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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第129回 むなしき実質賃金プラス化
http://wjn.jp/article/detail/2135008/
週刊実話 2015年6月25日 特大号
筆者は本連載「第120回 実質賃金は4月にプラス化するか?」で、
「4月以降に実質賃金がプラス化する可能性はあると考える」
と書いたが、予想通り'15年4月の実質賃金(現金給与総額)は対前年比で+0.1%となった。
もっとも、筆者が重視している「きまって支給する給与」では、いまだにマイナス(-0.1%)であり、さらに現金給与総額の+0.1%も「速報値」である。
確報値では、派遣労働者等の賃金が入ってくるため、これまでのパターンに従えば、下方修正されることになるだろう。すなわち、現金給与総額の実質賃金がマイナスに戻るという話である。
それ以前に、なぜ「速報値」段階とはいえ、現金給与総額でみた実質賃金がプラス化したのかを知れば、むなしさを禁じえない羽目になる。
例えば、日本経済がデフレから脱却し、インフレ率が安定的にプラスで推移し、それ以上に名目賃金が上がった結果、実質賃金が上昇したならば、諸手を挙げて喜ぶべきだ。すなわち、デフレ脱却の第一歩が達成されたことになる。
賃金という視点で見たデフレ脱却のゴールは、インフレ率が2%程度で推移しているにもかかわらず、名目賃金が2%強となり、実質賃金のプラスが安定的に続くことである。
果たして、現実は、どうだっただろうか。
実質賃金は、名目賃金の変動率から、物価変動の影響を除いて計算される。現在の日本の実質賃金計算時の消費者物価指数は、「持家の帰属家賃及び生鮮食品を除く総合」を使う。
というわけで、同消費者物価指数と実質賃金の動きを並べてみた(本誌の表参照)。
何というか、「鰐の口が閉じる」という表現を思いついてしまった。
別に、説明がいるとも思えないが、安倍晋三政権以降、
「円安による輸入物価上昇や消費税増税で消費者物価指数が上昇し、実質賃金が下落した。その後、原油安となり、さらに消費税増税の影響がなくなり、消費者物価指数の上昇率が減少した結果、実質賃金の下落率がゼロに近づいた」
という動きが起きていたに過ぎないのである。
しつこくて申し訳ないが、正しいデフレ脱却は、
「インフレ率が安定的に推移し、それ以上のペースで名目賃金が上昇し、実質賃金がプラス化する」
である。
物価の上昇率が、消費税増税の影響が消えて縮小した結果、実質賃金の上昇率がゼロ近辺になったことを受け、
「実質賃金が上昇した。よって、安倍政権の経済政策は正しい」
などと考えた人がいたとしたら、思考停止としか言いようがない。
「物価上昇率以上に名目賃金が上昇」した結果、実質賃金がプラス化したならともかく、「物価上昇率が下がり、実質賃金の下落幅も縮まった」というのが現実なのである。
本件を伝える日本経済新聞の記事(「個人消費に追い風 4月実質賃金、2年ぶり上昇」'15年6月3日)を読み、思わず笑ってしまったのだが、そこには、
「消費拡大の追い風となりそうなもう一つの要因が物価上昇の鈍化だ」
と、書かれていた。
デフレ脱却はどこにいってしまったのだろうか?
インフレ目標2%を掲げている国で物価上昇率が鈍化したとなると、それは「政策が失敗している」という話なのである。
結局、安倍政権が消費税を増税し、さらに補正予算を削減するなど緊縮財政を実施した結果、正しい形の「実質賃金の上昇」は起きなかったのだ。
よりわかりやすく書くと、消費者物価と実質賃金が「野田(佳彦)政権期」と同じ状況に戻ってしまったのである。
すなわち、停滞だ。
インフレ率と実質賃金の上昇が同時に発生するためには、総需要が供給能力を上回るインフレギャップ状態にならなければならない。
「仕事が十分にある」状況になってはじめて、企業経営者は生産者を「より高い給与」を支払ってでも雇おうとする。
仕事が十分にない状況で、給与の伸びが物価上昇率を追い抜くはずがない。それにもかかわらず、安倍政権は内閣府試算でも12兆円存在するデフレギャップ(総需要の不足)を放置している。
別に、難しい話ではないはずだ。
所得の上昇、すなわち「経済成長」とは、インフレギャップ下において、生産性向上が起きてはじめて実現する。
今の日本に必要なのは、経済をインフレギャップ化する「需要の創出」なのだ。
それでも、政府は需要創出策を実施しようとしない。逆に、消費増税で民間消費を抑制し、金融緩和や消費税増税で強制的に物価を上昇させた。
その分だけ実質賃金が下落し、消費税増税の影響が消えると、実質賃金の下落率が元に戻る。2年以上もの期間を費やし、実質賃金の「行って戻る」をやってしまったのが安倍政権なのである。
政府が「需要創出による実質賃金の引き上げ」という正しいデフレ対策を講じない限り、我が国の国民経済は野田政権期同様に「停滞」の沼の中を漂い続けることになるだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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