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アメリカ人は買い物のとき悩まない。気に入らなかったら返品すればいいから(写真はイメージ
「やっぱりいらない、返品だ!」が当たり前の国 どうなる?アメリカ式「究極の満足保証」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43978
2015.6.15 老田 章彦 JBpress
よほどのお金持ちでないかぎり、高価な商品を買うときは盛大に迷うものだ。
最先端の機能を満載したこのパソコン、自分は本当に使いこなすだろうか。試着したジャケット、雰囲気はいいのだがデザインがちょっと大胆すぎやしないか、帰宅して頭が冷えた瞬間シマッタとなるのではないか。このように思い悩んだ末、購入の先送りや断念にいたった経験は誰にもあるだろう。
だが、アメリカ人はそうした悩みとはほぼ無縁と言っていい。気に入ったらとりあえず買ってみるのが米国流。大変大胆な消費行動だが、その背景には独特のビジネススタイルがある。
■理由も商品の状態も一切問わない「無条件返品」
パソコンの購入から数日後、やはり自分にとっては無駄に高性能だと悟ったとき、ジャケットを奥さんに酷評されて心が折れたとき、アメリカ人はどうするか。
多くの人は店へ持っていって返品する。アメリカではたいていの店がたいていの商品について、理由を問わず、また使用済みであっても返品・返金に応じてくれる。理由と商品の状態が問われない返品を本稿では「無条件返品」と呼ぶ(ただし店と商品ごとに定められた返品期限はある)。
日本では「お客様のご都合による返品」には応じず、未使用・未開封の場合に限り返金または交換に応じるといった店がほとんどで、買い物のリスクはもっぱら客の側が背負っている。だがアメリカではリスクを負うのは店の側だ。
「商品に納得できなければ、どうぞご自由に返品を。お客さまには1セントも損をさせません」
このように言われてもなおグズグズと迷い続ける客はどれほどいるだろうか。
■無条件返品で消費者の支持を得たシアーズ
アメリカで無条件返品が一般化したのはいつ頃のことか。19世紀の末、アメリカの人口の大半は広大な国土に散らばって住む農民だったが、自動車が普及する以前のこの時代、彼らの買い物はもっぱら近所の商店に頼っていた。だが品物のバリエーションは乏しく、値段は割高だった。
そこに目をつけて、全米の家庭にカタログを送り、通信販売を始めたシアーズという男がいた。豊富な品物を安く売る商法は大当たり。のちの大手百貨店シアーズの礎となった。
シアーズのカタログには、客にとって極めて重要な文言が記されていた。
「ご満足いただけなければ返金します」
この一言があればこそ、人びとは商品の現物を見ることなく安心して小切手を送ることができたというわけだ。
シアーズが掲げた「究極の満足保証」は消費者から熱烈に支持され、事業は急成長。20世紀に入ってからは独自ブランドの乗用車や住宅までをカタログで売りまくった。このシアーズ商法がその後のアメリカ小売業に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
■重荷になっている返品受付のコスト負担
アメリカでは単にモノを売るだけではなく、満足を保証しなければ商売にならないといっても過言ではない。
だが、無条件返品は企業にとって軽い負担ではないだろう。ビジネス誌「Adweek」によると、全米で年間に返品される商品の額は2840億ドル(2014年)で、売上総額の9%にあたる。およそ10個に1個の商品が返品されてくる勘定だ。
返品のすべてが企業の損失になるわけではなく、未開封の商品など良好な状態のものは売り場に戻されることが多い。だが再包装が必要な商品や、専門業者に安値で売り渡される商品、廃棄される商品も少なくない。
小売業の営業利益率は中堅百貨店メイシーズで9%台、家電量販の最大手ベストバイは3%満たない(ともに2014年)。こうした経営にとって、返品をめぐるコスト負担がかなりの重荷になっていることは想像に難くない。
■意外に“ウェット”なアメリカ人の消費行動
そうまでして企業が勝ちとろうとしているものは何か。
目先には、買い物のハードルを下げることによる売り上げ増という効果があるが、どうやらそれだけにはとどまらないようだ。はからずもこれについては筆者自身にもささやかな経験がある。去年のことだが、家電量販店ベストバイから買ったばかりのパソコンを返品した。
広い作業領域が欲しかったため大きなディスプレイのラップトップを買ったが、仕事で頻繁に持ち歩くうち、サイズと重量が負担になり始めた。しくじったとは思ったが、アメリカの消費文化に慣れない頭に「返品」の2文字は浮かばなかった。たまたまWi-fi(無線によるネット接続)の機能が不安定で、そちらははるかに深刻な問題だったため返品を決意した。
そういう事情はあったが、実質的には自己都合による返品という意識があったから、すんなり応じてくれたベストバイには「よくしてもらって助かった」という気持ちが強かった。他の店でも同じように返品できると知っていても、今後の買い物はなるべくここにしようという親しみが生まれ、それは今でも変わっていない。
損得勘定に厳しくドライと思われがちなアメリカ人は、このあたりについてどう感じているのだろう。消費心理学者で経営コンサルタントでもあるキット・ヤロウは、無条件返品を実施する店に対して客は「人間同士と変わらない親愛の情」を抱くという("Why a Good Return Policy Is So Important for Retailers",TIME)。親愛の情を忠誠心と言い換えることもできよう。アメリカ人の消費行動は、意外とウェットな人情にも左右されているようだ。
■曲がり角を迎えている無条件返品
長く続いてきた店と客との蜜月関係も、時代の波に洗われている。無条件返品の悪用だ。代表的なのは、パーティーなどで着飾るためのドレスやスーツを「購入」し、用が済んだら返品する詐欺行為。洋服のほか、家電製品も被害にあいやすい。返品詐欺の監視サービスを小売り企業に提供する会社TREの推計によれば、全米の被害額は長く続いた不況を背景に伸び続け、2014年には最大で176億ドル(前年比+20%)に膨らんだ("Return Fraud's Growing Impact on Sales, Jobs and Shrink Highlighted in Tenth Annual Report from The Retail Equation",The Retail Equation)。
詐欺による損失は商品の値上げのほか、コストカットによる従業員の解雇に結びつきやすい。去年の詐欺被害額は最大で62万人の解雇につながった可能性があるとTREは推計している。
企業にとって値上げや解雇は社会的な批判を招きやすく、さらなる経営の足かせとなりかねないことから、実はここ数年、高級百貨店ブルーミングデールズをはじめとする多くの企業が返品期間を短くするなど、少しずつハードルを引き上げ始めている。アメリカ小売業が堅持してきた「究極の満足保証」の伝統は、ここへ来てついに揺らぎ始めたのか。
■「究極の満足保証」に再び挑戦
そんななか、ディスカウント百貨店のターゲットが3月に行った発表が大きく注目された。プライベートブランドの洋服や生活雑貨など約7万点ついて、返品可能期間を90日から365日へと延長すると宣言したのだ。業界のトレンドに逆行する試みに、業界関係者からは「破格の条件」「異例」といった驚きの言葉があいついだ。
返品のハードルを下げることは商品の信頼性のアピールにつながるという前出の消費心理学者キット・ヤロウは、今回のターゲットの試みを「ブランドイメージを向上させ、安売り店からワンランク上の店に変貌するチャンス」("Why Target Just Gave You a Year to Return Stuff",Money)として前向きに評価している。
返品のしやすさを武器に客を引きつける戦略は、100年前のカタログ販売業者シアーズのような成功を呼び込むのか。それとも、うず高い返品の山を築いてしまうのか。21世紀版「究極の満足保証」の行方を消費者の1人として注目していきたい。
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