、屋台化には従業員のやる気を引き出す効果もあるという。一連の工程を担当させれば、それぞれの担当者が1時間単位、1日単位で何個作れたか、不良品を出したかどうかなどが分かるからだ。
それだけで競争意識が生まれ、ゲームを楽しむように一生懸命働いてくれるようになる。分業化していると、誰の作業スピードが速いのか、仕事が正確なのかといったことが分からないから評価も指摘もできない。それではやる気も責任感も持てない。
「今日は誰がいくつ作ったといった数字を毎日張り出してやればいい。各担当者のパックに数字でもアルファベットでも振っておけば、不良品が出たときにも誰が作ったものかすぐに分かる」と山田は提案した。
「競争させてしまうと、早く作ることに意識が向いて、仕事が雑になるのではないでしょうか」と細谷が不安を口にすると、「それを防ぐために、たまに抜き打ちで検査しなければいけない。それでも、いろいろな業種で屋台化をしてきた経験から言えば、どの会社でも不良率は5分の1くらいになる」と山田は答えた。
このラインには、検品作業の停滞による前工程の手待ち以外にも、小さなムダがたくさんあった。各工程間の容器のやり取りがそうだ。例えば、計量から調味液添加の工程に渡す際、渡す側も受け取る側も手を伸ばしていた。
必要な道具を並べただけの仮設一人屋台。実際に作業時間を測ってみると、半分の時間で生産できることが分かった
手を20p動かすと1秒かかるというのが山田の考え方だ。1つの容器をやり取りするだけで、1人1秒ずつで2秒かかっている。1日に4000個作るなら8000秒だ。つまり、毎日2時間以上ムダにしている計算になる。
1秒のムダが積み上がって数時間のムダにつながる。こういったムダに気付くためにも、山田はいつも1日で何個作るのか、何分で1個作らなければならないかなど、最小単位の具体的な数字で考える習慣をつけるよう提案している。
1箱分ぴったりの専用カップを作れ
最初の工程でイクラを盛り付けるカップにも課題があった。細谷は、「用途に合わせて使い分けている」と話すが、山田にはそう見えない。「目分量で盛り付けるのではなく、すりきり一杯でちょうど容器1個分になるようなカップを買うか作るかしなければいかん。そうすれば、計量工程そのものをなくせるかもしれない」と山田は指摘した。
最後に、「中小の水産加工場はどこも同じように分業化しているはずや。君たちが屋台化を実現したら、業界全体が大きく変わる。そこを目指そうや」と山田は語りかけた。
川村は「本当に目から鱗が落ちる指摘ばかりだった。カイゼンの本を読んではいたが、自分の工場に生かせていなかった」と反省し、山田の指導に基づいたカイゼンに取り組む決意をにじませた。
(文中敬称略。「日経トップリーダー」での連載をもとに加筆修正しています。肩書や工場内の状態は、掲載当時のものです)
山田日登志氏のカイゼン手法を現場で学ぶセミナーを開催
「日経トップリーダー」では、本記事で紹介した機械メーカー「関ケ原製作所」を舞台に、山田日登志氏を講師に迎え、一緒に現場に入りながらカイゼンを学ぶセミナーを開催します。トヨタ生産方式の神髄を学ぶ座学、学んだ知識を自社の現場に当てはめるためのグループワーク、現場の分析やカイゼンの具体的な手法を学ぶ3本柱のセミナーです。
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このコラムについて
「カイゼンの鬼」が教えるシンプル経営術
ソニーやキヤノンを指導したことで勇名を馳せる生産改善コンサルタント山田日登志氏の連載コラム。約40年の経験を通じて培ってきた、実はシンプルなカイゼンの神髄を分かりやすい言葉で伝える。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/15/271575/061500001
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