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日本経済は急速に「中国化」しつつある
http://diamond.jp/articles/-/73438
2015年6月18日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
日本と中国の1人当たりGDPの差が急速に縮小しつつある。そうなるのは、日本と中国の産業構造が基本的に同一のものであるからだ。「日本の中国化」を回避するには、産業構造を変えるしかない。
■1人当たりGDPは10倍から3倍に 縮まる日本と中国の格差
図表1には、日本、アメリカ、中国について、1人当たりGDPの推移を示してある。日本の値は、2012年頃まではアメリカに近かったが、いまやアメリカと中国の中間だ。20年までの予測はIMFによるものだが、それによれば、この傾向は将来も続く。
図表2には、1人当たりGDPの日本と中国の比率を示した。10年には中国の1人当たりGDPは日本のそれのほぼ10分の1だったが、15年ではほぼ4分の1になった。そして、20年には3分の1になると予測される。
このように、日本の1人当たりGDPは中国にさや寄せされている。日本と中国の間で長期的な平準化過程が進んでいることが分かる。。
日中間に10倍以上の差があった10年頃までといまとでは、中国に対する見方を質的に転換しなければならない。しかし、多くの日本人は、10倍以上の差があった時代の見方から脱却できていない。
他方で、図表3には、1人当たりGDPの日本とアメリカの比率を示した。1990年代までは、この比率は1を超えていた。つまり、日本のほうが豊かだった。しかし、比率は長期的な低下傾向を示している。そして、2020年には6割程度まで低下するものと予測されている。このように、日本とアメリカの値は乖離しつつあるのだ。
日本は中国に近づきつつあるが、アメリカには遠ざかりつつある。われわれは、このことの重要性を無視したり軽視したりしてはならない。なぜこうしたことが起こるのかを分析し、そこから脱却する方策を真剣に考えなければならない。
■「要素価格均等化定理」が働いている 産業構造が同じなら賃金も同じになる
ところで、「ここ数年は、円安が進んだために日本の数字が落ちているのだ。これは計算上のものにすぎず、日中の豊かさの実態を反映したものでない」との意見があるかもしれない。しかし、以下に述べるように、為替レートの変化と日中各国の国内名目賃金の変化の間に、本質的な差はない。
図表1や3で見た変化のうち、2012年頃にアメリカに近づいた後に離れた動きが、為替レートの変化によって大きく影響されていることは間違いない。
しかし、これは、単に計算上そうなったというだけの変化ではない。日本の労働者は、円安によって実際に貧しくなっているのである。
図表1、2、3で見たGDPの動きの背後には、企業の生産性の問題がある。「要素価格均等化定理」と呼ばれる法則が予測するように、日本の産業構造が中国と同じなら、賃金はいずれ中国並みに低下するのだ。
しかし、図表3で見られるように、日本とアメリカの間では、要素価格均等化は働いていない。日米間の1人当たりGDPは、むしろ格差が広がりつつあるのだ。これは、日本とアメリカで生産技術が違うこと(企業の事業内容が違うこと)を意味する。
逆に言えば、アメリカと同じ産業構造を持てば、日本と中国の間に要素価格均等化は起きず、日本とアメリカの間で起こることになる。つまり、日本の1人当たりGDPは、アメリカ並みに高くなっていくのだ。日本にとって緊急の課題は、そうした変化を実現することである。
■パナソニックの1人当たり売上高はハイアールとほぼ同じ、アップルの8分の1
図表1〜3ではGDPというマクロ的変数を見た。つぎに、個別企業ベースの計数で比較をしてみよう。
ここでは、中国の企業としてハイアールを、日本の企業としてパナソニックを、そしてアメリカの企業としてアップルを取り上げ、比較を行なう。
これらのうち、パナソニックとアップルはよく知られているだろう。ハイアール・グループ(海爾集団)について簡単に紹介しておくと、つぎのとおりだ。
同社は、1984年に設立された中国の家庭電化製品のメーカーだ(詳しい説明は、同社のホームページ)。
同社の主要製品は、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電、テレビ、エアコン、パソコンなどである。アメリカをはじめ、世界165ヵ国以上で生産・販売している。ハイアールは、洗濯機や冷蔵庫で、世界シェアのトップを独占している。
2012年1月に、パナソニックは、三洋電機の事業のうち冷蔵庫と洗濯機をハイアールに売却し、同生産部門社員をハイアールへ移籍させた。
この3社の売上や利益等の比較を、図表4、5に示す。
図表5のドルベースの数字でハイアールとパナソニックを比較すると、従業員1人当たり売上高では、ほとんど同じだ。
同じような製品を同じような技術で作っており、かつ製品が国際市場で取引されるために製品価格に大きな差は生じないので、こうした結果になるのは、ある意味で当然と言える(注1)。
ところが、アップルとパナソニックを比較すると、従業員1人当たり売上高で約8倍の差がある。これは、アップルがパナソニックやハイアールとは異質の事業を行なっていることを示している。
アップルは製造業ではあるが、工場を持っていない「ファブレス企業」だ。実際の生産は中国企業などで行なっており、アップルが行なっているのは製品の企画・開発と販売だけである。このように、パナソニックやハイアールとはまったく異なる事業体制を取っているために、1人当たり売上高に大きな差が生じるのである。
上で見たのは従業員1人当たりの売上高であるが、従業員1人当たりの利益ではどうか?
まずハイアールとパナソニックを比較すると、図表5に示すように、ハイアールはパナソニックの3倍近い。売上高利益率で見ても、ハイアールが高い。
こうなるのは、中国の賃金が日本の賃金よりも低いからだ。
(注1)数年前のデータでは、従業員1人当たりの売上高は、パナソニックがハイアールに比べてかなり低かった。しかし、パナソニックはかなり顕著な人員削減を行なった。この結果、1人当たり売上高が増加した。
「2012年度連結及び単独決算概要」(2013年5月10日)によると、パナソニックの2012年3月末での連結ベース従業員数は33万767人。他方で11年度の売上高は7兆8462億円だったので、1人当たり23.7百万円だった。表4の数字では30.4百万円なので、1.28倍に増加したことになる。
■円安が進めば要素価格均等化も進む 食い止めるには生産性上昇が必要
要素価格均等化定理で「均等化」というのは、ドルベースでの均等化である。固定為替制の下では各国の名目賃金が変化する他はないが、変動為替制であれば、為替レートが変化してもそれが達成される。
円安が進行すれば、円表示の名目賃金が変わらなくとも、ドル表示の賃金は低くなる。一方、元はドルに対してほぼペッグされているので、元建ての賃金が変わらなければ、ドル建ての賃金もあまり変わらない。したがって、円安が進めば要素価格均等化が実現される(注2)。
この過程を食い止めるには、日本の国内で利益率が高まらなければならない。つまり、労働の生産性が上昇しなければならない。それは可能だろうか?
(注2)パナソニックの資料によれば、連結ベース従業員のほぼ半分は海外だ。また、ハイアールの場合も中国外の従業員が多い。しかし、残りは国内だから、日中間の賃金差が両者の賃金差をもたらす。
簡単に実現できるわけではないが、モデルは存在する。
それは、アップルである。図表5に見るように、同社の従業員1人当たりの利益は、パナソニックのそれの10倍近くになる。売上高に対する利益率で見ても、ほぼ10倍の差がある。
「アップルの事業形態はパナソニックと異なる」と述べたが、仮にパナソニックがアップルと同じような事業形態に転換すれば、従業員1人当たりの利益も、売上高に対する利益率もアップル並みに上昇するだろう。
アップルのような高収益企業は、アメリカでも稀である。したがって、「アップルはアメリカ産業の平均的な姿を現していない」と考えられるかもしれない。
そこで、マクロ的なデータによって、日米で、製造業の従業員1人当たり付加価値を比較してみよう。
■アメリカでは製造業でも従業員一人当たり国民所得が上昇
図表6に見るように、アメリカ製造業の従業員1人当たり国民所得は、時系列的に顕著に増加している。
それに対して、図表7に見られるように、日本の製造業の1人当たり国内総生産には、増加傾向が見られない。
アメリカの場合に製造業の1人当たり国民所得が増加しているのは、アップルに代表されるような新しいビジネスモデルを持つ会社が、例外的な存在ではなく、一般的になりつつあることを示している。
このような変化が生じれば、利益と賃金のいずれをも増加させることが可能になる。
それに対して日本の場合には、製造業の従業員1人当たりの国内総生産には、長期的に大きな変化がない。したがって、利潤を増やすには賃金が下落する必要があり、賃金を増やすには利潤が増加する必要がある。
■「中国と同じ経済活動」からの脱却が重要
以上で、日本企業の従業員1人当たり売上高や利益が、アメリカの企業に比べて低いことを見た。これは、日本企業の生産性が絶対的な意味で低いということではない。
中国に代表される低賃金国が出現したため、それとの相対関係で低生産性になったのだ。
だから生産物価値当たりの賃金支払い額を減らす必要があり、人減らしと実質賃金引き下げが必要になるのである。あるいは、為替レートが円安になる必要がある。
これは、「円安が必然」という見方だ。これまで、為替レートにはかなりのバブル要因が入っているのではないかとも考えられるのだが、それとは正反対な見方である(もっとも、これら2つの見方は相反するものでなく、両立しうる)。
ただし、それは、中国と同じ経済活動をするからだ。日本にとって重要なのは、そうした状態から脱却することである。
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