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金融機関の営業担当者は相談料を要求しないので、つい“相談相手”にしてしまうが…
金融マンに人生相談するな!顧客を取り込むラップ口座を警戒せよ
http://diamond.jp/articles/-/73362
2015年6月17日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■「人生のゴールを語らせる」 米国で台頭する新たな営業手法
米国では、対面証券会社のビジネスモデルが大きく変化しているという。『週刊東洋経済』6月20日号は「証券」を大きく特集しているが、その中で野村総研アメリカの金融研究室長である吉永高士氏が書いた「米国『証券革命』の実情」という記事が大変興味深かった。
米国の対面営業型証券会社のビジネスモデルが、顧客に商品を紹介し主に売買手数料で稼ぐ「伝統的営業モデル」から、顧客の預かり資産残高から発生するフィーによって収益を稼ぐ「資産管理型営業モデル」に大きく転換しつつあり、後者におけるアプローチのキーワードが「ゴールベース資産管理」なのだという。
「ゴールベース資産管理」とは、顧客の人生のゴールを意識した資産運用サービスのことだが、吉永氏によると、(1)顧客の人生ゴールの特定、(2)ゴール実現へのシナリオの設定、(3)投資の提案と実行、(4)定時・随時のレビュー、の4つのプロセスを循環する営業手法だという。
この場合、人生のゴールとは退職時の資産残高目標といった狭義の金融的ゴールではなく、子や孫の教育、社会貢献、死後の遺族の生活など、将来目指す姿を広く含む具体的な目標のことだ。証券会社の営業員が、顧客の家族構成に対する質問などから始まって、顧客の人生のゴールを聞き出すのだ。その上で、資産運用の提案を行い、主にラップ口座を使って顧客の預かり資産の運用から手数料を取る、という流れになる。
記事によると、米国の大手対面証券3社(メリルリンチ、モルガンスタンレー、UBS)の個人部門預かり資産に占めるラップ資産比率は3分の1を超えており、まだ上昇中だ。また、モルガンスタンレーでは、営業員一人当たりの担当顧客数と顧客当たりの純営業収益が、2000年に387世帯・1027ドルだったものが、2014年には256世帯・4254ドルに変化したという。顧客を絞り込みつつ、顧客一人当たりの収益を4倍にもしているのだから、一定の成功を収めていると見ていいだろう。
■「金融版人生相談」は強力な武器になる 日本の証券会社もやがて真似するだろう
顧客から人生のゴールを聞き出して、営業員が顧客とそのゴールについて語り合うというアプローチは、確かに営業手法として効果的だろう。
顧客自身は、自分の人生のゴールを決して否定しないだろうから、投資提案を人生のゴールに関連づけることができれば、これを受け入れやすいはずだ。また、人生のゴールは多くの場合、顧客の資産全体と関わるから、証券営業マンの側で、顧客の資産の全貌を知ることにつながる。一定の信頼を得た場合には、金融資産の大部分を「人生のゴールのため」という名目でラップ口座等に取り込むことができる。
もともと証券会社と顧客の利害は、完全には一致しない。結果的に顧客が儲かること自体は証券会社にとって営業がやりやすくなることにつながるので好ましいことだ。だが、証券会社が収益の源とするものは顧客から得る手数料であり、手数料は顧客の運用パフォーマンスを直接引き下げる要因だ。
手数料は、相場の当たり外れに較べると小さく見えるが、「確実なマイナス要因」であるだけに、その影響が小さくない。ここで、証券営業のプロセスに「人生のゴール」を噛ませることによって、両者の利害の対立を曖昧にすることができる。
また、預かり資産残高から生じるフィー(手数料)で稼ぐためには、顧客を長期的につなぎ止めておくことが重要だが、営業員が顧客の「人生の目標」の相談相手になることができたら、関係を長期化させる上で有効だ。
加えて、吉永氏の記事によると、資産管理型営業では「その顧客から獲得できる手数料の金額に一定程度比例するように、時間配分と、顧客とコンタクトする頻度を設定する」ことを可能にするため、営業マンの時間配分が効率化されるという。顧客の側でもこうした傾向を理解するので、お気に入りの営業員の時間をより多く確保するために、資産残高と手数料を積み増す「競争」のインセンティブが働くことも予想できる。
「自分の人生のゴール」という誰も否定しない概念を教義とする宗教のようなビジネスモデルでもあるし、顧客の身の上話に深く食い込んで継続的に保険を売り続ける腕利きの生命保険のオバサンのような商売でもある。営業マンの時間とサービスが実質的な商品となるという意味で、高級クラブのホステスやホストクラブのホストなどにも近い「資産残高比例型接客業」でもあろうか。
「話し相手」のサービスに対して、直接フィーを払うのではなく、商品の購入や預け入れで応えてくれる顧客は、間違いなく日本にもいる。対面型証券にとっては有望なアプローチだろうし、そもそも顧客のキャッシュフロー全体を証券会社よりも詳細に把握している日本の銀行にとっても、この種の「金融版人生相談」は強力な武器になり得る。
米国で生じた金融の動きは、何らかのタイムラグをもって日本にも伝播することが多いが、「ゴールベース資産管理」もそのようになる公算が大きいのではないか。
■米国の顧客は「ボラれている」のが実態 投資家はラップ口座を警戒せよ
さて、証券ビジネスを行う側にとって有望と思われる「ゴールベース資産管理」あるいは「資産残高営業モデル」だが、顧客の側にとっても望ましいものなのだろうか。吉永氏の記事を見る限り、とてもそうとは思えない。
先ほどご紹介したモルガンスタンレーの数字を思い出してみると、営業員が顧客一人当たりに稼ぐ純営業収益が2000年の1027ドルから2014年に4254ドルにまで拡大した。これは、証券会社側にとっては輝かしい前進だが、顧客の側から見ると手数料を4倍も稼がれるようになったということなのだ。
この間、顧客の預かり資産が4倍になっているなら、資産残高に対する手数料の比率はおおむね変わらないということだが、記事のグラフで米対面証券大手3社合計の個人部門預かり資産を見ると、2001年で4兆ドル弱だったものが2014年に5兆ドル程度に増えているにすぎない。預かり資産に対する支払手数料が大幅に増えているということは、運用パフォーマンスにとっては直接的で深刻なマイナス要因だ。市場環境の良さに騙されてはいけない。
「資産残高営業化によって、顧客はボラれている!」というのが米国の実態なのだ。対面証券が資産残高営業に舵を切りつつある環境下、日本の投資家も油断してはいけない。
第一に警戒すべきは、ラップ口座だろう。以前に本連載の「ラップ口座が明らかにダメな4つの理由」にも書いたが、日本の対面証券会社や信託銀行が提供するラップ口座は、実質的な手数料水準が資産運用としては問題外なくらい高いことを筆頭に、不適切な運用商品が選ばれる可能性が大きいこと、金融機関が顧客の「適切なリスク」など判断できないこと、加えてそもそも運用判断を放棄して金融機関に丸投げにすることの愚かしさなど、顧客側から見て非常に問題が多い。
既にラップ口座を契約されていて、「私の場合は上手くいっているよ」とお感じの方もおられようが(近時の素晴らしい運用環境の賜物だ)、安心する前に、ご自分が手数料をいったい幾ら払っているか、「外枠」であるラップ口座の手数料と、中身の主に投資信託の信託報酬、それに、外貨商品に投資した場合の為替や外国債券などの「値差」による実質的な手数料も合計してみてほしい。
運用資産残高の1%以上の手数料を毎年払うようでは「資産運用落第者」だと筆者は考えるが、この数倍の手数料を払っている方が珍しくないはずだ。
手数料の把握が面倒だと思うようでは心許ないが、面倒な方は、国内株式の運用商品が何になっているかをチェックしてみよう。TOPIX(東証株価指数)か日経平均の「ETF」(上場型投資信託)ならば許せるが、それ以外の信託報酬をたっぷり取るようなアクティブファンドに投資されている場合が多いのではないか。そうであれば、あなたの資産は手数料稼ぎの肥やしに過ぎない。最適な運用など行われていないことを知るべきだ。
■金融マンに人生相談などすべきではない
それでは、顧客側では「ゴールベース資産管理」のアプローチをどう考えたらいいのか。担当金融マンが、自分の人生のゴールを理解し、その実現のシナリオを考えて、運用提案を行って、自分の人生にいわば「伴走」してくれることは素晴らしいことではないのか?
結論は「とんでもない! 金融マンに人生相談するのはやめておきなさい」ということになる。
そもそも、資産運用の大原則として、「商品を購入する相手を、資産運用の相談相手にしてはいけない」。
商品を売って、あるいは資産を預かって手数料を稼ぐことができる金融マンは、相談自体に手数料を要求しないので、つい気軽に相談相手にしてしまいがちだ。だが、彼らは、相談の手間と時間のコストを、商品の手数料から回収していることを忘れてはならない。
加えて、もっと拙いのは、相談の内容自体が、手数料のインセンティブによって歪む公算が大きいことだ。手数料の安いインデックスファンドがあるのに、アクティブファンドを選ぶような不誠実行為もあり得るし、外国為替のように値差で稼げる商品を介在させたり、デリバティブの条件で稼ぐ手もある。ラップ口座に資産を丸投げしてくれれば、金融機関側で稼ぐ手段は山のようにある。また、そもそも手数料を稼ぎやすいようにリスク資産への投資配分比率を大きくする可能性もある。お金の世界では、利害の絡む相手は、決して信用できる相談相手ではない。
不誠実な手数料稼ぎに走るために、彼らが悪人である必要はない。ただ経済合理的なビジネスパーソンであることだけで十分なのだ。
■余計な情報を与えるな 金融機関に取り込まれる
「ゴールの設定」と「実現シナリオの策定」の過程で、自分資産の全貌を金融機関に把握されることも顧客にとって不利だ。実はリスクの大きさは、リスクを取る商品に対する投資金額の大小で調節するのが最もシンプルで効率的なのだが、資産全体を把握されてしまうと、これが上手くいきにくくなる。
また、普通の人は、人生の目標をあちこちの金融機関と共有して歩く訳ではないだろうから、「ゴールベース資産管理」に付き合うと、必然的にその金融機関に取り込まれて、医療でいうと「セカンドオピニオン」から遮断された状態になりやすい(金融機関としては他社と較べられない方が好都合だ)。
配偶者など家族も交えた相談などというものも全く余計だ。より深く取り込まれる契機になり得るし、相手に余計な情報を与えることにもなりかねない。見込み客を紹介して、一族が支払う手数料が膨らむきっかけにもなる。
結論を繰り返す。金融機関の営業担当者は、人生相談の相手として相応しくない。
日本の投資家としては、アメリカの投資家を真似るのではなく、むしろアメリカ人に「ゴールベース資産管理」の馬鹿馬鹿しさを教えてあげるくらいの心持ちで「資産残高営業」を迎え撃つのが正解だ。
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